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テンペスト騎士団編
アルトの願望
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「……主役がこんな隅で何をしているんだい?」
「王子様?」
「その呼び方は辞めてくれ……今回の件は皆が世話になったな」
レノの前に何時もの騎士団の制服ではなく、一国の王子らしい服姿のアルトが現れ、枯葉苦笑いを浮かべながらも近寄る。放浪島で王国の兵士たちに連行された後、彼はずっと王宮に監禁されていたという。本人としては腐敗竜の元に向かったジャンヌたちの元に一刻も早く加勢に向かおうとしたらしいが、結局兵士たちに阻まれて断念したという。
アルトはレノの隣に移動し、ワインを口元に一口傾けると、何か言いたげに彼を見つめてくる。最も、当のレノ本人は彼に対して興味は無く、話しかけない。
「……君に聞きたいことは山ほどある」
「それに答える義理も義務も無い」
意を決したように口を開くアルトに対し、レノは若干冷たく答える。彼の返答にアルトは少し眉を顰めるが、冷静に話を続ける。
「……確かに僕たちの間柄は友達でも無ければ部下や上司、ましてや仲間ではない事は承知している。僕が王国の王子だからと言っても、ハーフエルフである君には関係ないことだ……」
いくら人間達の中でも地位や身分が高い者であろうと、他の種族の者たちにとっては何の意味も為さない。そういう意味ではレノの王族である彼に足しての無礼な言葉遣いを咎める事は出来ず、更に言えば腐敗竜を討伐した英雄である以上、無下な扱いも出来ない。
「だが、君は僕たちが来なければあのゴーレム・キングに殺されていたはずだ。それに君の介抱を行っていたのも僕たちという事実は変わらない」
「言いたいことは分からないでもないけど、俺一人だったらあのゴーレムから逃げ切る事は簡単だった。第一に、俺がいなければそもそも脱出も難しかったと思うけど?」
「ぐっ……」
確かに「転移魔方陣」を使用できるレノならばあの場所から逃げ出すことなど簡単な事だった。それにレノがあの場で戦闘を選んだのは、アルト達を見捨てることが出来ず、仕方なく「カラドボルグ」を使用して守るためでもあり、彼の正論に対してアルトは悔しげに唇をかむ。
仮にレノが居なければアルトたちは地下迷宮の第一階層で迷宮の門番であるミノタウロスに戦闘を挑まざるを得ず、殺されていた可能性は高い。レノに忠誠を尽くしているとはいえ、ミノタウロスは基本的に迷宮内の侵入者を許しはしない。
だが、アルトもここで引くわけには行かない。彼の目的は他にあり、一体どういう原理で「カラドボルグ」を入手したのかを聞かなければ納得できない。
「……1つだけ教えてくれ。君は本当に聖剣に選ばれたのか?」
「どういう意味?」
「いや、その……ジャンヌはあの腐敗竜との戦闘で何度もレーヴァティンを使用したと聞いた。だが、今の所特に変わりはない」
アルトとレノは複数の貴族に囲まれて困り果てているジャンヌの姿を確認し、確かにその姿に異変は見られない。多少疲労している事は分かるが、それでもレーヴァティンを使用したばかりの頃よりは随分と回復している。
「君は聖剣を一度使っただけで何日も倒れていた……気を悪くしたら謝るが、何故こうまでジャンヌと大きな違いがあるんだ?魔力容量は君の方が圧倒的に上にも関わらずに、だ」
「う~ん……」
疑わしげに見つめてくるアルトに対し、レノは特に怒った様子も無く、腕を組んで考え込む。ここで適当に誤魔化しておくべきかと考え、彼に顔を向ける。
「種類が違うんだよ」
「……種類?」
「俺の所持している「カラドボルグ」とジャンヌの「レーヴァティン」……同じ聖剣と言っても属性は「雷」と「炎」だし、色々な相違点はあっても可笑しくは無いと思うけど」
「そ、それはそうかもしれないが……」
「専門知識があるわけじゃないから詳しいことは分からないけどさ……「カラドボルグ」は本来、聖剣として作成された物じゃない。単純に大昔の人間が作り出した兵器に違いないし……魔力燃費量は違っても可笑しくは無いんじゃない?」
レノの言い分には一理ある。実際に「カラドボルグ」と「レーヴァティン」の製造方法は大きく異なり、同じ聖剣と言っても性質は全く別だ。威力という点では圧倒的にカラドボルグが上であり、効率の良さならばレーヴァティンの方が勝る。
アルトは彼の言葉に押し黙り、それでも諦めきれない。仮にカラドボルグがレノを所有者として認めていたとしても、自分が最も好いているリノンと結ばれる機会がほぼ永遠に失われてしまう。いくら腐敗竜の一件で英雄として認められたと言っても、リノンとアルトには大きな身分の差がある。この差を縮めるにはどうしても聖剣に選ばれたという証が必要不可欠だった。
――レノという存在が現れて以降、アルトは大きな焦りを抱いていた。普段は男に対して特に興味を示さないリノンだが、彼の前ではどことなく、自分にも見せたことが無い表情を浮かべる気がする。
ずっと一緒に居たからこそ、リノンの異変は手に取るように分かる。例え彼女がレノを弟のように見ていると分ってはいても、自分以外の男にこれ程までに積極的に関わろうとする彼女の姿に嫉妬をせずにはいられない。
だが、現実にアルトとリノンが結ばれる可能性は低い。アルトがいくら彼女を想おうと、身分の差があまりにも大きい。それでも彼女が「聖剣」に選ばれれば話は別であり、過去に身分の低い人間が「聖剣」に選ばれ、大業を成し遂げたことで王族と結ばれたという逸話も存在する。アルトは自分とリノンの「2人の将来」のためにも、何としてもここで彼から「聖剣」の情報を少しでも引き出さなければならない。
――しかし、第三者から見たら今のアルトは完全に追い詰められているように思えるだろう。何せ、リノンと結ばれるための条件を揃える事だけに執念を燃やし、肝心な彼女の気持ちを何一つ考えていない。後にその事が2人の関係に大きな亀裂を生み出すなど、現時点では誰一人気付かない。いや、気付くはずがない。
「王子様?」
「その呼び方は辞めてくれ……今回の件は皆が世話になったな」
レノの前に何時もの騎士団の制服ではなく、一国の王子らしい服姿のアルトが現れ、枯葉苦笑いを浮かべながらも近寄る。放浪島で王国の兵士たちに連行された後、彼はずっと王宮に監禁されていたという。本人としては腐敗竜の元に向かったジャンヌたちの元に一刻も早く加勢に向かおうとしたらしいが、結局兵士たちに阻まれて断念したという。
アルトはレノの隣に移動し、ワインを口元に一口傾けると、何か言いたげに彼を見つめてくる。最も、当のレノ本人は彼に対して興味は無く、話しかけない。
「……君に聞きたいことは山ほどある」
「それに答える義理も義務も無い」
意を決したように口を開くアルトに対し、レノは若干冷たく答える。彼の返答にアルトは少し眉を顰めるが、冷静に話を続ける。
「……確かに僕たちの間柄は友達でも無ければ部下や上司、ましてや仲間ではない事は承知している。僕が王国の王子だからと言っても、ハーフエルフである君には関係ないことだ……」
いくら人間達の中でも地位や身分が高い者であろうと、他の種族の者たちにとっては何の意味も為さない。そういう意味ではレノの王族である彼に足しての無礼な言葉遣いを咎める事は出来ず、更に言えば腐敗竜を討伐した英雄である以上、無下な扱いも出来ない。
「だが、君は僕たちが来なければあのゴーレム・キングに殺されていたはずだ。それに君の介抱を行っていたのも僕たちという事実は変わらない」
「言いたいことは分からないでもないけど、俺一人だったらあのゴーレムから逃げ切る事は簡単だった。第一に、俺がいなければそもそも脱出も難しかったと思うけど?」
「ぐっ……」
確かに「転移魔方陣」を使用できるレノならばあの場所から逃げ出すことなど簡単な事だった。それにレノがあの場で戦闘を選んだのは、アルト達を見捨てることが出来ず、仕方なく「カラドボルグ」を使用して守るためでもあり、彼の正論に対してアルトは悔しげに唇をかむ。
仮にレノが居なければアルトたちは地下迷宮の第一階層で迷宮の門番であるミノタウロスに戦闘を挑まざるを得ず、殺されていた可能性は高い。レノに忠誠を尽くしているとはいえ、ミノタウロスは基本的に迷宮内の侵入者を許しはしない。
だが、アルトもここで引くわけには行かない。彼の目的は他にあり、一体どういう原理で「カラドボルグ」を入手したのかを聞かなければ納得できない。
「……1つだけ教えてくれ。君は本当に聖剣に選ばれたのか?」
「どういう意味?」
「いや、その……ジャンヌはあの腐敗竜との戦闘で何度もレーヴァティンを使用したと聞いた。だが、今の所特に変わりはない」
アルトとレノは複数の貴族に囲まれて困り果てているジャンヌの姿を確認し、確かにその姿に異変は見られない。多少疲労している事は分かるが、それでもレーヴァティンを使用したばかりの頃よりは随分と回復している。
「君は聖剣を一度使っただけで何日も倒れていた……気を悪くしたら謝るが、何故こうまでジャンヌと大きな違いがあるんだ?魔力容量は君の方が圧倒的に上にも関わらずに、だ」
「う~ん……」
疑わしげに見つめてくるアルトに対し、レノは特に怒った様子も無く、腕を組んで考え込む。ここで適当に誤魔化しておくべきかと考え、彼に顔を向ける。
「種類が違うんだよ」
「……種類?」
「俺の所持している「カラドボルグ」とジャンヌの「レーヴァティン」……同じ聖剣と言っても属性は「雷」と「炎」だし、色々な相違点はあっても可笑しくは無いと思うけど」
「そ、それはそうかもしれないが……」
「専門知識があるわけじゃないから詳しいことは分からないけどさ……「カラドボルグ」は本来、聖剣として作成された物じゃない。単純に大昔の人間が作り出した兵器に違いないし……魔力燃費量は違っても可笑しくは無いんじゃない?」
レノの言い分には一理ある。実際に「カラドボルグ」と「レーヴァティン」の製造方法は大きく異なり、同じ聖剣と言っても性質は全く別だ。威力という点では圧倒的にカラドボルグが上であり、効率の良さならばレーヴァティンの方が勝る。
アルトは彼の言葉に押し黙り、それでも諦めきれない。仮にカラドボルグがレノを所有者として認めていたとしても、自分が最も好いているリノンと結ばれる機会がほぼ永遠に失われてしまう。いくら腐敗竜の一件で英雄として認められたと言っても、リノンとアルトには大きな身分の差がある。この差を縮めるにはどうしても聖剣に選ばれたという証が必要不可欠だった。
――レノという存在が現れて以降、アルトは大きな焦りを抱いていた。普段は男に対して特に興味を示さないリノンだが、彼の前ではどことなく、自分にも見せたことが無い表情を浮かべる気がする。
ずっと一緒に居たからこそ、リノンの異変は手に取るように分かる。例え彼女がレノを弟のように見ていると分ってはいても、自分以外の男にこれ程までに積極的に関わろうとする彼女の姿に嫉妬をせずにはいられない。
だが、現実にアルトとリノンが結ばれる可能性は低い。アルトがいくら彼女を想おうと、身分の差があまりにも大きい。それでも彼女が「聖剣」に選ばれれば話は別であり、過去に身分の低い人間が「聖剣」に選ばれ、大業を成し遂げたことで王族と結ばれたという逸話も存在する。アルトは自分とリノンの「2人の将来」のためにも、何としてもここで彼から「聖剣」の情報を少しでも引き出さなければならない。
――しかし、第三者から見たら今のアルトは完全に追い詰められているように思えるだろう。何せ、リノンと結ばれるための条件を揃える事だけに執念を燃やし、肝心な彼女の気持ちを何一つ考えていない。後にその事が2人の関係に大きな亀裂を生み出すなど、現時点では誰一人気付かない。いや、気付くはずがない。
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