あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第二章

アオイの真実Ⅱ

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「昨日あの人に言っていたのって本心?」


少し驚いた。まさかひろ君があのことに触れてくるとは思っていなかったから。

だけど私はひろ君に隠し事をする気はない。


「弘介さんが殺したんだっていうの?」


そう言って胸が痛んだ。

自分で言った言葉なのにどうしてこんなに苦しいのか。


「うん、それ」


ひろ君の表情はいつもと変わらないまま。

私は立ち上がって冷蔵庫の中から麦茶を取り出す。

コップにつぐとコポコポと音がした。


「なんで?」


立ったまま一口飲んでひろ君を見るとひろ君もコーヒーを一口飲んでいった。


「麗奈があんな風に感情に任せて叫ぶのって珍しいから、ちょっと気になって」


コップを傾けながら、そうかも、とどこか他人事のように思った。


「違うよ、弘介さんが殺したわけじゃないし、弘介さんのせいでもない。悪いのは紗苗さんを殺した通り魔だよ」


分かっているのに昨日はつい言ってしまった。

怒りでよく分からなくなっていた。

怒っていたけど、頭のどこかは冷静で、わざと弘介さんの一番傷付く言葉を選んだんだと思う。


「通り魔に殺されたんだ」

「うん。夏祭りの日だったよ」


十年以上経っても忘れられないあの日のこと。

冷たい麦茶が喉をとおり、胃のあたりに冷たさを感じた。

ひろ君はおもむろに立ち上がると言った。


「今日は外食にでも行こうか」


別に何かがおかしかったわけではない。

だけどなんとなく違和感があった。


「ほら、着替えて来なよ」


そう言うひろ君がいつもと同じには見えなかった。

動かない私の方へ来たひろ君はいつものように私の顔を覗き込む。


「どうした? 行きたくない?」


いつもの声、いつもの表情、いつもの仕草。

何がおかしいのか分からない。

だけど、違う。いつもと明らかに何かが違った。


「何を隠しているの?」


私の言葉にひろ君は動揺することもなく言った。


「何も隠してないよ」


ひろ君と会ってもう五年になる。

一緒に住んでいるのはまだ一年だけど分かる。

ひろ君が私の変化に気付くように、私もひろ君の変化に気が付く。

それはもう言葉では説明できない何かだった。


「やめて、お願いだから私に嘘をつかないで」


他の誰に嘘をつかれても、隠し事をされてもいい。だけど、ひろ君だけは嫌だ。

ひろ君は困ったような表情を浮かべた。
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