氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第40話 油断大敵

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「キュイッ?」
「キュイイッ?」
「うっ……つぶらな瞳でこっちを見てくるんですけど」
「油断するじゃないよ、こいつらは確かに見かけは可愛らしいけど……獲物を前にしたら本性を現すからね」
「えっ?」


数匹の一角兎がコオリ達に気付き、不思議そうな表情を浮かべてコオリ達の元へ近づく。近寄る程に可愛らしい外見をした一角兎にコオリは魔法を使うのを躊躇うが、接近してきた一角兎の一匹が突如目つきを鋭くさせてコオリの顔面に目掛けて飛び掛かる。


「ギュイイッ!!」
「えっ……」
「馬鹿っ!!避けなっ!!」


コオリは自分に目掛けて飛び込んできた一角兎に呆気を取られ、咄嗟にバルルが彼の肩を掴んで引き寄せる。すると一角兎はコオリの顔の横を通り過ぎ、この時にコオリは頬に角が掠ってしまう。

頬から血を流しながらコオリは何が起きたのか理解するのに時間が掛かり、やがて彼は一角兎に危うく頭を貫かれかけた事を知ると、顔色を青くして一角兎に振り返る。もしもバルルが彼の肩を掴んでいなければ今頃はコオリは頭を一角兎の鋭い角で貫かれていた。


「なっ……何が!?」
「油断するなと言っただろうがっ!!こいつらは魔物なんだよ、縄張りを侵した人間を前にしたら本気で襲うに決まってんだろ!!」
「ギュイイッ……!!」


攻撃を躱したコオリに対して襲い掛かった一角兎は目つきを鋭くさせ、再び角を構えて彼に狙いを定めようとしていた。それを見たコオリは慌てて杖を取り出し、魔法を発動させる準備を整える。


「ギュイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「落ち着きな!!あんたの魔法なら対処できる!!」


鳴き声を上げて再度襲い掛かろうとする一角兎にコオリは焦ってしまうが、バルルに言われて彼は冷静さを取り戻して杖を構えた。そして一角兎が突っ込んできた瞬間、無詠唱で魔法を発動させて氷弾を撃ち込む。


「このっ!!」
「ギュイイッ!?」


一角兎が飛び込んでくる前にコオリは氷弾を発射すると、一角兎の額の角の部分に衝突して氷塊が砕け散る。予想外の攻撃を受けた一角兎は吹き飛ぶが、仕留めるまでにはいかずに体勢を立て直す。


「か、硬い!?」
「一角兎の額の角には気を付けな。そいつらの角は鋼鉄のように硬いからね」
「ギュイイッ……!!」


攻撃を受けた一角兎は他の仲間に助けを求めるように鳴き声を上げると、すぐに他の一角兎が動き出してコオリの元へ接近する。バルルはここで彼の元から一旦離れ、自分の力だけで対処するように告げる。


「まずは落ち着きな!!精神を乱すと碌な魔法も使えなくなる!!どんな時でも冷静でいられるのが一流の魔術師だよ!!」
「そ、そんな事を言われても……」
「できなければこのまま殺されるよ!!忘れるんじゃない、こいつらは魔物だ!!人を殺す力を持っているんだ!!」


バルルの言葉にコオリは改めて一角兎の群れに視線を向け、彼女の言う通りに一角兎はコオリを殺せるだけの戦闘力を誇る。いくら可愛らしい外見をしていようと、自分に本気で襲い掛かる一角兎に対して容赦したら逆に殺されてしまう。

本気で殺しにかかる相手に情けをかける必要はなく、魔力を杖先に集中させて「圧縮氷弾」を撃ち込む準備を行う。そして最初に攻撃を仕掛けてきた一角兎に目掛けて撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「ギュイッ!?」


先ほどは額の角に氷弾が弾かれてしまったが、今度のは硬度も攻撃速度も桁違いであり、額の角ごとへし折って頭部を打ち砕く。


「ギャインッ!?」
「うっ……!?」
「よし、その調子だよ!!攻撃を続けな!!」


頭が貫かれた一角兎の死骸が地面に転がり込み、それを見てコオリは目を背けそうになるが、バルルの声を聞いて歯を食いしばる。まだ戦闘は終わっておらず、未だには残っている。


「うおおおおっ!!」
「ギュアッ!?」
「ギュイイッ!?」
「ギャウッ!?」


一角兎の群れに圧縮氷弾を次々と撃ち込み、瞬く間に草原に数匹の一角兎の死骸が横たわる。一角兎の群れを一人で仕留めたコオリは汗を流しながら地面に膝をつく。


「はあっ、はあっ……」
「よくやったね、と言いたいところだけど……その様子だと大分参ってるね」
「だ、大丈夫です……」


顔色を真っ青にしながらもコオリは立ち上がろうとするが、身体が上手く動けない。圧縮氷弾の使い過ぎてで疲れているのもあるが、初めて自分の力で魔物を倒した事で緊張感が解けて思うように力が入らない。


(頭が痛い……練習の時ならこれぐらいの魔法で疲れたりなんかしなかったのに)


魔力を消耗し過ぎたのかコオリは頭痛を覚え、初めての魔物との実戦で精神力を取り乱し、その影響で気づかないうちに魔法を発動させる際に余分に魔力を消耗してしまったらしい。


「あんた、さっきは気付いてなかったようだけど杖に魔光が宿っていたよ。精神力を取り乱したせいで魔力操作の技術が雑になっていたね」
「確かに光ってた」
「そ、そうですか……気を付けます」
「まあ、初めての戦闘にしては頑張った方だね。だけど、これだけは覚えておきな。魔術師はどんな時でも冷静でいなければならない。精神を乱した状態で魔法を使ったら大変な事になるのはもう分かっただろう?」
「……はい」


バルルの言葉にコオリは言い返す事ができず、先ほどの戦闘でコオリは取り乱した事で精神が乱れ、本来の実力を発揮できたとは言えない。改めてコオリは油断していた自分を戒める。

いくら見た目が可愛いくとも魔物を相手に油断してはならず、今後はどんな魔物でも警戒心を解かないようにコオリは心掛ける。その一方でバルルはコオリが倒した一角兎に視線を向け、彼女は短剣を取り出す。


「よし、それじゃあこいつらを解体するよ」
「えっ……か、解体?」
「こいつらの死骸を剥ぎ取って素材を回収するんだよ」
「ええっ!?」


思いもよらぬバルルの発言にコオリは驚き、どうしてわざわざそんな事をするのかと思うが、彼女は慣れた手つきで一角兎の死骸から角を剥ぎ取る。


「こいつらの角は滋養強壮の効果を高める薬の素材になるからね、持って帰ってギルドで売ればそこそこの金になるんだよ」
「金になるって……」
「いいからよく見ておきな、覚えておいて損はないよ」


バルルはコオリに一角兎の解体方法を教え、実際に彼に解体作業を行わせた――





――無事に一角兎の討伐と解体作業を終えた後、馬車は王都には戻らずに別の場所へ向かう。その場所はコオリも見覚えがあり、かつて自分が王都に向かう道中で立ち寄った森だと気付く。


「師匠、この森って……」
「ああ、そうえいばあんたはここを通って来たんだね。ここは深淵の森さ」
「……嫌な気配がする」
「おい、バルル……本気でこの森に入るつもりか?」
「いくら何でも危険じゃないか?」
「ここはマジでやばいぞ……」


馬車が辿り着いたのはかつてコオリがオークとファングの群れに襲われた森で間違いなく、バルルによるとここは「深淵の森」と呼ばれ、危険な魔獣が暮らす森だった。

どうしてこの森にバルルは訪れたのかと言うと、この場所で彼女はコオリを魔物と戦わせるつもりだった。だが、同行していたトム達はこの森に入る事に反対する。


「バルル、幾らなんでも冗談が過ぎるぞ!!ここは危険過ぎる、いくら何でも子供を連れて入れる場所じゃない!!」
「大丈夫さ、こいつらはただの子供じゃない。あたしの弟子だよ」
「おい、本気で言ってるのか!?この森がどれほど危険な場所なのかはお前も知っているだろう!!」
「そうだ、魔物と戦う場所なら他にもあるだろう!!どうしてわざわざここを選ぶんだ!?」
「……それがこいつのためになるからさ」


トム達は森の中に入る事を反対し、現役の冒険者の彼等でさえもこの森に入るのはためらう程の危険地帯だった。それでもバルルがこの森を訪れた理由はコオリにどうしてもここで戦闘を積ませるためだった。


「コオリ、あんたはここで魔物と初めて遭遇したんだろう?」
「は、はい……オークと、ファングに襲われました」
「そいつらに襲われた時、あんたはどうした?」
「どうしたって……」


バルルに言われてコオリは襲われた当時の事を思い出し、オークが傭兵達を惨殺し、その後に自分を追い掛け回した事を覚えている。あの時は魔法も覚えていなかったので逃げ回ることしかできず、もしもリオンと出会わなかったら死んでいた。


「こ、怖くて逃げ回る事しかできませんでした……」
「そうだろうね、その時のあんたは戦う力を持っていなかった。だから逃げるのは間違っちゃいない。だけど、今のあんたならどうだい?」
「どうって……」
「あんたはを身に着けた。今のあんたなら魔物と戦える力を持っている……それでも逃げる事しかできないと思っているのかい?」
「っ……!!」


コオリはバルルの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、彼女の言う通りにコオリは昔とは違い、今は魔物に対抗する魔法《ちから》を手にしていた。今の自分ならば昔はみっともなく逃げ回る事しかできなかった敵《まもの》とも戦える力を持っている事を知る。
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