神見習いになった俺は見聞を広める為に異世界に放り込まれる

夢幻成人

文字の大きさ
10 / 23
いざ異世界へ

第9話 銀灰のゴンタ

しおりを挟む
 銀灰の獣の暴れっぷりは凄まじかった。

最初に犠牲になったのは、ゴブリンだった。

丘を駆け上がる小人たちは、MP9を構え巨大な獣に果敢に立ち向かった。

高速連射の短機関銃は、爽快な音を立て火を噴いている。

タタタタタタタタタタ!

銀灰の獣には、そよ風で撫でられた程度だった。

というより、目に入っていないのだろう。

突き進む獣の前脚にプチプチと潰され、

ノシイカのように平べったくなっている。

オーガーとオークが前に立ちふさがり、小銃と機関銃で応戦する。

ペチペチペチペチペチ!

「お前らか! コラァ」

獣は鼻先にしわを寄せると、牙をむき出しにし、

息を吸い込む、吐き出した息は火炎となり、

プスプスと煙を上げながら、燃えカスとなる。

それを目の前で見せられた、他の怪物どもは、

武器を投げ捨て、隊を乱し敗走を始める。



 動物の本能なんだろう、逃げ惑うオークに

かぶりつく、噛みしめた肉は腹を空かした獣の胃袋

満たしていく。

「これ、うまい!」

銀灰の獣の目的が変わった瞬間であった。

バラ、ロース、モモ、豚足が必死に獣から逃げている。

尻尾を振りながら、次々にオークを口に頬張る。

「うますぎる、こんなにお肉食べれるなんて

ワイは幸せだな」

パクパク、モシャモシャ、ゴクン。

獣は食事を楽しむことで、凶悪な存在にまだ気づいていなかった。



 面白くないのは、ここまで来て、

後、一歩のところで妖精たちを蹂躙できたものを、

隕石やら獣ごときで散りぢりとなり、隊を乱された事だ。

全身を覆うコートの中から、鋭く冷たく見下した視線は

銀灰の獣に向けられている。

この惨状に我慢が出来ず、台座を持たせ、運ばせているオーガー共を止め、

コートを台座にかける。

その下から見せた姿は、金髪セミロングの深紅の瞳に

きわどいレオタードを身にまとった幼女だった。

身長は百三十に到達してるか微妙なほどの背丈だが、

周りのオーガーたちは、彼女を見る事さえも、

できないほど怯え俯いている。

紛れもなく、今、妖精の村に攻め込もうとしている魔王そのものである。

何を思いついたのか彼女は、妖艶な笑みを浮かべると、

右手を空にかざし、詠唱を始める。



 空一面に展開された魔法陣により、

空一帯は赤く染まり、黒雲が集まり稲光を鳴らし始めた。

初めに出てきたのは、尾の先端だった。

赤黒い鱗の尾には棘が生えており、

徐々に太くなり、それと同時に太い足と

黄色の蛇腹が見え始める。

手は短いが爪は、鋼鉄さえも切り裂けるほどの

鋭さを見せ、その羽は一体を黒い影で包むほどの大きさだった。

最後にトカゲ顔に角が生え、口は無数の牙で埋め尽くされていた。

呼吸をするたびに灼熱の炎が空気を揺らす。

まさしく、ドラゴンそのものだった。



 召喚されたドラゴンは、銀灰の獣を目掛けて、

風切音と共に飛来する。

飛び跳ねて避けた獣であったが、爪がかすった場所からは、

血がにじみ出ている。

間髪入れず、旋回したドラゴンは、その鋭い牙で獣を捕えようとする。

ドラゴンの捕食を避け、体制を立て直した獣は、尾に飛びかかり、

地面に叩きつけようとするが、体格ではドラゴンの方が圧倒していた。

尾をしならせた動作だけで、獣は吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

ドラゴンは旋回を続け、じわじわと鋭い爪で獣の体を傷つけていく。

銀灰の毛並は血で赤く染まり、奪われた体力のせいで、

足がプルプルと悲鳴をあげていた。

ドラゴンにとって最高の瞬間だったのだろう。

上空より、獣目掛け、牙を光らせながら舞い降りてくる。

渾身の力で飛び跳ねた獣は、そのドラゴンの首に食らいつく、

鋭い牙は鱗を突き破り、奥深くへと浸食していった。

地面に墜落したドラゴンは、最初こそ抵抗するが、

獣は喉元を食いちぎると、呼吸が乱れてきた。

口に頬張った肉のうまさに獣は、声を漏らす

「う、うまい」

一気に獣の本能が駆け巡り、捕食を始める

すでにドラゴンは絶命し、口をあんぐりと開けていた。



 魔王はその様子を歯ぎしりをしながら、眺めていた。

空中に手をかざすと魔法陣が展開され、紅い火球が

獣目掛けて飛んでいく。

気づいた時には、そこまで迫っていた。

飛び跳ねると直撃は回避できたが、

その威力と爆風で宙を舞い、再び地面に叩きつけられた。

後ろ足からは煙が立ち上り、うまく動かすことができない。

主人の元に戻りたいが、先ほど敗走した兵どもが、

我先にとトドメを刺しに向かってくる。

「主人の出す飯は、いつもカリカリだったからな……」

もう、一ミリも体を動かすことはできない。

獣は死を覚悟し、目をゆっくりと閉じる。



 魔王は嬉しそうに、その様子を眺めている。

丘の上の人影など、気にもかけていなかった。

どんな悲痛な叫び声をあげるのか、

ただ、それだけが楽しみだったからだ。



 自分の愛犬が、死にかけているのを茫然と見ている。

何もできなかった。否、何が起きたのかすら認識できなかった。

獣が丘を下って、わずか三分にも満たない出来事だったからだ。

自分の未熟さに手を握り締め、少年は覚悟の眼差しで先を見据えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...