あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第二章

あの日のことⅡ

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お昼前、バスを降りた私は埋もれてしまいそうなほどの熱気を感じた。

小さい時は家族で来たたけど、最近は夏祭りなど来ていなかったので懐かしさが込み上げてくる。


「麗奈あっちだよ」


同じ吹奏楽部の友達がぼーっと眺めていた私の肩を叩いた。

はっとして、バスの荷物入れに入れていたサックスを先生から受け取った。

このにぎやかなお祭り会場で演奏できることがすごく嬉しかった。

演奏場所へ向かいながら左右に並んだ屋台を眺める。

色々と食べたいものがたくさんあるのに、部活で来ているので食べられない。

ふと開けた場所に知っている姿が見えた。が、すぐに人ごみに紛れてしまう。


「ごめん、ちょっと抜ける。後で行くから先生には内緒にしておいて」


友達にそう言って列をぬける。

さっき、この辺に見えた気がしたんだけど……いた。


「紗苗さん!」


わいわいとにぎやかな中で精いっぱい大きな声を出した。

そうしないときっと紗苗さんには聞こえないから。

それでも私の声は喧騒にかき消された。

人の流れになかなか紗苗さんへ近づけない。


「アオイちゃん!」


私を呼ぶ声とともに腕を引っ張らられ、隅の人が少ないところに出た。

深呼吸して新鮮な空気を取り込むと気分が晴れた。


「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

「アオイちゃんの声が聞こえた気がしたら、本当にいたからびっくりしたよ」


あのうるさい中でも私の声をちゃんと拾ってくれたことが嬉しかった。

紗苗さんが私の持った楽器ケースを見て言った。


「今日は演奏で?」

「はい、紗苗さんはこう君とデートですか?」


紗苗さんが「こう君」と呼ぶからいつからか私も「こう君」と呼んでいる。

会ったこともないのに変な話だ、と思うが違和感はない。


「うん」


紗苗さんは頷いた後に「でもね」と続ける。不安そうな表情だ。


「待ち合わせ時間過ぎてるのに、こう君まだ来ないの。連絡もつかないし」


何かあったのかな。

待ち合わせ時間が何時だったかは分からないけど、時間に遅れるなんてこう君らしくない。

とはいっても紗苗さんの話で知っているだけだけど。


「みかみぃ」


喧騒の中で私を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、副顧問の先生が向こう側に見えた。

少し苛ついているようにも見える。おそらく人が多いからだろう。


「やば、ばれてる……」


視線をそらしそう呟くと、紗苗さんは笑った。


「抜け出してきたの? 駄目だよ、ほらもう行って」

「すみません。こう君、早く来たらいいですね」


本当はもっと話したかったけど、仕方がない。

紗苗さんを一人で残していくことに申し訳なさを感じてそう言うと紗苗さんは「気にしないで」と笑った。


「後で聞きに行くからね。頑張って」

「はい」


私は再び人ごみに埋もれてなんとか副顧問の先生のところまで行った。


「姉ちゃんか?」


先生は別に怒っているわけではなさそうで、だけどイライラしているのが分かった。

紗苗さんとの関係の名前を考えたことなんてなかった。

だけど、先生の言葉はすごくしっくりきた。


「はい、お姉ちゃんです」


本当は違うけど別に少し嘘をついたからって何かあるわけでもない。

それにあながち間違いではない。紗苗さんは私が小さい頃からずっとそばにいたんだから。


その後、演奏しながら客席に紗苗さんの姿を探した。

そして初めてこう君を見れることにうきうきしていた私は、紗苗さんの姿もこう君らしき姿も見えないことに肩を落とした。

帰りのバスへと向かう道中、何か騒がしいなとは思った。

だけど特に気にすることなくバスへ乗りこんだ。


紗苗さんが通り魔に刺されたと知ったのは、夕飯のハンバーグを食べていた時に流れたニュースでだった。
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