あの日、君は笑っていた

紅蘭

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第二章

麗奈と弘介Ⅵ

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「五日くらい休みだっただろ。今から行ったら夕方には着けるよ」

「え……?」

「弘介さんのところに行っておいで」


え、今から行くの?

動かない私の手をひろ君が引いて無理やり立ち上がらせる。


「早く行かないと他の人に弘介さんとられるよ。せっかく俺が身を引いたのにそれはあんまりだ」


そう言って笑うひろ君。

冗談混じりの口調だったけどそれも私が気にしないように言ってくれたのだろう。そ

の明らかに無理をしていると分かる笑顔を見ると頷くことしかできなかった。

私の荷物を準備してくれながらひろ君が言う。


「麗奈が帰ってくるまでには出て行くから。部屋は好きにしてくれていいよ」

「え? なんでひろ君が出て行くの? 私が出て行くよ」

「女の子を追い出すなんてできないよ。大丈夫、俺が別れるって言いだしたから、麗奈が出て行くまでは家賃は払うよ」


なんでそこまでしてくれるのだろう。

どうしてひろ君はこんなに優しいのだろう。

今まではこの優しさに甘えてきた。だけどもうそんなことは許されるはずがない。

帰ってきたらすぐに新しい部屋を探さないといけない。

たった一年だけひろ君と過ごしたこの部屋を出て。

すごく悲しくてまた泣きそうになった。だけど私には泣く資格なんてない。


「もし弘介さんに振られたらすぐに連絡して。そしたら出て行かずに待ってるから」


ひろ君の半分本気の冗談に思わず笑ってしまう。

優しくてあたたかいひろ君。大好きだった。ずっと一緒にいたかった。

だけど私が壊してしまった。


準備が終わって玄関へと向かう。

もうこれで終わり。

のろのろと靴を履いた。

ひろ君も玄関へと出てくる。

何か言いたくてひろ君を見上げるとひろ君はいつもと同じように笑った。


「もう会えないわけじゃないよ。いつでも連絡して。俺もするから。たまに会おう」


俯いて頷くとほっぺをつねられた。


「そんな顔するなよ。弘介さんに会えるの嬉しくない?」


その聞き方はずるい。嬉しくないわけじゃない。

だけど……私はもう既に後悔しかけていた。

やっぱり知らないふりをしていたらよかった。

そしたらひろ君と一緒にいられたのかな。

そう思ったけど首を振って吹き飛ばした。

せっかくひろ君が言ってくれたんだから。大丈夫。

最後にひろ君は私にキスをした。そして言った。


「いってらっしゃい」


その温かさをずっと忘れないように心に刻み込んで私はドアを開ける。


「行ってきます」


震えるその声をごまかすように笑って家を出た。
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