最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

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ゴブリンキング編

閑話 〈レベルアップ、そして脱出〉

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「よし……この高さならいけるか」


佐藤は階段を上って上の階に移動すると窓の外の光景を覗き込む。王城の全体を見通せる程の高さに移動出来れば彼の目的は達成するが、外の光景を覗き見て彼は危うく声を上げそうになる。遂に佐藤は王城を取り囲む城壁の反対側の景色を確認する事に成功し、城下町らしき建物を発見する。


「この距離なら……!!」


リュックから望遠鏡を取り出して佐藤は覗き込み、彼が出発前に用意したのは普通の望遠鏡ではなく、暗視スコープの機能も搭載された高性能の望遠鏡であり、彼は王城の外の光景をしっかりと記憶に刻み込み、決して目撃した光景を忘れないように心掛ける。


「よし……後は外に抜け出すださないと」


佐藤は今度はインターネットを利用して購入した暗視ゴーグルを取り出し、本格的に王城の外に脱出するために動き出す。左腕にスタンガンを構えて通路に戻ろうとした時、再び通路の奥から足音が響き割り、今度は大人数が移動している事に気付いた佐藤は慌てて周囲に視線を向けて自分が隠れられる場所を探す。


「不味い……!!」


足音が徐々に近付き、冷静さを失った佐藤は自分の近くに存在する扉に手を回すが、鍵が掛けられて開く事が出来ず、佐藤は針金を取り出して手元が狂わないように慎重に鍵穴に差し込み、開錠のスキルを発動させる。


「よしっ……!!」


扉を開く事に成功し、中に入り込むと同時に扉を閉める。今回は内側から鍵を掛ける事に成功し、佐藤は安堵の息を吐こうとしたが、即座に自分の目の前の光景に目を見開く。部屋の中は灯りが付けられていなかったが暗視ゴーグルのお蔭で暗闇の中でも部屋の中を確認する事は可能であり、佐藤は自分が訪れた部屋に冷や汗を流す。


「こ、ここは……不味い」


彼が入り込んだ部屋の中は王城の使用人が利用している宿舎であり、無数のベッドが並べられていた。そしてベッドの上には睡眠を行っている人間の姿が複数存在し、佐藤は慌てて口を抑えて彼等を起こさないように気を付けようとするが、既に扉を開いた際の物音で睡眠を妨げられた人間が居た。


「うんっ……誰だ?」
「なんだ……?」


ベッドの上に眠っていた男性が数人反応を示し、佐藤は背筋が凍り付く。しかも後方の扉からは先ほどの複数の足音が近付いており、外に移動する事も出来ない。部屋の中は暗闇に覆われており、彼等が佐藤の正体に気付いた様子はなく、眠りを妨げられた事で不機嫌を隠さずに怒声を上げる。


「誰だよ……入る時は静かに開けろと言っただろうが」
「くそっ……明日は早いんだぞ」
「気を付けろ馬鹿っ!!」
「え、あっ……す、すいません」


佐藤の予想に反してベッドの男達は文句を告げると再び身体を横にさせ、睡眠を再開する。その光景に彼は今度こそ安堵の息を吐きだし、佐藤は扉の外側の足音が聞こえなくなったのを確認したあと、使用人達の部屋から抜け出す。今度は物音を極力立てないように扉を開き、慎重に部屋を抜け出す。


「ふうっ……助かったのか」


額の汗を拭い、何度も危機を乗り越えた事で佐藤は心の余裕が生まれ、随分と身体の緊張も緩む。だが、あまりに重い荷物を持ち続けて移動したせいか彼の体力も予想以上に消耗しており、今の佐藤はレベル1のステータスの影響で最低レベルの身体能力と体力しか存在せず、誰にも見つからずに行動する事も精神的な消耗が激しく、油断できない状況にも関わらずに佐藤はその場で跪く。


「くそっ……休憩している場合じゃないのに」


周囲を見渡し、佐藤は誰も来ない事を祈りながら身体を休める。何処かに隠れられる場所を発見できれば良いのだが、生憎と今まで彼が訪れた部屋の中で人の出入りが存在しない場所はなかった。


「ふうっ……どうすればいいんだ」


体力的にもこれ以上の移動は難しく、このまま自分が捕まってしまうのかと佐藤は不安を抱き、折角生まれた心の余裕も消え去り、その場に座り込む。逃げ続けるのは限界であり、安全に隠れられる場所も見つからず、1人だけで行動する事に徐々に不安が募る。


「何処かに移動しないと……くそ、他のスキルを覚えられたら……!?」


開錠のスキルは便利ではあるが、やはり能力が1つだけでは心許なく、佐藤は無意識にステータス画面を開くと異変が生じており、自分のレベルが何時の間にか「2」に上昇しており、新しいSPが蓄積されていたのだ。


「ど、どういう事だ?僕は何も……」


佐藤自身は知らない事だが、この世界では経験値を得られる方法の一つとしてスキルの「熟練度」を上昇させる方法がある。佐藤はこれまでに開錠のスキルを何度も私用した事により、彼のスキルの熟練度が上昇して経験値を入手し、レベルを上昇させたのだ。彼と同じく異世界人のレナもこの方法でレベルを上昇させており、しかも佐藤は最も次のレベルが上がりやすいレベル1の状態の為、簡単に次のレベルに到達する事が出来た。


「だ、だけど良かった……これで新しいスキルを覚えられるのか」


この状況下では冷静に時間を掛けて考える暇はなく、佐藤はこの状況で最も役立ちそうなスキルを習得するために画面を操作していると、自分の「異能」の項目に説明文が追加されている事に気付く。


『SPを使用し、転移の発動条件を変更できます。時間制限ではなく、スキルを消費する事で発動が可能になります』


その説明文を見た瞬間、佐藤は目を見開く。まさか自分の異能の発動条件を変更できる事など考えもせず、説明文の内容を確認し、佐藤は考える暇もなく条件を承諾する。


『警告:本当に発動条件を変更しますか?これ以降の条件変更はできません』


だが、新しい警告文が表示され、佐藤はもどかしい思いを抱きながらもこの場所から一刻も抜け出したいため、警告を無視して異能を発動させる。


「構わない!!僕をあの世界に戻してくれ!!」
『発動条件を変更しました。これより、転移の使用の際はSP消費となります』



次の瞬間、佐藤のステータス画面に表示されたSPが消失し、彼の視界が閃光に染まった――





――光が収まり、佐藤は自分が元の世界の自分の部屋に居る事に気付いた。慌てて時計を確認すると時間帯に違はあるが、間違いなく転移を発動した時の日付であり、自分が無事に元の世界戻った事を確信する。


「や、やった……元に戻れたんだ!!」
『え?お、お兄ちゃん?家に居たの?今日は友達の家に泊まるんじゃ……』
「え、あ、ああっ……何でもないよ」
『そう……何でもいいけどあんまり騒がないでよね』


興奮した彼は大声を上げてしまい、部屋の外に居た妹の驚いた声が響き、慌てて返事を行う。転移を行う前に自分が友人の家に泊まると家族に説明して居た事を思い出し、彼は適当に返事を行いながらベッドに座り込む。


「……大丈夫だ。忘れていない」


王城の外部の光景はしっかりと記憶しており、佐藤はステータスを確認する。先ほどの説明文の通り、自分の異能の転移を発動する条件が変更しており、今度からは習得した「スキル」を消費する事で転移を発動できるようになった。


「スキルがなくなるのか……いや、別にいいか」


習得したスキルが消失するのは残念だが、やはり24時間に1度しか扱えない条件の方が不便と判断し、佐藤はリュックを置いて身体を休めようとした時、座り込んだときに尻に痛みが走った。


「あいたっ!?くそっ……忘れていた」


針金をポケットに入れていた事を忘れており、佐藤は針金を取り出して部屋の隅に置いてあるゴミ箱に視線を向け、放り投げる。だが、針金はあらぬ方向に飛んでしまい、床に落ちてしまう。


「あれ……おかしいな」


野球部ではピッチャーをやっている佐藤は自分のゴミ箱に針金が入れられなかった事に疑問を抱き、針金を拾い上げてゴミ箱に近づき、もう一度放り投げようとするが外れてしまう。


「えっ……!?」


十分な距離にまで近付いたのにゴミ箱から針金を入れられなかった事に佐藤は動揺し、すぐに彼はある結論に至ってステータス画面を開く。先ほどの異能の使用条件が変化した事を思い出し、佐藤は自分の習得しているスキルを確認して愕然とした。


「そんなっ……」




――彼のスキルの中に「命中」の能力が消失しており、この能力は「命中力を上昇させる」という効果を生みだすが、野球部のピッチャーを勤める彼にとっては最も失ってはならない能力が消えてしまった。
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