全てを失くし、思い出した私は胡散臭い神官様と一緒に神を堕としに行きます

紅蘭

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報せ

「結論から言うと、エイが会ったのは枢機卿で間違いないと思う」


サラさんが私のベッドへ腰掛けてそう言った。枢機卿。あの人がラタ村の皆を殺したかもしれない人。


「でもとりあえずは大丈夫そうだよ。今日帰ったらしいから。教会兵も一回引き上げたって話だし」

「帰った?どこにですか?」


ここはエンドゥア。王都だ。いわば一番大きな街。ここからどこに帰ると言うのだろう。


「そりゃ教会本部に決まってんじゃん」

「ここじゃないんですか?」


本部があることは知っていたけどてっきり王都にあるものだと思っていた。私の問いに答えたのはジョエルさんだった。


「ここから北にユフロイアという街があります。ここに負けず大きな街で、教会本部はそこにあります」

「ユフロイア……教会本部」


口の中で呟く。そこに行けば教皇もいるのだろうか。教皇を殺せば私の使命は果たされる?枢機卿を殺せばラタ村の仇は討てる?心の奥に沈んでいた恨みが湧き上がってくるのを感じた。エウラリアとのぞみ、二人分の黒い感情に塗りつぶされそうになる。

皆死ねばいい。殺してやる。私が、この手でーー。


「エイ」


自分を呼ぶ冷静な声にハッとした。私、今何を思った?もしかして口に出ていた……?

戸惑いを隠せずに二人の顔を見るが、二人とも笑みを浮かべているだけで、何を考えているか分からない。


「す、みません……私、何か言いましたか……?」


視線が彷徨う。ジョエルさんはいつもと同じ笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ」


ほっとした。よかった。二人にはこの胸に渦巻く黒い感情を知られたくない。嫌われたくない。


「ところでエイ、例のあざはどうなりましたか?」


あれからお風呂や着替えのたびに見ているそれはだんだん薄くなって昨日にはもう消えていた。服のボタンを外す。


「あ、はい、もう消え……」


服を開け、露わになったそこにはくっきりと濃いあざがあった。驚きに固まった。どうして?確かに消えていたのに。


「くっきりですね」


ジョエルさんがじっとそれを見て言った。サラさんが立ち上がって私の前に膝をついた。


「これぶつけたんじゃないの?」

「実は正体不明のあざなんです」


ふーん、と言いながら手を伸ばすサラさん。その指が私のあざを撫でる。


「……呪いだねぇ」

「分かるんですか?」


思いがけない言葉に驚いてそう聞くと、サラさんは指を離すことなく笑った。


「分かんない。教会によく来るんだよ。ちょっと濃いあざが出来ただけで呪いだって騒ぐ人」


……あー、いそう。触れられているお腹がくすぐったくて笑いが漏れる。


「ま、教会って言っても実際は神なんかいないし神聖なものでもないから、適当な水を聖水だって言ってあざにかけるだけなんだけどね」

「なんていい加減な……」


ジョエルさんが呆れたように言った。私もそう思ったが、サラさんはあっけらかんとした。


「教会だもん。知らなかったの?」

「知っていましたよ」

「特別なことはしなくていいからとにかく微笑んで信者に寄り添えって言われてるからね」


サラさんの指があざと全く関係のないところを撫でる。


「だからジョエルさんもいつも笑っていたんですか?」


くすぐったさを我慢してそう聞くと、ジョエルさんは「そうですね」と微笑んだ。だが別の声が遮る。


「ジョエルのは元々。外面ばっかりよくてさ。だから胡散臭いって言われるのよ」

「失敬ですね。人当たりがいいと言ってください。その方が何かと都合がいいんですよ」


ツツツ、と指がお腹を這う。


「んっ、」


限界だった。サラさんの手を掴んで止めると、「えー」と不満そうな声が聞こえた。


「いいじゃん、減るもんじゃないし。情報の対価もらってないもん」


私もそう思っていたから少しは我慢していた。だけどもう無理。


「触り方がえ、えっちなんですよ……!」


半ば叫ぶようにそう言った。ジョエルさんが目を伏せるのが見えた。気付いていて無視していたのだろう。それはまあ別にいい。自分で止められるけど止めなかったのだから。いいのだけどなんだか腹が立つ。


「あは、バレた?エイをその気にさせたらいけるかと思ったんだけど」

「いけませんから……!今日の対価はジョエルさんからもらってください」


ボタンを留めながらそう言うとジョエルさんがぎょっとした。


「ちょっと待ってください、エイ。それを嫌がったのは君じゃないですか」

「もういいです、サラさんだったら。私が払うよりはマシな気がしてきました」


どうせもう今更だし。今更一回増えたところで別になんとも……モヤモヤはするけど。サラさんがニヤッと笑ってジョエルさんを見る。


「許可が出たことだしここでする?エイの目の前で」


今度は私がぎょっとする番だった。それはやめて欲しい。本当に、全力でお断りしたい。


「わ、私は下に行っていますので……」


そう言ってハッとした。ここでされても困る。そんなことになったら私は事後の部屋で寝ることになるのだ。


「やっぱり他所に行ってお願いします」


目を逸らして小さな声で言うと、どちらのか分からないため息が聞こえた。


「勝手に話を進めないでください」


ジョエルさんだった。呆れ混じりな表情のままおもむろに立ち上がると、サラさんへと手を伸ばした。

その手がサラさんの顎を持ち上げる。私の前に膝をついたまま、促されて顔を上げるサラさん。ベッドに座ったままの私。屈んだジョエルさんの綺麗な横顔と、目の前で合わさる唇。微かな水音に唇の間から見える二人の舌。

あまりに突然のことで脳が処理できなかった。今の私は随分と間抜けな顔をしているだろう。二人の唇が離れる。ジョエルさんは自らの唇を親指で拭った。


「……これでいいでしょう?」

「んー、まあいいよ。ジョエルからのキスって初めてね」


冷ややかな目のジョエルさんとにっこりと嬉しそうに笑うサラさん。対照的な二人の顔を見てもまだ思考が戻らなかった。


「上手なのになんでしないの?」

「必要がないからですよ。……エイ?」


ポカンとしていた私は名前を呼ばれてハッとした。途端、顔が熱くなった。


「す、すみませんでしたあぁ……!」


勢いのまま立ち上がり部屋を出て、そこにしゃがみ込む。いけないものを見てしまった気分だ。いや、いけないものを見てしまった!あああ、無理無理無理!恥ずかしい!当事者の二人が涼しい顔をしているのに私がこんなに恥ずかしいの!なんで私が……!

一人で悶えていると、扉が開いた。


「エイ、私帰るからね。今度はエイとしたいな」

「なっ……!」


言葉を失っていると、サラさんは「じゃあねー」と手を振って階段を降りて行った。もうやだあの人。嫌いじゃない。むしろ結構好き。でもサラさんがいるとすぐそういう雰囲気になるのがやだ。はー、と長い息を吐いて膝に顔を埋めた。
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