363 / 1,110
旋斧の秘密
第353話 鋼鉄の拳
しおりを挟む
「うわっ!?」
ナイは転んで倒れる寸前、運が悪い事に樹木が近くに立っていた。このままでは樹木に頭をぶつけてしまうと判断したナイは咄嗟に腕を構えると、腕の筋肉が変化した。
無意識にナイは先ほど覚えたばかりの「硬化」の技能を発動したらしく、腕が樹木に当たった瞬間、まるで鋼鉄の棒に叩きつけられたように樹木に強い振動が走る。その光景を確認したナイは焦った表情を浮かべ、何とか起き上がると自分の腕に視線を向けた。
「掠り傷一つもない……これが硬化の技能か」
咄嗟に腕で頭を庇って転んでしまったが、硬化の技能によって腕の筋肉が凝縮されて防御力を上昇したらしく、逆に腕と衝突した樹木の方が凹んでしまう。
「まるで赤毛熊になった気分だな……」
赤毛熊も鋼鉄のような肉体の硬度を誇るが、ナイの場合もそれに匹敵する防御法を手にした。これならば戦闘でも大いに役立つと考えられ、試しにナイは拳を「硬化」させる事ができないのかを試す。
(この状態で殴ったらどうなるんだろう?)
拳を「硬化」で強化させ、そこから「剛力」を組み合わせて腕力を強化させた状態で地面に拳を振り下ろす。地面に振動が走り、ナイの拳が地面にめり込む。
「うわっ!?何だこの威力……まるで鉄球でも落ちたみたいだ」
鋼鉄と同程度の硬度を誇る拳が地面に叩き込まれた事により、ナイが拳を引き抜くと地面には拳の形をした窪みが出来た。生半可な力ではこのような窪みが出来る事はあり得ず、力だけに任せて殴ってもこんな事はできない。
本物の金属のように硬い拳と圧倒的な腕力がなければ地面に拳の窪みを残す事はできず、改めてナイは戦闘に役立ちそうな技能を手に入れた事を実感する。もしも素手で戦う場合、この技能だけでも戦える。
「今なら赤毛熊でも殴り飛ばせそうだ」
冗談ではなく、今の自分ならば素手でも赤毛熊と戦えるだけの力を手に入れた。しかし、まだ使い慣れていない技能を使ったせいで疲れてしまい、そろそろ休もうかと思った時、地面に突き刺した岩砕剣が倒れ込む。
「あ、剣が……さっき殴ったせいか」
先ほど地面に拳を叩きつけた際に振動が走り、その振動で岩砕剣が地面に倒れてしまった。その光景を見たナイは岩砕剣を拾い上げると、この時にナイは持ち上げる際に違和感を抱く。
「あれ、力は要らない……そうか、殴った時に腕が痺れていたのか」
地面に殴りつけた影響でナイは右腕が痺れている事に気付き、拳自体は無傷ではあるが、殴りつけた際の衝撃はナイの肉体にも負担を与えていた。
痺れた腕を抑えながらもナイは反対の腕で岩砕剣を掴み、持ち上げようとするが「剛力」の技能を使わないと片腕ではまだ持ち上げられなかった。
(旋斧なら片手でも何とか振り回せるけど、こっちの岩砕剣は無理そうだな……もっと軽ければ二つの剣を使えたかもしれないのに……)
今のナイの筋力ならば旋斧でも片手で扱える事はできなくはないが、旋斧よりも重量が大きい岩砕剣を片手で持つのは無理があった。現状では二つの剣を同時に使用して戦う事はできず、使い分けて戦うしかない。
ナイはいつもの癖で岩砕剣を背中に背負おうとした時、旋斧を既に背負っている事を忘れていた。この際に旋斧と岩砕剣が触れた瞬間、一瞬だが二つの刃が振動した。
「うわっ!?な、何だ……!?」
刃が振動した瞬間に岩砕剣を手放し、ナイは驚いて振り返るとそこには地面に倒れた岩砕剣だけがあった。戸惑いながらもナイは岩砕剣に触れるが、特に何も起きない。
「……気のせいだったのな?」
恐る恐るナイは旋斧を岩砕剣に近付け、刃を重ねてみるが今度は何も起きない。不思議に思いながらもナイは岩砕剣を持ち上げ、休む事にした――
――時は少し遡り、アルトとの対談を終えた国王は玉座の間にある人物を呼び出す。その人物は闘技場の経営を任されているアッシュであり、彼は国王の話を聞いて驚愕の表情を浮かべた。
「陛下……それは本気ですか?」
「うむ、本気じゃ……あの少年の実力を確かめるため、お前にも協力してほしい」
「はっ……それが陛下のお望みならば」
アッシュは国王に頭を下げ、臣下である以上は彼の言う事には従わなければならない。しかし、そのあまりの内容にアッシュも戸惑いを隠せない。
国王の要求は明日のナイのために用意した対戦相手の変更、しかもその変更した相手が魔物の類ではなく、武人である事だった。国王はアルトの言葉の真意を調べるため、この国でも最高の武人を用意させた――
ナイは転んで倒れる寸前、運が悪い事に樹木が近くに立っていた。このままでは樹木に頭をぶつけてしまうと判断したナイは咄嗟に腕を構えると、腕の筋肉が変化した。
無意識にナイは先ほど覚えたばかりの「硬化」の技能を発動したらしく、腕が樹木に当たった瞬間、まるで鋼鉄の棒に叩きつけられたように樹木に強い振動が走る。その光景を確認したナイは焦った表情を浮かべ、何とか起き上がると自分の腕に視線を向けた。
「掠り傷一つもない……これが硬化の技能か」
咄嗟に腕で頭を庇って転んでしまったが、硬化の技能によって腕の筋肉が凝縮されて防御力を上昇したらしく、逆に腕と衝突した樹木の方が凹んでしまう。
「まるで赤毛熊になった気分だな……」
赤毛熊も鋼鉄のような肉体の硬度を誇るが、ナイの場合もそれに匹敵する防御法を手にした。これならば戦闘でも大いに役立つと考えられ、試しにナイは拳を「硬化」させる事ができないのかを試す。
(この状態で殴ったらどうなるんだろう?)
拳を「硬化」で強化させ、そこから「剛力」を組み合わせて腕力を強化させた状態で地面に拳を振り下ろす。地面に振動が走り、ナイの拳が地面にめり込む。
「うわっ!?何だこの威力……まるで鉄球でも落ちたみたいだ」
鋼鉄と同程度の硬度を誇る拳が地面に叩き込まれた事により、ナイが拳を引き抜くと地面には拳の形をした窪みが出来た。生半可な力ではこのような窪みが出来る事はあり得ず、力だけに任せて殴ってもこんな事はできない。
本物の金属のように硬い拳と圧倒的な腕力がなければ地面に拳の窪みを残す事はできず、改めてナイは戦闘に役立ちそうな技能を手に入れた事を実感する。もしも素手で戦う場合、この技能だけでも戦える。
「今なら赤毛熊でも殴り飛ばせそうだ」
冗談ではなく、今の自分ならば素手でも赤毛熊と戦えるだけの力を手に入れた。しかし、まだ使い慣れていない技能を使ったせいで疲れてしまい、そろそろ休もうかと思った時、地面に突き刺した岩砕剣が倒れ込む。
「あ、剣が……さっき殴ったせいか」
先ほど地面に拳を叩きつけた際に振動が走り、その振動で岩砕剣が地面に倒れてしまった。その光景を見たナイは岩砕剣を拾い上げると、この時にナイは持ち上げる際に違和感を抱く。
「あれ、力は要らない……そうか、殴った時に腕が痺れていたのか」
地面に殴りつけた影響でナイは右腕が痺れている事に気付き、拳自体は無傷ではあるが、殴りつけた際の衝撃はナイの肉体にも負担を与えていた。
痺れた腕を抑えながらもナイは反対の腕で岩砕剣を掴み、持ち上げようとするが「剛力」の技能を使わないと片腕ではまだ持ち上げられなかった。
(旋斧なら片手でも何とか振り回せるけど、こっちの岩砕剣は無理そうだな……もっと軽ければ二つの剣を使えたかもしれないのに……)
今のナイの筋力ならば旋斧でも片手で扱える事はできなくはないが、旋斧よりも重量が大きい岩砕剣を片手で持つのは無理があった。現状では二つの剣を同時に使用して戦う事はできず、使い分けて戦うしかない。
ナイはいつもの癖で岩砕剣を背中に背負おうとした時、旋斧を既に背負っている事を忘れていた。この際に旋斧と岩砕剣が触れた瞬間、一瞬だが二つの刃が振動した。
「うわっ!?な、何だ……!?」
刃が振動した瞬間に岩砕剣を手放し、ナイは驚いて振り返るとそこには地面に倒れた岩砕剣だけがあった。戸惑いながらもナイは岩砕剣に触れるが、特に何も起きない。
「……気のせいだったのな?」
恐る恐るナイは旋斧を岩砕剣に近付け、刃を重ねてみるが今度は何も起きない。不思議に思いながらもナイは岩砕剣を持ち上げ、休む事にした――
――時は少し遡り、アルトとの対談を終えた国王は玉座の間にある人物を呼び出す。その人物は闘技場の経営を任されているアッシュであり、彼は国王の話を聞いて驚愕の表情を浮かべた。
「陛下……それは本気ですか?」
「うむ、本気じゃ……あの少年の実力を確かめるため、お前にも協力してほしい」
「はっ……それが陛下のお望みならば」
アッシュは国王に頭を下げ、臣下である以上は彼の言う事には従わなければならない。しかし、そのあまりの内容にアッシュも戸惑いを隠せない。
国王の要求は明日のナイのために用意した対戦相手の変更、しかもその変更した相手が魔物の類ではなく、武人である事だった。国王はアルトの言葉の真意を調べるため、この国でも最高の武人を用意させた――
10
あなたにおすすめの小説
白の魔女の世界救済譚
月乃彰
ファンタジー
※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。
白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。
しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。
そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜
雪月風花
ファンタジー
この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。
そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。
王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。
【完結】イモリから始める異世界転生
里見知美
ファンタジー
井守聖子50歳。子猫を救おうとして用水路に転落して溺死。
気がついたら、白い部屋で神様と面接してました。
本当なら98歳で天寿を全うするところを、半分くらいでうっかり尽きてしまった私の命を拾った神様が言うことに。
「ちょっと人助けのバイトしない?」
人助けのバイトをして『徳』が貯まったら、次の人生は美味しいチート付きのを用意します、との事。
ええー、もう30年以上看護婦として仕事してきたんですよ、死んでもまだ仕事ですか。
……でもチート付きの人生、ちょっと気になる。
まあバイトだと思えば、気も楽か。
というわけで私、転生しました。
============================
完結しました!ちょっと前に書いて、途中やりになっていた作品を書き直しています。
未完なので、ぼちぼち完成させようと思います。気長にお付き合いいただけると嬉しいです。
カクヨムとなろうでも同作同時掲載しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる