氷弾の魔術師

カタナヅキ

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プロローグ

第7話 魔力の器

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「それにしてもこの少年は何者ですか?リオン様は彼の事を知っているのですか?」
「いや……名前すらも聞いていない。興味もなかったからな」
「では彼が何者なのか分からないのですか?」
「そうでもない、こいつを見つける前に森の中に取り残された馬車を見つけた。馬車の周りには人間の死体が幾つかあったが、恐らくはオークに襲われたんだろう。そのオークは僕が倒したがな」
「おおっ!!流石ですな!!では、この少年はその馬車から逃げてきたと?」
「そうだろうな。だが、こいつは自分の事を魔術師だと言ったが、その割には魔法に関する知識を全く持っていなかった……森の中で火属性のの呪文を叫んでいたくらいの世間知らずだ」
「じょ、上級魔法!?」


リオンがコオリを発見した時、オークに向けてコオリが絵本の中の魔術師が唱えていた呪文を叫んでいた。しかし、コオリが叫んでいた呪文は一流の魔術師でも使い手が滅多にいない「上級魔法」と呼ばれる習得難易度が高い魔法だった。

杖も無しに上級魔法を叫ぶコオリを見た時、リオンは彼の事を魔術師だとは思わずにオークに追い詰められて錯乱した子供だと思い込んでいた。実際にコオリは魔法の知識を何も知らず、彼が魔術師だと名乗る時までリオンはコオリの事を魔術師に憧れた一般人だと思い込んでいたほどである。


「魔法の知識はないが、魔術師の素質はある。そして商人の馬車に乗っていたという事はこいつの目的地は王都だろう」
「王都!!という事はこの者は魔法学園の入学希望者という事ですかな!?」
「そう考えるのが妥当だろう。今年の適性の儀式を受けて魔術師の素質がある事が判明し、家族の元を離れて魔法学園に送り込まれたんだろう」
「な、なるほど……流石はリオン様!!素晴らしい洞察力ですな!!」


コオリから話を聞いたわけでもないにも関わらず、彼はコオリが置かれていた状況だけで彼の正体を見抜く。その子供離れした洞察力にジイは感心するが、一方でリオンの方は気絶しているコオリを見て初めて憐れみの表情を浮かべた。


「だが、こいつは魔法学園に入学したとしても……」
「ん?それはどういう意味ですか?」
「いや、何でもない。それよりもこいつを連れて行くぞ」
「連れて行くとは何処にですか?近くの街まで送り届けるのですか?」
「……王都だ」


意識を失っているコオリにリオンの言葉は聞こえず、自分の知らぬうちに彼に同情されているなど正に夢にも思わなかった――





――コオリが意識を取り戻すと、最初に見えたのは見覚えのない天井だった。自分がベッドに横たわっている事に気付き、慌てて起き上がる。


「こ、ここは……」
「やっと目が覚めたか」
「えっ?」


聞き覚えのある声を耳にしてコオリは振り返ると、ベッドの傍で椅子に座ったリオンの姿があった。リオンの顔を見てコオリは咄嗟に声を上げそうになるが、この時になってコオリはリオンの名前も尋ねていない事を思い出す。


「そういえば……名前なんだっけ?」
「……起きて早々に尋ねる事がそれか?」


最初に目を覚まして口を開いた事が自分の名前を尋ねる事にリオンは呆れるが、思い返せば自分が名乗っていない事に気づき、リオンは自分の名前を名乗った。


「リオンだ」
「リオン……君?」
「リオンでいい、お前の名前は?」
「……コオリ」
「そうか」


お互いに自己紹介を行うと、コオリは気絶している間に自分が服を着替えている事に気付き、身体も大して汚れていない事に気づく。

状況から察するにコオリはリオンに助けられて何処かの宿屋に泊まっていると悟り、そんな彼を見てリオンがコオリが気絶した後の出来事を話す。


「安心しろ、ここは王都の宿屋だ」
「えっ……王都!?」
「そうだ、お前の身元を調べさせてもらった。魔法学園に入学する予定だったらしいな」
「どうしてそんな事まで……」
「お前が乗っていた馬車の主人と話をした。殺されたのは護衛として雇った傭兵だけだったからな」


リオンによればコオリを王都まで運ぶ約束をしてくれたカイは、偶然にもリオン捜索していたジイの騎馬隊と遭遇して保護されていた。

カイからコオリの素性を聞き出したリオンは自分の予想通りに彼が辺境の地の出身である事、そして魔法とは無縁の生活を送っていた事も知る。彼の両親は商人に頼み込んで息子を王都まで送り届けるように頼んだ事も知ったリオンはコオリが気絶している間に王都まで運ぶ。


「あの商人はお前を見捨てて逃げた事には謝罪していたぞ」
「カイさんが……」
「……魔物に襲われて混乱を引き起こして逃げ出したのならば情状酌量の余地はある。だが、被害を受けたお前が許せないのであれば商人を捕まえる事もできるがどうする?」
「いや、もういいよ……」


自分を残して先に逃げ出したカイに関してはコオリも恨みは抱いたが、もしもコオリが逆の立場だったら他人を見捨てずに逃げない選択肢ができたかは分からない。それにコオリは勝手に馬車に降りていたのもオークに見つかった理由である。


「あの商人から謝礼金を渡されている。これをどう使うかはお前の自由だ」
「えっ!?こ、こんなに!?」
「お前を見捨てた事に負い目を感じていたんだろう」


リオンから渡された小袋の中身を見てコオリは度肝を抜き、あまりの金額に動揺を隠せない。そんな彼を見てリオンは不憫そうな表情を浮かべた。


「やはり少なすぎるか。命を落としかけたというのにこの程度のはした金で見逃せなど虫のいい話だろう」
「は、はした金?」
「商人に関しては俺の方から話を付けておく。せめて十倍は用意させてやろう」
「い、いやいや!!これだけで十分だから!!」


コオリにとっては目が飛び出るような大金を受け取ったつもりだが、リオンからすれば「はした金」程度の金額らしく、彼の金銭感覚が一般人とは大きくかけ離れているらしい。


「……まあいい、それよりもお前に話しておくことがある」
「話?」
「悪い事は言わない。その金を持ってお前は自分の住んでいた街に帰れ」
「はあっ!?」


リオンの言葉にコオリは大声を上げ、いきなり何を言い出すのかと困惑する。そんな彼にリオンは淡々とした口調で告げた。


「お前は魔法学園に入った所で未来はない」
「な、なんでそんな事が分かるんだよ!!」
「簡単な話だ……その杖を持て」
「杖?」


コオリはベッドの横に自分の杖が立てかけられている事に気づき、不思議に思いながらも杖を手に取る。それを見てリオンは自分の杖を取り出すと胸元を示す。


「俺に向けて魔法を使え」
「は、はあっ!?」
「安心しろ。反撃はしない事を約束してやる」
「な、何言ってんだよ!!そんなことができるはずが……」
「やらなければ俺がお前に魔法を撃つ」


リオンはコオリに向けて小杖を構え、その彼の雰囲気から脅しではない事が伺えた。コオリは何のつもりかと焦るが、本当にここで魔法を使わなければリオンは自分に魔法を仕掛けるつもりだと気が付く。


(何なんだよこいつ……くそっ!!)


人に向けて魔法を撃つのは初めてなためにコオリは腕が震えてしまうが、堂々とした態度を貫くリオンを見て何か考えがあるのかと思い、覚悟を決めて魔法を発動させた。


「怪我してもしらないからな……アイス!!」


呪文を唱えた瞬間、コオリの手にした杖が微かに光り輝き、杖の先端から氷の塊が出現した。但し、森の時に発動した時とは違い、出現した氷の多きさは十分の一程度しかなく、移動速度も格段に落ちていた。


「えっ!?」
「……やはりな」


ゆっくりと自分に迫って来る氷塊にリオンは杖を下ろし、掌で受け止めた。コオリの生み出した氷塊はリオンの手に当たった途端に砕け散り、消えてなくなってしまった。その光景を見てコオリは唖然とした。


「ど、どうして!?森で撃ち込んだ時はあんなに……」
「これが今のお前の限界ということだ」


森で撃ち込んだ時とは氷塊の大きさや勢いの違いにコオリは納得できなかったが、リオンは淡々と答える。そして彼はコオリの身に何が起きたのか詳しく説明を始めた。
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