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最終章

最終話 〜何故、私なの?

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 片膝を付いているカイを智美は呆然と見た。

『サトミ、コレを受け取って欲しい』

 そう言ってカイは、再び耳に着けていたピアスを片方外して、差し出して来た。

 今、カイには触れていないので、何を思っているのかは分からない。
 でも、片膝をついてピアスを差し出すのは、どうやらこの青国での定番の求婚だと、以前聞いた事を智美は思い出した。

『カイゼジャール、言葉が足りないですよ』

 近くに居たリュティアが、呆れた様に言う言葉に、そうだねと智美も思うが、先ほどまでのカイの気持ちごと受ける言葉を思い出し、仕方がないなあと思う。

 カイはそうは見えないが、緊張しているのだろう、普段から言葉が足りていないのに、緊張で自分の気持ちも一切伝えない上に、何故ピアスを受け取って欲しいのかも伝えて来ない。

 ここで、あえて何も聞かずにず、受け取ってもよかったのだが、それでは、今はカイの気持ちが智美には分かるが、カイに智美の心は明確には伝わらない。カイほどでは無いが、智美自身も己の気持ちを相手に伝えるのは苦手だ。

 だが、先ほどカイの気持ちを知った今、きちんと一度は伝えて無ければいけないと思った。卑怯だとは思ったが、カイの気持ちが聞こえる今この時しか、自分からは伝えられないだろうと思った。

 けれど周りから見れば、明確にカイの言葉が足りていないこの時に、自分から告白する様な事は、周りの視線を感じて出来なかった。申し訳なく思いつつも、カイの口から望む言葉を導き出すために、わざと問い返した。

『受け取るで良いの?』

 じつはそれは、求婚を考慮しますと言う時に使う言葉で受け取りはするが、耳に着けはしない。後で家族と相談して、受けるか受けないかを決める時に使う言葉だが、たいがい相手の面子を考慮してその場で断らず、後で断る時に使う言葉だった。
 慌てた様子のカイに、まだ触らない様にしながら近づいて、さらに言葉をかける。

『何で、カイ皇子はそれを差し出したの?』
『…婚姻して、一緒に生きたい』

 智美の続いた言葉に、どうにか動揺を抑えたカイが返して来た言葉では、納得は出来なかった智美は、カイの手のひらに乗るピアスの上に手をかざした。

 熱を感じるほどに近いが、まだ触れてはいない。

『何故、私なの?』

 そう問い直した智美は、カイの手に触れた。

『サトミを、愛しているから』
《サトミヲ、アイシテイルカラ》

 触れたとたん言葉と同じ、気持ちが聞こえて来た。
 驚愕して、目を見開いてカイを見つめる。

 智美は、カイは泉侶だからと言うと思っていた、だから心の声が聞きたくて、手に触れた。

 それなのに、一言一句違わない愛の言葉に、嬉しさのあまり智美は目が潤み、重ねた手をピアスを間に挟んだまま、握り締めた。
 その様子を見ているカイから、不安に思いながらも、困惑している言葉が流れてくる。
 智美は、早く言葉にして返さなければと、思うほど嬉しさで胸が苦しくて、言葉に詰まる。
 震えてしまいそうな声を、意識しながら智美はカイへの想いを言葉にする。

『わ、たしも、カイを、愛しています』

 愛の言葉の返事を貰えたカイは、目を大きく見開いたかと思うと、何かを思うよりも先に立ち上がり、握られた手はそのままに、反対の片腕で智美を抱きしめた。

 そして聞こえて来る、意味が繋がらない心の声の歓喜と愛の言葉は、智美には溺れるほど浴びせるられてるように感じられた。

 しばらく、カイと抱き合っていたが、周りからの生暖かい視線に智美は気付き、周りから見えない様にカイの胸に顔をつけた。
 恥ずかしい気持ちを落ち着けて、智美はカイの胸元から顔を上げて、囁く様にカイに願った。

『ピアス、付けてくれる?』

 何も言葉にはしていないけれど、心の声で何度も返事をするカイに、クスリと笑みを漏らしながら、智美は二人で握り込んでいたピアスを、カイが付けるのを待った。
 付けた後、最初にしたときの様に、カイはそっと耳に触れる。

 《我愛しきサトミ、この印にて我の想いを繋げ、この者との縁に、愛心あらん事を誓う》

 ふわりと耳元が光り、その時聞こえて来た、明瞭なカイの心の言葉に、智美はああと思う。

 全く同じでは無いのであろうが、最初にも何か魔法をかけていたのだろう。
 同じような暖かな光に、最初からだったのかと今更ながらに、智美は納得してカイに微笑みかけた。


『まったく、これできちんとした婚約ができましたね』

 ほっとしたように言うミエルの言葉を繋いで、アル皇子が告げる。

『私の戴冠式が約一年後だ。その前にお前達の婚姻式と結婚式は、国を上げて行う事とする』
『その告示をする前に、サトミ様の【清き乙女】としてのお披露目を先にして、カイ皇子との婚約を公表した方がよろしいでしょうか』

 アル皇子の言葉に次いで、ミエルが述べる。
 今のこの状態で、【清き乙女】と言われるのは少し複雑な心境だなあと思いながら、その言葉にふと、智美は色々な事が怒涛の如くあり過ぎて、意識から抜けていた愛子の事を思い出した。

『そう言えば、手塚さんはどうなるんですか?』

 その台詞に答えたのは、アル皇子の側に仕えていたタンザだった。

『アイコ殿でしたら、通常の別盤者という事で、宰相様が面倒を見たいと申しだされ、アイコ殿も乗り気でしたので、すでにイ領の領館へ移られましたよ。』

 にっこり微笑みながら言うタンザの後ろに、何か黒い物を見た気がするが、智美は見なかった事にする。
 青龍に聞いた、宰相が当主のイ家の妄執の事を思い出すが、知らない方が幸せな事もあるよね、と黙殺する事にした。

『さて、結婚式まで一年ありませんわね、
 急いで準備しなければ、戴冠式の準備よりも前ですもの忙しくなりますわ。
 …カイゼジャール、改めて申します。
 おめでとうございます。』

 カイに抱き締められたままの二人の様子を、リュティアは嬉しそうに見ながら、カイにお祝いの言葉を述べる、その言葉に改めて、カイの歓喜と愛情迸る想いの言葉が聞こえてきて、智美は仰ぎ見てカイに微笑んで思った。

(これになれちゃうと、後が辛いなあ)

 智美は知らない、青龍の力は婚姻するまで続き、その後劣化した能力が発現する事に。

 そして今この後カイに抱き潰されて、身体も心も愛情に溺れさせられ、気分的に窒息させられそうになるのだが、それを知らない智美はカイと微笑みあっていた。


  END










──────────────
後書き

やっと、とうとう最後まで書き切りました。
色々思う事も有りますが、一つの話を仕上げられたことに、今は喜びでいっぱいです。

この後、この話のこぼれ設定を投稿して、完結とさせて戴きます。

今まで、読了頂きありがとうございました。
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