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解決編
43.(※性描写あり)
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※性描写(男女含む)があります。
●●●
(side 竹田和也)
音を立てないように跡を付けて公園に差し掛かった時、晴人がスマホを取り出した。
誰かと連絡を取られるのはマズイ。
逃げるべきだと頭のどこかで声がしたけど、気付いたら前へと走り出していた。
勢いよくぶつかられた華奢な身体が地面に倒れて、怯えたように俺を見上げる。
自分を映すその目に、ゾクリと肌が粟立った。
無意識に手を伸ばして、頬に触れようとして。
「ーーッ!」
思わぬ反撃に、思わず出そうになった声を何とか抑えた。
竹刀で脛を打たれて怯んだその隙に、晴人が駆け出す。
だけど俺にとってこの痛みは慣れたもので、すぐに後を追う事ができた。
そして、懸命に逃げる獲物を狩る高揚感のままに背中をから抱き竦める。
華奢な肩と仄かな甘い匂い。
ずっと触ってみたかった頸が目の前にある。
「嫌だっ!!触んな!!」
夢見心地だった所に強い抵抗と拒絶の言葉を吐かれて、カッとなった。
頭が揺れる耳の上辺りを狙って拳を振るうと、フラリとその身体が傾ぐ。
可哀想に…でも、殴らせたのはお前だからな?
持っていたガムテープで口と両手を塞ぐと、更に人目に付かない場所まで引き摺った。
なぁ、晴人。
これからお前がどうなるか、全ては俺にかかってるって分かってるか?
大丈夫、いい子にしてたら優しくしてやるから。
仰向けに転がした身体の上に馬乗りになると、圧倒的優位に立った愉悦が込み上げる。
怯える様子をもっと感じたくて、被っていたヘルメットをとった。
逆にしたその中に、グローブとガムテープを突っ込む。
木々の影でさらに暗いこの場所なら、顔を見られる心配は無い。
俺からも晴人の表情が見えないのは残念だけど。
滑らかな頬に舌を這わせると、晴人の身体がビクリと震えた。
必死に逸らそうとする頭を固定して、もう一度味わう。
甘くて柔らかいそこに水滴を感じると、興奮で息が荒くなった。
泣いてる、晴人が俺のせいで!
そこからはもう本能のままに、その身体を撫で回した。
服が邪魔なのに暗くて脱がせられないのがもどかしい。
ようやく辿り着いた制服のベルトに手をかけると、何をされるか分かったのか震えが伝わってくる。
口角が吊り上がるのを止められない。
ズボンの中に入れた手を滑らせて、下着の上からゆっくりと晴人の中心を撫でた。
あぁ、晴人のモノが俺の手の中にある。
自分の身体にもあるモノに対して少しは抵抗があるかと思ったが、とんでもない。
早く指で可愛がってやりたい。
舌で舐めしゃぶって、口の中でイかさせたい。
勿論、出した白濁は全部俺が飲んでやる。
純粋な晴人は、こんな行為初めてに違いない。
きっと、一生忘れられない傷として記憶に残るだろう。
自慰をする時ですら、俺の事を思い出すかもしれない。
そんな甘美な未来に酔いしれていたのに、突如脳裏に切藤の顔が浮かぶ。
…晴人は、本当に初めてなのか?
切藤は晴人の幼馴染で、家族ぐるみの付き合いと聞いた事がある。
晴人に思いを寄せる切藤が、それを利用した可能性はないだろうか。
何も知らない晴人を言い包めて、この身体を好き勝手に弄り回したかもしれない…。
そこまで考えると、ほんの少し残っていたは罪悪感は消え失せた。
全て上書きしなくては。
最後までされたかは分からないが、ナカまで俺でいっぱいにすればいい。
嫉妬と興奮で痛い程張り詰めた自分のモノを、我慢できず服の上から晴人に擦り付ける。
あぁ、こんなに気持ちいいのは初めてだ。
このまま出して、俺の白濁を晴人の孔に塗りつければ繋がる事ができる。
貫かれて泣く晴人を想像すると、腰が止まらない。
ブォォン
夢中になっていた俺は、気が付かなかった。
バイクのエンジン音が迫っていた事に。
ハッとして動きを止めると、男の声が聞こえた。
「晴!!どこだ!!」
その声に呼応するようにして、近くの木の葉が音を立てる。
僅かに動かせた足で、晴人が木を蹴ったらしい。
風の無い中で揺れるそれは、どう考えても不自然だ。
「晴?そこにいるのか?」
ーー見つかった!
慌てて立ち上がると、ヘルメットを引っ掴んでバイクとは反対方向に駆け出した。
サーチライトに照らされた背中を、嫌な汗が伝う。
現れた男が切藤なのか、それとも晴人の家族や友人なのか声だけでは判別できない。
誰であっても、もし追い付かれたら俺は犯罪者だ。
逃げないと、全てが終わるーー!
運命は俺に微笑んだ。
随分走って隣町に出た所で、ようやく息をつく。
どうやら追手は諦めたらしく、気配は微塵もない。
寂れたコンビニから漏れる光で自分の姿を見回すと、ダウンジャケットに大量の種のような物がついていた。
払っても取れないそれは、あの公園に自生する植物だろう。
急いでそれを脱ぐと、近くのマンションのゴミ捨て場に放る。
隣にヘルメットとグローブも置こうとして、証拠品になる物を固めない方がいいと思い直した。
今日はもうあの辺りには近付けないから、学校近くに置いたバイクの回収はまた今度だ。
とにかく、家に帰って身を潜めなくては。
バスや電車で人の目にとまるのが怖くて、そのまま歩き出した。
途中で見かけたパトカーに肝を冷やしながらも、2時間かけて自宅へと帰り着く。
一人暮らしを機に祖父から受け継いだ3階建て1DKのアパートには、部屋が9戸。
そのうち5戸には住人がいて、残りは俺の自宅兼物置として使っている。
その『自宅』の方でシャワーを浴びて香水の匂いを落とすと、玄関を出て隣の『物置』へと向かった。
祖父の拘りで設置された床下収納を開くと、中に入っていた卒業アルバム等を取り出す。
それをクローゼットに押し込むと、今空けたスペースにヘルメットとガムテープを入れた。
これらの証拠品は、少し日が経ってからゴミとして処分するつもりだ。
続けてグローブを入れようとた時、香水の匂いが仄かに香った。
これは一度洗濯した方がいいかもしれない。
そう考えて立ち上がろうとして…違和感に目を見開く。
逃亡劇ですっかり萎えていた筈の俺の中心が、スウェットを押し上げていた。
何故そうなるのか分からず戸惑って、もしかしてと思ってグローブに染み付いた匂いを深く吸い込む。
その途端甦ったのは、組み敷かれて自分の下で震える姿。
舌に残った頬の味と、指先が覚えた中心のカタチ。
堪らず手を伸ばして自分のモノを解放した。
「…ッア…晴人…!」
しっかり勃ったそれを扱きながら、目を閉じて記憶を追う。
これを晴人の身体に擦り付けた時の愉悦を思い出すと、身震いする程の快感が駆け巡った。
ドロリと溢れた白い物を使って、少しも落ち着かない熱を更に吐き出していく。
口に咥えたグローブからする匂いは、さながら媚薬のようだ。
「うっ、…晴人…出すぞ…!」
愛しい相手のその身の上に、口の中に…そして、腹の中に何度も白濁を放つ。
漸く我に返った時には、床に水溜りができていた。
そんな自分に愕然としながらも、グローブを床下にしまう。
この時にはもう、処分しようなんて気は更々なくなっていた。
翌日、新しく買ったヘルメットを持ってバイクを取りに行った。
かなり警戒していたが、きちんとバイク置き場に置いていたせいか疑われなかったようだ。
ホッと息を吐いて回収したバイクに乗って帰宅した。
シート下に入っていた香水を取り出して、大切に床下にしまう。
これで、ここを開ける度にあの日を思い出せる。
一生消えない記憶を刻み付けられたのは、俺の方だった。
翌日、さり気なく様子を聞いた啓太から、晴人が体調不良で欠席してると情報を得た。
啓太は事実を知らされてないようだが、ショックで休んでるんだとすぐに合点がいく。
晴人が俺の事で心を乱されてる事実に口角が上がった。
お前も、俺が悩んだのと同じぐらい苦しめばいいんだ。
2週間ほどして部活に復帰して来たその姿がすっかり痩せていた事にも、心は踊った。
そうか、食事も通らない程犯人の事を考えてくれたんだな。
そんな暗い悦びを引き裂いたのは、他の部員同士の会話だった。
「晴人、病み上がり感凄いな…インフルだっけ?」
「そうらしい。ちな、蓮様も全く同じ期間休んでたのにあっちはいつも通りのご尊顔だったぜ…。イケメンはいつでもイケメンなんだな。」
それは仲間を案ずるのと共に、学校の王に対する畏怖を含んだもの。
だけど、俺にはすぐに分かった。
どう考えても、切藤は晴人の為に休んでる。
やはりあの日、邪魔をしたのは切藤だったんだろう。
奴はこれ幸いと晴人のケアに努めたに違いない。
晴人は自分を救ってくれた相手に、益々思いを強くした筈だ。
そう思い至ってから晴人を見ると、痩せてはいるものの啓太と談笑する余裕すら感じられる。
つまり、俺が与えた傷は他の男との幸せな記憶で上書きされたのか…?
目の前が真っ赤になって、いつの間にか練習が始まっていた事にも気付かなかった。
激情のままに晴人を見つめると、その瞳が俺を映す。
次の瞬間だった。
大きく傾いだ身体が、音を立てて床に倒れる。
晴人はすぐに意識を取り戻したが、酷く顔色が悪い。
心配して早退を促す部員たちに同調しながら、心は別の事を考えていた。
目が合った瞬間倒れた気がしたのは、気のせいだろうか…と。
だけど、本人も周りも体力が戻ってない事に原因があると納得していて。
あれは偶然だったのかと思うのうになった数日後、再び晴人が倒れた。
それも、俺が話しかけたすぐ後に。
迎えの車を見送った後、心配で落ち着かない部員達を宥める。
どうやらここ数日は問題なく部活に出ていたらしい。
俺がいる日、俺と接した時にだけ倒れている。
これは、もしかしたら…。
暫くすると、顧問の大山先生から晴人が休部する事になったと連絡があった。
体調不良が原因だと濁されたが、俺にはもう分かっている。
思い至ってすぐに大学の図書館でPTSDに関する本を大量に読み、確信していたからだ。
晴人はPTSDを発症していて、そのトリガーとなるのが俺だ、と。
晴人は俺が犯人だと気付いてはいない。
だけど、深層心理の何処かで『危険な人物』がいる事を感じ取り、警告を発する。
心を守るため、意識を失うと言う形でーー。
晴人の心の奥深い所に、俺の存在がある。
切藤蓮ですら預かり知らぬ所にーー。
愉悦に唇が歪むのを止められるなかった。
ただし、消えない傷を与えた代償は大きかった。
部活に来なくなった晴人と会う機会が無くなってしまったからだ。
偶然を装って声をかけようかとも思ったが、終始切藤か啓太か、名前も知らないチャラそうな男がベッタリ張り付いていて無理だった。
そいつらの前で話しかけて晴人が倒れたら、疑われるのは間違いない。
親しいその数人には事情を話している可能性がある事を考えると、危険は犯せなかった。
ジレンマを抱えつつ、いつものように床下を開ける。
揮発する香水の匂いを吸い込んで記憶を掘り起こしながら自分自身を慰めていた時、ふと思い付いた。
香水をひと吹きした部屋に彼女を呼び、そのまま行為に傾れ込む。
目を瞑って腰を振れば、あの日の続きをしているような気分になった。
俺は今、あの公園で震える晴人を犯しているーー。
一向に硬度を失わなくなったモノで突きまくると、彼女は初めて潮を吹いた。
カモフラージュで付き合い続けてる女だが、これだけ満足させてやってるんだからウィンウィンだろう。
そうやって代用品で気を紛らわせながら、時を待った。
PTSDは、時間の経過と共に軽くなるケースがあるらしい。
晴人がそうである事を祈りながら、待ち続けた。
切藤と付き合い出した事を察してからも。
晴人が高校を卒業して大学に通い出してからも、ずっと。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと
そして、秋になるとようやく転機が訪れた。
大学でも続けてる剣道の練習試合で足を踏み入れたのは、晴人が通うキャンパスり
そこで、出会ったんだ。
これはもう、運命だとしか思えなかった。
「えっ?竹田先輩?」
振り返らなくても分かった、その声。
「やっぱり!竹刀持ってるからすぐ分かった!」
なんて笑う様子に心を締め付けられる。
倒れたり気分が悪くなる様子はなくて、まるで昔に戻ったみたいだ。
高校時代より更に綺麗になった晴人に触れたくて堪らない。
部活なんかもうどうでも良くて、何とかして一緒に過ごそうと画策する。
久しぶりに飯でもと誘うと、本当に残念そうに断られた。
「ごめん、待ち合わせしてるんだ。でもまた今度絶対!啓太も誘うんで!」
待ち合わせの相手は、切藤なんだろ?
手を振って離れて行くその姿が憎くて、拳を握り締めた。
俺は血を吐く思いでここまで待ったのに。
なのに、他の男を優先してまた俺を突き放すのか。
お前はどこまで勝手で、思いやりがないんだ。
それでも、欲しくて堪らないのはどうしてなのか。
憎いのに、少しも嫌いになれない。
どんな手段を使ってでも、俺のものにしたいーー。
偶然の出会いから数ヶ月、晴人と会う機会は無かった。
一度連絡はしたが、色々あってバイトが忙しいと謝られて。
苛々するあまり険悪になり、彼女に別れを告げられたけどダメージは無かった。
ただひたすら、晴人の事だけを考えて。
そんなある日、大学の門を出た所で一人の男が話しかけてきた。
「竹田和也さんですね。」
見覚えの無い男に不信感を抱きつつも、頷くだけの肯定をする。
「いきなり申し訳ありません。実は折行ってお願いしたい事がございまして。」
会っていきなりこんな事を言われて、怪しまない人間がいるだろうか。
「何か知りませんけど、お断りします。」
「萱島晴人さんの事です。」
思わず足を止めて振り返ると、男が物理的な距離を詰めてくる。
「お話したいのは私ではなく、私の主人なのですが、多忙な為こちらに来る事ができず…。
どうか一緒に来ていただけませんか?」
主人…と言う事は、この人は誰かに雇われてるのか?
身なりが良く姿形もいい目の前の男性は、やり手の経営者でも通じそうなのに。
そんな人の主人なら、益々自分とは縁が無いように思える。
「失礼ですが、どちら様ですか。名乗っていただけない相手について行く事はできません。」
キッパリ言うと、男性は一瞬苦い顔をした。
が、直ぐに笑顔になる。
「大変失礼致しました。私は石川と申します。」
そして、驚くべき事を言った。
「霊泉慎一郎先生の事はご存知でしょうか。私は先生の秘書をさせていただいております。」
著名な政治家である霊泉丈一郎の息子は、流石に知っている。
まさかのビッグネームに目を瞠るが、更に驚きは続いた。
「公表はされてないのですが、先生は切藤蓮さんと親戚関係にありまして…。婚約の件で頭を痛めておられます。」
「…婚約?」
「はい。蓮さんには婚約者がおられます。」
…え?
それって晴人の事…じゃないよな…?
だけど2人は付き合ってる筈で…。
「相手は南野遥さん。蓮さんと晴人さんの幼馴染です。」
路肩に停めてあった高級車の後部座席に滑り込むのを断る理由は、もう見つからなかった。
●●●
竹田と晴人が大学で出会ったのは、蓮と喧嘩する前(バイト増やす事になった直前辺り)です。
激烈胸糞一族とクズofクズの出会い…不吉な予感しかしない。
慎一郎の秘書をする石川は霊泉家の人間です。
偽名があった方が便利なのでいつもこっちを名乗ってます。
●●●
(side 竹田和也)
音を立てないように跡を付けて公園に差し掛かった時、晴人がスマホを取り出した。
誰かと連絡を取られるのはマズイ。
逃げるべきだと頭のどこかで声がしたけど、気付いたら前へと走り出していた。
勢いよくぶつかられた華奢な身体が地面に倒れて、怯えたように俺を見上げる。
自分を映すその目に、ゾクリと肌が粟立った。
無意識に手を伸ばして、頬に触れようとして。
「ーーッ!」
思わぬ反撃に、思わず出そうになった声を何とか抑えた。
竹刀で脛を打たれて怯んだその隙に、晴人が駆け出す。
だけど俺にとってこの痛みは慣れたもので、すぐに後を追う事ができた。
そして、懸命に逃げる獲物を狩る高揚感のままに背中をから抱き竦める。
華奢な肩と仄かな甘い匂い。
ずっと触ってみたかった頸が目の前にある。
「嫌だっ!!触んな!!」
夢見心地だった所に強い抵抗と拒絶の言葉を吐かれて、カッとなった。
頭が揺れる耳の上辺りを狙って拳を振るうと、フラリとその身体が傾ぐ。
可哀想に…でも、殴らせたのはお前だからな?
持っていたガムテープで口と両手を塞ぐと、更に人目に付かない場所まで引き摺った。
なぁ、晴人。
これからお前がどうなるか、全ては俺にかかってるって分かってるか?
大丈夫、いい子にしてたら優しくしてやるから。
仰向けに転がした身体の上に馬乗りになると、圧倒的優位に立った愉悦が込み上げる。
怯える様子をもっと感じたくて、被っていたヘルメットをとった。
逆にしたその中に、グローブとガムテープを突っ込む。
木々の影でさらに暗いこの場所なら、顔を見られる心配は無い。
俺からも晴人の表情が見えないのは残念だけど。
滑らかな頬に舌を這わせると、晴人の身体がビクリと震えた。
必死に逸らそうとする頭を固定して、もう一度味わう。
甘くて柔らかいそこに水滴を感じると、興奮で息が荒くなった。
泣いてる、晴人が俺のせいで!
そこからはもう本能のままに、その身体を撫で回した。
服が邪魔なのに暗くて脱がせられないのがもどかしい。
ようやく辿り着いた制服のベルトに手をかけると、何をされるか分かったのか震えが伝わってくる。
口角が吊り上がるのを止められない。
ズボンの中に入れた手を滑らせて、下着の上からゆっくりと晴人の中心を撫でた。
あぁ、晴人のモノが俺の手の中にある。
自分の身体にもあるモノに対して少しは抵抗があるかと思ったが、とんでもない。
早く指で可愛がってやりたい。
舌で舐めしゃぶって、口の中でイかさせたい。
勿論、出した白濁は全部俺が飲んでやる。
純粋な晴人は、こんな行為初めてに違いない。
きっと、一生忘れられない傷として記憶に残るだろう。
自慰をする時ですら、俺の事を思い出すかもしれない。
そんな甘美な未来に酔いしれていたのに、突如脳裏に切藤の顔が浮かぶ。
…晴人は、本当に初めてなのか?
切藤は晴人の幼馴染で、家族ぐるみの付き合いと聞いた事がある。
晴人に思いを寄せる切藤が、それを利用した可能性はないだろうか。
何も知らない晴人を言い包めて、この身体を好き勝手に弄り回したかもしれない…。
そこまで考えると、ほんの少し残っていたは罪悪感は消え失せた。
全て上書きしなくては。
最後までされたかは分からないが、ナカまで俺でいっぱいにすればいい。
嫉妬と興奮で痛い程張り詰めた自分のモノを、我慢できず服の上から晴人に擦り付ける。
あぁ、こんなに気持ちいいのは初めてだ。
このまま出して、俺の白濁を晴人の孔に塗りつければ繋がる事ができる。
貫かれて泣く晴人を想像すると、腰が止まらない。
ブォォン
夢中になっていた俺は、気が付かなかった。
バイクのエンジン音が迫っていた事に。
ハッとして動きを止めると、男の声が聞こえた。
「晴!!どこだ!!」
その声に呼応するようにして、近くの木の葉が音を立てる。
僅かに動かせた足で、晴人が木を蹴ったらしい。
風の無い中で揺れるそれは、どう考えても不自然だ。
「晴?そこにいるのか?」
ーー見つかった!
慌てて立ち上がると、ヘルメットを引っ掴んでバイクとは反対方向に駆け出した。
サーチライトに照らされた背中を、嫌な汗が伝う。
現れた男が切藤なのか、それとも晴人の家族や友人なのか声だけでは判別できない。
誰であっても、もし追い付かれたら俺は犯罪者だ。
逃げないと、全てが終わるーー!
運命は俺に微笑んだ。
随分走って隣町に出た所で、ようやく息をつく。
どうやら追手は諦めたらしく、気配は微塵もない。
寂れたコンビニから漏れる光で自分の姿を見回すと、ダウンジャケットに大量の種のような物がついていた。
払っても取れないそれは、あの公園に自生する植物だろう。
急いでそれを脱ぐと、近くのマンションのゴミ捨て場に放る。
隣にヘルメットとグローブも置こうとして、証拠品になる物を固めない方がいいと思い直した。
今日はもうあの辺りには近付けないから、学校近くに置いたバイクの回収はまた今度だ。
とにかく、家に帰って身を潜めなくては。
バスや電車で人の目にとまるのが怖くて、そのまま歩き出した。
途中で見かけたパトカーに肝を冷やしながらも、2時間かけて自宅へと帰り着く。
一人暮らしを機に祖父から受け継いだ3階建て1DKのアパートには、部屋が9戸。
そのうち5戸には住人がいて、残りは俺の自宅兼物置として使っている。
その『自宅』の方でシャワーを浴びて香水の匂いを落とすと、玄関を出て隣の『物置』へと向かった。
祖父の拘りで設置された床下収納を開くと、中に入っていた卒業アルバム等を取り出す。
それをクローゼットに押し込むと、今空けたスペースにヘルメットとガムテープを入れた。
これらの証拠品は、少し日が経ってからゴミとして処分するつもりだ。
続けてグローブを入れようとた時、香水の匂いが仄かに香った。
これは一度洗濯した方がいいかもしれない。
そう考えて立ち上がろうとして…違和感に目を見開く。
逃亡劇ですっかり萎えていた筈の俺の中心が、スウェットを押し上げていた。
何故そうなるのか分からず戸惑って、もしかしてと思ってグローブに染み付いた匂いを深く吸い込む。
その途端甦ったのは、組み敷かれて自分の下で震える姿。
舌に残った頬の味と、指先が覚えた中心のカタチ。
堪らず手を伸ばして自分のモノを解放した。
「…ッア…晴人…!」
しっかり勃ったそれを扱きながら、目を閉じて記憶を追う。
これを晴人の身体に擦り付けた時の愉悦を思い出すと、身震いする程の快感が駆け巡った。
ドロリと溢れた白い物を使って、少しも落ち着かない熱を更に吐き出していく。
口に咥えたグローブからする匂いは、さながら媚薬のようだ。
「うっ、…晴人…出すぞ…!」
愛しい相手のその身の上に、口の中に…そして、腹の中に何度も白濁を放つ。
漸く我に返った時には、床に水溜りができていた。
そんな自分に愕然としながらも、グローブを床下にしまう。
この時にはもう、処分しようなんて気は更々なくなっていた。
翌日、新しく買ったヘルメットを持ってバイクを取りに行った。
かなり警戒していたが、きちんとバイク置き場に置いていたせいか疑われなかったようだ。
ホッと息を吐いて回収したバイクに乗って帰宅した。
シート下に入っていた香水を取り出して、大切に床下にしまう。
これで、ここを開ける度にあの日を思い出せる。
一生消えない記憶を刻み付けられたのは、俺の方だった。
翌日、さり気なく様子を聞いた啓太から、晴人が体調不良で欠席してると情報を得た。
啓太は事実を知らされてないようだが、ショックで休んでるんだとすぐに合点がいく。
晴人が俺の事で心を乱されてる事実に口角が上がった。
お前も、俺が悩んだのと同じぐらい苦しめばいいんだ。
2週間ほどして部活に復帰して来たその姿がすっかり痩せていた事にも、心は踊った。
そうか、食事も通らない程犯人の事を考えてくれたんだな。
そんな暗い悦びを引き裂いたのは、他の部員同士の会話だった。
「晴人、病み上がり感凄いな…インフルだっけ?」
「そうらしい。ちな、蓮様も全く同じ期間休んでたのにあっちはいつも通りのご尊顔だったぜ…。イケメンはいつでもイケメンなんだな。」
それは仲間を案ずるのと共に、学校の王に対する畏怖を含んだもの。
だけど、俺にはすぐに分かった。
どう考えても、切藤は晴人の為に休んでる。
やはりあの日、邪魔をしたのは切藤だったんだろう。
奴はこれ幸いと晴人のケアに努めたに違いない。
晴人は自分を救ってくれた相手に、益々思いを強くした筈だ。
そう思い至ってから晴人を見ると、痩せてはいるものの啓太と談笑する余裕すら感じられる。
つまり、俺が与えた傷は他の男との幸せな記憶で上書きされたのか…?
目の前が真っ赤になって、いつの間にか練習が始まっていた事にも気付かなかった。
激情のままに晴人を見つめると、その瞳が俺を映す。
次の瞬間だった。
大きく傾いだ身体が、音を立てて床に倒れる。
晴人はすぐに意識を取り戻したが、酷く顔色が悪い。
心配して早退を促す部員たちに同調しながら、心は別の事を考えていた。
目が合った瞬間倒れた気がしたのは、気のせいだろうか…と。
だけど、本人も周りも体力が戻ってない事に原因があると納得していて。
あれは偶然だったのかと思うのうになった数日後、再び晴人が倒れた。
それも、俺が話しかけたすぐ後に。
迎えの車を見送った後、心配で落ち着かない部員達を宥める。
どうやらここ数日は問題なく部活に出ていたらしい。
俺がいる日、俺と接した時にだけ倒れている。
これは、もしかしたら…。
暫くすると、顧問の大山先生から晴人が休部する事になったと連絡があった。
体調不良が原因だと濁されたが、俺にはもう分かっている。
思い至ってすぐに大学の図書館でPTSDに関する本を大量に読み、確信していたからだ。
晴人はPTSDを発症していて、そのトリガーとなるのが俺だ、と。
晴人は俺が犯人だと気付いてはいない。
だけど、深層心理の何処かで『危険な人物』がいる事を感じ取り、警告を発する。
心を守るため、意識を失うと言う形でーー。
晴人の心の奥深い所に、俺の存在がある。
切藤蓮ですら預かり知らぬ所にーー。
愉悦に唇が歪むのを止められるなかった。
ただし、消えない傷を与えた代償は大きかった。
部活に来なくなった晴人と会う機会が無くなってしまったからだ。
偶然を装って声をかけようかとも思ったが、終始切藤か啓太か、名前も知らないチャラそうな男がベッタリ張り付いていて無理だった。
そいつらの前で話しかけて晴人が倒れたら、疑われるのは間違いない。
親しいその数人には事情を話している可能性がある事を考えると、危険は犯せなかった。
ジレンマを抱えつつ、いつものように床下を開ける。
揮発する香水の匂いを吸い込んで記憶を掘り起こしながら自分自身を慰めていた時、ふと思い付いた。
香水をひと吹きした部屋に彼女を呼び、そのまま行為に傾れ込む。
目を瞑って腰を振れば、あの日の続きをしているような気分になった。
俺は今、あの公園で震える晴人を犯しているーー。
一向に硬度を失わなくなったモノで突きまくると、彼女は初めて潮を吹いた。
カモフラージュで付き合い続けてる女だが、これだけ満足させてやってるんだからウィンウィンだろう。
そうやって代用品で気を紛らわせながら、時を待った。
PTSDは、時間の経過と共に軽くなるケースがあるらしい。
晴人がそうである事を祈りながら、待ち続けた。
切藤と付き合い出した事を察してからも。
晴人が高校を卒業して大学に通い出してからも、ずっと。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと
そして、秋になるとようやく転機が訪れた。
大学でも続けてる剣道の練習試合で足を踏み入れたのは、晴人が通うキャンパスり
そこで、出会ったんだ。
これはもう、運命だとしか思えなかった。
「えっ?竹田先輩?」
振り返らなくても分かった、その声。
「やっぱり!竹刀持ってるからすぐ分かった!」
なんて笑う様子に心を締め付けられる。
倒れたり気分が悪くなる様子はなくて、まるで昔に戻ったみたいだ。
高校時代より更に綺麗になった晴人に触れたくて堪らない。
部活なんかもうどうでも良くて、何とかして一緒に過ごそうと画策する。
久しぶりに飯でもと誘うと、本当に残念そうに断られた。
「ごめん、待ち合わせしてるんだ。でもまた今度絶対!啓太も誘うんで!」
待ち合わせの相手は、切藤なんだろ?
手を振って離れて行くその姿が憎くて、拳を握り締めた。
俺は血を吐く思いでここまで待ったのに。
なのに、他の男を優先してまた俺を突き放すのか。
お前はどこまで勝手で、思いやりがないんだ。
それでも、欲しくて堪らないのはどうしてなのか。
憎いのに、少しも嫌いになれない。
どんな手段を使ってでも、俺のものにしたいーー。
偶然の出会いから数ヶ月、晴人と会う機会は無かった。
一度連絡はしたが、色々あってバイトが忙しいと謝られて。
苛々するあまり険悪になり、彼女に別れを告げられたけどダメージは無かった。
ただひたすら、晴人の事だけを考えて。
そんなある日、大学の門を出た所で一人の男が話しかけてきた。
「竹田和也さんですね。」
見覚えの無い男に不信感を抱きつつも、頷くだけの肯定をする。
「いきなり申し訳ありません。実は折行ってお願いしたい事がございまして。」
会っていきなりこんな事を言われて、怪しまない人間がいるだろうか。
「何か知りませんけど、お断りします。」
「萱島晴人さんの事です。」
思わず足を止めて振り返ると、男が物理的な距離を詰めてくる。
「お話したいのは私ではなく、私の主人なのですが、多忙な為こちらに来る事ができず…。
どうか一緒に来ていただけませんか?」
主人…と言う事は、この人は誰かに雇われてるのか?
身なりが良く姿形もいい目の前の男性は、やり手の経営者でも通じそうなのに。
そんな人の主人なら、益々自分とは縁が無いように思える。
「失礼ですが、どちら様ですか。名乗っていただけない相手について行く事はできません。」
キッパリ言うと、男性は一瞬苦い顔をした。
が、直ぐに笑顔になる。
「大変失礼致しました。私は石川と申します。」
そして、驚くべき事を言った。
「霊泉慎一郎先生の事はご存知でしょうか。私は先生の秘書をさせていただいております。」
著名な政治家である霊泉丈一郎の息子は、流石に知っている。
まさかのビッグネームに目を瞠るが、更に驚きは続いた。
「公表はされてないのですが、先生は切藤蓮さんと親戚関係にありまして…。婚約の件で頭を痛めておられます。」
「…婚約?」
「はい。蓮さんには婚約者がおられます。」
…え?
それって晴人の事…じゃないよな…?
だけど2人は付き合ってる筈で…。
「相手は南野遥さん。蓮さんと晴人さんの幼馴染です。」
路肩に停めてあった高級車の後部座席に滑り込むのを断る理由は、もう見つからなかった。
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竹田と晴人が大学で出会ったのは、蓮と喧嘩する前(バイト増やす事になった直前辺り)です。
激烈胸糞一族とクズofクズの出会い…不吉な予感しかしない。
慎一郎の秘書をする石川は霊泉家の人間です。
偽名があった方が便利なのでいつもこっちを名乗ってます。
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