正義の方程式 ~ヒーローにあこがれた少年は気が付くと悪の親玉になっていた~

武田コウ

文字の大きさ
22 / 70

強さを得るために

しおりを挟む
「聞いたぞケイゴ。ヒーローなんてエラそうに名乗っている割には無様に敵に逃げられたそうじゃないか」




 何がおかしいのかニヤニヤしながらそう言う祖父に、ケイゴはまだジンジンと痛む腕をさすりながら不機嫌な顔で頷いた。




「・・・そうだよ」




「カカカッ! 弱い弱い! この田中敬三に学びながら敗走するとは何という弱さか!」




 独特の笑い方でそう言い放ったケイゾウは、ギロリと鋭い目線をケイゴに送り何かを放り投げた。




 反射的にソレを受け取るケイゴ。見るとソレは訓練用の木剣であった。




「構えろケイゴ! そのヘタレた根性をたたき直してくれる」




 するりと自分も木剣を抜き、祖父はその小さな身体に闘志を滾らせる。




 祖父のその衰えぬ闘気を感じ取ったケイゴはニヤリと笑うと身体のバネを使って跳ね起きて木剣を構えた。




 ケイゾウは超能力こそ持ってはいないものの、その武術の腕はケイゴの遙か高みにいる。祖父との組み手で自分を高めることこそが彼がこの場所に来た理由なのだから。




「話が早くて助かるよじいちゃん」




 ケイゴはそう言うと鋭い踏み込みで一気に距離をつめる。下段から跳ね上げるようにしてケイゾウの胴を狙った一撃は熟練の体捌きにより最小限の動きでいなされた。




「動きが素直すぎるわボケが!」




 木剣を横薙ぎに一線。




 しかし老齢の祖父のその一撃は鋭さこそあるもののケイゴのソレより明らかに威力もスピードも足りない。




(これなら回避してそのまま反撃ができそうだ)




 そう判断したケイゴは身体を無理矢理捻って剣を回避するとそのまま反撃に転じようとケイゾウに向き直り・・・そして視界いっぱいに広がる下駄の踵部分を見た。




 顔面にめり込む木製の下駄の硬い一撃。




 ケイゴは鼻血を拭いて派手に転げると咄嗟に受け身を取ってそのまま立ち上がった。垂れてくる鼻血を拭って信じられないとばかりにケイゾウを見つめる。




「舐めるなよケイゴ、組み手だからとていちいちまともに試合をする必要は無いんじゃ。ワシを敵だと思って全力でかかってこい」




 そう言われてケイゴは自分の愚かさを恥じる。




 確かに舐めていたかもしれない。自身の祖父、ケイゾウ・タナカという人物の強さを。




 老齢だとか非能力者だとか関係ない。目の前の老人は確かに戦闘において自分を遙かにしのぐ達人であり、そして自分が目指すべき高みなのだ。




「・・・ごめんよじいちゃん。会うの久しぶりでちょっと遠慮してた」




 呟くようにそう言ってケイゴはグッと足を曲げて力を溜める。




 そして次の瞬間、ケイゾウに向かって踏み込むと見せかけてその場の地面を大きく蹴り上げた。舞い上がる土煙と同時に細かな石や砂利が祖父に向かって飛んでいく。




 ケイゾウはそのしわくちゃな顔をニヤリと凶悪に歪ませるとバックステップでそのつぶての攻撃から距離を取った。




(さて、どこから来る?)




 わくわく高ぶる気持ちを抑えきれないケイゾウは嬉しそうに周囲を警戒する。しかしどれだけ感覚を研ぎ澄ませても周囲に人の気配は無く、土煙に乗じて襲ってくると思っていた彼は少し拍子抜けしたような気持ちになった。




 しばらくして土煙が晴れる。だがそこにケイゴの姿は無く、ケイゾウは我が孫の姿をじっくりと探す。




「ふむ、どこかに隠れての奇襲かの・・・しかし・・・」




 その独り言の途中、彼の足下に広がっていた影がぬるりと動いた。




 影の中から飛び出してきたのは木剣を振り上げたケイゴ。彼はソレを容赦なくケイゾウに向かって振り下ろす。




 刃の無い木剣とはいえ、これほどの一撃をまともに受ければ命は無いだろう。




 そんな稽古にあるまじき奇襲を受けたケイゾウは涼しげな表情で足払いを仕掛けてケイゴの体勢を崩すと倒れかけた彼の腕をつかんで引き起こしニッコリと笑いかけた。




「今のはなかなかの奇襲じゃ。さて、腹も減ってきたし飯にするかの」






















 焼き魚にライス、そしてミソスープと日本風のシンプルな夕食。




 ケイゴは使い慣れぬ箸で苦戦しながらもそっと焼き魚の身をほぐして口に運ぶ。ほどよい塩加減と魚の風味が口内に広がり、慌ててライスをかきこむ。




 ライスのほんのりとした甘さが焼き魚の少し強い塩気と合わさっていいようの無いハーモニーが生まれる。




 夕食にがっつく孫の姿を目を細めて見ていたケイゾウは、落ちついた頃合いを見計らって熱い日本茶を差し出しながら言葉をかけた。




「ケイゴ、お前今回はいつまでいられるんじゃ?」




「とりあえず一週間。修行の成果がでなかったらもう少し休みを延長するつもり」




「一週間か・・・まあお前は小さい頃に基礎を叩き込んであるから一週間あれば十分かな」




 一人頷く祖父にケイゴは尋ねる。




「ボク、一週間で強くなれるかな?」




 その質問に、先ほどまで優しげだった祖父の顔が武人のソレに変わった。




「ああなれるとも・・・・・・お前が途中で死ななければ、のお?」




 鬼気溢れるその雰囲気に呑まれながらも自身を強くしてくれる祖父への頼もしさと供に一抹の不安を感じるケイゴであった。











しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

処理中です...