池に落ちて乙女ゲームの世界に！？ヒロイン？悪役令嬢？いいえ、ただのモブでした。

対策会議

皆が座ったまま無言で頷き合う。私一人訳が分からない。

その様子をぼーっと見ていると、カイが真剣な表情で私を見た。


「まず言っておきたい。ベアトリクスに目をつけられたエレナを守る。それが私たちの総意だよ」

「……ありがとう存じます？」


いきなり守ると言われてもよく分からない。別に自分のことくらい自分で対処するよ。

のほほんとしていると、クリスがすごい剣幕で私を見た。クリスのそんな表情は珍しい。


「エレナ、状況分かってる！？　あのベアトリクスを敵に回したんだよ！？」

「分かっていますわよ」


お茶を飲みながらそう言うと、クリスはきっと私を睨んだ。

え、待って、そんなに怒らなくてもいいじゃん。なんで、私何か言った？

まさかクリスにこんな風に怒られるとは思わず、動揺が隠せない。


「あ、あの、クリス？　そんなに怒らないでちょうだい」


私がそう言うと、クリスははっとしたように「ごめん」と小さな声で言った。


「ごめん、本当にごめん。本当はエレナに言わせるべきじゃなかった。本来なら私たちが言わないといけなかったんだよ」


クリスの言葉に同意するように、皆が頷いた。

いやでもそんなこと子供にさせるわけにはいかない。私中身は高校生なんだから。

それに後悔はしていない。愛玲奈の時からベアトリクスには文句を言いたかったのだ。やっと言うことができてすっきりした。


「皆様、気にしないでくださいませ。勝手に出しゃばったのはわたくしですわ。後悔などありません」

「エレナ、そんなエレナだから私たちはエレナを守りたい。エレナは今の状況を分かっているね？」


カイが私を真っすぐに見て、ゆっくりとそう言う。それまるで子供に言い聞かせるような言い方で、少し癪だ。

分かってるってさっきから言っているのに。ため息をついてお茶を置く。皆が私を見ていた。


「家を出ますわ。最低限のお金をもらって平民となり暮らします。そうしたら公爵家はうちに圧力をかけはしないでしょう？」


ベアトリクスと対峙した時に考えた。うちに迷惑をかけない方法。伯爵家のうちが公爵家に目をつけられて無事でいられるわけがない。だから私が家を出る。そしたら大義名分なんてなくなるから。別に平民になっても生きていくことはできるだろう。

そう思っていたが、皆ぽかんとしていた。

え、待って、まさか何か穴があった！？


「もしかして家を出る時にお金をもらえませんの！？　無一文はちょっと苦しいですわ……」


……まあそれでもそうなったら頑張るしかない。愛玲奈の時も働いたことはないけどでも頑張ったらきっとどうにかなる。……はず。

最悪ヒロインを見つけ出して助けてもらおう。ゲーム内で聖女と呼ばれているヒロインならきっと助けてくれるよね？　良心に付け込むのは心苦しいから最終手段だけど。

なんてことを考えていると、クリスが私の肩をぽんぽんと叩いた。


「ごめんね、エレナ。余計な心配をしたよ。……エレナは大丈夫」

「はい？」


いきなり謝られて大丈夫だと言われても全然訳が分からない。ぽかんとしている私を置いて、皆は喋り出した。


「やっぱりまずは護衛をつけるべきだろうな」

「剣の稽古をしているんだったよね。自衛も大事だよ」

「ヨハン、それなら城の騎士に頼んだらいいんじゃない？　ねえ、カイ」

「マクシミリアン、それだ。後で私の護衛騎士に聞いてみるよ」

「礼儀作法は完璧だからあとは勉強だよね」

「それも王宮の教師を付けられるよ」

「いっそのこと剣も勉強もここでしたらいいんじゃないかな？　ここなら安全だ」

「それだ、ナイスだ、ヨハン。ついでにフロレンツも一緒に勉強したらいいんじゃないか？」

「うん、僕も一緒に勉強する」

「じゃあ馬車はうちで用意するよ。兄様の学校が休みの日は護衛もかねて一緒に来よう」

「詳しい事はまた決めるとして、とりあえずそれでいいかな」


誰が何を言ったのか、よく分からない。だけど何かが決まったのは分かる。

カイは許可を求めるように私を見た。が、何に対しての許可なのか分からない。

だけど皆からの視線が耐えられず、私はよく分からないまま頷いた。後でクリスに詳しく聞こう。


「いいと思いますわ」

「よし！　じゃあ早速話をしに行こう」


クリスが勢いよく立ち上がり、カイも立ち上がった。


「大勢で行っても迷惑だから僕だけが行くよ」


カイの言葉に四人は座ったまま頷いた。

えーっと、どういう状況？

座ったままボーっと皆を見ていると、クリスが私を見て首を傾げた。


「どうしたの？　行くよ、エレナ」

「え、ええ……」


本当によく分からない。だけどとりあえず立ち上がり、ドアへと向かう。


「またね、エレナちゃん」


フロレンツが手を振ってくる。いやー、可愛いわぁ。私も小さく手を振って部屋を出ると、クリスとカイはそれぞれ私の右と左に並んで歩き出した。

なんで私が真ん中なの、普通皇子のカイでしょ……本当にどういう状況よ。