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お風呂と名前と喧嘩勃発

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あったかい…。
湯船に浸かるのは何年振りかな…
家ではお金が少なくて、半身浴しかできなかった。
小さい頃は半分しかないお湯でも完全にお湯に浸かれたけど、今はもう無理だし…



髪の毛を洗うのも苦戦したな…

何しろ腰まであるし、この髪と目は母と唯一の共通点だ。


幼い頃よく父に、
「お前はよく母親に似ているよ。母親そっくりだ。」
と育ての母のいないところで言われていた。


それがとても嬉しくて、この長い髪も切らずにいる。学校でもよくからかわれたけど、そんなことより母と一緒ってことの方が嬉しくて気にならなかった。


一度だけ、切られたことがあった。
それは、小学生の時に育ての母がうっとおしいとハサミで適当に。
それのおかげで今も毛先はガタガタ。
今に高校生になるが、伸びるまで結構かかった。



ちゃんとリンスもして手入れも欠かさない。
どうぞ、好きなだけ気持ちが悪いというがいい。

髪を気にする男子は珍しいと思うからね。



それほど大切だから。


一緒に入りたくなかったのは秘密があったからだ。


お風呂から出ると、洋服が置かれていた。
上は白のワイシャツで下はジーンズだった。


なんだか、申し訳なく思ったが、ありがたく着させてもらった。


サイズは少し大きめで袖が余るが、急な来客で、用意ができなかったのだろう。
文句などない。


ドライヤーで髪を乾かす。
その前にタオルでしっかり水分を取っておいた。
くしでとかすと、いつもよりも綺麗だ。


いいシャンプーなんだろうな。


お風呂場を出て、さっきの部屋を目指して歩く。


少しごつい人達が通り過ぎたりしている。
通り過ぎる瞬間に、チラチラと見られるけど、きにしなくていいかな?


部屋の前について思ったこと。
それは中で、すごくめんどくさいことになってそうだってこと。


さっきのマキナさんと結城さんと知らない男の声が聞こえる。


少しだけ襖を開けて覗いてみる。


「うるっせぇなぁ!!チアキ!!てめぇにはカンケーねぇだろ!?」


「はぁ?!関係あるに決まってるじゃないの!!!
アタシに何か隠してんじゃないの!?」



「ははは、おやおや」


う~んと、関わらないでおこう。


襖を閉めようとした時に、結城さんにバレてしまった。


「あ、おかえり。おいで、おいで。」



ニコリと笑って手招きをする。


優しい声と笑顔に負けて、僕は入りたくはないけれど渋々入った。


結城さんの膝の上に座らされたのは疑問だったけど、それよりも目の前の騒ぎの方が気になった。



「アンタがアタシに隠し事をするのはだいったい面白いことなのよ!!!」


「は…はぁぁ!?ふ、ざけんなぁ!!!なにがおもしれぇんだよ!!!こっちは毎回毎回バレて恥ずかしいったらありゃしねぇんだぞ!!!??」



前者は楽しそうに、後者のマキナさんは涙目を浮かべて叫んでいる。


「えと、結城さん?あの騒ぎは何ですか?」


結城さんは、少し目を見開いて、
「ふふ、私の名前を分かってくれていたんだね。ありがとう。」


あ、どさくさに紛れて呼んでしまった。


「す、すいません。結城さんて呼んじゃって…」


「…そんなことないさ。嬉しいよ。」


また、ニコリと笑うと、


「あの騒ぎは毎日のことだよ。えっとね……
あ、そうそう語尾が女性のような人は……
はて?ははは、忘れてしまったよ…」


!?


今会話で【チアキ】と呼ばれていた気がするんですけど!?


「ちょっとーーー!!!そこ、なんかよくわかんないけどアタシの話ししてたでしょ!?そして何となくだけど、けなされたような気がしたわ…!」


いきなり指をさして怒り気味で話す。



「あら、何よ。そこのチビ」


僕に気づいたようだ。



それよりも僕はチビじゃない!小さいけど決してチビレベルじゃない!!
まあ、確かにここにいる僕以外の人は大体180は超えていて、おまけにイケメンなことは確かですけど!?



その人は近づいてきて、僕より大きな手を僕の頭に置く。



「…か、」



「…か?」



「かっわいいじゃないの~!!!ねぇ、結城ちゃん。この子誰??新しい子??やぁん、ほんと可愛いわぁ!」



「わぁ~!!そいつに手ェ出すんじゃねぇぞ!!
お前によってそいつが汚れんのだけは絶ってぇ、阻止しねぇと!!」



そう言って、マキナさんは僕の頭から強引に手をはがす。



僕がよくわからない状況に、困惑していると、



「…だいじょうぶ?怖いよね。ごめんね。君は私が守るよ。」



「あ、りがとうございます?あと、怖くないですよ…!」



ちょこっと驚きましたけど。
と付け足した。



「あまり近寄んじゃねぇぞ!!チアキは汚れそのものだ!!」


「あんった、さいってぇね!!!人を汚れって言うんじゃないわよ!!!それに、アタシが夜に相手になったやつは勝手にああなってくるんだからしょうがないでしょ!?」



「相手ってどういう…?」


「知らない方がいいよ。」



結城さんの方に振り向いて聞くと即答だった。
ほんとに知らない方がいいのかも。



その後も小さな喧嘩が続いた。

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