【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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解決編

21.

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現在(相川達の専門学校)に戻ってます。


●●●

(side 切藤蓮)



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

静止の為に出した手そのまま額にあてて、相川が上擦った声を上げた。

「…ハルカの好きな人が蓮の兄ですって…?」

「だからそう言ってんだろうが、日本語通じねぇのかテメェ。」

「…だって、ハルカさんは元カノなんじゃ…」

「だからそれも、お前らの妄想だっつの。」

相川の横で混乱する木村にもピシャリと言い放つ。

「…あのさ、俺中等部の時の切藤と南野の様子知ってるけど、恋人みたいな甘い雰囲気一切無かったぞ?大抵ケンカしてたし。
まぁ、2人とも美形だから『お似合い』なんて言う連中はいたけど…もしかしてそれが誤解を招いたんじゃないか?」

中野の加勢に、女子2人が目を見交わす。

「…で、でもそれじゃあ、キスの説明がつきません。」

ポツリと呟くように言った言葉は、思いの外教室に響いた。

何言い出すんだコイツ、と目線を向けると、木村は小さく悲鳴を上げた。

「ちょっと、桃の事威圧しないでよね!
でも、そうよ!私達、知ってるんだから!」

「あ?」

「とぼけんじゃないわよ!遥とのキスの事よ!」

「相川さん、落ち着いて。良くわかんないけどそれも何かの誤解だって。な、切藤?」

勢い込んで立ち上がる相川を宥めながら、中野がこっちを見て来る。

キスって…いや、そんなわけ無いねぇよな…は誰にも見られてない筈だ。

「…き、切藤?まさか…だよな?」

記憶を探る俺の沈黙をどう捉えたのか、中野が困惑している。

「ほら、身に覚えがあんでしょ!」

「やめろ…」

「はぁ⁉︎逃れようったってそうは…」「思い出させんな、キモイから!」

「…へ?」

思いっ切り顔を顰めた俺に、目が点になる3人。

「あの…ハルカさんの味方をするつもりはありませんが仮にもキスした相手に『キモイ』は酷いのでは…?」

恐る恐る声を出す木村に心の底から溜息を吐いて、中野に目を向ける。

「お前、姉貴とキスできる?」

一瞬キョトンとした中野は、次の瞬間にはゾワワッと背筋を震わせた。

「ゔぇぇぇ‥.無理…てか殺される…!」

今にも吐きそうなその姿こそ、俺の心情を如実に表している。

「これが自然な反応だろ。俺と遥も同じ。」

姉とか母親とキスとか、キモイに決まってんだろ。

「…つ、つまり?」

「お前らがしてる話しが中学の…修旅のすぐ後の件なんだったら、事故。」

「…事故?」

囁くように言ったのはこの場の誰だったのか。

あぁ、クソ!

お前らのせいで消し去った筈の記憶が蘇って来たじゃねぇか!








修旅から数日後、俺は校舎の屋上へ続く階段に呼び出された。

相手は遥で、内密の話しだからと人の来ないそこを指定されて。

遅れた事を詰られながらも、目的だったらしいモノを受け取ると、話しは霊泉家の事に移行した。

と言うのも、修旅京都から帰ったその日以降、霊泉家が俺の周りをウロついてるらしい。

親父曰く『京都の天敵と蓮がどの程度接触したのか知りたいんだろう。』との事。

笹森さんを始め数人が監視に入ってくれてるから接触は無いが、遥にも当然この話しは伝えている。

「ほんっと、どうしようもない奴等よね。」

何年も沈黙してんだから一生黙ってなさいよ、と溢す遥に完全に同意。

「あ、そうだ!私ね、試してみたい事があって!」

少し言い辛そうな遥に先を促すと、それは予想外なものだった。

「私が留学してる間も霊泉家の目をこっちに引き付けておきたいの。私達が『遠恋中の恋人』に見えるように手は打っておくべきじゃない?」

「いや待て…」

何となく嫌な予感がして渋るが、遥は構わず続ける。

「だって必要でしょ?ほら、例えばキスしてるとか。」

「無理、きちぃわ。」

秒速で断ると、遥かの眉が吊り上がった。

「私だってアンタなんかごめんよ!!
…けど、万が一にも奴等の晴に目が向いたらと思うと…心配すぎて気が狂いそう…。」

打って変わって苦しそうな表情に気持ちが揺れる。

それに関しては俺も全く同じ思いだったから。

そして、傍で守れる俺とは違い異国から祈る事しかできない遥の苦悩も察する事ができた。

「…しゃーねーな、晴の為だ。」

「蓮…。」

目を丸くした遥が『蓮が私の意志を汲んでくれるなんて!』みたいな事言ってるが、俺達は同志だ。


叶わない想いに身を焦がす同志であると共に、

大切な宝物を守る同志ーー。


そう思えるようになったのは遥の『告白』をきっかけとした最近の事だが、晴を守る上で絶対の信頼をおける相手ができた事は大きい。

「で?遠目からそう見えるようにすりゃいいんだろ?」

具体案について問うと、遥が答える。

「そうね。ドラマのメイキング見て知ったんだけど、こんな感じ。」

スマホを操作した遥が見せて来た動画は、某人気アイドルが壁ドンしながらのキスを披露したドラマ。

これに対し一部ファンが大荒れしたが、実際はカメラのアングルでそう見せていただけで唇は触れ合っていなかったらしい。

成る程な、確かにそれっぽく見える。

遥に壁ドンとかダルいけど、晴の為なら仕方ねぇ。

「セルフタイマーセットしたから、上手くできるか取り敢えずやってみよ!」

窓枠にスマホを固定した遥が反対側の壁に背をつけて、俺に

げぇ、やっぱ嫌なんだが…。

「ちょっと、真面目にやってよね!」

「仕方ねぇだろ、キツイんだよ!」

「私だって我慢してんのよ!ほら、顔近付けて!」

ネクタイをガッと引っ張られて、大きくバランスを崩した。

「オイ!どんな力してんだゴリラかよ!」

「はぁ!?もっかい言ってみなさいよ!!」


ーーガツンッ


……え?


何が起こったか分からず、思考が停止する。

目の前には近すぎてボヤける遥の顔と、徐々に広がる



「「おゔぇぇぇぇぇ!!!」」


同時に覚醒した俺達は、同時に仰け反った。


「最悪…、ってか痛いんだけど!…アンタ晴にもこんな風にしたんじゃないでしょうね!?」

猛烈な勢いで唇を拭きながら遥が烈火の如く怒る。

「んな訳ねぇだろ!お前が引っ張るから歯が当たったんだよ!」

そう、正確には俺の歯と遥の唇がぶつかった。

だからこれはキスじゃねぇ!断じて!!

現にこれが事故だと物語るように、遥の唇にはうっすら血が滲んでいる。

無理矢理引っ張ったのはコイツだから罪悪感なんか皆無だけどな。

むしろ…

「ックソ!晴の感触が薄れたらどうすんだ!」

「発想がクッソキモイんだけど!晴を穢さないでよね!」


「大体テメェの馬鹿力が」
「アンタの体幹がペラッペラなのが」

「メスゴリラ」「ゴリラはB型のアンタ」

「痴女」「痴漢」

「ブス」「クズ」


「「あーもう、死ね!」」


こんな調子で延々と(偏差値2の内容で)罵り合って、同時に力尽きて床に座り込んだ。

「…ハァハァ…あ~もう最悪!…ファーストキスは翔君としといて良かった!」

どうやら遥は幼稚園児の頃、翔の唇を奪ったらしい。

「『こら、俺としていいのはほっぺチューまで!』なんて、相手にもされなかったけどね!」

開き直ったかのような遥に呆れた視線を向ける。

「…ハァ…キス魔かよ。…悪ぃけど、俺のキスの相手は晴だけだから。」

「…アンタこそ晴に無理矢理した癖に…!いや、もう今日はやめよ…疲れたわ…。」


精神的に大ダメージを負った俺達は、

どう考えても今のはノーカン!
お互い経験は好きな相手とのキスのみ!

と言う事で手打ちにする事にした。


「あー、良く撮れてるわぁ…。」

虚な目でセットしていたスマホを見る遥。

そこには、絶妙なボヤけ具合でキスシーンに見える俺達が映っていた。

「…これ、拓哉さんに送っていい?」

遥の言葉に力無く頷く。

計画では霊泉家に直接目撃させる予定だったが、俺達に『恋人』を演じるのは難しい事が判明した。

写真が撮れてるなら、どっかのルートからさり気なく霊泉家にの目につくように回した方が余程効率的だろう。

『それっぽく撮れたから、ステルス晴作戦に使って。他の人には絶対見せないでね!』

そんなLAINを俺の親父に送った遥は、スックと立ち上がった。

「じゃあ私、英会話スクール行くから。
次この話題出した方が、晴が見てる前で相手に土下座だからね!」

言い捨てて去って行く背中を見送って、ゴロリと仰向けに寝転ぶ。

遥に土下座するなんて姿を、晴に見せるなんてとんでもない屈辱だ。

恐らく遥もそう思っての提案だろう。

だから、お互いにこの話題に触れる事は無かった。

俺の記憶のシステムの中でも『削除』扱いにして、2度と思い出さないように葬り去ってーー。


 


「今の今まで完全に忘れてたってのに…何してくれてんだこのバカ女!」

目の前の相川を睨め付ける。

霊泉家の事は『厄介な親戚』と暈したが、これでもう疑いようがねぇだろ。

何なら遥にも聞いてみろ、キレ散らかしながら俺と全く同じ説明するから。

大体、何でコイツがあの日の事知ってんだよ。

「そんな…だって、じゃあ晴ちゃんは…ずっと誤解して…。」

呆然とする相川が溢した言葉に眉を思いっ切り寄せる。

「あ?」

「晴ちゃん、見てたんだって。」

何を、とは聞かなくても分かった。


晴が、あの『悲惨な事故』を見てたーー?


「それで…蓮と遥が付き合ってるって、思ったみたいなの…。」

「………………は?」

理解が追いつかない。

「ちょっと待て…それはマジで晴が言ってたのか?」

「そう。晴ちゃんが『蓮は中学の時遥と付き合ってた』なんて言うから信じられなくて…そしたら『キスしてるの見たから間違いない』って。」

相川もその隣で頷く木村も深刻な表情で、嘘ではない事が分かる。

「…んな訳…仮に晴があの現場見てたなら、絶対事故って分かる筈だろ…。」

俺達がどんだけ罵り合ってたと思ってんだ。

「目撃してすぐ逃げたって言ってたから、本当にその瞬間だけ見ちゃったのかも…。」

確かに、絶妙にタイミングが悪い晴がそこだけを切り取って見てしまった可能性はゼロとは言い切れない。

「いや、そうだとしても…俺と遥が付き合ってるなんて晴が思う訳ねぇんだよ。俺達が顔突き合わせりゃ喧嘩してんの、晴が1番見てんだぜ…?」

何より、その時系列なら俺が晴にキスした後。

つまり、俺が好きなのが晴だって本人も知ってる筈だ。

「えーっと…何か、花がどーのって言ってたような…」

意味不明な相川の呟きは、続く中野の言葉に掻き消された。

「…なぁ、晴人の鈍さだとその時は切藤の気持ちに気付いてなかったって可能性ないか?」

否定しようとして…頭を過ぎったのは、俺が晴にキスした後の態度。

逃げられ続けて、やっと話せるようになったと思ったら『全部忘れる』と無かった事にされて。

あれは俺の気持ちを知った上で『幼馴染』としか見れないって意味だと思ってたが…。

もしかして、晴は俺と遥が付き合ってると誤解して『忘れるから安心して』って意味で言ったのか?

俺が自分にキスしたのを、気まぐれとか…練習台とか思って…。


いやまさか、と否定すればする程、何もかもがしっくり来る。


その後、俺と遥を伺うように見てた視線は、俺達が急に話すようになった事への疑問じゃなくて…。

ーー本当に付き合ってるのか、様子を伺ってたんじゃないだろうか。


遥を見送りに行く車内で俺に励ますような言葉をかけてきた意味も、空港で1人離れて行った意味も。


全てが、違ってくるーー。


「晴ちゃん、少なくとも高1の文化祭前まではアンタ達が付き合ってるって思ってた筈。
私が蓮にチョッカイ出そうとした時『遥の事は知ってるの?』なんて聞いてきたし…。」


俺と遥が恋人だと誤解した晴は、どんな気持ちでいたんだろう。

自分にキスした後、2ヶ月もしないうちに遥と『キスしてる』俺を見て、嫌悪感を抱いただろうか。

『付き合ってる』事を明かさない俺達に疎外感を感じていたかもしれない。

だけど、何も聞いてこなかったのはどうしてだ?


「晴ちゃん…一言追求してれば拗れなかったのに…。でも、気持ちは分かるわ。
好きな相手に彼女ができたのか確認するなんて、地獄だものね。」


好きな、相手ーー?


晴かが俺の気持ちに応えてくれたのは高2の修旅だし、焼きもちを妬いてくれるようになったのはそれより前だが、それでも高校に入ってからだった。


だから、考えた事もなかった。


晴が、もっと前か俺を好きだった可能性なんて。




もし、それが事実だとしたら。



晴は俺と遥の事でどれだけ傷付いてーー


どれだけ不安を感じていたんだろうーー。







●●●

キス(??)について

side晴人→中学編5話『衝動』の後半部分で目撃。

side蓮→中学編15話『元通り』で、さわりにした遥との会話だけ記述あり。

side遥→解決編『19』の踊り場での会話の後の出来事。記述無し。


蓮と遥にとっては抹消したい記憶の為、2人の視点(回想)ではここがバッサリと無かった事になってます。笑




























晴人には『キス』に見えましたが、蓮と遥にとっては『大事故』でした。
吐きそうになってるのとか、小学生みたいな悪口で大揉めしてる会話が晴に聞こえてれば…!

ゴリラはもれなくB型です。




























































































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