あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第二章

麗奈と弘介Ⅳ

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「……ずっと一緒にいてくれるって言ったのに」


責めるような口調でそう言うと、ひろ君は「ごめん」と言った。

違う、謝るのはひろ君じゃない。

責められるのは私の方なのに。


「麗奈が俺と一緒にいて幸せになれるならずっと一緒にいる。でもこの一か月、そうじゃなかった」

「もし私が本当にひろ君のことも弘介さんのことも好きだって言うなら、弘介さんの所に言ったって幸せになれるかは分からないよ」


仮に、私が二人を好きだとした場合だ。

ひろ君と一緒にいて、弘介さんのことが気にかかって幸せになれないというのなら、逆もあり得るだろう。

そう思ったが、ひろ君はすぐに首を横に振った。


「それは大丈夫だよ、北海道から帰ってきた麗奈の表情を見て分かった。泣きそうだったけど、大丈夫な表情だった。麗奈は俺がいなくても大丈夫。あの時からいつかはこうしようと思っていたんだ」


大丈夫じゃないよ。私にはひろ君がいないといけない。ひろ君が、ひろ君だけが私の全てなんだから。

そう思った時、なぜか弘介さんの顔が浮かんだ。

それをごまかすように言う。


「ひろ君は私のこと好きじゃないの?」

「好きだよ」


ひろ君の目が真っすぐ私を見る。その目があまりにも真剣でそらせなかった。


「自分でも訳が分からない程麗奈が好きだ。真っすぐな目も優しいところも、かわいいところも、ちょっと面倒なところも好きだ。どうにかなってしまいそうなくらい好き。だから別れる。麗奈の幸せが俺の幸せだから」


耐えられなくて、顔が見れなくて、隠すようにひろ君に抱き着いた。

ひろ君はそんな私の頭を優しくなでてくれる。

涙がぽろぽろとこぼれた。もうだめなんだ。

これまでごまかしてきた自分の気持ちがあふれ出て来そうだった。


「……弘介さんが、変わることは自然なことで、悲しいことでも悪いことでもないって言ったの」


あの言葉はきっと私が何よりも欲しい言葉だった。

だけどそれを免罪符にするのが嫌だったから、私は気付かないふりをしてきた。

五年前に弘介さんに好きだと言ったことを嘘だったと自分に言い聞かせていた。


「私、その時思ってしまったの。それなら私のこの気持ちも自然なことで悪いことじゃないのかなって……」


ひろ君の手は止まることなく私の頭を撫でている。

ずっとこの手を握っているつもりだった。

弘介さんのことは忘れてずっとひろ君と一緒にいようと思っていた。
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