赤箱

夢幻成人

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箱隠しの章

偶然

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「はぁはぁ…はぁはぁ…」

廊下を走るなと書かれていたが、
事態は一刻を争う。
そんな事を、気にしている暇ではない良太であった。
渡邊先生に頼まれ事をさっさと済ませて、
教室に戻り、笹川と楽しい会話の続きをする。

がちゃ…

きぃ…

化学準備室の扉は耳触りの音を立てて、開け放たれた。
薬品などが置いてある為か、カーテンが締まっており、
良太が足を踏み入れると、かびと埃が混じった臭いが
良太の鼻を刺激した。

「くっさ…」
「この部屋ちゃんと掃除してるのか?」

良太は一度は踏み入れた足を止め、進むことをやめたい気分になった。

春とはいえ、日が落ちるのが早く部屋の中はすでに
薄暗くなっている。

「確かここに電気のスイッチがあったような…」

手探りでスイッチを見つけ、部屋に明かりを灯すと
蛍光灯はチカチカと音を立てて、ついたり消えたりを
繰り返した。

「早く、片づけて教室に戻らないと」

良太は、渡邊先生から受け取った紙袋の中身を
机に広げると棚を開け、実験用の器材を仕舞い込んでいった。
機材を適当に詰め込んだ棚を見て、

「まぁ、こんなもので良いか」
と自分を納得させると、棚を閉めようと
したところで、奥に赤い箱があることに気づいた。

「おぃおぃ、噂の赤い箱か?」
冗談半分で手に取った、赤い箱は木でできており、
所々、塗装が剥げかけている。
手の中に納まるサイズの箱は、上蓋でしっかりと閉じられていた。

「まぁ、見るだけなら、怒られないよな」
そう自分に言い聞かせて、箱を開けようとする良太。

「結構堅いな、ううぅん…」
手に目一杯の力を込めて、蓋を開けようとする。

ぱかっ…

ようやく開いた箱の中には二枚の紙切れが入っていた。
紙切れはお札のような手触りだった事から、
和紙で作られてると容易に想像がついた。

「うわぁ、ちょっと冗談きつくないか」
言葉とは裏腹に鼓動が早くなっていく。
恐る恐る、紙を広げてみる。

「嘘だろ…」
良太は思わず口にしてしまった。
そこには

杉山 良太

と赤黒い字で書かれていた。

もう一枚の紙を急いで広げてみる。

かさっ…

何も書かれていない、まったくの白紙である。

瞬時に頭の中で色々な考えが目まぐるしく、
湧き出てくる。

誰かのイタズラか…
俺に好きな人がいるのを知っているのは、
慎也だけだ。

慎也はこんな悪ふざけはしないし、
そうすると、今日、話した小森がやったのか?
いや、そもそも…
今日、ここに来るのは自分さえも知らなかった。
渡邊先生が、絡んでいて、
俺をここに来るように仕向けたとしても、
俺が赤い箱を見つけるとは限らない。
第一、渡辺先生が生徒をからかう意味がない。
そう考えると、紛れもなく噂通りの赤い箱になってしまう。

誰かのイタズラだと考えたい良太であったが、
どう考えても、イタズラに結び付けれない。

「そうすると、これは本物か…」
本物だとすると、これに笹川の名前を書くと
念願の交際ができる。

興奮と恐怖が入り混じって冷静な判断が、
出来なくなりそうな良太は、
一旦、この箱を持ち帰ることに決めた。
上着の内ポケットに箱を収めると、
化学準備室の鍵を閉め、職員室へと走り出したのである。

がらがらっ…
「失礼します」

職員室に入ると、そこには渡辺先生が他先生と
話をしていた。

「先生、片づけておきました」
「おぅ、ありがとうな」
「先生も冗談が悪いですね」
「うん?何の話だ?」
「箱ですよ。箱」
「箱?」
「あっ、何でもないです。自分の勘違いでした」
「あぁ、それなら、それでいいんだが」

このやりとりで良太は確信が持てた。
今、持ってる箱は間違いなく噂の赤い箱だ。
初めて聞いた噂だったが、その当日に見つけるなんて
都合が良すぎる。
そんな考えが頭によぎるが、真意を確かめる為には
ただ一つの事を実行すれば良いだけだ。と自分に言い聞かせる。

「じゃぁ、僕はこれで帰ります」

「先生、さようなら」

「おぅ、また明日な」
職員室を出ると、足早に教室に向かう。
まだ、笹川は残っているだろうか。

教室に着くと電気だけがついており
笹川の姿はすでに無くなっていた。
残念な気持ちと冷めない興奮に
良太は教室をあとにし、バス停へと急ぎ足で向かった。

「ただいまぁ」

家に帰りつくと自室に直行し、赤い箱を机の上に静かに置いた。
この中の紙に笹川の名前を書くと、笹川と交際が出来る。
未だに興奮が収まらない良太は、
しばらくの間、赤い箱を眺めたいたのであった。
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