種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

入団試験

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「ではまず、実戦訓練を行うでござるよ」
「ござるっ!」
「変な掛け声を作らないで欲しいでござる!?」


びしっと敬礼をしながら返事を返すと、カゲマルは少し怒ったように声を荒げるが、鬼の仮面で顔面を覆っているため表情までは分からない。

現在、2人は訓練場(ワルキューレ騎士団と比べて簡素であり、ところどころに木の柵や落とし穴らしき物が存在し、訓練場の隣には広大な畑まで広がっている)に移動し、レノの入団試験の準備を行う。


「魔力容量と魔力検査は既に終えられていたのでござるな。驚異的な結果に皆が騒いでいたと噂になっているでござる」
「へえ……」


事前にリノンの指示によってレノは昨晩中に魔力関連の検査をパスしており、その結果は今朝届いたのだ。魔力の検査と言っても特別なことは行わず、注射器(この世界にも存在する)で彼の血を抜き取り、それを調べ上げる事だけだ。魔力容量に関しては採取した血液を理科の実験室で置かれているような「フラスコ」の容器に浸し、中に入っている「マナ・ポーション(本来は魔力回復を促すための薬品。こちらの世界では相当な高級品)」と呼ばれる特殊な液体で浸し、その色の濃度から魔力の容量を調べ上げる事が出来る。

このポーションに浸らせた血液の濃さからだいたいの魔力容量を予測するが、レノの血液を浸した瞬間、フラスコ内のポーションが赤黒く変色し、測定不能の魔力容量が確認された。


また、魔力相性の検査の方はかなり単純であり、魔水晶と呼ばれる魔石よりも特殊で希少な鉱石で形成された魔道具を使用する。外見は円形型の水晶玉であり、水晶に両手を翳すだけで勝手に対象者の魔力に反応して内部に影響を及ぼす。

例えば「風属性」を得意とする森人族が手を翳した場合は水晶玉に「風」が吹き溢れる。「水属性」を得意とする人魚族の場合は水晶玉の内部に「水」が溢れかえり、「雷属性」は電流が迸り、「火属性」は炎が発火する。極稀に無属性を得意とする者が翳せば水晶玉の硬度が変化し、非常に頑丈で壊れにくい素材となる。


レノが魔水晶に手を翳した瞬間、水晶玉の内部に無数の雷が迸り、またも大勢の人間を驚愕させる。森人族は基本的に雷属性とは無縁な種族であり、ジャンヌの予想によれば恐らくレノの体内に眠っているカラドボルグに反応して彼の身体に影響を及ぼしたという。



――ハーフエルフであり、さらには習得できないはずの「雷属性」そして「カラドボルグ」の聖剣の所持者など聞いたことも無く、王国側は彼を丁重に扱うことを内密に決意した。



魔物の活性化によって現在はそれぞれの種族と同盟を結んでいるとはいえ、人間と森人族は長年の間対立しており、もしも仮に森人族が誇りを捨てて「ハーフエルフ」である彼を受け入れた場合、それは聖剣の中でも1、2を誇る「カラドボルグ」所持者の彼を敵に回すことになる。それだけは何としても避けなければならず、王国側はレノを手厚く保護する事を決めた。

先の腐敗竜の討伐の件で一応は王国は他種族に対しての信用は取り戻したが、現在の王国は疲労している。兵士たちの大半は各地の都市や街に派遣し、狂暴化した魔物達の対処に当て、さらには腐敗竜の一件で生まれた無数のアンデットの後処理や、汚染された地域の浄化に聖導教会に依頼して大量の魔術師を送り込んでいる。

そのため、どの種族よりも疲弊している王国側は「カラドボルグ」の所持者である「レノ」をどうしてもこちら側に引き寄せるため、テンペスト騎士団には彼の入団を受け入れるように指示を出したのだが――



(拙者は信じられないでござるな……このようなまだ成人(人間は15才で成人だが、森人族は18才から)もしていない少年が、あの腐敗竜を討伐したとは思えないでござる)



テンペスト騎士団の3人の隊長達は「レノ」の騎士団の加入に反対しており、幾ら実力があると言っても、試験を受けさせないで入団は認められないと抗議する。

また、3人は現実に彼の姿を見てそこまでの実力者とは到底思えず、魔力の検査の報告書も信じられなかった。そのため、王国側がどう言おうと仮に試験内容で合格基準に達していない限り、彼の入団を認める気はなかった。

幾ら伝説の腐敗竜討伐の功績があろうと、真の実力者でなければテンペスト騎士団の団員として生き残れない。そのため、3人の隊長達は試験内容によっては王国側の指示を無視する事を決意する。

最終的な判断は団長であるジャンヌ次第だが、彼女はよく部下の言を聞き入れる優秀な人間のため、仮にレノがテンペスト騎士団としてふさわしくない結果を生み出した場合は彼女にはっきりと進言するつもりだった。



――テンペスト騎士団の結成初期、彼等は未熟な冒険者や兵士たちが殺される場面を直に目撃しており、このような職業柄、仲間が死ぬことはある程度は覚悟はしていたが、何の抵抗も出来ずに殺される年若い少年少女たちが殺されるのを黙っては見られない。だからこそ、騎士団の入団条件として「成人」した者を対象としたのも3人の強い意志だった。



(拙者は容赦しないでござるよ!!)



カゲマルはレノに対して事前に他の2人の隊長と相談して用意していた「魔物」が飼育されている場所にまで案内し、何としてもレノの入団を拒否しようとしていた。



――だが、そんな3人の目論見は数時間後には粉々に砕け散るのを知らずに、カゲマルは所定の位置までレノを案内する。
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