120 / 2,091
8巻
8-3
しおりを挟む
「ダイン‼ いつもの‼」
「分かってるよ‼ 『シャドウ・バインド』‼」
「オオオオッ……⁉」
ダインの影が鞭のように放たれ、接近してくる砂人形に打つ。通常ならどんな巨体でも転がせる技だが、砂人形に意外な結果を生み出す。
影に打たれた砂人形達は、足元から崩れ落ちた。
「えっ⁉」
「倒した……?」
「いや、まだだ‼」
「オオオオオッ……‼」
あっさりと崩れた砂人形達に、ダインとゴンゾウは呆気に取られるが、崩れ去った砂が即座に集まり、元の形に戻ってしまう。
再生能力が早く、核を破壊しない限りは何度でも復活するだろう。
「ゴァアアアッ‼」
「ぬおっ⁉」
「ゴンちゃん‼」
一番近くにいたゴンゾウに向けて、三体の砂人形が接近、彼に覆い被さろうとする。ゴンゾウは咄嗟に闘拳を装着して両手を突き出すが、砂人形の肉体を貫通してしまう。
「ゴァアアアッ‼」
「うおおっ⁉」
「ゴンゾウ殿‼」
ゴンゾウの肉体に纏わりついた三体の砂人形の足元で流砂が発生。ゴンゾウを地面に呑み込もうとする。ゴンゾウは必死に振り払おうとするが、砂人形には攻撃が通じない。砂の肉体は崩れても即座に再生するのだ。
ハンゾウが咄嗟に砂人形の肉体にクナイを放つが、貫通するのみ。動作を鈍らせる程度の効果しか与えられなかった。
「くそっ‼ ダイン‼」
「わ、分かってるよ‼ 『シャドウ・バインド』‼」
「ぬおっ⁉」
ダインが敵ではなく、ゴンゾウに向けて影魔法を放った。そうして流砂で呑み込まれようとするゴンゾウを引き上げた。
影を縄代わりにしてゴンゾウを救い出し、三体の砂人形を振り払ったのだ。
「おおっ‼ 影魔法にはこのような使い方もあったのでござるか⁉」
「僕の影魔法を馬鹿にするなよ‼ このまま……『シャドウ・バイト』‼」
「ゴオッ……⁉」
無事にゴンゾウを引き上げたダインは、砂人形に向けて黒色の狼の影を放つ。だが、砂人形に噛みつくことはできず、身体を通過してしまった。
レイトはシズネを地面に座らせると、そのまま走り出した。
「『氷装剣』‼ それと『付与強化』‼」
左手に「氷塊」の長剣、そして右手で退魔刀を引き抜いて、刃に水属性の魔力を送り込んで魔法剣を発動、砂人形に向けて振りかざした。
事前の情報では、砂人形も他の岩人形と同様に水属性が弱点であるとのことだったが……
レイトは戦技を発動させた。
「『旋風』‼」
「ゴラァッ……⁉」
「効いたっ⁉」
レイトの振りかざした「氷装剣」の刃が砂人形に衝突した瞬間、水分に触れた砂が氷結し、砂の肉体が固まっていく。
砂人形の肉体が変色した。
「『疾風撃』‼」
「ゴアアッ……⁉」
「やった‼」
右手に「重撃剣」を発動させ、レイトは退魔刀を片手で振り抜いて、砂人形の肉体を吹き飛ばす。
地面に砕けた砂人形の破片が散らばり、その砕けた破片は生き物のように蠢いていた。
「アアアアアアッ……‼」
「うわ、気持ち悪い……退けっ‼」
「ゴオオッ……」
接近してきた別の砂人形にレイトは両手の剣を振ると、他の個体は恐れたように距離を取った。
その隙に、ハンゾウがバラバラになった砂人形の頭部に刃を突き刺す。
「……ここっ‼」
「ゴガァッ⁉」
ハンゾウが突き刺した瞬間、硝子が割れるような音が響き渡り、蠢いていた砂人形の破片が停止して崩れ去った。
ハンゾウが刀を引き抜くと、その刃先には経験石が突き刺さっていた。どうやら経験石を破壊したことで砂人形が死亡したらしい。
「す、砂人形は岩人形のように核を破壊すれば倒せるわ‼ そしてこいつらの核は必ず頭部にあるはずよ‼」
「頭か……よし、まずは俺が全員固めるから皆は核を狙って‼」
「分かった‼」
「承知‼」
「ぼ、僕も⁉」
「あ、えっと……ダインはシズネの面倒を見てて‼」
レイトはそう言うと、三体の砂人形に向けて掌を構え、複数の氷の刃を空中に生み出し、「命中」のスキルを利用して砂人形の肉体に放つ。
「『氷刃弾』‼」
「ゴアアアッ……⁉」
氷の刃が砂人形の肉体に衝突した瞬間、身体全体に冷気が迸った。そうして全身が泥のような色に変わり、肉体が固まったことで動作は鈍くなる。
「ゴオオッ‼」
「おおうっ⁉」
「気を付けてっ‼ 固まらせた分、そいつらの攻撃力も上がっているわよ‼」
砂人形は固まった肉体を利用し、通常の岩人形にも負けぬ怪力で腕を振り下ろそうとする。しかし、攻撃力が上がった分、動作は遅い。
「『兜砕き』‼」
「ゴハァッ⁉」
砂人形の攻撃を躱し、相手の攻撃を利用し、更に「迎撃」のスキルを発動させるレイト。そうして攻撃力を上昇させると、上段から振り下ろして砂人形を粉々に打ち砕いた。
肉体を固めたといっても岩人形を下回る硬度。レイトの大剣なら十分に破壊することは先ほどの個体でも証明済みである。
地面に砕けた泥とともに、核の破片が散らばる。
それを確認した残り二人もレイトの後に続く。
「『明鏡止水』……『抜刀』‼」
「ゴガァッ⁉」
「『拳打』‼」
「ゴハァッ⁉」
集中力を高めた一撃でハンゾウは見事に砂人形の頭部に存在する核を切り裂き、ゴンゾウは拳を顔面に叩きつけて頭ごと吹き飛ばすのだった。
全ての砂人形を打ち倒すことに成功したレイト達は安堵すると、地面に落ちた経験石の破片を拾い上げる。
「あ~あっ……粉々に砕けちゃったよ」
「この状態だと換金してくれないのでござろうか?」
「流石にその状態では無理ね……破片をよく見てみなさい。透明な硝子のように色を失っているでしょう? その状態は経験石の役割を失ったことを示しているのよ」
「あ、本当だ」
ダインに肩を貸してもらったシズネが説明したように、確かに三人が倒した砂人形の経験石は全て色を失っていた。砂人形はその性質上、倒しても経験石の回収は不可能のようだ。
「シズネの身体はどう?」
「熱い場所にいるせいかと思ったけど、尋常じゃないほど身体が熱い。さっきから水を飲ませているんだけど全然熱が収まらない……ど、どうすればいい?」
「大丈夫よ。少し休めば……動けるようになるわ」
「無理するなよ」
シズネの顔色は赤い。長時間熱気に晒された影響だろう、彼女は弱りきっていた。
レイトは布を地面に敷いてシズネを横たわらせ、彼女の肉体を冷やそうと、両手で「付与強化」の魔法を発動。水属性の魔力を流し込んだ。
「どう? 少しは楽になった?」
「え、ええっ……ありがとう。大分楽になったわ」
「それなら良かった」
「……ちょっと、顔が近いわよ」
レイトは両手でシズネの頬に触れていた。身体が熱いだけなのか、それとも照れくさいのか、頬を赤くさせて顔を逸らそうとするシズネ。
レイトは彼女の身体を冷やすため、顔以外の部分にも両手を当てる。
「今度は背中を冷やすよ。悪いけど、少し服をはだけて」
「ちょっ……本気で言ってるの?」
「本気だよ。ほら、ダインとゴンゾウは目を逸らして‼ ハンゾウも手伝ってよ‼」
「りょ、了解したでござる」
「す、すまん」
「わ、分かったよ‼」
今度はシズネの背中を露出させて、レイトは両手を押し当て、水属性の魔力を流し込む。
ハンゾウは、間違ってもシズネが恥ずかしいと思う姿を晒さないように気を配り、ゴンゾウとダインは他に砂人形が存在しないのかを見張っていた。
「ふうっ……これぐらいでいいかな。どう?」
「ええ……ありがとう。本当に助かったわ」
恥ずかしそうにシズネは服を正した。そして、自分の身体が驚くほどに回復したことに気付いた。
だが、背中とはいえ、あられもない姿を晒したことを後悔していた。
レイトはそんなことは気にせず、汗を拭いながら岩山に視線を向ける。
「念のためにもう少し休んでおこうか。他の皆も疲れてるだろうし、あそこで休もう」
「あそこで休もうって……あんな小さな日陰で身体を休めるの? そりゃ直射日光よりはましだろうけど、こうも熱いと日陰に入ってもあんまり意味ないんじゃないの?」
「大丈夫、洞窟を作り出すから」
「ど、洞窟? どういう意味だ?」
「見てれば分かるよ」
全員の目の前でレイトは岩山に手を伸ばす。
但し、熱を帯びた岩壁に掌を直接当てるのは危険と判断し、先ほどのシズネを治療した時の要領で、掌から水属性の魔力を放出しながら岩壁に「形状高速変化」を発動させる。
掌を押し当てた岩壁が、まるで粘土のように簡単に変形していく。
「ふんぬらばっ‼」
「「おおっ⁉」」
「……嘘でしょう?」
レイトが両手を押し込むだけで岩壁が陥没していく。
奥に押し込まれて洞窟へと変化していくという光景に全員が驚き、シズネも動揺した声を上げる。
レイトは、錬金術師の能力を最大限に発揮させ、ゴンゾウが入れるほどの洞窟を作り出した。
更には、「付与強化」で岩壁の表面を水属性の魔力を送り込んで、冷却を行った。それだけでなく、あまり冷めすぎないように気を配り、先ほど入った休憩地点のように快適な空間を生み出した、というわけである。
「こんなところかな、皆もう入っていいよ~」
「お、お邪魔するでござる」
「うわ、何だここ⁉ めちゃくちゃ涼しい‼」
「おお、俺でも入れるな」
「流石……というべきなのかしら? あなたが時々何者なのか疑いたくなるわ」
「だから錬金術師だってば」
岩山に作り出された洞窟に全員が入り、ひとまずは休憩を挟んでから移動を再開することが決まったのだった。
洞窟の中に入り、出入口の見張りを交代で行いながら全員が休息に入る。
流石に休憩地点ほど快適な空間ではないが、それでも身体の熱を冷ますには十分だった。
「ふうっ……暑さで余計に体力を使った気がする」
「あまり無理はだめよ。あなたの剣技は魔力を使うのだからできる限り節約しなさい」
「ちょっと待てよ。レイトがこの洞窟を作ったのはあんたのためなんだぞ? そこは礼ぐらい言えよ」
「……それもそうね、ごめんなさい」
「い、意外と素直な奴だな……僕も言いすぎたよ」
現在、シズネは洞窟内の地面に敷いた布の上で横たわり、レイトが「氷塊」で作り出した氷を布に包んで身体の各所に押し当てていた。
完全に回復するには時間がかかりそうというのもあり、ハンゾウは一人だけ出向いて周囲の探索をしている。
他の人間は身体を休めており、レイトは魔力回復薬を飲みながら昼食を取る。
「コトミンの作ってくれた弁当は美味しいな。魚の丸焼きだけど……」
「それは弁当と言えるの⁉」
「何を言う、立派な弁当じゃないか。そういうダインは握り飯だけ?」
「僕は出かける時はこれだけだよ。べ、別にお金がなくて弁当を作れないわけじゃないからな」
「ふうっ……暑いな、悪いがそろそろ交代してくれ」
「いいよ。じゃあ、今度は俺の番か」
「その前に拙者の話を聞いてほしいでござる」
「うわっ⁉ いつの間に戻ってきてたんだ、お前⁉」
レイトが、ゴンゾウに代わって見張りに行こうとした時に、ハンゾウが後ろから現れた。
彼女は口元の布を解いて、調査の結果を伝える。
「この周囲には魔物の姿は見つからなかったでござる。拙者の感知系のスキルに反応がなかったから安全だとは思うでござるが、その代わりに奇妙な建物を発見したでござる」
「奇妙な建物?」
「他の階層で見つけた転移水晶が存在した建物とは規模が大きく違うでござるが、外見のデザインは似通った大きな建物でござる。位置はここから北西の方角にあるでござる」
「北西ということは……俺達が向かっている方角とは別だな」
「気になるわね。私の知る限りではそんな建物は見た覚えないけど……」
「外見は遺跡でござる。少なくとも魔物の気配は感じなかったでござるが……」
「どうする? 調べてみるか?」
今までは転移水晶が設置されている建物は、階層の中央部に存在していた。だが、今回の階層はそうであるとは限らない。
いずれにしても、建物があるというだけで赴く価値はありそうだった。
「シズネは大丈夫?」
「もう平気よ。あなたのお陰でね、他の皆にも迷惑をかけたわね。ごめんなさい」
「気にしないでいいでござる」
「気にするな」
「仲間なんだから助け合うのは当たり前だろ?」
「そうね……その通りね」
体調を取り戻したシズネが起き上がり、身体の具合を確かめるように掌を握りしめる。レイトが「付与強化」の魔法で魔力を分け与えたことと、洞窟内の温度を「氷塊」の魔法で下げたことで完全に回復したらしい。彼女は問題ないとばかりに頷く。
「平気よ。次からは私も戦えるわ」
「でも、外に出たらまた倒れるんじゃないのか?」
「その時はこれを使うわ。あまり数が限られているからできれば使いたくなかったけど……」
シズネは自分の胸元のブローチに触れる。収納石だったようで、異空間に繋がる渦巻きが生じ、白く輝く液体が入った硝子瓶が現れた。
それを見たレイトは首を傾げる。ダインは正体を知っていたのか、大声で騒ぐ。
「ちょ、それってもしかして聖水じゃないのか⁉」
「聖水?」
「せーすいとは何でござるか? 青色の水には見えないでござるが……」
「それは聖水じゃなくて青水だろ‼ というか、それは普通の水だろ‼ 僕が言っているのは普通の回復薬よりも回復効果が高い回復薬のことだよ‼」
「ややこしいな……つまり、普通の回復薬じゃないのね」
「ええ、治療院が生産している回復薬の中でも最高峰の薬よ。怪我、魔力、体力を回復させることができる回復薬なんだけど、生産量が少ないから購入する者は滅多にいないわ」
「ちなみに値段は?」
「私が購入した時は金貨十五枚だったわ」
「「高いっ⁉」」
「これでも安い方よ。普通なら更に倍の値段がするわ」
聖水の説明をしながらシズネは収納石に戻した。
彼女にとっても貴重な回復薬なのでできれば使用は避けたかったようだが、もう一度倒れることになったら迷わず使うことを決意したらしい。これ以上は他の仲間に迷惑をかけないと誓い、彼女は立ち上がって雪月花を握りしめた。
「少し魔力を使うけど、いざという時はこの雪月花の力を使うわ。この魔剣は相手を冷やすだけじゃなく、微調整を行えば周囲の環境を変化させることもできる。もう次の戦闘では足を引っ張らないわ」
「そんな気負わなくても……」
「……いいから行くわよ。ハンゾウさん、道案内を任せるわ」
「了解でござる」
自分の体調不良で探索が遅れた分、シズネはその遅れを取り戻すために意気込み、ハンゾウの案内でレイト達は彼女が発見したという遺跡に向かう。
◆ ◆ ◆
十数分後、砂丘を乗り越えたレイト達は、大きな遺跡を発見した。
確かに転移水晶が設置されていた建物と酷似した外見だった。
この塔の大迷宮のように塔型の建物であり、窓は存在している。だが、扉はどこを探してもなかった。
「この建物、どうなってるんだ? 扉がないなんてどこから入ればいいんだよ」
「窓から入るにしても、一番低い場所でも三メートルは地上から離れているわね。この程度の高さなら『跳躍』のスキルを使わなくても並の冒険者なら登れると思うけど……」
「乗り越えられる自信がない者は俺に言ってくれ。担いで中に入れる」
「『土塊』の魔法で砂の階段を作れるけど……」
「いや、砂だと簡単に崩れちゃうだろ‼ これくらいだったら僕でも飛び越えられるよ」
冒険者は一般人よりも身体能力が高く、三メートル程度の高さなら飛び越えられなくもない。「跳躍」のスキルを所持している者なら一般人でも飛び越えられ、実際に子供の頃のレイトも三メートル以上飛び上がれた。
「拙者が中の様子を確認してくるでござる。合図があるまで待ってるでござるよ?」
「分かった。気を付けてね」
「それでは……秘儀、『壁走り』‼」
「いや、凄いけど普通に跳べよっ⁉」
ハンゾウは「跳躍」ではなく壁を両足のみで駆け上った。重力を無視して移動する彼女にダインがツッコミを入れる。
普通に跳んだ方が体力の消耗を抑えられるのは間違いないが、ハンゾウはそのまま窓の中に潜り込んだ。
「にょわぁあああっ⁉」
「あれ、悲鳴が聞こえてきた⁉」
「今の悲鳴か⁉」
「大丈夫か⁉」
窓の中からハンゾウの声が聞こえてくる。
「へ、平気でござる‼ 思ったよりも建物の床と離れていて驚いただけでござる‼ 拙者は無事でござったが、他の方が上手く下りられるかどうか……」
調子に乗って窓を飛び越えたが、中の床と離れているらしく、下手に飛び越えると大怪我をしていたかもしれないとのことだった。
「困ったな……ハンゾウ‼ そこから出られる?」
「それは問題ないでござる‼ 中は螺旋階段になっているようでござる‼ 拙者は『壁走り』で元の窓まで走れると思うでござるが、窓の位置は十メートルも離れているでござる‼」
「十メートルか……それぐらいなら問題ないよね?」
「そうね」
「十メートルか……」
「いや、僕は無理だから‼ 飛び越えられないから⁉」
身体を鍛えているレイトと前衛職のシズネには問題ない距離だが、体重が重いゴンゾウと、レベルが低いダインでは飛び越えるのは難しい。そもそもこの窓の大きさでは、ゴンゾウでは入れない。
仕方なく、レイトは「氷塊」の魔法を利用し、無理やりにでも彼らを運び入れようとした時、ある名案を思いつく。
「待てよ……あの方法、使えるかな?」
「あの方法?」
「とりあえず、まずは俺が先に行くね」
下が砂地の地面なので、念のために「限界強化」の魔法で身体能力を上昇させ、窓枠の部分に乗る。
そして足を踏み外さないように気を付けながら、内部の様子をうかがった。
確かに地下に続く螺旋階段があった。階段にいるハンゾウが下の様子を調べているのを見つつ、レイトは空間魔法を発動させた。
「ハンゾウ‼ 後ろに気を付けて‼」
「おお、レイト殿も来てくれたので……うわっ⁉」
ハンゾウの背後に、空間魔法の黒い渦巻きが誕生する。危うく彼女は階段から落ちかけるが、何とか持ち直す。
レイトはその様子を見ながら、手元にも小さな黒渦を発現させる。そしてそこに解体用の短剣を落とした。
収納魔法ならば短剣は異空間に収納されるはずだが……階段に作っておいた黒渦から、短剣が落ちてきた。
「おおっ⁉ 何か落ちたでござる⁉」
「それ、回収しておいて。さてと……この実験のように上手くいくといいんだけど」
レイトは手元の黒渦を消し、窓の外でこちらを見上げている仲間達に意識を集中させる。すると、彼らの前に黒渦が現れた。
「うわ⁉ な、何だこの黒いの……まさか遂に僕の新しい影魔法が覚醒したのか⁉」
「いや、それは違うと思うが」
「これは……収納石を発動させた時に出てくるものと同じね。レイトの魔法かしら?」
唐突に空間に現れた黒渦にダインは驚きの声を上げたものの、シズネは即座にレイトに視線を向ける。
その間に、レイトは自分の目の前に黒渦を作り出し、人間が通れるほどの大きさに拡大させた。そしてその中に入る。
先ほどの短剣のように、レイトが黒渦から姿を現した。
「分かってるよ‼ 『シャドウ・バインド』‼」
「オオオオッ……⁉」
ダインの影が鞭のように放たれ、接近してくる砂人形に打つ。通常ならどんな巨体でも転がせる技だが、砂人形に意外な結果を生み出す。
影に打たれた砂人形達は、足元から崩れ落ちた。
「えっ⁉」
「倒した……?」
「いや、まだだ‼」
「オオオオオッ……‼」
あっさりと崩れた砂人形達に、ダインとゴンゾウは呆気に取られるが、崩れ去った砂が即座に集まり、元の形に戻ってしまう。
再生能力が早く、核を破壊しない限りは何度でも復活するだろう。
「ゴァアアアッ‼」
「ぬおっ⁉」
「ゴンちゃん‼」
一番近くにいたゴンゾウに向けて、三体の砂人形が接近、彼に覆い被さろうとする。ゴンゾウは咄嗟に闘拳を装着して両手を突き出すが、砂人形の肉体を貫通してしまう。
「ゴァアアアッ‼」
「うおおっ⁉」
「ゴンゾウ殿‼」
ゴンゾウの肉体に纏わりついた三体の砂人形の足元で流砂が発生。ゴンゾウを地面に呑み込もうとする。ゴンゾウは必死に振り払おうとするが、砂人形には攻撃が通じない。砂の肉体は崩れても即座に再生するのだ。
ハンゾウが咄嗟に砂人形の肉体にクナイを放つが、貫通するのみ。動作を鈍らせる程度の効果しか与えられなかった。
「くそっ‼ ダイン‼」
「わ、分かってるよ‼ 『シャドウ・バインド』‼」
「ぬおっ⁉」
ダインが敵ではなく、ゴンゾウに向けて影魔法を放った。そうして流砂で呑み込まれようとするゴンゾウを引き上げた。
影を縄代わりにしてゴンゾウを救い出し、三体の砂人形を振り払ったのだ。
「おおっ‼ 影魔法にはこのような使い方もあったのでござるか⁉」
「僕の影魔法を馬鹿にするなよ‼ このまま……『シャドウ・バイト』‼」
「ゴオッ……⁉」
無事にゴンゾウを引き上げたダインは、砂人形に向けて黒色の狼の影を放つ。だが、砂人形に噛みつくことはできず、身体を通過してしまった。
レイトはシズネを地面に座らせると、そのまま走り出した。
「『氷装剣』‼ それと『付与強化』‼」
左手に「氷塊」の長剣、そして右手で退魔刀を引き抜いて、刃に水属性の魔力を送り込んで魔法剣を発動、砂人形に向けて振りかざした。
事前の情報では、砂人形も他の岩人形と同様に水属性が弱点であるとのことだったが……
レイトは戦技を発動させた。
「『旋風』‼」
「ゴラァッ……⁉」
「効いたっ⁉」
レイトの振りかざした「氷装剣」の刃が砂人形に衝突した瞬間、水分に触れた砂が氷結し、砂の肉体が固まっていく。
砂人形の肉体が変色した。
「『疾風撃』‼」
「ゴアアッ……⁉」
「やった‼」
右手に「重撃剣」を発動させ、レイトは退魔刀を片手で振り抜いて、砂人形の肉体を吹き飛ばす。
地面に砕けた砂人形の破片が散らばり、その砕けた破片は生き物のように蠢いていた。
「アアアアアアッ……‼」
「うわ、気持ち悪い……退けっ‼」
「ゴオオッ……」
接近してきた別の砂人形にレイトは両手の剣を振ると、他の個体は恐れたように距離を取った。
その隙に、ハンゾウがバラバラになった砂人形の頭部に刃を突き刺す。
「……ここっ‼」
「ゴガァッ⁉」
ハンゾウが突き刺した瞬間、硝子が割れるような音が響き渡り、蠢いていた砂人形の破片が停止して崩れ去った。
ハンゾウが刀を引き抜くと、その刃先には経験石が突き刺さっていた。どうやら経験石を破壊したことで砂人形が死亡したらしい。
「す、砂人形は岩人形のように核を破壊すれば倒せるわ‼ そしてこいつらの核は必ず頭部にあるはずよ‼」
「頭か……よし、まずは俺が全員固めるから皆は核を狙って‼」
「分かった‼」
「承知‼」
「ぼ、僕も⁉」
「あ、えっと……ダインはシズネの面倒を見てて‼」
レイトはそう言うと、三体の砂人形に向けて掌を構え、複数の氷の刃を空中に生み出し、「命中」のスキルを利用して砂人形の肉体に放つ。
「『氷刃弾』‼」
「ゴアアアッ……⁉」
氷の刃が砂人形の肉体に衝突した瞬間、身体全体に冷気が迸った。そうして全身が泥のような色に変わり、肉体が固まったことで動作は鈍くなる。
「ゴオオッ‼」
「おおうっ⁉」
「気を付けてっ‼ 固まらせた分、そいつらの攻撃力も上がっているわよ‼」
砂人形は固まった肉体を利用し、通常の岩人形にも負けぬ怪力で腕を振り下ろそうとする。しかし、攻撃力が上がった分、動作は遅い。
「『兜砕き』‼」
「ゴハァッ⁉」
砂人形の攻撃を躱し、相手の攻撃を利用し、更に「迎撃」のスキルを発動させるレイト。そうして攻撃力を上昇させると、上段から振り下ろして砂人形を粉々に打ち砕いた。
肉体を固めたといっても岩人形を下回る硬度。レイトの大剣なら十分に破壊することは先ほどの個体でも証明済みである。
地面に砕けた泥とともに、核の破片が散らばる。
それを確認した残り二人もレイトの後に続く。
「『明鏡止水』……『抜刀』‼」
「ゴガァッ⁉」
「『拳打』‼」
「ゴハァッ⁉」
集中力を高めた一撃でハンゾウは見事に砂人形の頭部に存在する核を切り裂き、ゴンゾウは拳を顔面に叩きつけて頭ごと吹き飛ばすのだった。
全ての砂人形を打ち倒すことに成功したレイト達は安堵すると、地面に落ちた経験石の破片を拾い上げる。
「あ~あっ……粉々に砕けちゃったよ」
「この状態だと換金してくれないのでござろうか?」
「流石にその状態では無理ね……破片をよく見てみなさい。透明な硝子のように色を失っているでしょう? その状態は経験石の役割を失ったことを示しているのよ」
「あ、本当だ」
ダインに肩を貸してもらったシズネが説明したように、確かに三人が倒した砂人形の経験石は全て色を失っていた。砂人形はその性質上、倒しても経験石の回収は不可能のようだ。
「シズネの身体はどう?」
「熱い場所にいるせいかと思ったけど、尋常じゃないほど身体が熱い。さっきから水を飲ませているんだけど全然熱が収まらない……ど、どうすればいい?」
「大丈夫よ。少し休めば……動けるようになるわ」
「無理するなよ」
シズネの顔色は赤い。長時間熱気に晒された影響だろう、彼女は弱りきっていた。
レイトは布を地面に敷いてシズネを横たわらせ、彼女の肉体を冷やそうと、両手で「付与強化」の魔法を発動。水属性の魔力を流し込んだ。
「どう? 少しは楽になった?」
「え、ええっ……ありがとう。大分楽になったわ」
「それなら良かった」
「……ちょっと、顔が近いわよ」
レイトは両手でシズネの頬に触れていた。身体が熱いだけなのか、それとも照れくさいのか、頬を赤くさせて顔を逸らそうとするシズネ。
レイトは彼女の身体を冷やすため、顔以外の部分にも両手を当てる。
「今度は背中を冷やすよ。悪いけど、少し服をはだけて」
「ちょっ……本気で言ってるの?」
「本気だよ。ほら、ダインとゴンゾウは目を逸らして‼ ハンゾウも手伝ってよ‼」
「りょ、了解したでござる」
「す、すまん」
「わ、分かったよ‼」
今度はシズネの背中を露出させて、レイトは両手を押し当て、水属性の魔力を流し込む。
ハンゾウは、間違ってもシズネが恥ずかしいと思う姿を晒さないように気を配り、ゴンゾウとダインは他に砂人形が存在しないのかを見張っていた。
「ふうっ……これぐらいでいいかな。どう?」
「ええ……ありがとう。本当に助かったわ」
恥ずかしそうにシズネは服を正した。そして、自分の身体が驚くほどに回復したことに気付いた。
だが、背中とはいえ、あられもない姿を晒したことを後悔していた。
レイトはそんなことは気にせず、汗を拭いながら岩山に視線を向ける。
「念のためにもう少し休んでおこうか。他の皆も疲れてるだろうし、あそこで休もう」
「あそこで休もうって……あんな小さな日陰で身体を休めるの? そりゃ直射日光よりはましだろうけど、こうも熱いと日陰に入ってもあんまり意味ないんじゃないの?」
「大丈夫、洞窟を作り出すから」
「ど、洞窟? どういう意味だ?」
「見てれば分かるよ」
全員の目の前でレイトは岩山に手を伸ばす。
但し、熱を帯びた岩壁に掌を直接当てるのは危険と判断し、先ほどのシズネを治療した時の要領で、掌から水属性の魔力を放出しながら岩壁に「形状高速変化」を発動させる。
掌を押し当てた岩壁が、まるで粘土のように簡単に変形していく。
「ふんぬらばっ‼」
「「おおっ⁉」」
「……嘘でしょう?」
レイトが両手を押し込むだけで岩壁が陥没していく。
奥に押し込まれて洞窟へと変化していくという光景に全員が驚き、シズネも動揺した声を上げる。
レイトは、錬金術師の能力を最大限に発揮させ、ゴンゾウが入れるほどの洞窟を作り出した。
更には、「付与強化」で岩壁の表面を水属性の魔力を送り込んで、冷却を行った。それだけでなく、あまり冷めすぎないように気を配り、先ほど入った休憩地点のように快適な空間を生み出した、というわけである。
「こんなところかな、皆もう入っていいよ~」
「お、お邪魔するでござる」
「うわ、何だここ⁉ めちゃくちゃ涼しい‼」
「おお、俺でも入れるな」
「流石……というべきなのかしら? あなたが時々何者なのか疑いたくなるわ」
「だから錬金術師だってば」
岩山に作り出された洞窟に全員が入り、ひとまずは休憩を挟んでから移動を再開することが決まったのだった。
洞窟の中に入り、出入口の見張りを交代で行いながら全員が休息に入る。
流石に休憩地点ほど快適な空間ではないが、それでも身体の熱を冷ますには十分だった。
「ふうっ……暑さで余計に体力を使った気がする」
「あまり無理はだめよ。あなたの剣技は魔力を使うのだからできる限り節約しなさい」
「ちょっと待てよ。レイトがこの洞窟を作ったのはあんたのためなんだぞ? そこは礼ぐらい言えよ」
「……それもそうね、ごめんなさい」
「い、意外と素直な奴だな……僕も言いすぎたよ」
現在、シズネは洞窟内の地面に敷いた布の上で横たわり、レイトが「氷塊」で作り出した氷を布に包んで身体の各所に押し当てていた。
完全に回復するには時間がかかりそうというのもあり、ハンゾウは一人だけ出向いて周囲の探索をしている。
他の人間は身体を休めており、レイトは魔力回復薬を飲みながら昼食を取る。
「コトミンの作ってくれた弁当は美味しいな。魚の丸焼きだけど……」
「それは弁当と言えるの⁉」
「何を言う、立派な弁当じゃないか。そういうダインは握り飯だけ?」
「僕は出かける時はこれだけだよ。べ、別にお金がなくて弁当を作れないわけじゃないからな」
「ふうっ……暑いな、悪いがそろそろ交代してくれ」
「いいよ。じゃあ、今度は俺の番か」
「その前に拙者の話を聞いてほしいでござる」
「うわっ⁉ いつの間に戻ってきてたんだ、お前⁉」
レイトが、ゴンゾウに代わって見張りに行こうとした時に、ハンゾウが後ろから現れた。
彼女は口元の布を解いて、調査の結果を伝える。
「この周囲には魔物の姿は見つからなかったでござる。拙者の感知系のスキルに反応がなかったから安全だとは思うでござるが、その代わりに奇妙な建物を発見したでござる」
「奇妙な建物?」
「他の階層で見つけた転移水晶が存在した建物とは規模が大きく違うでござるが、外見のデザインは似通った大きな建物でござる。位置はここから北西の方角にあるでござる」
「北西ということは……俺達が向かっている方角とは別だな」
「気になるわね。私の知る限りではそんな建物は見た覚えないけど……」
「外見は遺跡でござる。少なくとも魔物の気配は感じなかったでござるが……」
「どうする? 調べてみるか?」
今までは転移水晶が設置されている建物は、階層の中央部に存在していた。だが、今回の階層はそうであるとは限らない。
いずれにしても、建物があるというだけで赴く価値はありそうだった。
「シズネは大丈夫?」
「もう平気よ。あなたのお陰でね、他の皆にも迷惑をかけたわね。ごめんなさい」
「気にしないでいいでござる」
「気にするな」
「仲間なんだから助け合うのは当たり前だろ?」
「そうね……その通りね」
体調を取り戻したシズネが起き上がり、身体の具合を確かめるように掌を握りしめる。レイトが「付与強化」の魔法で魔力を分け与えたことと、洞窟内の温度を「氷塊」の魔法で下げたことで完全に回復したらしい。彼女は問題ないとばかりに頷く。
「平気よ。次からは私も戦えるわ」
「でも、外に出たらまた倒れるんじゃないのか?」
「その時はこれを使うわ。あまり数が限られているからできれば使いたくなかったけど……」
シズネは自分の胸元のブローチに触れる。収納石だったようで、異空間に繋がる渦巻きが生じ、白く輝く液体が入った硝子瓶が現れた。
それを見たレイトは首を傾げる。ダインは正体を知っていたのか、大声で騒ぐ。
「ちょ、それってもしかして聖水じゃないのか⁉」
「聖水?」
「せーすいとは何でござるか? 青色の水には見えないでござるが……」
「それは聖水じゃなくて青水だろ‼ というか、それは普通の水だろ‼ 僕が言っているのは普通の回復薬よりも回復効果が高い回復薬のことだよ‼」
「ややこしいな……つまり、普通の回復薬じゃないのね」
「ええ、治療院が生産している回復薬の中でも最高峰の薬よ。怪我、魔力、体力を回復させることができる回復薬なんだけど、生産量が少ないから購入する者は滅多にいないわ」
「ちなみに値段は?」
「私が購入した時は金貨十五枚だったわ」
「「高いっ⁉」」
「これでも安い方よ。普通なら更に倍の値段がするわ」
聖水の説明をしながらシズネは収納石に戻した。
彼女にとっても貴重な回復薬なのでできれば使用は避けたかったようだが、もう一度倒れることになったら迷わず使うことを決意したらしい。これ以上は他の仲間に迷惑をかけないと誓い、彼女は立ち上がって雪月花を握りしめた。
「少し魔力を使うけど、いざという時はこの雪月花の力を使うわ。この魔剣は相手を冷やすだけじゃなく、微調整を行えば周囲の環境を変化させることもできる。もう次の戦闘では足を引っ張らないわ」
「そんな気負わなくても……」
「……いいから行くわよ。ハンゾウさん、道案内を任せるわ」
「了解でござる」
自分の体調不良で探索が遅れた分、シズネはその遅れを取り戻すために意気込み、ハンゾウの案内でレイト達は彼女が発見したという遺跡に向かう。
◆ ◆ ◆
十数分後、砂丘を乗り越えたレイト達は、大きな遺跡を発見した。
確かに転移水晶が設置されていた建物と酷似した外見だった。
この塔の大迷宮のように塔型の建物であり、窓は存在している。だが、扉はどこを探してもなかった。
「この建物、どうなってるんだ? 扉がないなんてどこから入ればいいんだよ」
「窓から入るにしても、一番低い場所でも三メートルは地上から離れているわね。この程度の高さなら『跳躍』のスキルを使わなくても並の冒険者なら登れると思うけど……」
「乗り越えられる自信がない者は俺に言ってくれ。担いで中に入れる」
「『土塊』の魔法で砂の階段を作れるけど……」
「いや、砂だと簡単に崩れちゃうだろ‼ これくらいだったら僕でも飛び越えられるよ」
冒険者は一般人よりも身体能力が高く、三メートル程度の高さなら飛び越えられなくもない。「跳躍」のスキルを所持している者なら一般人でも飛び越えられ、実際に子供の頃のレイトも三メートル以上飛び上がれた。
「拙者が中の様子を確認してくるでござる。合図があるまで待ってるでござるよ?」
「分かった。気を付けてね」
「それでは……秘儀、『壁走り』‼」
「いや、凄いけど普通に跳べよっ⁉」
ハンゾウは「跳躍」ではなく壁を両足のみで駆け上った。重力を無視して移動する彼女にダインがツッコミを入れる。
普通に跳んだ方が体力の消耗を抑えられるのは間違いないが、ハンゾウはそのまま窓の中に潜り込んだ。
「にょわぁあああっ⁉」
「あれ、悲鳴が聞こえてきた⁉」
「今の悲鳴か⁉」
「大丈夫か⁉」
窓の中からハンゾウの声が聞こえてくる。
「へ、平気でござる‼ 思ったよりも建物の床と離れていて驚いただけでござる‼ 拙者は無事でござったが、他の方が上手く下りられるかどうか……」
調子に乗って窓を飛び越えたが、中の床と離れているらしく、下手に飛び越えると大怪我をしていたかもしれないとのことだった。
「困ったな……ハンゾウ‼ そこから出られる?」
「それは問題ないでござる‼ 中は螺旋階段になっているようでござる‼ 拙者は『壁走り』で元の窓まで走れると思うでござるが、窓の位置は十メートルも離れているでござる‼」
「十メートルか……それぐらいなら問題ないよね?」
「そうね」
「十メートルか……」
「いや、僕は無理だから‼ 飛び越えられないから⁉」
身体を鍛えているレイトと前衛職のシズネには問題ない距離だが、体重が重いゴンゾウと、レベルが低いダインでは飛び越えるのは難しい。そもそもこの窓の大きさでは、ゴンゾウでは入れない。
仕方なく、レイトは「氷塊」の魔法を利用し、無理やりにでも彼らを運び入れようとした時、ある名案を思いつく。
「待てよ……あの方法、使えるかな?」
「あの方法?」
「とりあえず、まずは俺が先に行くね」
下が砂地の地面なので、念のために「限界強化」の魔法で身体能力を上昇させ、窓枠の部分に乗る。
そして足を踏み外さないように気を付けながら、内部の様子をうかがった。
確かに地下に続く螺旋階段があった。階段にいるハンゾウが下の様子を調べているのを見つつ、レイトは空間魔法を発動させた。
「ハンゾウ‼ 後ろに気を付けて‼」
「おお、レイト殿も来てくれたので……うわっ⁉」
ハンゾウの背後に、空間魔法の黒い渦巻きが誕生する。危うく彼女は階段から落ちかけるが、何とか持ち直す。
レイトはその様子を見ながら、手元にも小さな黒渦を発現させる。そしてそこに解体用の短剣を落とした。
収納魔法ならば短剣は異空間に収納されるはずだが……階段に作っておいた黒渦から、短剣が落ちてきた。
「おおっ⁉ 何か落ちたでござる⁉」
「それ、回収しておいて。さてと……この実験のように上手くいくといいんだけど」
レイトは手元の黒渦を消し、窓の外でこちらを見上げている仲間達に意識を集中させる。すると、彼らの前に黒渦が現れた。
「うわ⁉ な、何だこの黒いの……まさか遂に僕の新しい影魔法が覚醒したのか⁉」
「いや、それは違うと思うが」
「これは……収納石を発動させた時に出てくるものと同じね。レイトの魔法かしら?」
唐突に空間に現れた黒渦にダインは驚きの声を上げたものの、シズネは即座にレイトに視線を向ける。
その間に、レイトは自分の目の前に黒渦を作り出し、人間が通れるほどの大きさに拡大させた。そしてその中に入る。
先ほどの短剣のように、レイトが黒渦から姿を現した。
34
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
