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闇と商品と裏社会

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結城さん達が住む、和風な豪邸から出て数十分。




まぁ、予想して居た通りに、



迷子になってしまいました。



「…出る前に結城さんに聞いてくれば良かった…」



そう僕は自分の考えの甘さに肩を落とした。


なんとなく空を見上げ、現実逃避に走る。



あの雲、車みたいだな……、あ、あれ、ドラゴン
みたいじゃない……!?



とまあ、こんな感じにふざけるのもやめにして、
これからのことを考えることにした。



ことの自体も、振り出しに戻り、家を出てから、
いや、追い出されてから…?違う、出てからだ。



なんか、自分で思っててよくわからないけれど、最初から考えることにしよう。



家を出た自分。路地裏で襲われ……は考えない事にして、結城さんに助けられて、今に至る。



そして考えた先の答えは、


「……野宿、かなぁ…」


ポツリと呟くが、周りには鳥のさえずりしかしない。



「………まだ。居たかったな…あの家に帰りたくない。もう、あの家には…」



考え始めると止まらなくなる。


昔からそうで、すぐに自分の思考にどんどんと沈んでいってしまう。



「…あ~ダメダメ。また考え過ぎた…」



少し風にあたろうと、広い海辺の公園に行き、
海風にあたる。



手すりに肘をつき、何も考える事なく、ぼーっと
海や鳥を眺める。



どこかも分からない街で、何をしていいか分からなくなる。



覚悟を決めて、育ての母のいる家へと帰りことを決めた。



何たって、自分の年齢を考えても雇ってくれるところもなさそうだし、勉学にも励まなくちゃならない。


今通っている学校も義務教育が終わり、卒業すると、高校に行かなくちゃならなくなる。



父からは勉強をやりなさいと言われたから、何としてでも高校は卒業したい。



育ての母を頼るほかなくなってしまう。



「…家、帰らなきゃ。」



そう思い立ってから、交番を探し、道を聞いて、
自分の見知った街へ出た。



もう時間も遅くなっていて、19時になっていた。



少し肌寒くて、鳥肌が立つ。四季も冬で夜はすごく冷え込む。



吐く息も白くて、手をこすって温める。



指の先は赤く、足の先も冷えて感覚もおかしくなりそうだ。 



やっとの事で家に帰ることができた。



部屋には明かりが灯っていて、ドアノブに手をかけたがそこで固まってしまう。



このまま開けてしまったら、また何か言われるんじゃないか。

しまいには家を追い出されて………考えたくなくて、首を横にブンブン振ってドアノブを開ける決意をする。




深呼吸をして、呼吸を整えて、ドアを開けようとした。



ガチャ 



「…あら、お帰りなさい…!!待ってたのよ…!!
寒かったでしょ!!?さ、早く入りなさい!!
ご飯用意して待っていたのよ!!」



開けるとそこには、育ての母がたっていて、今までの僕への態度と打って変わっていたので、凄く混乱して、されるがままに部屋にあがった。



「良かったわ…あなたが帰らなくて凄く心配したのよ…!!もう、母さんを困らせないで…!でも、帰ってきてくれて嬉しいわ!」



僕を椅子へと誘導し、食事を並べ始める。

まだ頭が混乱して、追いついて行かなくて、ただ育ての母を見つめることしかできなかった。



「…ん?どうしたのかしら、そんなに見つめて、変なことでもあったかしら…?…あぁ!もしかしてまだあのことを気にしているの??」


「…………あ、んなこと?」



僕は恐る恐る聞いた。



「何のことって、ほら、あなたが出ていった時のことよぉ?忘れちゃったの??『触らないで』だったかしら…?」



僕はとっさに思い出して、



「…ぁ、ご、ごめんなさい…あの時は…その……」



何だか急に怖くなって目も合わせられなかった。




「……別にいいのよ!誰だってそういう時はあるものよ?母さんへのちょっとの反抗ってことだけで許してあげるわ。」



そう言って僕の頭を撫でる。
恐い。こんなの育ての母じゃない…!



誰…?顔も声も育ての母だけど、性格も外見以外全てが違うものになったようで、恐ろしい。



「……あ、ほら。ご飯が冷めちゃうじゃない!!
さぁ、食べて食べて…!」


「…は…い。」


僕がスプーンを手に取り、スープを飲む。


その姿をジーっと育ての母は、真顔で見つめている。


「……あの、…なんですか??」


と、恐る恐る聞くと、パッと表情が変わり、


「何でもないわ。ただ見つめていたかったのよ…」


そう答えた。



その時の表情は、誰なのかも分からないくらいの笑顔だった。


その直後だった。


全身の力が抜けて、床へと倒れる。

意識も朦朧として、息もしづらい。


「………な、にこれ。」


僕が倒れると、ぼやけた視界の中、育ての母は誰かに電話をしているようだった。


意識を手放さないようにと、自分の手をもう片方の手の爪で引っ掻いていた。


それももう限界に近く、意識を手放す瞬間。

ドアの開く音がしたのがわかった。




倒れる瞬間の育ての母は、いつもと同じ、人を見下す顔をしていた。
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