氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第50話 街中の攻防

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「お前等、やっているようだな」
「その声は……お頭!!」
「お頭って……うわっ!?」


何処からか男の声が響き、コオリは声のした方に振り返ると、いつの間にか尾行していた男が立ち尽くしていた。長髪のカツラと帽子で誤魔化しているが、間違いなくミイナの睨んだ通り手配書に記された賞金首の男で間違いなかった。

他の獣人と違って彼だけは自力で壁を登って来たらしく、その証拠に両手の指先だけが汚れていた。改めてみると先日にコオリが遭遇した誘拐犯よりも一回りは大きい。


(くそっ、何時から気付かれていたんだ?いや、それよりもこの状況を何とかしないと……)


コオリの前に現れた獣人達はどうやら賞金首の男の手下らしく、この状況を切り抜けるには戦うしか道はない。逃げるにしても既に取り囲まれているため、何とかこの状況を脱するためにコオリは両手の杖を構える。


「……気をつけて、こいつらは私と同じ
「大丈夫、分かってるよ」
「へへへっ……今日は高い酒が飲めそうだぜ。お前等、やれ!!」
「「「へいっ!!」」」


賞金首の男が指示すると盗賊達は武器を構え、徐々にコオリとミイナと距離を詰めてくる。それを見たミイナは両手を広げるとまずは自分から魔法を発動させる。


「炎爪」
「うおっ!?」
「あちちっ!?」
「ちっ、魔拳士か!?」


両手に火属性の魔力を集中させる事で炎の爪を纏ったミイナに盗賊達は怯み、慌てて距離を取った。彼女が魔法を使った姿を見て賞金首の男はすぐに「魔拳士」だと見抜き、即座に自分も身構えた。

炎爪を見て怯んだ盗賊達を見てコオリは隙を逃さずに両手の杖を構え、相手がミイナと同じ獣人族ならば「氷弾」は避けられる可能性がある。だが、それでもコオリは敢えて氷弾を撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「うおおっ!?」
「な、何だ!?」
「避けろ!?」


二つの杖から発射された氷弾を見て獣人達は慌てて回避するが、ミイナと違って動きの精細さに欠ける。そこでコオリは敢えて二つの氷弾を操作し、軌道を変化させて背後から狙う。


「喰らえっ!!」
「うぎゃあっ!?」
「いでぇっ!?」


まさか氷弾が戻ってくるとは思わず、獣人の二人の後頭部と背中に強打した。威力は抑えてあるので死ぬ事はないが、頭に衝撃が走った獣人は白目を剥いて気絶し、もう片方の男も背中を抑えて跪く。それを見て賞金首のガイルは注意した。


「馬鹿野郎!!相手はガキだからって油断するな!!仮にも魔術師なんだぞ!!」
「す、すいやせん!!」
「もう怒ったぞ!!俺が捕まえて……はうっ!?」
「……油断大敵」


コオリに襲い掛かろうとした獣人の一人にミイネは背後から迫り、股間を全力で蹴り上げた。男の急所を打たれた獣人はその場で股間を抑えて動けなくなり、それを見てコオリは親指を立てる。


「た、助かったよ……容赦ないね」
「バルルから男と戦う時は股間を集中的に狙えと言われたから……」
「「「ひいっ!?」」」
「阿保か!!ガキ相手にびびってんじゃねえ!?」


ミイナの言葉に他の獣人も咄嗟に股間を抑えるが、これで三人は動けなくなった。この調子でいけば勝てるのではないかとコオリは思ったが、ミイナの狙いは別にあった。

三人の獣人を倒した事で包囲網は既に瓦解し、その隙を逃さずにミイナは駆け出してコオリの元に向かう。この時にミイナは右腕に纏った炎爪を解除すると、コオリの腕を掴んで隣の建物に目掛けて飛び込む。


「にゃあっ!!」
「うわぁああっ!?」


ミイナに引っ張られる形でコオリは隣の建物に目掛けて飛び込み、彼女の力も借りたお陰でどうにか屋根に着地する事ができた。だが、それを見ていた獣人達は慌てて追いかけようとする。


「逃がすか!!」
「追えっ!!絶対に捕まえろ!!」
「うおおおおっ!!」


獣人達も二人の後に続いて屋根の上を駆け抜けて飛び越えようとしてくる。それを見たミイナは盗賊達に追いつかれる前にコオリの腕を掴み、急いで屋根の上を駆けていく。


「こっち!!」
「うわっ!?」


建物を飛び越える際の着地の衝撃でコオリは足が痺れてしまい、普通の人間である彼が獣人族のように建物を飛び越えて移動するのは無理があった。それでもミイナはコオリの腕を引っ張って無理やり駆け抜けようとしたが、獣人の一人が短剣を取り出す。


「逃がすか!!おらぁっ!!」
「うわっ!?」
「危ない!!」


コオリに目掛けて短剣が投げ放たれ、それを見たミイナは咄嗟に鉤爪を振り払って弾き返す。危うく死にかけたコオリを見てガイルは部下に怒鳴りつけた。


「馬鹿野郎!!殺すつもりか!?死んだら売れないだろうが!!」
「す、すいやせん!?」


短剣を投げつけた男にガイルが怒鳴りつけ、彼等の狙いはあくまでも二人を生け捕りにして売り払うつもりだった。だからこそ下手に傷をつけるような真似はできず、それがコオリとミイナにとっては都合が良かった。


「コオリ!!足場を作れる!?」
「足場?わ、分かった!!」


ミイナの言葉にコオリは彼女の考えを悟り、二つの杖から氷塊を生み出す。そして遠くに離れている建物の中間の位置に氷塊を集結させ、空中に足場を生み出す。人間であるコオリでは跳び越えるのは難しいが、獣人族のミイナの運動能力ならば十分に足場として利用して跳び越えるができた。


「にゃあっ!!」
「わああっ!?」
「な、何だと!?」
「馬鹿なっ!?」
「あの距離を飛びやがった!?」


ミイナに抱えられる形でコオリは跳び込み、二人は空中に浮かんだ氷塊を足場にして遠く離れている建物の屋根の上に着地した。獣人達も後を追いかけてくるが、この時に先走った男がコオリの作り出した氷塊の円盤に乗り込もうとした。


「ちっ、こんなもんで逃がすかよ!!」
「おっと……そこ危ないですよ」
「えっ……うわああああっ!?」


自分が作り出した氷塊を利用して飛び込もうとした男を見て、咄嗟にコオリは杖を振ると集結させていた氷塊をばらけて足場を崩す。急に足場を失った男は空中で身動きが取れず、悲鳴を上げながら地上へ落下した。かなりの高さはあるが、人間よりも頑丈な獣人族ならば死ぬ事はない。


「馬鹿か!!何をしてやがる!?」
「お頭!!あ、あいつら只者じゃありませんぜ!?」
「怖気づくな!!相手はガキだぞ!?」


仲間が二人もやられた事で獣人達を警戒するが、ガイルだけは彼等を怒鳴りつけて後を追うように告げる。それを見たミイナは何か思いついたのか、彼女は足を止めて小馬鹿にしたような態度を取る。


「……ぷっ、ださい」
「ちょ、ミイナ!?」
「こ、このガキ共!!」
「ぶっ殺してやる!!」
「あ、馬鹿!?挑発に乗るな!!」


ミイナの子供じみた挑発に盗賊の内の二人が激怒し、切れた勢いで二人の立っている建物に跳躍しようとしてきた。それに対してミイナは両手に炎爪を纏うと、空中から迫る二人の盗賊に目掛けて思いもよらぬ攻撃を繰り出す。


「ていっ」
「うわっ!?」
「ぎゃああっ!?」


自分達の元に跳躍しようとした二人組に対し、ミイナは同時に跳び込んで二人の男の頭を蹴りつけ、その反動で自分は屋根の上に戻る。一方で蹴りつけられた獣人二人は地上へと落下してしまう。

これで合計で殆どの獣人が戦闘不能に陥り、残されたのはガイルと部下一人だけとなった。しかも最後に残った獣人の男は怯えた表情を浮かべ、賞金首の男に縋りつく。


「お、お頭!!こいつら普通のガキじゃありませんぜ!?もう諦めましょう!!」
「……そうだな、諦めるか」
「「えっ!?」」


部下の言葉に意外な事に賞金首の男は賛同し、まさか本当に諦めるのかとコオリとミイナは驚いていると、男は笑みを浮かべて最後に残った盗賊の頭を鷲掴む。


「勘違いするな、俺が諦めると言ったのはに捕まえるのを諦めたという事だ」
「お、おかし……あがぁあああっ!?」
「なっ!?」
「何を……!?」


頭を握りしめられた部下の男の悲鳴が響き渡り、唐突なガイルの行動にコオリ達は戸惑う。ガイルは男を力ずくで持ち上げると、コオリに向かって叫んだ。


「こいつを今から地面に叩き落とす!!お前が助けなければ確実に死ぬぞ!?」
「えっ!?」
「お、お頭何を……ぎゃああああっ!?」
「嘘!?」


ガイルは本当に上空に向けて男を投げ飛ばし、牛型の獣人族の怪力で投げ飛ばされたら男は天高く舞い上がる。流石の獣人族と言えども地上に落ちたら死ぬ高さであり、何とか男が地上に落ちる前にコオリは散らばっていた氷塊を集結させる。


(間に合うか!?)


男が地上に墜落する前にコオリは氷塊を身体の下に潜り込ませ、どうにか落下の衝撃を殺す事に成功した。男は恐怖のあまりに気絶したのか空中に浮かんだまま動かず、それを見てコオリは安堵した。


「ふうっ……間に合った」
「違う!!コオリ、早くそいつを下ろして!!」
「え?」


ミイナの言葉にコオリは呆気に取られると、ガイルは空中に浮かんだ男を見て笑みを浮かべた。彼は屋根の上から跳躍すると、空中に浮かんだままの男を足場にしてコオリ達のいる屋根の上に着地する。

これまでの戦闘でガイルはコオリとミイナが部下達を殺さずに無力化させている事から、二人は人殺しはできないと判断した。その甘さに付け込んで部下を殺すふりをすればお人好しの二人ならば見逃すはずがなく、必ず落とした男を救う行動を取る。そしてガイルの策略に嵌まった二人は窮地に立たされた。
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