赤箱

夢幻成人

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箱隠しの章

放課後

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必死に、自分が話した事を思い出そうとする笹川だが、
笹川にとっては何気ない一言だったのだろう。

「杉山君、ごめん、何を話したか思い出せないよ」

「そうなんだ、じゃぁ、あまり大した事じゃなかったんだね」

「えっ、そんな風に言われると、私が何て言ったのか、凄く、気になるじゃん」

「この前、慎也が朝会前に、笑われた事があったじゃん」
「その時、笹川が羨ましいみたいな事を言ったから、俺も気になってさぁ」

「あっ」
自分が発言した内容を思い出した。
笹川は思わず口に手を当てて、一瞬、
下に視線を落とした後に良太を見上げた。

「私、朝は親が学校まで送ってきてくれるから」
「バス通学で、友達と一緒に登校できる話が羨ましかったの」

笹川は恥ずかしそうに視線をずらした。

「そうだったんだ。でも、あの時は皆に笑われたから…」
「俺、凄く、恥ずかしかったんだよ」

「そうなんだ!!」
笹川は口に手を当てて、クスクス笑っている。

「でも、杉山君、私が忘れてた事、覚えてたんだ」
「私の言った事、そんなに気になっちゃった?」

(その事は半分口実で、今、こうやって笹川と、
 二人きりなるのが目的なんです。)
良太は喉元まで出た言葉を飲み込み、
ありもしない出来事を、でっち上げたのだった。

「てか、笹川が誰かに苛められてるのかなって…」
「ちょっと心配になっちゃって」

「杉山君、優しいんだね」
笹川は良太を見て微笑み返す。

良太は
(このまま永遠に時間よ止まってくれ!!)と、
心で叫んだが、時間が止まるはずも無く。
笹川と、二人きりでいられる時間が、
時計の針と共に、静かに刻まれたいたのだ。

笹川と楽しく談笑していた時、教室のドアが
勢いよく開いた。

振り返ると、そこには渡邊先生が、
紙袋持って立っていた。

渡邊 一成(わたなべ かずなり)
化学の授業を受け持つ先生で
去年の10月に隣のクラスの担任と結婚をした。
ラフな性格で男女ともに生徒達からは人気が高い。

「あれ、お前たち、まだ残ってるのか?」

「迎えを待っているんです」
笹川が答えると

「おぉ、そうか…ちょうど、良かった」
「杉山、ちょっと手伝ってくれ!!」
と渡邊先生は良太に紙袋を渡したのであった。

「えっ、先生、これどうすれば良いんですか?」
良太にとって幸福な時間は担任の手によって、
脆くも崩れ去ってしまったのである。

「おぉ、それな、化学準備室の棚にしまってきてほしんだよ」

「えっ…」
化学準備室は教室から10分ほどの場所にある。
往復で20分、行って戻ってきたら笹川は教室に
残っているだろうか?
と良太は考えた。

「紙袋ごとしまってくればいいんですか?」
良太は嫌と言えず、しぶしぶ了承して
作業の内容を聞いたのであった。

「紙袋から出して、中の物を棚に入れてほしんだけどな…」
と渡邊先生は追加注文したのである。

「わかりました」
と良太は返事をする。

「おっ、じゃぁ頼んだぞ、先生、今から職員会議があるんだよ」
渡邊先生は教室を出て行こうとした時、

「あの、先生、化学準備室は鍵が掛かっていませんでしたっけ?」

「わりぃ、忘れてた」
渡邊先生はそう言うと、良太に鍵を放り投げてきた。
振り向きざまに、いきなり投げられたが、
良太は辛うじて鍵を受け止めた。

「ナイスキャッチ!!」
「忘れずに鍵閉めて、職員室に戻しておいてくれよ」
良太に片づけを頼んだ渡邊先生は、足早に教室を後にした。

ここで笹川が手伝ってくれたら、
さらに幸せなんだが、と思いながら
良太は笹川の方に顔を向けた。

「笹川も手伝ってくれたりしない?」
笹川と楽しく会話をしながら、一緒に作業をすることに
期待した良太だったが…

「杉山君、ごめんね。教室からじゃないと、親が来たのに気付けないから…」

「そっかぁ…」

「うん、本当にごめんね」

「いいよ、気にしないで」
あっさりと撃沈したのであった。

少し残念だが、急いで片づければ、
まだ笹川と会話の続きが出来る。
そう思った良太は、紙袋を抱えて、
一目散に化学準備室に向かって行った。
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