清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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最終章

59 〜良いですが、今ですか

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 カイは、午前中の仕事のを早々に切り上げて、智美との部屋に向かっていた。

 ついつい智美を抱き潰してしまう為、昼近くまで智美は寝ている事が多いし身体を休めるために、ベッドから出られない事も多い、昨日はあの状態になったので、もしかするとまだベッドの中かも知れないが、カイは智美と早めの昼食(智美は朝昼一緒の食事だが)をとろうと足早に部屋へと急ぐ、もし、起きられるようなら、庭園の散歩にでも誘おうかと考えながら歩みを進める。
 ベッドから出れない事が多いのもあるが、言葉が通じない今の智美は侍女と意志が通じないので、外に出かけたい事がうまく伝えられないでいる。部屋にカイがいれば通訳してもらえるが、大概寝過ごして、智美が起きる頃にはカイは部屋には居ないので、そのため、起きていても部屋で過ごしている事が多かった。

 部屋に繋がる通路に入った時、部屋の方からその場にはいないはずの女性の声が聞こえてきた。

『驚きました!本当でしたのね』

 部屋に近づくと、少し扉が開いていた。
 だから声が響いたのかと思いながら、空いた隙間に手を入れて、中に入ろうとすると、そこには嬉しそうに声を上げていたランソルデでもあり、カイの大叔母でもあるリュティアが、簡素な部屋着を身につけた智美となぜか手を取り合っていた。

『大叔母上?』

 カイの疑問のようについでた声に、二人がとその場に使えていた侍女の三人がカイの方を向いた。

『あ、おかえり、こんな早くにどうしたの?』
『!』

 カイの姿を見て、おかえりの言葉を口にする智美に、カイは驚いた。
 その聞こえて来た言葉は、きちんとしたこちらの言葉で、耳に響いて来たからだ。

『ね、凄いわよね、まだ20日ほどですのに、それなのにもうこんなにはっきりと発音できて、会話や、聴き取りできるようです』

 カイが何をリュティアが喜んでいたのか理解したのかがわかったのか、嬉しそうに智美の手を握り込んだまま話す。

 カイは呆然とした。通常だとまだ後10日ほどかかるはずだった。

『早速ミエル総代にご報告しなければ!
 あ、でも信じてもらえないやも知れません。
 サトミ様、申し訳ありませんが、一緒にご報告していただけませんでしょうか』
『え、ええ、良いですが、今ですか』

 リュティアの勢いに飲まれて、智美はのけぞりながら返事をする。
 リュティアは普段の様子からは信じられないほど興奮していた。

『ええ、慶事ですもの、早くお教えしなくては、さあ、参りましょう。
 あ、カイゼジャール、そういう事だから、サトミ様をお連れいたしますよ』

 そう言うと、カイの返事も聞かず、智美の手を引いて部屋を出て行った。
 智美付きの侍女も急いで付いて行き、カイは部屋に一人残された。

 呆然としていたカイだったが、突然智美との蜜月が終わったのを悟って、はあと、ため息をついた。
 そしてハッとしたように、出て行った扉を見たが、再び困ったようにため息をついた。

 カイは智美が話せるようになったら、再び改めてきちんとピアスを贈ろうと思っていた。
 術のかかっていない方のピアスを渡せばよかったのかも知れないが、きちんと魔法を介在せずに会話が出来る様になってから、渡そうと思っていたのだ。
 それまでは、自分としか話が出来ない智美を堪能しようとも思っていた。

 そう強く思ったのは、智美と初夜前に会えなかったときに、智美にピアスをつけた時の様子を、話を聞いて知った女性陣が、母の皇妃は小型の遠見鏡で、義姉は出産予定間際なのにもかかわらず、遠聞筒を使って、ありえないと、説教して来たからだ。
 話が通じないからと、いきなり付けた上、その後は本人には何の説明もなしとは、智美が借りたと思っていたのも仕方がないと、切々と二人に別々に言われて、げんなりしている所に、アル皇子とタンザやジーサに、女子はあのイベントに夢があるからと、慰められた。

 その事を思い出しながら、カイは術がかかっているピアスの方を片手で触り、【言の葉】を口にする。
 そして触っていた手を勢いよく前へ動かすと、ピアスから光の帯が引き出されて、宙を漂い、あっという間に、粉微塵に砕けサラサラと崩れるように消え去った。

 かけていた術が消える、その様子をただ、虚しい瞳でカイは見つめていた。







──────────────
後書き

少し、短いですが、次の展開への繋がりなので、すみません。

早まったのは…カイの自業自得というべきか、まあ下世話な理由です。
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