【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

文字の大きさ
128 / 262
高校生編side晴人 たくさんの初めてを君と

112.徒桜

しおりを挟む
5月になった。

無事にそれぞれが入学式を終えて、大学にもなれてきた頃。

「晴ちゃん!?」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには伊藤の姿。

「伊藤!?偶然だね!」

「ほんと!私、GWだから実家に帰るとこなんだ。
あ、お土産分けてあげる!」

県外の国立大に通う伊藤は、キャリーケースから幾つかモミジ型の饅頭を俺の手に乗せる。

「あ!そう言えば遥、思い切ったよね。
まさか通訳じゃなくて医者目指すなんて!
アメリカあっちで医師免許取るつもりとか、どんなバイタリティしてんだか。」

呆れたように装いつつ、親友が誇らしくて仕方ないと言うような彼女の言葉に、俺は驚愕した。

遥が医者を目指す事にしたなんて、俺は聞いてない。

医者になりたいのは、偶然…だよね。

「実は最近、あんま遥と連絡取ってなくてさ。知らなかったよ。」

そう言うと、伊藤は驚いた。

「そうだったの?実は大学アメリカあっちに決めたのも、そのためだったらしいよ!」

遥がそのメールを俺に送って来たのは確か…蓮が医学部に決めた少し後だったような…。

「あっちは年に2回入学するチャンスあるんだってね!遥は9月の予定だから、今頃は勉強頑張ってるんじゃないかな。」

「そう…なんだ…」

「そりゃ帰国しない訳だよね、そんな難関に挑戦するんだもん。
彼氏も、ほっとかれて可哀想にねぇ。」

え、遥って彼氏がいるの?

それも知らなかった。

でも…それなら…。

「遥の彼氏って、どんな人?」

何処かホッとしてる自分を感じながら伊藤に聞く。

「んん~、正確にはなんだけどね。モテモテで何回か付き合う所までいったんだけど、誰とも長続きしなかったみたい。」

そして、少し遠くを見るようにして続けた。

「もしかして、初恋引きずってるのかな…。」

独り言のようにボソリと呟いたそれは、俺の耳にやけに大きく響く。

「初…恋…?」

意識せず口から飛び出した言葉に、伊藤がハッとした顔をする。

「ううん!何でもない!…とにかく、遥の近況はそんな感じみたいよ!
…あ!ごめん、私そろそろ行かなきゃ!またね!」

動揺した様子で去って行く伊藤の背中を、暫く見送った。

足が上手く動かなかったから。

伊藤の顔にはハッキリ『しまった!』って書いてあって。

それは、俺には知られたくない事だったはずで。

伊藤には蓮と付き合ってるって言ってないけど…もしかしてバレてるんじゃないかって思った事が、何度かあった。

そんな俺に知られてマズイって事は、遥の初恋は…おそらく初カレでもある蓮って事で。

そして、遥はまだその想いを引きずってる…?

新しい彼氏と続かないのはそのせいで、医者になるのを決意したのは、蓮と同じ仕事がしたいから?


そう言えば、いつだったか世間話で蓮父が言ってた気がする。

『外国の患者さんが増えたから、海外で医者やって、日本に凱旋して来る人材がいればな』って。


そうだ、遥がそうなれば切藤総合病院の戦力になる。

蓮だけじゃなくて、蓮の家族も支える事ができる。

それは、とてもじゃないけど俺にはできない事でーーー。


遥は元々、蓮と同じくらい能力が高い。

そう、俺が間に入るのが場違いなくらいーー。



って何考えてんだ!

そう言うの気にしないようにするって決めただろ!


それに…

遥が蓮を好きだったとしても、蓮と今付き合ってるのは俺なんだ。

蓮は言葉でも態度でも俺の事が好きって表してくれて、それは疑いようのない事実で。

だったら、蓮の事だけ信じてれば大丈夫。

遥が帰国しても、俺を選んでくれるはずだし。


うん、ちょっと動揺し過ぎたな。

早く帰ろう。

蓮の顔を見たらこんな不安、些細な事だって思えるからーーー。





「ただいまー!」

随分気分を持ち直して帰宅すると、返事は無かった。

LAINにも特にメッセージは来てない。

珍しいな、今日はもう帰ってるはずなんだけど。

「蓮~?」

部屋の前まで行ってノックするけど返事がない。

もしかして、具合悪くて寝てるとか?

「蓮、開けるぞ?」

ちょっと焦ってドアを開けると、そこにはそれなりに整頓された部屋が広がるだけだった。

「いない…出かけてるのか。
…あっ!探してた漫画じゃん!」

デスクの上にあるのは、所在不明になってた俺の漫画。

蓮が自室に引き込んでたらしい。

「あっ…と!」

回収する拍子に、イスの上に置かれた蓮の通学用鞄を落としてしまった。

学校関係の物がバサバサと出て来る。

ごめん、蓮!

にしても、この鞄があるって事は、一回帰って来たのか?

心の中で謝罪しながら、難しそうな教科書を詰め直してーー。

「……ん?」

に気が付いた。

内ポケットから覗くのは、独特の青色が有名なジュエリーブランドの小さな巾着。

何処かで見覚えがあった。

「あっ……」

思い出したのは、中学時代の光景。

校舎の屋上に続く階段の踊り場。

これを蓮に渡してたのは、遥。

そしてその直後、2人はキスしてーー。



いけないとは分かっていても、巾着を開ける手を止められなかった。

震える指で取り出したのは、小さなガラス片。


それは、紛れもなく『桜守り』だった。

お互いの名前を入れて、それを交換して持つと永遠に結ばれるお守り。

そして、そこに刻まれていたのはーー

『HARU』の文字。


4文字までしか刻印できないそれだと、その先が『TO』なのか『KA』なのか分からない。

でも、だけどーーー。


これを蓮に渡してたのは遥だった。


そしてもう一つ、この『HARU』が俺の事じゃないのを裏付ける事実がある。


この『桜守り』は、一方だけが持つと永遠に想いが叶わなくなる。

つまり、対になる『REN』を持ってない俺の可能性は無いって事だ。

蓮がそれを知らなかった…って言うのは有り得ない。

だって、中学でこれを流行らせたのは、他ならぬ彼の兄ーーー翔君なんだから。

占とか信じない蓮が『桜守り』を持ってるのも、翔君って言うがいたからに違いない。



たかが中学時代に買ったお守りじゃん。

その頃は遥の事が好きだったんだろうし。


そんな風には思おうとして、力無く頭を振った。


これが、高校の鞄に入れっぱなしだったとかなら良かったのに。

見付けたのは、つい1ヶ月前に買った新しい鞄の中。

大切に内ポケットに仕舞われたそれは、明らかに蓮の手で入れられた事を物語っていて。

「蓮……」

名前を呼んで、ズルリと床に座り込んだ。


俺は蓮が好きで、初恋で。

この想いが失われたらもう誰も好きになれないと感じる程で。

蓮も、遥と別れる時にはそんな思いをしてたんだろうか。

乗り越えて、俺の事を好きになってくれた?

だけどさ…

その大きな想いを、相手もまだ持ってると知ったら?


そしたらーーーー




蓮は本当に、俺を選んでくれる?










ガタン、と音がして慌てて鞄を元に戻した。

蓮の部屋から出ると、丁度蓮が目の前に立ってて。

「あ、やっぱ晴のが早かったか。」

いつもと変わらない態度で、俺が自分の部屋から出て来た事も気にしてないみたいだ。

「うん。漫画探してて勝手に部屋入っちゃった、ごめん。」

「あぁ、読んでそのままだった、悪い。」

回収した漫画を見せると、蓮が頭を撫でてくる。

鼻の奥がツンとして、慌ててリビングへ向かった。

「実はさ、駅で偶然伊藤に会ったんだ!お土産貰ったから、蓮にも一つあげる!」

不自然にならないように、そう話しながら移動した。

自分でも驚く程いつも通りの声が出て。

これなら、流石の蓮も気付かないだろう。

お土産を持って蓮の前に現れた時には、完璧にいつも通りの俺だった。







そう、俺は逃げたんだ。


事実を確認して傷付くのが怖かったから。


どうしても、今の幸せを失いたくなくて。


だから、全て忘れようとした。


この時蓮と話をしなかった事を、後々になって後悔する事も知らずにーー。














だって、それからほぼ一年が経った今。

俺は最悪な形で、蓮と遥の再会を見る事になったんだから。

『ずっと忘れられなかった』って遥の台詞は、そのまんま蓮の台詞でもあったんだろう。

目の奥に焼き付いた光景を、俺は桜を見る度に永遠に思い出すのかもしれない。



夜の寒さに震える指で、インターフォンを鳴らす。

ドアが開いて、今の俺にとって唯一の頼れる相手が出迎えてくれた。

『待ってたよ』

優しい声に、涙が溢れる。

労わるように抱きしめられて、蓮と違う体温や匂いに違和感を覚えて。

そんな自分がバカみたいでーー。

もう何も考えたくなくて、目を瞑る。








『やっと堕ちて来た』






『もう離さない』











薄れていく意識の中で、そんな囁きが聞こえた気がしたーーー。


●●●
これにて高校生編(side晴人)完結です。
side蓮が始まる前にお知らせがありますので、そちらもぜひ一読していただければと思います!










しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...