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獣人国

ガルファン将軍の後悔

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「何だこれは?この箱がどうした?」
「あ、将軍も居られたのですか……いえ、それよりもこの中身をご覧ください!!」
「中身だと?」


兵士が運び出してきた木箱を開いて将軍と警備隊長に中身を見せつけると、そこには凍結化された状態の武器が収納されており、凍り付いた武具を見て二人は唖然とする。


「な、何だこれは……どうして凍っている!?」
「理由は分かりません。ですが、武具の殆どは凍らされているのです!!予備として運んでいた武具の殆どがこの箱と同じ状態なんです!!」
「有り得えない!!何故こんな事が!?」


獣人国は冬の季節を迎えても気温が他の国より高く、雪が降り積もる事もないので自然に武器が凍り付いたという事は有り得ず、そもそも武具が凍り付くほどの気温ならば兵士達が無事なはずがない。考えられるとしたら何者かが武具を凍結化させた事になるが、普通の魔術師がこのような芸当が出来るはずがない。

当然、この武具の類を凍結化させたのはルノであり、軍隊に忍び込んだ際に食料の回収の他に武具が搭載された木箱の中に氷塊の魔法で生み出した氷を仕込み、頃合いを図って「絶対零度」のスキルを発動させて木箱に仕込んだ氷を利用して武具を凍結化させた。しかし、その事実を知らないガルファンと警備隊長は何が起きたのか理解できず、急いで他の物資の安全を確かめる。


「おい!!残りの食料と薬の数はどれ程残っているのだ!?」
「まだ調査中ですが、恐らく食料の方は明日の分まで持つかどうか……薬剤に関しては被害は軽微でしたが、せいぜい数百個の回復薬がある程度です」
「たった数百……だと」


5万人の兵士を総動員させた事が仇となり、獣人国軍はここまでの道中で行軍するだけでも大量の物資を消耗していた。それでも1、2週間は戦える程の準備を整えていたのだが、僅か1日で食料の殆どを奪われ、武具の類も大損害を受けてしまい、頼みの綱も薬剤自体も心もとない。

13番街のガオンの勢力や住民がどの程度の食料を備蓄しているのかは不明だが、少なくとも明日の夜には食料が尽きてしまう獣人国軍よりも食料は確保している事は間違いなく、籠城戦に持ち込めばいずれ降伏するだろうと考えていたガルファンの考えが覆る。これでは逆に獣人国軍が先に食料が尽きてしまい、追い詰められてしまう。

獣人族は普通の人間よりも食事量が多いため、もしも満足な食事を与えられなかったら過度な負荷が溜まり、精神的にも肉体的にも追い詰められる。そうなれば必然的に兵士の士気は乱れ、やがて取り返しのつかない事態に陥る可能性も高かった。


(ど、どうすればいいのだ……食料がなければ離反を考える者も現れるかもしれん。そ、そうだ!!ならば食料を集めればいいのだ!!)


籠城して街の外に抜け出せない13番街の勢力に対し、獣人国軍は街を包囲しながらも周辺の村や街から食料を調達し、荒野に生息する魔獣を狩猟する事も出来ると考えたガルファンは即座に食料確保のために兵士に命令を下す。


「今すぐに兵を集めろ!!牙竜の討伐は後回しにして食料の調達へ向かう!!」
「調達と言われましても……この地方の村や街の物資は既にガオン将軍が回収済みでは?」
「あっ……!?」


ガルファンの言葉を聞いた警備隊長は事前の密偵の報告で13番街の周辺地方の村や街には既にガオン将軍の配下や金で雇った傭兵が派遣され、住民から大量の食料や武具を強奪したという連絡は獣人国軍にも届いていた。即ち既に食料品の類をガオン将軍の配下に奪われている村や街に向かったところで食料の調達が出来るはずがない。


「い、いや……まだ余分に食料が残っている村や街があるかもしれんだろう!!仮に大部分がガオンに奪われていたとしてもまだ食料を隠し持っている奴等がいるはずだ!!住民達から食料を徴収しろ!!」
「ですが、そんな事をすれば住民の不満を買います!!それに我々は兵士です、盗賊の紛いごとなど……」
「やかましい!!このままでは我々は敗北するのだぞ!?反逆者に屈するつもりか!!」
「し、しかし……」
「これは命令だ!!俺の言う事に従えっ!!」


既にガオンによって苦しめられた住民達から更に食料を奪うように命じるガルファンの言葉に警備隊長は反対するが、このままでは獣人国軍の食料が先に尽きてしまうのも事実であり、結局は従うしかなかった。ガルファンは急遽牙竜の討伐のために集めた兵士達を今度は食料の調達のために村や街に派遣させる事を命じた。


「良いか!!今からお前達はこの周辺地域の村から食料を集めてこい!!何としても6日分……いや、1週間分の食料を用意するのだ!!そうすれば王都からの救援物資が届くはずだ!!」
「ですが、もしも住民の反抗にあった場合はどうすればいいのですか?」
「我々は国を守る立場にある!!そんな我々に抵抗する人間は非国民だ!!抵抗する者は全員力ずくでも叩き伏せろ!!」
『…………』


ガルファンの命令を受けた兵士達は彼の言葉に黙り込み、自分達に盗賊のように住民から食料を強奪しろと命じるガルファンに対して不満を蓄積する。彼等は誇り高き獣人国軍の精鋭であり、本来は守るべき立場の住民から食料を奪うという行為に兵士達は不満を抱かざるを得ない。
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