種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

火災

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「……ただいま」
「おう、お帰り~」
「あ、ニャン子(レノが付けたコトミの愛称)さん。今日は遅かったすね」
「……うん」


夕方を迎え、コトミは何とか無事に酒場に辿り着くと、既に店仕舞いを始めているバルとカリナが出迎える。しばらくの間は夕方の時刻に閉店して「剣乱武闘」に備えての賞品の在庫の整理と、後からやってくるバルル(バルの元から離れた盗賊。現在は証人として成功している)を迎える準備を行う。

コトミは店内を見渡し、レノがまだ戻っていないことを確認すると、バルに先ほどの出来事を報告する。


「……お義母さん、私、襲われた」
「誰がお義母さんだ誰が……って、襲われた!?」
「マジっすか!?大丈夫なんすか!?」
「……平気」


コトミは路地裏で襲い掛かった謎の魔術師の事を伝えると、バルは前回の剣乱武闘の際にもレノが地下闘技場で優勝して参加証を得た時、その帰り道で襲い掛かってきた死霊使いの事を思い出す。

今回のコトミを襲撃した相手はローブで全身を覆い隠していただけであり、死霊使いが操作していた死人なのか、もしくは本人が現れたのかは断定できない。


「あんたは今日は何処に行ってたんだい?」
「……あっちの方」
「いや、そうじゃなくてね……」


ビシッ!と、東の方向を指差すコトミだがバルが尋ねたいのは具体的な場所なのだが、彼女は首を振る。


「……道に迷って、良く分からない」
「そうかい……まあ、無事に帰って来れて良かったね」
「あっちという事は……東っすよね。確か兄貴たちが出禁にされた闇ギルドがある方向じゃないっすか?」
「……そうだったかもしれない」


コトミは以前に深淵の森の刺客が襲撃した際、レノと共に逃走したエルフを追跡した事を思いだし、確かに闇ギルド(クラヤミ)が経営している地下酒場がある方角で間違いない。


「闇ギルドの人間なんじゃないすか?」
「その可能性も高いけど……どうにも気になるね。少し確かめてみ――」



バァンッ!!



「た、大変ですぅっ!!」


突然、酒場の玄関の扉が大きく開かれ、慌てた様子のポチ子が激しく息切れを起こしながらも転がり込む。バルたちは何事かと彼女に視線を向けると、


「か、火事です!!都市の東側で、凄い火事が起きてますぅっ!!」
「火事!?」
「おいおい……勘弁してくれよ」


バルは窓に近づいて外の光景を見上げると、確かに時刻は夕闇に染まっていてもおかしくはない時間帯だが、東側の方角で確かに黒煙が舞い上がっていた。


「火事の規模は?」
「い、今は都市の警備兵さんたちが消火作業中で……すぐに魔術師さん達も駆けつけて来てくれたので、大丈夫だと思いますけど……」
「そうかい……出火の原因は分かるかい?」


ポチ子に水が入ったコップを渡し、彼女が落ち着くまで待つと、


「ごくっ……ごくっ……ぷはぁっ……!!えっと、私も聞いただけですけど……確か酒場からだって聞きました」
「酒場……かい?」
「……まさか」
「ちょっ……それってもしかして……」


先ほど都市の東側の路地裏でコトミが遭遇した魔術師の話を三人は思いだし、全員が顔を見合わせ、彼女達の反応にポチ子は首を傾げる。


「酒場の名前は分からないかい?」
「わぅっ……?えっと、確か……名前は分かりませんけど、黒い渦巻きのような模様の看板があったとか……」
「そうか……」


「黒色の渦巻き」という言葉にバルは頷き、正確に言えば「渦巻き」ではなく「嵐」を表現した紋様であり、闇ギルドだと証明する証(マーク)である。

この黒色の嵐である「黒嵐」は情報専門の闇ギルドが関わっている事を示す証であり、他にも黒色の炎の「黒炎」や黒色の雷の「黒雷」等といった種類も存在する。今回の場合の「黒嵐」は情報を生業とする情報ギルドの証明であり、黒炎は暗殺依頼などを取り扱う暗殺者ギルド、黒雷は人身売買関連を取り扱う奴隷商人を現している。

今回起火災が起きたという「酒場」そして東側の方角から察するに間違いなくレノ達が以前に立ち寄った闇ギルドの事だろう。放火犯はコトミが遭遇したという魔術師に変装した「死霊使い」である可能性も否定できず、何が目的で相手がわざわざ闇ギルドを襲撃したのかは分からないが、闇ギルドを襲撃するという事は非常にリスクが高い行為でもある。



「……さっきの人、センチュリオン?」
「さあね……取りあえずは他の奴等が帰ってくるまで待とうか」
「そうですね……あれ?すんすん……この匂い、レノさんが向かってきてます!」


ポチ子が鼻を鳴らして嬉しそうに振り返ると丁度玄関口が開かれ、疲労した表情のレノが入り込む。


バタンッ……


「ふぃ~……疲れた」
「わんわんっ!!」
「おっと」


店に入って早々にポチ子が駆け寄り、レノは慣れた様子で彼女を抱き上げ、


「高い高~い」
「わふぅっ♪」
「……次、私も」
「お、何か楽しそうっすね。私もいいすか!?」
「何をやってるんだい何を……」


ポチ子を降ろしてコトミも担ぎ上げるレノに対してバルは溜息を吐き、事情を知らないとはいえ、どうにも緊張感が無い彼に呆れるしかない。
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