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王都での日常
第44話 試験
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「結界を発動させよ!!」
「えっ!?し、しかし……」
「何をしている、早くせんか!!」
タンの言葉を聞いて柱の前に立っていた教師たちは困惑し、彼等は闘技台の上に設置された檻と中に眠っている魔物を見て戸惑う。そんな彼等にタンは舌打ちし、仕方なく学園長に許可を求めた。
「学園長!!結界を作動させても構いませんな!!」
「ええ、構わないわ」
「学園長もこうおっしゃっておられる!!さあ、早く結界を作動させよ!!」
「は、はい!!」
学園長が許可を出すと教師たちは柱に杖を構えて呪文を唱える。闘技台の四方に設置された柱が光り輝き始め、やがて柱の上に設置された緑色の水晶玉が光り輝き、闘技台全体がドーム状の光の膜につつまれる。
闘技台の四方に設置された柱には「結界石」と呼ばれる特別な魔石が埋め込まれ、この魔石を作動させると闘技台全体が魔力で構成された障壁に包み込まれる。この障壁は「結界」とも呼ばれ、魔法や物理攻撃に対して強い耐性を誇り、簡単には破壊できる代物ではない。
(これが結界か……もう逃げ場はなくなったな)
結界が闘技台を包み込むと周囲の音が聞こえなくなり、結界に閉じ込められた時点でコオリは外界から隔離された。これで外からの音は聞こえず、バルルが彼に助言する事もできない。また、コオリが窮地に陥っても助けに向かう事も不可能だった。
(こいつが今回の試験の対戦相手……ファングと似てるけど、手足の形が違うな)
闘技台に設置された檻を見てコオリは杖を構え、檻の中に閉じ込められている魔物の様子を伺う。魔物は今の所は檻の中に閉じこもっているが、その瞳は既にコオリの姿を捕えていた。
この時にマリアが懐中時計を取り出し、時間を確認する素振りを行う。すると檻の出入口を塞いでいる錠に紋様が浮き上がり、勝手に鍵が開いてしまう。それを見たコオリは檻自体が「魔道具」だと知り、時間を迎えると鍵が勝手に開いてしまう仕組みだと気付く。
――ガァアアアアッ!!
狼のような鳴き声を上げながら出てきたのはファングよりも一回り程大きな魔獣であり、その外見は狼と人間が合わさったような姿をしていた。頭部は完全に狼で全身に毛皮を生やしているが、手足に関しては狼よりも人間に近く、二足歩行の状態で檻から抜け出す。
(そうだ、思い出した……こいつはコボルトだ!!)
コオリは自分が子供の頃に読んだ絵本の中に出てきた魔物を思い出し、狼と人間のような特徴を持つ「コボルト」という魔物を思い出す。コボルトはファングやオークを上回る危険種であり、しかも獰猛で自分よりも格上の相手であろうと躊躇なく襲い掛かる。
「グゥウウウッ……!!」
「うっ……」
コボルトはコオリに視線を向けると牙を剥きだしにした状態で睨みつけ、口元から大量の涎を流す。そのコボルトの迫力にコオリは気圧されそうになるが、彼は杖を握りしめて向き合う。
先日に魔物との戦闘を経験したコオリだが、コボルトと対峙するのは初めてだが、絵本に記されていた内容が事実ならばコボルトは疾風のように駆け抜け、爪と牙は鋼鉄さえも切り裂く。
(絵本の内容が何処まで本当なのかは分からないけど……やるしかない!!)
怯えていても仕方がないと判断したコオリは杖を取り出すと、無詠唱で魔法を発動させて氷塊を作り出す。この時に闘技台の外で見守っていた教師たちは彼が無詠唱で魔法を発動させた事を驚く。
「い、今のを見ましたか!?あの子供、口元を開かずに魔法を発動させましたぞ!!」
「まさか、あの年齢で無詠唱を!?」
「むむっ……」
結界内に閉じ込められたコオリは教師たちの言葉は聞こえないが、闘技台の外にいる教師たち中の様子を伺える仕組みになっていた。彼等はコオリが無詠唱で魔法を発現させた事に驚き、いくら燃費が低い下級魔法といえど、コオリの年齢で無詠唱で魔法を発現させる生徒はこの学園にはいない。
(その程度の事で驚いてるんじゃないよ、馬鹿共め……)
教師たちが無詠唱で魔法を発動させたコオリを見て驚いてる姿にバルルは笑みを浮かべ、ここから彼等が更に驚く事になる事を彼女は確信していた。その一方でマリアの方はコオリに視線を向け、彼の行動を見逃さないようにする。
コオリは無詠唱で魔法を発動させると、まずは相手の対応を見てどんな能力を隠し持っているのか確かめるためにただの氷塊を撃ち込む。
「喰らえっ!!」
「ガアアッ!!」
迫りくる氷塊に対してコボルトは虫でも追い払うかのように軽く腕を振りかざし、鋭い爪で氷塊を粉々に打ち砕く。しかし、散らばった氷塊が目眩ましとなり、直後にコオリは二発目の氷塊を撃ち込む
「まだまだっ!!」
「ガウッ!?」
矢継ぎ早に氷塊を繰り出したコオリにコボルトは慌てて頭を反らして回避するが、さらにコオリは三発目を繰り出す。今度はただの氷塊ではなく、それなりに魔力を込めた氷弾を撃ち込む。
「逃がすかっ!!」
「ガアッ!?」
コボルトは三度目の攻撃を見て焦った声をあげるが、上体を反らして氷弾さえも回避する。コボルトはファングよりも身軽で動きも素早く、自分の「連射」を悉く回避したコボルトにコオリは驚く。
(これも避けた!?だけど、まだ撃てるぞ!!)
コボルトは攻撃を躱すのに精いっぱいでコオリに反撃を仕掛ける余裕もなく、このまま攻撃を続ければコボルトに当たるのも時間の問題だった。
(氷硬弾で仕留めるか?いや、師匠から焦りは禁物だと言われただろ……まずは足を狙って動きを封じる!!)
不用意に急所を狙うのではなく、足を怪我させればコボルトは機動力を失い、戦況は一気にコオリが優位に立つ。しかし、彼の考えを読み取ったかのようにコボルトも行動を起こす。今まで逃げ回っていたコボルトだったが、唐突にコオリに向けて突進してきた。
「ガアアアッ!!」
「くっ!?」
コボルトは鋼鉄をも切断できる鋭い鉤爪を振りかざし、正面に立つコオリに目掛けて振り払う。しかし、何故かコボルトは途中で攻撃を止めた。
「ガアッ!?」
「ちっ!!」
途中で何故かコボルトは攻撃を止めた事でコオリへの攻撃が外れ、その隙を逃さずにコオリは杖を構えた。慌ててコボルトは離れて距離を取ると、その様子を見ていた教師たちが訝しむ。
「な、何だ?今、コボルトが止まったような……」
「学園長!!あのコボルトに何か仕掛けを施していたのですか?」
「いいえ、私はまだ何もしていないわ」
「へっ、あいつに助けなんて必要ないさ」
コオリがコボルトに襲われかけた時、マリアは彼を助けるために杖を構えていた。しかし、実際はコボルトがコオリを攻撃する寸前で止めた事で彼女は助ける必要はなくなった。
結界内に封じ込められたコオリを助けるためには結界を解除するか、あるいは結界を破壊する程の魔法を発動しなければならない。ここに集まった教師の中で後者の方法を実行できるのはマリアだけである。
「たくっ、今のは冷っとしたね……」
「な、何だ?どうしてコボルトは攻撃を止めたんだ?あの子が何かしたようには見えなかったが……」
「勘が鋭すぎたのさ。だから怖がって攻撃を辞めたんだよ」
「は?」
この場に存在する教師の中でバルルだけがコボルトが途中で攻撃を辞めた理由を見抜き、もしもコボルトがあのまま攻撃を続けていた場合、確実に死んでいた。
本来であれば大抵の魔術師は接近戦を苦手としており、敵が近付いてくる前に仕留めるのが魔術師の戦い方である。しかし、今のコオリは相手が接近してきたむしろ都合が良い。
(今のは危なかった……相打ちになるかと思った)
コボルトが接近してきた時、咄嗟にコオリは隠し持っていた小杖を取り出そうとしていた。コオリの杖は長すぎて接近戦では不利だが、小杖ならばリーチも短くて接近戦でも扱いやすい。今までは自分の杖に頼りっぱなしだったが、森での戦闘でコオリは二つの杖を使い分けて戦うようになった。
(さっきので警戒されたかもしれないけど……ここは行くしかない!!)
コオリは危険を承知でコボルトの位置を把握し、覚悟を決めて一気に駆け出す。
「うおおおおっ!!」
「ガアッ!?」
「ば、馬鹿な!?」
「止めろ、何を考えている!?」
「死ぬつもりか!?」
コボルトは突っ込んできたコオリを見て驚愕の表情を浮かべ、闘技台の外で観戦していた教師たちも激しく動揺した。魔術師が自ら標的に近付くなど普通ならば有り得ず、普通の魔術師ならば距離を保って相手に攻撃するのが定跡だった。だからこそ教師たちは彼の行動を見て大声を上げてしまう。しかし、その声は結界内の彼に届く事はない。
しかし、自ら危険に晒す事になると知りながらもコボルトに接近する。相手にどんな狙いがあろうと構わず、自分に向かってくる獲物を仕留めるために鉤爪を振りかざす。
「ガアアアアッ!!」
「うおおおおっ!!」
確実にコオリを仕留めるためにコボルトは腕を伸ばすが、背丈の問題でコボルトはコオリに攻撃を仕掛ける際は腕を振り下ろす形となる。一方でコオリは袖の中に隠していた小杖を取り出し、自分の杖を放り投げて小杖から氷硬弾を撃ち込む。
「ここだっ!!」
「アガァッ!?」
コボルトが腕を振り落とす前にコオリは小杖から氷硬弾を放ち、コボルトの胸元を撃ち抜く。いくら魔物と言えども心臓を撃ち抜かれた無事なはずがなく、コボルトは口元から血を滲ませながら立ち尽くす。
コオリが隠し武器を持っていたのを見抜いたまでは良かったが、獲物の方から向かって来たためにコボルトは野生の本能に従って安易に攻撃を仕掛けようとした。それが敗因となり、コオリの魔法の警戒を怠ってしまった。
「はあっ、はあっ……」
コボルトが死んだのを確認すると、コオリは全身から汗を流す。使用した魔法の回数はそれほどでもないが、緊張の糸が切れたせいで一気に疲労が襲い掛かり、立つ事もままならずに座り込む。
「え、あっ……」
「な、何が……起きたんだ?」
「これはいったい……」
「馬鹿な……これはどういう事だ!?」
結界越しに試合を観戦していた教師陣は目の前で起きた出来事を理解できず、タンも何が起きたのか訳が分からなかった。しかし、ただ一つだけ間違いなく言える事はコボルトは死亡し、それを倒したのは紛れもなくコオリだった。
「い、いったい何が……何をしたんだ!?」
「あんたの目は節穴かい?勝ったんだよ、うちの弟子がね。そんな事よりも何時まで結界を維持してるんだい?試合は終わったんだよ、さっさと解除しな!!」
「ぐぐぐっ……!?」
「……解除しなさい」
取り乱すタンに対してバルルは小馬鹿にするような態度を取ると、彼は学園長であるマリアに顔を向ける。マリアは闘技台を見て何か考え込んでいたが、すぐに教師たちに結界を解除するように指示を出す。
闘技台の結界が解除されると、闘技台の上に教師たちが押し寄せてコオリの元へ向かう。コオリは近づいてくる教師たちに驚くが、彼等からすればコオリがどんな魔法でコボルトを倒したのか気になって仕方がなかった。
「えっ!?し、しかし……」
「何をしている、早くせんか!!」
タンの言葉を聞いて柱の前に立っていた教師たちは困惑し、彼等は闘技台の上に設置された檻と中に眠っている魔物を見て戸惑う。そんな彼等にタンは舌打ちし、仕方なく学園長に許可を求めた。
「学園長!!結界を作動させても構いませんな!!」
「ええ、構わないわ」
「学園長もこうおっしゃっておられる!!さあ、早く結界を作動させよ!!」
「は、はい!!」
学園長が許可を出すと教師たちは柱に杖を構えて呪文を唱える。闘技台の四方に設置された柱が光り輝き始め、やがて柱の上に設置された緑色の水晶玉が光り輝き、闘技台全体がドーム状の光の膜につつまれる。
闘技台の四方に設置された柱には「結界石」と呼ばれる特別な魔石が埋め込まれ、この魔石を作動させると闘技台全体が魔力で構成された障壁に包み込まれる。この障壁は「結界」とも呼ばれ、魔法や物理攻撃に対して強い耐性を誇り、簡単には破壊できる代物ではない。
(これが結界か……もう逃げ場はなくなったな)
結界が闘技台を包み込むと周囲の音が聞こえなくなり、結界に閉じ込められた時点でコオリは外界から隔離された。これで外からの音は聞こえず、バルルが彼に助言する事もできない。また、コオリが窮地に陥っても助けに向かう事も不可能だった。
(こいつが今回の試験の対戦相手……ファングと似てるけど、手足の形が違うな)
闘技台に設置された檻を見てコオリは杖を構え、檻の中に閉じ込められている魔物の様子を伺う。魔物は今の所は檻の中に閉じこもっているが、その瞳は既にコオリの姿を捕えていた。
この時にマリアが懐中時計を取り出し、時間を確認する素振りを行う。すると檻の出入口を塞いでいる錠に紋様が浮き上がり、勝手に鍵が開いてしまう。それを見たコオリは檻自体が「魔道具」だと知り、時間を迎えると鍵が勝手に開いてしまう仕組みだと気付く。
――ガァアアアアッ!!
狼のような鳴き声を上げながら出てきたのはファングよりも一回り程大きな魔獣であり、その外見は狼と人間が合わさったような姿をしていた。頭部は完全に狼で全身に毛皮を生やしているが、手足に関しては狼よりも人間に近く、二足歩行の状態で檻から抜け出す。
(そうだ、思い出した……こいつはコボルトだ!!)
コオリは自分が子供の頃に読んだ絵本の中に出てきた魔物を思い出し、狼と人間のような特徴を持つ「コボルト」という魔物を思い出す。コボルトはファングやオークを上回る危険種であり、しかも獰猛で自分よりも格上の相手であろうと躊躇なく襲い掛かる。
「グゥウウウッ……!!」
「うっ……」
コボルトはコオリに視線を向けると牙を剥きだしにした状態で睨みつけ、口元から大量の涎を流す。そのコボルトの迫力にコオリは気圧されそうになるが、彼は杖を握りしめて向き合う。
先日に魔物との戦闘を経験したコオリだが、コボルトと対峙するのは初めてだが、絵本に記されていた内容が事実ならばコボルトは疾風のように駆け抜け、爪と牙は鋼鉄さえも切り裂く。
(絵本の内容が何処まで本当なのかは分からないけど……やるしかない!!)
怯えていても仕方がないと判断したコオリは杖を取り出すと、無詠唱で魔法を発動させて氷塊を作り出す。この時に闘技台の外で見守っていた教師たちは彼が無詠唱で魔法を発動させた事を驚く。
「い、今のを見ましたか!?あの子供、口元を開かずに魔法を発動させましたぞ!!」
「まさか、あの年齢で無詠唱を!?」
「むむっ……」
結界内に閉じ込められたコオリは教師たちの言葉は聞こえないが、闘技台の外にいる教師たち中の様子を伺える仕組みになっていた。彼等はコオリが無詠唱で魔法を発現させた事に驚き、いくら燃費が低い下級魔法といえど、コオリの年齢で無詠唱で魔法を発現させる生徒はこの学園にはいない。
(その程度の事で驚いてるんじゃないよ、馬鹿共め……)
教師たちが無詠唱で魔法を発動させたコオリを見て驚いてる姿にバルルは笑みを浮かべ、ここから彼等が更に驚く事になる事を彼女は確信していた。その一方でマリアの方はコオリに視線を向け、彼の行動を見逃さないようにする。
コオリは無詠唱で魔法を発動させると、まずは相手の対応を見てどんな能力を隠し持っているのか確かめるためにただの氷塊を撃ち込む。
「喰らえっ!!」
「ガアアッ!!」
迫りくる氷塊に対してコボルトは虫でも追い払うかのように軽く腕を振りかざし、鋭い爪で氷塊を粉々に打ち砕く。しかし、散らばった氷塊が目眩ましとなり、直後にコオリは二発目の氷塊を撃ち込む
「まだまだっ!!」
「ガウッ!?」
矢継ぎ早に氷塊を繰り出したコオリにコボルトは慌てて頭を反らして回避するが、さらにコオリは三発目を繰り出す。今度はただの氷塊ではなく、それなりに魔力を込めた氷弾を撃ち込む。
「逃がすかっ!!」
「ガアッ!?」
コボルトは三度目の攻撃を見て焦った声をあげるが、上体を反らして氷弾さえも回避する。コボルトはファングよりも身軽で動きも素早く、自分の「連射」を悉く回避したコボルトにコオリは驚く。
(これも避けた!?だけど、まだ撃てるぞ!!)
コボルトは攻撃を躱すのに精いっぱいでコオリに反撃を仕掛ける余裕もなく、このまま攻撃を続ければコボルトに当たるのも時間の問題だった。
(氷硬弾で仕留めるか?いや、師匠から焦りは禁物だと言われただろ……まずは足を狙って動きを封じる!!)
不用意に急所を狙うのではなく、足を怪我させればコボルトは機動力を失い、戦況は一気にコオリが優位に立つ。しかし、彼の考えを読み取ったかのようにコボルトも行動を起こす。今まで逃げ回っていたコボルトだったが、唐突にコオリに向けて突進してきた。
「ガアアアッ!!」
「くっ!?」
コボルトは鋼鉄をも切断できる鋭い鉤爪を振りかざし、正面に立つコオリに目掛けて振り払う。しかし、何故かコボルトは途中で攻撃を止めた。
「ガアッ!?」
「ちっ!!」
途中で何故かコボルトは攻撃を止めた事でコオリへの攻撃が外れ、その隙を逃さずにコオリは杖を構えた。慌ててコボルトは離れて距離を取ると、その様子を見ていた教師たちが訝しむ。
「な、何だ?今、コボルトが止まったような……」
「学園長!!あのコボルトに何か仕掛けを施していたのですか?」
「いいえ、私はまだ何もしていないわ」
「へっ、あいつに助けなんて必要ないさ」
コオリがコボルトに襲われかけた時、マリアは彼を助けるために杖を構えていた。しかし、実際はコボルトがコオリを攻撃する寸前で止めた事で彼女は助ける必要はなくなった。
結界内に封じ込められたコオリを助けるためには結界を解除するか、あるいは結界を破壊する程の魔法を発動しなければならない。ここに集まった教師の中で後者の方法を実行できるのはマリアだけである。
「たくっ、今のは冷っとしたね……」
「な、何だ?どうしてコボルトは攻撃を止めたんだ?あの子が何かしたようには見えなかったが……」
「勘が鋭すぎたのさ。だから怖がって攻撃を辞めたんだよ」
「は?」
この場に存在する教師の中でバルルだけがコボルトが途中で攻撃を辞めた理由を見抜き、もしもコボルトがあのまま攻撃を続けていた場合、確実に死んでいた。
本来であれば大抵の魔術師は接近戦を苦手としており、敵が近付いてくる前に仕留めるのが魔術師の戦い方である。しかし、今のコオリは相手が接近してきたむしろ都合が良い。
(今のは危なかった……相打ちになるかと思った)
コボルトが接近してきた時、咄嗟にコオリは隠し持っていた小杖を取り出そうとしていた。コオリの杖は長すぎて接近戦では不利だが、小杖ならばリーチも短くて接近戦でも扱いやすい。今までは自分の杖に頼りっぱなしだったが、森での戦闘でコオリは二つの杖を使い分けて戦うようになった。
(さっきので警戒されたかもしれないけど……ここは行くしかない!!)
コオリは危険を承知でコボルトの位置を把握し、覚悟を決めて一気に駆け出す。
「うおおおおっ!!」
「ガアッ!?」
「ば、馬鹿な!?」
「止めろ、何を考えている!?」
「死ぬつもりか!?」
コボルトは突っ込んできたコオリを見て驚愕の表情を浮かべ、闘技台の外で観戦していた教師たちも激しく動揺した。魔術師が自ら標的に近付くなど普通ならば有り得ず、普通の魔術師ならば距離を保って相手に攻撃するのが定跡だった。だからこそ教師たちは彼の行動を見て大声を上げてしまう。しかし、その声は結界内の彼に届く事はない。
しかし、自ら危険に晒す事になると知りながらもコボルトに接近する。相手にどんな狙いがあろうと構わず、自分に向かってくる獲物を仕留めるために鉤爪を振りかざす。
「ガアアアアッ!!」
「うおおおおっ!!」
確実にコオリを仕留めるためにコボルトは腕を伸ばすが、背丈の問題でコボルトはコオリに攻撃を仕掛ける際は腕を振り下ろす形となる。一方でコオリは袖の中に隠していた小杖を取り出し、自分の杖を放り投げて小杖から氷硬弾を撃ち込む。
「ここだっ!!」
「アガァッ!?」
コボルトが腕を振り落とす前にコオリは小杖から氷硬弾を放ち、コボルトの胸元を撃ち抜く。いくら魔物と言えども心臓を撃ち抜かれた無事なはずがなく、コボルトは口元から血を滲ませながら立ち尽くす。
コオリが隠し武器を持っていたのを見抜いたまでは良かったが、獲物の方から向かって来たためにコボルトは野生の本能に従って安易に攻撃を仕掛けようとした。それが敗因となり、コオリの魔法の警戒を怠ってしまった。
「はあっ、はあっ……」
コボルトが死んだのを確認すると、コオリは全身から汗を流す。使用した魔法の回数はそれほどでもないが、緊張の糸が切れたせいで一気に疲労が襲い掛かり、立つ事もままならずに座り込む。
「え、あっ……」
「な、何が……起きたんだ?」
「これはいったい……」
「馬鹿な……これはどういう事だ!?」
結界越しに試合を観戦していた教師陣は目の前で起きた出来事を理解できず、タンも何が起きたのか訳が分からなかった。しかし、ただ一つだけ間違いなく言える事はコボルトは死亡し、それを倒したのは紛れもなくコオリだった。
「い、いったい何が……何をしたんだ!?」
「あんたの目は節穴かい?勝ったんだよ、うちの弟子がね。そんな事よりも何時まで結界を維持してるんだい?試合は終わったんだよ、さっさと解除しな!!」
「ぐぐぐっ……!?」
「……解除しなさい」
取り乱すタンに対してバルルは小馬鹿にするような態度を取ると、彼は学園長であるマリアに顔を向ける。マリアは闘技台を見て何か考え込んでいたが、すぐに教師たちに結界を解除するように指示を出す。
闘技台の結界が解除されると、闘技台の上に教師たちが押し寄せてコオリの元へ向かう。コオリは近づいてくる教師たちに驚くが、彼等からすればコオリがどんな魔法でコボルトを倒したのか気になって仕方がなかった。
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