最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
509 / 657
巨人国 侵攻編

ノーズの異変

しおりを挟む
氷自動車が屋敷の玄関の前に着地すると、即座に武装した兵士達が槍をルノ達に構える。彼等は警戒しながらもいつでも攻撃に移れる体勢に入り、警備隊長を務める男性がルノ達の正体を問い質す。


「な、何者だ!!お前達は何処から来た!?」
「ちょっと、止めておきなさいよ。あんたら、こいつが誰だか知らないの?」
「師匠に刃を向けるとは何と失礼な奴等だ!!」
「……ルノさん、やっておしまいなさい」
「水戸黄門かっ」


ルノ達は氷自動車から降りると兵士達は慌てて槍の刃先を向けてくるが、ルノは怯えた様子も見せずに警備隊長の元へ近づき、ノーズ公爵を出す様に申し付ける。


「帝都からやって来たルノと言います。急いでいるので公爵を呼んでくれませんか?」
「帝都からだと……いや、待て!!今、ルノといったのか!?まさかあの……!?」


この北方領地でもルノの名前は知れ渡っていたらしく、兵士達は困惑の表情を浮かべる。噂では竜種を単独で圧倒する最強の初級魔術師と聞いていたが、目の前のルノはどうしてもただの少年にしか見えず、どう見ても噂に聞くような凄腕の魔術師には見えなかった。

だが、実際に奇怪な氷の魔法を駆使してこの場に訪れた事は間違いなく、現在も上空には巨大な飛行物体が複数浮揚しており、もしもあれほどの物体が街に降りてきたら大惨事を引き起こす。警備隊長は冷や汗を流しながらもルノが本当に例の噂の人物なのかを確かめる。


「お、お前は本当にあの……いや、貴方は噂に聞く初級魔術師殿なのですか?」
「どんな噂が流れているのかは知りませんけど、多分そうですよ」
「……ならば証拠を見せてくれ。噂に聞く初級魔術師は竜種を屠る程の実力者だと聞いている。それが本当ならば我々のその力を見せてくれ」


実際に警備隊長は竜種を屠れる程の力を持つ魔術師が存在するとは考えておらず、ルノの噂はあくまでも帝国が流した大げさな噂だと思い込んでいた。だが、実際に上空に浮揚する巨大な氷塊の飛行物体を確認すると噂が真実なのではないかと考え始め、ルノに実力を示す様に申し込む。

最も実力を示せと言われたルノは困り果て、一体どのような魔法を見せれば兵士達を納得できるのかと考えたとき、一人だけ氷自動車の中で項垂れていたギルスが立ち上がって二人の元へ赴く。その手元には嘔吐物を収める袋が握りしめられ、顔色を悪くしながらもギルスは二人の間に立つ。


「ま、待て……ぐふっ、俺から説明する……ルノ殿は下がってくれ」
「な、何だ貴様は……いや、まさか貴方は!?」
「ギルス将軍!?どうしてここに!?」


ギルスの顔を確認した警備隊長と警備兵は騒ぎ出し、すぐに荷物の運搬を行っていた巨人族の兵士も集まる。数日前に軍隊を率いて行動を開始したギルスがこの場に存在する事に動揺が走り、一体何が起きたのかを問う。


「ギルス将軍!!どうして貴方がここに……」
「ちょっと待ってくれ、まだ気分が悪くてな……少しだけ休ませてくれ」
「気分が悪い……まさかお体を壊したのですか!?」
「いや、そういうわけではないが……大分落ち着いてきた。もう大丈夫だ」


車酔いの影響で弱っていたギルスも地上に降りた事で回復したらしく、冷静に周囲の兵士達を呼び集めて事情を説明する。


「我々の軍隊はこのルノ殿に敗れ、現在は上空のあの氷の塊の中に待機している……この後、本国へ送り返してもらう予定だ」
「な、何だって!?」
「あの変な乗り物の中に……!?」
「いや、それよりも降伏とはどういう意味ですか将軍!?まさか、本当にこんなガキにあんたは降伏したんですか!?」
「口に気を付けろ!!この御方の力は計り知れん……例え、10万の軍隊であろうと圧倒できる戦力を保持しているのだぞ!!」
「桁が一桁足りないんじゃないの?」
「……いや、ルノなら二桁は足りない」
「二人とも、俺を何だと思ってるの?」


ギルスの言葉に巨人族の兵士は衝撃を受けた表情を浮かべ、そんな彼等の反応を楽しむようにリディアとコトネはヤジを飛ばしてルノに注意され、その彼等の態度を見た兵士は納得できずにルノに掴みかかろうとした。


「俺は信じないぞ!!こんなガキに俺達が負けるはずがねえ!!」
「うわっ!?」
「止めろ!!その男に手を出すな!!」


気性の荒い巨人族の兵士がルノの身体を掴み上げて持ち上げ、そのまま顔を覗き込んで怒りの表情を抱くが、慌ててギルスが止める暇もなく兵士の悲鳴が屋敷内に響き渡る。


「もう、離してください!!」
「あだだだっ!?」
「だから止めろと言っただろうが……!!」


ルノは自分の服を掴む巨人族の兵士の腕を軽く握りしめると、兵士は情けない悲鳴を上げて腕を抑え、まるで万力に締め付けられたように掴まれた腕を抑える。その光景に他の兵士達は唖然とした表情を浮かべ、巨人族が人間に力負けする光景を見て動揺を隠せない。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。