清色恋慕 〜溺れた先は異世界でした〜

月峰

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最終章

61 〜カイ皇子限定って事?

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帰還
──────────────



 戻された智美が現れた場所は、カイの目の前だった。

『うわっ』
『サトミ!』

 あまりの近さに、智美は驚いてバランスを崩して、倒れそうな所を、何か魔法を繰り出そうとしていたカイは慌てて腕で支えた。

《カエッテキタ、ヨカッタ》

(え?)

 智美は、支えられたと思ったら、カイに抱き締められていた。そこに何か聞こえて来たが、はっきりと明瞭な言葉では無かったので、その事に驚いて、ビクリとすると、カイはより一層智美を抱え込む様に抱き締めて来た。

《サトミ、サトミ、オレノセンリョダ、スキダ、セイリュウニハワタサナイ、オレトイテ、ハナレナイデ》

(オレノセンリョって、これってカイの気持ち?)

 智美に聞こえてくる言葉は、片言の言葉の連なりで、明確な文になっていない代わりに、感情が伝わる言葉というか、感情が直に心に伝えられているような、言葉と感情が入り混じった伝わりかただった。

 人の思考は、何時も文章の様に明確な文体に構成されている訳ではないので、単語を並べたようで、言葉とは少し違うのかも知れない。

 とても不思議な感覚に、智美は驚きがまず先に来て、次に意味を汲み取り智美は硬直した。

《スキダ、ホシイ、オレヲエランデ、スキニナッテ、イイニオイ、スキ、ヤワラカイ、イトオシイ、タベタイ》

(タベタイ?)

 智美は、はじめは大人しく抱き締められていたのだが、段々と怪しくなっていく台詞に、気恥ずかしくなってカイを押しやるが、智美の腰に腕を回したまま、不安そうな顔をしているカイと目があった。

《イヤガラレタ、スキダ、ナンデ、ハナレタクナイ、キラワレタ、ドウスレバ、アイシテル、》

 目を見た途端、より一層押し寄せて来るカイの気持ちに、いたたまれなくなって、智美は両手で顔を隠した。

(これって、青龍の力?盤園の人の心が分かるって事?)

 先ほど言っていた青龍の言葉を思い出す、青龍がこんなお礼を選んだのは、智美の言葉のせいなのだろう。

《イツモトチガウ、カオミタイ、ハズカシガッテル?、カワイイ》

 かけねなしのカイの言葉に、恥ずかしさのあまり智美は胸中で悲鳴を上げた。

『どうかしましたかサトミ様、ご気分でも悪いのですか』

 はたから見ている者には、状況が分からないので、智美の気分が悪くなったのかと、ミエルが話しかける。

《ハナシカケルナ、オレノ、キブンワルイ?、ドクセンシタイ、シンパイ》

 ミエルの気遣いの言葉にすら、智美への気持ちが押し寄せて来て、智美は言葉が出せなかった。

『ジーサ、こちらに来て、サトミ様を見て下さい、
 慣れない魔法を使って、欠乏しているのかも知れません』

 大規模な魔法の掛け直しの為、初めて大きな魔法を使う智美を心配し、念のために魔法医局長であるジーサが、この場に呼ばれ待機していた。
 ミエルに呼ばれてジーサが近づくが、カイは智美を離そうとせず、皆がどうしたものかと窺っていると、智美は一呼吸入れてから両手を顔から離し、カイの瞳を見ながら、はにかむように微笑んで、大丈夫だから離して欲しいとカイに言った。

《ウワアァ、スキダ、カワイイ》

 聞こえて来る声に、智美は内心慌てているが、微笑んで言ったおかげか、否定的な感情は流れて来ず、そっと腕を解かれた。

 離れるとカイの心の声は聞こえて来なかった。
 ひとまずホッとする智美に声がかけられる。

『一応、大規模な魔法をかけた影響がないか、見せてもらえるかな』

 ジーサがそう言って、手を差し出して来た。

 智美は一瞬考える。
 もしかすると、ジーサの気持ちも読めてしまうかも知れないと思うと、手を触れる事に躊躇した。

『サトミ様?』

 名前を再度呼ばれて、とっさに手を差し出した。
 その手をギュッと握られてビクッとしたが、カイの時のように、心の声らしきものは感じ取れなかった。

(どういう事、カイ皇子限定って事?)

 ジーサの気持ちが聞こえて来なかった事に安堵して、智美は握られた手をそのままに、考えにふけっていると、ジーサが安堵した様に声を出した。

『…うん、大丈夫だね、っておっと、あぶな、狭量だなあもう』

 判断がついた後も、いつまでも手を握りながら話すジーサに焦れたカイが、またジーサの手を叩こうとしたが、とっさに離してジーサは難を逃れた。

 離したので、手は叩けなかったが、カイはそのまま智美の肩を抱く、するととたんにまた智美に声が聞こえ出したので、意識してもしなくても、触れば聞こえて来るのかと思案する。

『お疲れ様でした、お身体は大丈夫の様ですが、お疲れになりましたでしょう。
 お部屋にて、ご休息なされたら如何ですか』

 いつの間にか近付いて来ていた、ランソルデのリュティアが智美に声をかける。

 リュティアの提案に、智美がついぼそりとつい口にした言葉に、カイが衝撃を受けた。

『…どの部屋?』

《ナンデ!、ドウシテ!、オレタチノヘヤ!》

『もちろん今過ごされている、ご夫婦の部屋でございますよ?』
『夫婦の部屋?』

 副静音の様に聞こえて来る、カイの言葉も気にはなるが、リュティアの言葉につい智美は繰り返していた。
 その台詞を受けてリュティア、しばし考慮したが、ああと何か納得した様に返事をした。

『もしかして、まだ婚姻してないのを、気に病んでるのですか?
 もう初夜を迎えているのですから、夫婦も同然ですので、‘暁月の睡蓮‘の間を使うのは、気にしなくていいんですよ』

 どうやら皇族に嫁ぐと、独身時に使っていた区域を出て、夫婦でというか家族で使う区域に移るという事の様だ。そう言った細かい事は、あまり智美に教えられていないので、後から聞いて納得する事が多かった。

《ショヤ、…コンインシキ》

 その言葉が智美に、複雑な思いとともに聞こえて来た後、ふっと聞こえなくなった。
 智美はカイの方から離れていった事に驚いて、振り替えると、カイはイ領の青水樹で見た男性の様に、片膝をついていた。




──────────────
後書き

色々言いたいけど、口をつぐみます
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