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闇と商品と裏社会

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僕は今、広いベッドの上に座らされている。


相変わらず、手は後ろで縛られたままで、動きにくい。



「……冬なのに少し薄着なんだね。…まぁ、すぐに熱くなるさ…」



そう言って、僕の腰に手を回す。



下を向いて、カタカタと恐怖で怯える。



「緊張しているの?はは、そんなに震えないでリラックスして…ほら、気持ちよくしてあげるよ。」



「……ひっ…!」




僕をトン、とベッドに突き飛ばし、手はシャツのボタンを外し始める。



「…いゃ…嫌だ!!やめてぇ…!」



ジタバタと動いて、逃げ出そうとする。



すると、男性の顔が近づき、キスをしようとしてくる。



「ひっ…!い、嫌だぁ!!!」



ゴッ、と頭突きをしてベッドから転がりながら落ちる。



男性が痛がって、頭を抑えているうちに体制を立て直して、ドアの方へと走る。


 
「…くそ!!!待てコラ!!」



手が縛られていてドアが開けられない。



「……開いて…!…お願いっ…!」



せめての願いで、ドアに体当たりをする。



後ろから男性が頭を抑えながら、近づいてくる。



ドアから離れて、壁伝いに男性から距離をとる。



「そんなに逃げてもどうせ捕まっちゃうよ?おいで…今来たなら、頭突きをしたことを許してあげよう。」



「ぜ、絶対にやだ…!………あっ!」



カーペットに足を取られ、転んでしまう。




「さぁ、もう逃げられないねっ…!!」



そう言って、後ずさる僕の髪をおもむろに引っ張る。



「…くっ!い、痛っ!!」



ズルズルと引きずられ、またベッドまで戻って来てしまう。



「…人の言うことの聞けない子には、お仕置きが必要だね!!」



ギシッとベッドの上に寝させられ、グッ、と首を締め付けられる。


力は強くなっていく。



「………がっ……!く、るしぃ…!」



「君がいけないんだ。僕から逃げるから。逃げなければ、優しくもしてあげられていたと言うのに…
本当に残念だぁ。…あ、そうだなぁ。君には特別に、アレを使ってあげよう!!」



「かっ…は!ゲホッゴホッ…ケホッ……!」



首の手を離され、咳き込む。

生理的な涙が、溢れる。



「そこでおとなしくしていてね…ちょっとでてくから。あ、そうだ!1番いい方法があるじゃないかぁ!」



そう言って僕の肩に手を置いた。


「ちょっとの時間、逃げる気を起こさないように、殴らせてもらうね。」


次の瞬間、お腹に強い衝撃が走る。
男性の見た目からは、ありえないほどの力だった。


「…ぐっ!!…かはっ………ぃ、痛…い…」


ヒュッと喉の奥に空気が入る。


目の前がチカチカして、感覚が痛みだけで埋め尽くされる。



「乱暴はしたくなかったけど…仕方ないよね。
じゃあ少し待っていて。」


男性は部屋を出て行った。


はっ、はっ、と細切れな呼吸が部屋に響く。


目には涙が浮かんでいる。拭うこともできない。


体を動かそうとしても、痛みで動けなくなる。



「……だれか、助けて…」



ボソッと無意識に口から言葉が紡がれる。



''結城さん''  が脳内に浮かび上がる。



助けを求めても誰もこないというのに、
最後の結城さんの言葉が思い出される。



『…姫。また会おうね。……』



温かい言葉だった。また会えることなんて、もうないんだろうな。



「……ひっく、お母さん…お父さん……」



今まで考えて来た感情が抑えきれなくなる。


自分の母が、僕を産んですぐに死んだと知らされた時。


病名も何もわからない父のお見舞いに行って、その数日後にあっけなく死んでいった時。



なんで泣けなかったんだろう。



思えば父の前で泣いたことなんてなかった。


子供らしく無邪気に笑って遊ぶこともなかった。


母に甘えることも出来なかった。



「……僕は、いままで何をしてっ……」



お腹の痛みに耐えながらも過去を振り返る。



「少しは…甘えたかった…な。お父さんに……」


意識のしないうちに、どんどん口から想いがこぼれる。



ガチャッとドアが開き、機敏に反応してしまう。



「…さぁ、おまたせ。そんなに怖がらないでよ…ちゃんと気持ちよくなれるからさ…」


「や…やだぁ…!来ないで…!」


「そんなに可愛く言ってもダメだよ。」



男性は小さな瓶を取り出す。


中には、透明な液体が入っている。




これから僕はこの透明な液体を飲まされるようだ。



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