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高校生編side蓮
36.告白とトラブル
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風を切って疾るバイクの眼前に、キラキラと陽射しを浴びて輝く海が見えた。
腰に回された腕に軽く合図を送ると、海に気付いたのかギュッとその力が強くなる。
『海だ!!』
そんな晴の嬉しそうな感情が密着した身体から伝わって、思わず笑った。
あぁ…マジで最高だなーーー。
朝迎えに行った晴は、初めて見る服装で俺を待っていた。
黒のスキニーパンツに白いリキッドカットソー、カーキのマウンテンパーカー。
控えめに言ってめちゃめちゃ似合ってる。
後で知った話だが、どうやらクロ(と、役に立ってはいないだろうが中野)と一緒に買い物に行ったらしい。
晴がこの日のために服を選びに行っていた事が嬉しい反面、少し悔しくもある。
次のデートは買い物で決まりだな。
「わ!このバイクなんだ!凄いね!」
マークとのやり取りを知られてはいるが、歓声を上げる晴は『欲しかったバイクに、最初に自分を乗せるって決めてくれてた』くらいの認識だろう。
実際には『晴を乗せて出掛ける為に買ったバイクに最初に乗せるのは当然晴だし、何があろうと他の奴を乗せるなんて事は一生無い』である。
そんな重い感情が篭ったバイクに乗せられる晴には悪いが、俺は大いに満足だ。
「もっとしっかり腕回せ。俺の背中に体重かけていいから。ピッタリくっついてて。」
全身ベッタリくっ付く体勢にさせたが、これはアレだ、あくまでも安全の為だからな。
「は、初めてだから緊張する!」
そう言う晴にニヤリと口角が上がる。
「大丈夫。気持ち良くて癖になるようにしてやるよ。」
意味深な言い方で微笑むと、晴はボッと音がしそうな程に赤くなった。
『啓太君と協力して、デートだって意識させまくっといたからね!』
『余計な事すんなって言っただろボケ!』
昨日クロから来たLAINには怒りを露わにしたが、これはひょっとして…ひょっとするかもしれない。
「怒んなって。ほら、行くぞ!」
知らず弾む声と共にバイクを発進させる。
免許を取ってから、かなりの頻度で親父のバイクを借りていたし、このバイクでも試運転はしていた。
それでも、今少し緊張している。
世界一大切なものを乗せて走る事に。
何故か少し、泣きそうにすらなったーー。
途中、身体が冷えないようにとカフェに寄った。
冬とバイクは正直相性が悪い…つまり、死ぬほど寒い。
ただまぁ、晴に関してはぶっちゃけ冷える事は無いんだが。
『晴ちゃんに…これを…!』
何処からか(多分憲人さん経由)俺と晴がバイクで出掛ける事を知った親父が渡して来た防寒用コート。
見た目は『高級そうなダウン』程度だが『完全防寒』が売りらしい。
極寒の国のロイヤルな人間も纏うらしいそれは、調べたら100万以上する代物だった。
…この変態親父、本気で晴に関する事に見境がねぇな。
本人の前では引いたふりをしたが、実際は実に羨ましい。
早く俺も、金とコネを存分に晴の為に使えるようになりたい。
そんな訳で寒さとは無縁の晴だが、どうしてもこのカフェに連れて来たかった俺は尤もらしい理由をつけて立ち寄った。
チョコマニアのバイト仲間から仕入れた、晴の好物であるホットチョコレートの人気店。
行列が出来る程人気のそれは晴の口に合ったらしく(店主が俺のバイト先のオーナーの知り合いで、並ばずに買えるように手配できた)幸せそうな顔で堪能していた。
あーもう、これだけで連れて来た甲斐があったわ。
そんな風に、水族館の前に満足しそうになりながらも走らせたバイクの先に広がっていた海。
密着した身体を名残惜しく思いながらも、目と鼻の先にある目的地へバイクを進めた。
事前に買っておいたチケットのQRコードで水族館内に入る。
晴はチケット代を払おうとするが、出させる気はさらさらない。
財布を探っていた晴の手を取って、そのまま館内へと足を踏み入れた。
「どうした?」
「や、その、何か手慣れてんなと思って。」
繋いだ手を見つめながらそんな事を言われる。
「俺の母親誰だと思ってんだよ。」
一瞬ポカンとした晴は、俺が陽子から受けた英才教育を知ると感心したらしい。
「うんうん、めっちゃスマート!モテる男は違うね!」
「晴にしか発揮しないけどな?」
何処か他人事のように感動している晴を引き寄せて耳元で言うと、赤くなってソワソワしながら目を彷徨わせている。
『大切なPrincessの為に』と言って教えられたそれは、絶対にお前にしか使わない。
そもそも、陽子が『Princess』と称するのはただ1人だ。
切藤家総出で囲い込まれている事なんて知る由もない晴は、俺に揶揄われたと思ったらしい。
少し唇を尖らせてーー
「む~~!……えっ!待ってシロクマいるじゃん!」
秒速で白熊に心を奪われている。
はぁ、愛し。
怒りが持続しない所も、こう言う無邪気な所も堪らない。
「間違っても子供みたいとか言うなよ⁉︎」
頭を撫でる俺を上目遣いで睨んでくる所も。
「言わない。普通に可愛い。」
「か…かわっ…⁉︎」
「チッ。人いなかったらキスできたのに。」
「へっ⁉︎」
赤くなった頬をスリっと撫でて、手を繋いだまま展示を観て回った。
正確には、海のお友達を観ていたのは晴だけだが。
俺は、クルクル変わる晴の表情を見るのに忙しかったから。
イルカショーでは態と1番後ろの席を選んで、遠慮なくその腰に手を回して。
寒さから守ると言う名目で、もう片方の手で晴の手を包んだ。
ショーが進むうちに、少し強張っていた晴の身体から力が抜けて自然と俺に凭れてくるのが嬉しくて。
この距離が当たり前になる事を、心から願った。
展示を全て見終わってからは、併設された遊園地で遊ぶ事になった。
「やった!ジェットコースター乗ろう!」
はしゃぐ姿に、自然と笑みが溢れる。
普段から感情が出にくい方だが、晴と離れていた時は『表情筋が死滅した』と翔に言われる程だった。
そんな俺が、今日はずっと笑っている。
騒動の前に晴と一緒にいた時も良く笑ってはいたが、今はそれ以上だ。
理由はきっと、過去のどの瞬間よりも晴を近くに感じているから。
触れたりキスしたりするのを、戸惑いながらも受け入れてくれるようになって。
『幼馴染と出掛ける』のとは違う『デート』なんだと理解した上で、隣にいる晴。
それが堪らなく嬉しくてーー。
辺りが暗くなり、ポツンと置かれた人気のないベンチに座って休憩する。
1日が秒速だったと感じたのは晴もだったらしい。
「いや最高でしょ!…蓮も楽しかった…よな?」
「当たり前だろ。お前と一日中過ごせたんだから。」
心からそう言うと、晴がホッとしたように微笑んだ。
今までの人生で今日が1番楽しかったって言ったら、お前はどんな反応するんだろうな。
言ってみたい気もするが、そろそろ時間だ。
こっちを見ている晴の頬に手を添えて、横を向かせる。
「晴、あっち見てろ。」
その瞬間イルミネーションがフッと消えた。
ドォン!!
大きな音と共に、真っ暗な空に花火が弾ける。
デートをこの水族館に決めたのは、クリスマスシーズンに花火を打ち上げるからだ。
花火が好きな晴に、絶対に見せたいと思っていた。
案の定、大きな目を見開いたその横顔は感動に満ちている。
ブルーグレーに映る鮮やかな光が綺麗で、俺は晴から目が離せない。
これ以上好きになる事なんて無理だと思う程、晴が好きだった。
だけどーー。
この想いに上限なんて無いんだと思い知る。
どうしても伝えたい。
俺の気持ちの全てを受け入れてくれるかは、分からない。
それでも、どうか知って欲しい。
「蓮……んっ…。」
こっちを向いた晴が何か言おうとしたのを、キスで塞いだ。
今は俺の事だけ見て、俺の言葉だけを聞いて欲しい。
「好きだ。」
「晴が好きだ。幼馴染じゃ足りない。
晴の、恋人になりたい。」
時が止まったかのように周りから音が消えた。
目を見開く晴を、懇願にも似た気持ちで見詰める。
永遠にも感じられるその時を動かしたのは、俺の手に重なった晴の手だった。
「蓮…俺……」「…えっ⁉︎」
晴が何か言おうとした瞬間、驚愕した声と共に現れたのは剣道部のOBである竹田。
「…お前、そっちだったのか…⁉︎」
「そっちなのは俺っすよ。
俺が晴の事好きで、無理矢理迫っただけです。」
どんな経緯でここに来やがったのかは知らねぇが、晴を動揺させんじゃねぇ。
それでも竹田は俺達を見比べて言い放った。
「有り得ない…。」
ビクリと震えた晴を、俺は背中に庇う。
「仮に俺達がそうだったとして、個人の問題だろ?アンタに否定する権利あんの?」
晴の為に穏便に済ませようと思っていたが、傷付けるようなら話は別だ。
俺が臨戦体勢に入った所に、女の声が割って入った。
竹田の連れらしい女は俺達に小さく頭を下げると、無理矢理竹田を引っ張って離れて行く。
「…晴、大丈夫か?」
声をかけたが、晴は反応しない。
呆然としたその瞳は、拒絶して去って行く『尊敬する先輩』の背中を映していたーー。
帰り道、晴は一言も発さなかった。
「晴、大丈夫か?」
萱島家の前にバイクを停めて、もう一度声をかける。
「あ、ごめん。大丈夫。」
ヘルメットを外した晴の、無理した笑顔に胸が痛む。
「…俺があんな所で言ったせいで嫌な思いさせたな。」
その頭を撫でて、それでも伝える。
「告白した事は後悔してない。
ああ言う奴がいる事も、周りの事も散々考えた。
それでも、俺は晴の特別になりたい。」
「…今も特別だよ?」
「今よりもっと。心も身体も1番近くにいたい。
晴は俺のだって言える権利が欲しい。」
「蓮…。」
「晴が混乱してるのは分かってる。返事は急がねぇから。ただ、俺がお前を好きだって事は覚えてて。」
今はそれだけでいい。
だからどうか、苦しまないでくれ。
「寒いから家入れ。明後日また迎えに行くわ。」
そう言って、最近習慣のようになっている別れ際のキスをしようとしてーー
ゆっくり身体を離した。
今はきっと、受け入れられないだろう。
萱島家のドアが閉まるまで見守って、振り切るようにバイクを発進させた。
家に着くと、1日感じていた体温を失った喪失感に襲われてしゃがみ込む。
外気とは関係のない寒さに身体が震えた。
気持ちを伝えたい事に後悔は無い。
だけどーー
親しい人間からの拒絶は晴の心を苦しめるだろう。
そして、その先に晴が出す答えは、きっとーー。
●●●
side晴人77~79話辺りの話しです。
水族館に入る時、高級ダウンは無造作にバイクの座席下に詰め込まれました。(蓮に)
晴が値段知ったら真っ青。笑
本編に全くもって関係ない裏話なんですが、立ち寄ったチョコレートのお店は作者の別作品『ショコラ伯爵~』に出てくる『リョウ』が勤めていたお店だったりします。笑
ショコラ伯爵の方もいい加減稼働させなければ…。。
腰に回された腕に軽く合図を送ると、海に気付いたのかギュッとその力が強くなる。
『海だ!!』
そんな晴の嬉しそうな感情が密着した身体から伝わって、思わず笑った。
あぁ…マジで最高だなーーー。
朝迎えに行った晴は、初めて見る服装で俺を待っていた。
黒のスキニーパンツに白いリキッドカットソー、カーキのマウンテンパーカー。
控えめに言ってめちゃめちゃ似合ってる。
後で知った話だが、どうやらクロ(と、役に立ってはいないだろうが中野)と一緒に買い物に行ったらしい。
晴がこの日のために服を選びに行っていた事が嬉しい反面、少し悔しくもある。
次のデートは買い物で決まりだな。
「わ!このバイクなんだ!凄いね!」
マークとのやり取りを知られてはいるが、歓声を上げる晴は『欲しかったバイクに、最初に自分を乗せるって決めてくれてた』くらいの認識だろう。
実際には『晴を乗せて出掛ける為に買ったバイクに最初に乗せるのは当然晴だし、何があろうと他の奴を乗せるなんて事は一生無い』である。
そんな重い感情が篭ったバイクに乗せられる晴には悪いが、俺は大いに満足だ。
「もっとしっかり腕回せ。俺の背中に体重かけていいから。ピッタリくっついてて。」
全身ベッタリくっ付く体勢にさせたが、これはアレだ、あくまでも安全の為だからな。
「は、初めてだから緊張する!」
そう言う晴にニヤリと口角が上がる。
「大丈夫。気持ち良くて癖になるようにしてやるよ。」
意味深な言い方で微笑むと、晴はボッと音がしそうな程に赤くなった。
『啓太君と協力して、デートだって意識させまくっといたからね!』
『余計な事すんなって言っただろボケ!』
昨日クロから来たLAINには怒りを露わにしたが、これはひょっとして…ひょっとするかもしれない。
「怒んなって。ほら、行くぞ!」
知らず弾む声と共にバイクを発進させる。
免許を取ってから、かなりの頻度で親父のバイクを借りていたし、このバイクでも試運転はしていた。
それでも、今少し緊張している。
世界一大切なものを乗せて走る事に。
何故か少し、泣きそうにすらなったーー。
途中、身体が冷えないようにとカフェに寄った。
冬とバイクは正直相性が悪い…つまり、死ぬほど寒い。
ただまぁ、晴に関してはぶっちゃけ冷える事は無いんだが。
『晴ちゃんに…これを…!』
何処からか(多分憲人さん経由)俺と晴がバイクで出掛ける事を知った親父が渡して来た防寒用コート。
見た目は『高級そうなダウン』程度だが『完全防寒』が売りらしい。
極寒の国のロイヤルな人間も纏うらしいそれは、調べたら100万以上する代物だった。
…この変態親父、本気で晴に関する事に見境がねぇな。
本人の前では引いたふりをしたが、実際は実に羨ましい。
早く俺も、金とコネを存分に晴の為に使えるようになりたい。
そんな訳で寒さとは無縁の晴だが、どうしてもこのカフェに連れて来たかった俺は尤もらしい理由をつけて立ち寄った。
チョコマニアのバイト仲間から仕入れた、晴の好物であるホットチョコレートの人気店。
行列が出来る程人気のそれは晴の口に合ったらしく(店主が俺のバイト先のオーナーの知り合いで、並ばずに買えるように手配できた)幸せそうな顔で堪能していた。
あーもう、これだけで連れて来た甲斐があったわ。
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密着した身体を名残惜しく思いながらも、目と鼻の先にある目的地へバイクを進めた。
事前に買っておいたチケットのQRコードで水族館内に入る。
晴はチケット代を払おうとするが、出させる気はさらさらない。
財布を探っていた晴の手を取って、そのまま館内へと足を踏み入れた。
「どうした?」
「や、その、何か手慣れてんなと思って。」
繋いだ手を見つめながらそんな事を言われる。
「俺の母親誰だと思ってんだよ。」
一瞬ポカンとした晴は、俺が陽子から受けた英才教育を知ると感心したらしい。
「うんうん、めっちゃスマート!モテる男は違うね!」
「晴にしか発揮しないけどな?」
何処か他人事のように感動している晴を引き寄せて耳元で言うと、赤くなってソワソワしながら目を彷徨わせている。
『大切なPrincessの為に』と言って教えられたそれは、絶対にお前にしか使わない。
そもそも、陽子が『Princess』と称するのはただ1人だ。
切藤家総出で囲い込まれている事なんて知る由もない晴は、俺に揶揄われたと思ったらしい。
少し唇を尖らせてーー
「む~~!……えっ!待ってシロクマいるじゃん!」
秒速で白熊に心を奪われている。
はぁ、愛し。
怒りが持続しない所も、こう言う無邪気な所も堪らない。
「間違っても子供みたいとか言うなよ⁉︎」
頭を撫でる俺を上目遣いで睨んでくる所も。
「言わない。普通に可愛い。」
「か…かわっ…⁉︎」
「チッ。人いなかったらキスできたのに。」
「へっ⁉︎」
赤くなった頬をスリっと撫でて、手を繋いだまま展示を観て回った。
正確には、海のお友達を観ていたのは晴だけだが。
俺は、クルクル変わる晴の表情を見るのに忙しかったから。
イルカショーでは態と1番後ろの席を選んで、遠慮なくその腰に手を回して。
寒さから守ると言う名目で、もう片方の手で晴の手を包んだ。
ショーが進むうちに、少し強張っていた晴の身体から力が抜けて自然と俺に凭れてくるのが嬉しくて。
この距離が当たり前になる事を、心から願った。
展示を全て見終わってからは、併設された遊園地で遊ぶ事になった。
「やった!ジェットコースター乗ろう!」
はしゃぐ姿に、自然と笑みが溢れる。
普段から感情が出にくい方だが、晴と離れていた時は『表情筋が死滅した』と翔に言われる程だった。
そんな俺が、今日はずっと笑っている。
騒動の前に晴と一緒にいた時も良く笑ってはいたが、今はそれ以上だ。
理由はきっと、過去のどの瞬間よりも晴を近くに感じているから。
触れたりキスしたりするのを、戸惑いながらも受け入れてくれるようになって。
『幼馴染と出掛ける』のとは違う『デート』なんだと理解した上で、隣にいる晴。
それが堪らなく嬉しくてーー。
辺りが暗くなり、ポツンと置かれた人気のないベンチに座って休憩する。
1日が秒速だったと感じたのは晴もだったらしい。
「いや最高でしょ!…蓮も楽しかった…よな?」
「当たり前だろ。お前と一日中過ごせたんだから。」
心からそう言うと、晴がホッとしたように微笑んだ。
今までの人生で今日が1番楽しかったって言ったら、お前はどんな反応するんだろうな。
言ってみたい気もするが、そろそろ時間だ。
こっちを見ている晴の頬に手を添えて、横を向かせる。
「晴、あっち見てろ。」
その瞬間イルミネーションがフッと消えた。
ドォン!!
大きな音と共に、真っ暗な空に花火が弾ける。
デートをこの水族館に決めたのは、クリスマスシーズンに花火を打ち上げるからだ。
花火が好きな晴に、絶対に見せたいと思っていた。
案の定、大きな目を見開いたその横顔は感動に満ちている。
ブルーグレーに映る鮮やかな光が綺麗で、俺は晴から目が離せない。
これ以上好きになる事なんて無理だと思う程、晴が好きだった。
だけどーー。
この想いに上限なんて無いんだと思い知る。
どうしても伝えたい。
俺の気持ちの全てを受け入れてくれるかは、分からない。
それでも、どうか知って欲しい。
「蓮……んっ…。」
こっちを向いた晴が何か言おうとしたのを、キスで塞いだ。
今は俺の事だけ見て、俺の言葉だけを聞いて欲しい。
「好きだ。」
「晴が好きだ。幼馴染じゃ足りない。
晴の、恋人になりたい。」
時が止まったかのように周りから音が消えた。
目を見開く晴を、懇願にも似た気持ちで見詰める。
永遠にも感じられるその時を動かしたのは、俺の手に重なった晴の手だった。
「蓮…俺……」「…えっ⁉︎」
晴が何か言おうとした瞬間、驚愕した声と共に現れたのは剣道部のOBである竹田。
「…お前、そっちだったのか…⁉︎」
「そっちなのは俺っすよ。
俺が晴の事好きで、無理矢理迫っただけです。」
どんな経緯でここに来やがったのかは知らねぇが、晴を動揺させんじゃねぇ。
それでも竹田は俺達を見比べて言い放った。
「有り得ない…。」
ビクリと震えた晴を、俺は背中に庇う。
「仮に俺達がそうだったとして、個人の問題だろ?アンタに否定する権利あんの?」
晴の為に穏便に済ませようと思っていたが、傷付けるようなら話は別だ。
俺が臨戦体勢に入った所に、女の声が割って入った。
竹田の連れらしい女は俺達に小さく頭を下げると、無理矢理竹田を引っ張って離れて行く。
「…晴、大丈夫か?」
声をかけたが、晴は反応しない。
呆然としたその瞳は、拒絶して去って行く『尊敬する先輩』の背中を映していたーー。
帰り道、晴は一言も発さなかった。
「晴、大丈夫か?」
萱島家の前にバイクを停めて、もう一度声をかける。
「あ、ごめん。大丈夫。」
ヘルメットを外した晴の、無理した笑顔に胸が痛む。
「…俺があんな所で言ったせいで嫌な思いさせたな。」
その頭を撫でて、それでも伝える。
「告白した事は後悔してない。
ああ言う奴がいる事も、周りの事も散々考えた。
それでも、俺は晴の特別になりたい。」
「…今も特別だよ?」
「今よりもっと。心も身体も1番近くにいたい。
晴は俺のだって言える権利が欲しい。」
「蓮…。」
「晴が混乱してるのは分かってる。返事は急がねぇから。ただ、俺がお前を好きだって事は覚えてて。」
今はそれだけでいい。
だからどうか、苦しまないでくれ。
「寒いから家入れ。明後日また迎えに行くわ。」
そう言って、最近習慣のようになっている別れ際のキスをしようとしてーー
ゆっくり身体を離した。
今はきっと、受け入れられないだろう。
萱島家のドアが閉まるまで見守って、振り切るようにバイクを発進させた。
家に着くと、1日感じていた体温を失った喪失感に襲われてしゃがみ込む。
外気とは関係のない寒さに身体が震えた。
気持ちを伝えたい事に後悔は無い。
だけどーー
親しい人間からの拒絶は晴の心を苦しめるだろう。
そして、その先に晴が出す答えは、きっとーー。
●●●
side晴人77~79話辺りの話しです。
水族館に入る時、高級ダウンは無造作にバイクの座席下に詰め込まれました。(蓮に)
晴が値段知ったら真っ青。笑
本編に全くもって関係ない裏話なんですが、立ち寄ったチョコレートのお店は作者の別作品『ショコラ伯爵~』に出てくる『リョウ』が勤めていたお店だったりします。笑
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