最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

閑話 〈もしもシリーズ その1〉

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~もしもエルフ編でリディア襲来時にルノが存在したら~


「ふふふっ……初めましてと言うべきかしらね。勇者さん」
「誰ですか貴女?」
「あら、随分と余裕じゃない。あまりの恐怖で判断力を失っているのかしら?」
『シャアアアッ!!』


エルフ王国との会談のため、デブリの移送を行っていた部隊の前にワイバーンに乗り込んだリディアが現れる。全員が現れた竜種に警戒する中、ルノは不思議そうな表情を浮かべて彼女と向かい合う。


「下がれルノ殿!!そいつはワイバーンじゃ!!幾らお主でも……」
「いや、多分ですけどルノさんなら大丈夫じゃないですかね」
「何を言っているのですか!?いくらルノ様でも……」
「儂もそう思う」
「先帝!?」


ルノの後方からギリョウとドリアが彼に注意の言葉を掛けるが、リーリスとバルトスだけは冷静さを保ち、ルノとリディアのやり取りを見学する。リディアは自分が連れてきた2頭のワイバーンに全く恐れないルノに対し、眉を顰めながら尋ねる。


「……貴方、本当に状況を理解していないのかしら?いくら勇者と言えど、ワイバーンに勝てると思ってるの?」
「はあっ……うわ、大きい牙ですね」
「シャアッ!?」
「ちょ、勝手に触らないでくれる!?」


怖気もせずにワイバーンに顔面に手を伸ばしてきたルノにリディアは信じられない表情を浮かべ、ルノの背後に存在するロプスとルウも主人の行動を見守る。ルノは初めて見るワイバーンに興味を抱き、リディアに質問する。


「このワイバーンは貴女が飼ってるんですか?餌代とかトイレとか大変じゃないんですか?」
「ああ、その辺は意外と楽よ。勝手に自分達で餌を探してくるし……だけど、あんまり一か所に留まると生態系を乱すから扱いが大変なのよね」
「そうなんですか。苦労してるんですね」
「ええ、分かってくれる……そんな事はどうでもいいわよ!!さっさと喰らいなさい!!」
「シャギャアッ!!」


普通に世間話をしてしまったリディアは慌ててワイバーンに命令を降し、ルノに食らいつかせようとする。しかし、近付いてくるワイバーンの顔面に対し、ルノは掌を構えて魔法を放つ。


「氷塊」
「アガァッ!?」
「きゃああっ!?」


ワイバーンが噛みつこうとした瞬間、口内に巨大な氷の塊が誕生し、そのまま口元を塞ぐ。必死に氷を噛み砕こうとするがびくともせず、それを確認したルノは強化スキル「絶対零度」を発動させた。


「凍れっ!!」
「アアアアアッ……!?」
「ちょ、ちょっと!?どうなってるのよ!?」
「シャアアッ!?」


ルノ達の目の前で氷塊の冷気によってワイバーンの肉体が内と外から氷結化し、十数秒後にはワイバーンの氷像が誕生した。その光景にリディアは呆気に取られるが、ルノは掌を構えて次の魔法を放つ。


「黒炎槍」
「いやぁあああっ!?」
「ッ――!?」


リディアの目の前で黒炎で形成された巨大な槍がワイバーンの氷像に衝突し、激しい爆発と共に氷像が砕け散る。それを確認したもう1頭のワイバーンは目を見開き、リディアは腰を抜かす。


「う、嘘よ……ワイバーンがこんなにあっさりやられるなんて……」
「まだ戦いますか?」
「ひぃっ!?」


あまりにも呆気なくワイバーンが倒された事にリディアは頭が理解できず、その間にもルノは彼女に歩み寄る。それを目撃したリディアは慌てて残されたワイバーンに助けを求めようとするが、既に仲間を殺されたワイバーンは我が身の危険を察知して逃走を開始していた。




――シャアアアアアアッ!!




咆哮というよりは悲鳴を上げながらワイバーンは草原を疾走し、主人であるリディアを置いて逃げ去る。それを目撃した彼女は自分の命令もなく逃げ出したワイバーンに罵声を浴びせる。


「ちょっ……ふざけるなぁっ!!私を置いていくなぁあああっ!!」
「あ、逃げた……あれも始末した方がいいですか?」
「え、あ、う、うむ……そうしてくれると助かるが……」
「分かりました」


逃走したワイバーンを見たルノはバルトスに振り返り、ワイバーンを倒すべきか相談する。唐突に尋ねられたバルトスは返答に困るが、ワイバーンを放置すると危険のため、討伐を願う。


「螺旋氷弾……てやぁっ!!」
「嘘ぉっ!?」
「シャア――!?」


後方から特大の氷塊の砲弾を生成したルノはワイバーンに目掛け、高速回転させながら砲弾を放つ。そのままワイバーンの背中にドリルを想像させる巨大な氷の砲弾が衝突し、肉体を千切って草原に鮮血が舞う。その光景を目撃したリディアはたまらずに跪き、失禁してしまう。


「あ、有り得ない……ワイバーンが、私のワイバーンが……!?」
「あの……落ち込んでいるところを悪いんですけど、捕まえますよ」
「ひうっ!?」


呆然自失のリディアにルノは掌を構え、氷塊の魔法で作り出した鎖で彼女の体を拘束する。その一部始終を目撃していたバルトス達は何とも言えない表情を浮かべ、本来は途轍もない危機に襲われていたのだろうが、ルノがいるだけであっさりと全滅の危機を回避してしまった――



※火竜を登場させる前にリディアが先に部隊に襲撃を仕掛けていた場合はこうなります。火竜戦の前のルノでも余裕で倒せました。
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