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闇と商品と裏社会
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しおりを挟む昔の事。
小学校に入る前の頃は、普通で、どこにでもいるごくごく普通の、優しい育ての母だった。
いつ頃かって言われたら、あまりよく分からないけれど、わかると言ったら、父の一言だったと思う。
『お前は俺の亡くなった妻のように優しく素直で、良かったよ』
そう、育ての母に言った。
理由は今になってわかる気がする。
育ての母は、もともと父の愛人で、僕の本当の母が死んだ時に、真っ先に頼った女性だった。
育ての母からしたら、父が振り向いてくれて嬉しかったんだと思う。
だから、父からの言葉が受け止められなかった。
まるで、本当の母の代わりだったかのような父の言葉。
それからだった気がする。
父の気づかないところで、僕に暴言や暴言をしだした。
父からは、
「顔色が悪いぞ…?大丈夫か?」
などと、心配されたが、
「…ううん、大丈夫だよ?」
そう答えて、安心させようとした。
父が仕事から帰ってくるのは、深夜を過ぎてからだった。
小学生の四年生くらいの頃、
僕はもともと、本当の母のことを知っていて、
髪も昔から伸ばしていた。
「その髪を見るたびにあいつを思い出して、嫌なんだよ!!!」
あいつとは、僕の本当の母のこと。
育ての母は、本当の僕の母のことを知っていたようだ。
育ての母にハサミでジャキジャキと、髪をバラバラに切られてしまい、腰まで伸びていたのが肩までになってしまった。
それを見た父は、
「大丈夫か!?誰かにいじめられたのか!?」
と、学校でのいじめのことかと誤解をしていた。
まぁ、髪のせいでいじめられはしたけれど、相手にもしていなかったので特に気にしてはいなかった。
「…大丈夫だよ。伸びたから自分で切っていたら失敗しちゃって…えへへ」
そうヘラヘラ笑って、また誤魔化した。
その数ヶ月後には、
「…お母さん…その、授業参観来てくれる…?」
僕は当時、育ての母のことをお母さんと呼んでいた。
「…は?行かないわよ、そんなの。」
「…で、でも!お父さんがいけないから、ど、どうしても…大事な話があるから、親は必ず行かないとって先生に言われてて…!」
ガッシャンッ!!!!
「ひぃっ…!!」
すると突然、育ての母は、タバコの灰皿を床に叩きつけ、
「うるっさいわね!!!行かないって言ったでしょ!!!本当にアンタは!!!こっち来なさい!!」
僕は震えて動けなかった。
「こっち来いって言ってるでしょ!!!!」
嫌だ。
しびれを切らした育ての母は、こちらへとタバコの吸いかけを手に持ち歩み寄る。
「…嫌だ…ご、ごめんなさい。ごめんなさいっ…」
首根っこを掴まれて、逃げ出せなくなる。
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!助けてっ…!
誰かぁ!助けっ……うぁぁあああああ!!!!!」
育ての母は背中に、ジュッとタバコを押し付けた。
熱いのと痛いのとがごっちゃになって、痛くて痛くて、大粒の涙を流すしかなかった。
その日の晩は、声を殺して痛いのを我慢した。
それでも、父には心配をかけないように学校へは、
毎日通った。
夏のプールの授業は、すべて見学を強いられた。
背中の火傷のあとはこの先もずっと残ると思う。
病院にも行かずに、黒焦げのままで治療もせずにほっといていたら、跡が残るのは当然のことだ。
結局、授業参観はお休みした。
育ての母は、何事もないかのように父の前では振るまっている。
それが逆に怖かった。
父の前では、
「…お母さん、お父さんが食器洗ってって言って……ま、した。」
そう言うと、
「…もぅ、なぁに?敬語なんてやめてちょうだい!!ほんっと可愛いわねぇ?…分かったって伝えてちょうだい?」
こう答える。
僕と2人の時は、
「…ねぇ。食器洗っといてくんない?手が荒れるわ。…………返事は!!!???」
「…は、い。」
そんな態度だった。
育ての母は、僕の名前を呼んだこともない。
『あなた』や、『あたしの可愛い子』などと口にしていた。
それこそ、父のいる前では、いかにも僕を可愛がり、愛でていた。
父の前じゃなくなると、見えないところに痣をつくらせ、ストレス解消に僕に暴言を吐き、暴力を振るっていた。
それもいつまで保つか分からなかった。
いきなり父は、
「無理せずに、何でも相談しろよ。俺たちは家族だろう。」
そう言って来た。
僕は、
「ありがとう…話せる時が来たら話すね…」
そう返した。
中1になる頃には、信頼できる人はいなくなっていた。
父にも、何も話せなくなっていた。
もちろん学校でも喋ることもなく、家でも、外でもぼんやりと過ごすしかなくなっていた。
やることは勉強しかなくて、ずっとやっていた。
それを見越して父は、次々に問題集を知人からかき集めて僕にくれた。
には、大学の回答率の低い問題まで解けるようになっていた。
気がついたら、中学のテストは満点だった。
先生からも褒められ、校長にも讃えられた。
それに、周りの生徒からも一目置かれた。
最初は、
『お前すげぇな!!!』
『今度勉強教えてよ!!!』
とか、話しかけられたけど僕の態度を、よく思わなかったのか、少し経つと一人また一人といなくなっていった。
僕は離れていく一人にこう聞いた。
「僕って何がいけないのかな…?」
そしたら、
「う~ん、まぁ、聞いた話だと、君はいつも上の空で、無表情だからじゃない??」
「……そっか。ありがとう。」
内心、ふ~ん。そっか。としか思えなくて、これほどまでに自分が他人に対して興味がないのかが分かった。
中3の冬、受験のシーズンになった。
父は、
「どこでもいいぞ、自分の好きなようにしなさい。」
と言うので、家から少し遠い高校を選んで受験した。
県立で、お金も私立よりは安いからっていう理由と、家から遠いという理由で決めた。
見事、合格。
父は喜んだ。育ての母はいつもと同じだった。
制服も揃った。
卒業式も終わって、春休みに入ってすぐに父が入院した。
理由は教えてくれなかった。
毎日欠かさずお見舞いに行った。
だけど、3日目の夕方で買い物の帰りだった。
家に帰ると、誰もいなくて、まぁ、いつもの光景だと思った。
中に入って、冷蔵庫に買ったものを入れていた時に
玄関のチャイムがなった。
誰も訪ねて来ないはずなのに、不思議だと思い、
開けてみても誰もそこにはいなかった。
その時に分かった。
父は死んだって。
それと同時に電話が鳴る。
急ぐことなく出ると、やはり
父が亡くなった。という知らせだった。
病院へ行くと、育ての母が父の遺体の前で泣きじゃくっていた。
戻って来て。
逝かないで。
そう、何度も何度も言っていた。
僕は黙って見つめていた。
哀れな可哀想な父の妻。
見たものは、必ずそう思うだろうが僕は違った。
僕は、何だか違う生物のように思えて仕方なかった。
それに。
葬儀の時の、育ての母の態度だ。
病院での、泣きじゃくっていた育ての母とは違った。
病院でのは演技だったのか…?
それとも、今の人を罵る態度が演技…?
もう分からなくなってしまった。
目の前がグルグルと回っていく。
やがて真っ白から真っ黒へと、僕を闇の中へと飲み込んでいった。
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