貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
569 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第555話 国王の決断

しおりを挟む
――結果から言えば、国王はシノビの願いに対して彼は「保留」を選択した。和国の領地を返還するとなると彼だけでは決める事は出来ず、重臣と相談した上で話し合わねばならない。

和国の領地は現在は完全に放置されており、そもそも今回現れたゴブリンキングのせいで和国の旧領地には人間が暮らしていない。ちなみにナイが暮らしていた村も和国の旧領地だと判明している。

連日に国王は重臣を集めて話し合いを行い、数十本の魔剣を手に入れる事ができれば王国の戦力は強化され、マジク魔導士が抜けた穴を埋めるどころか、補って余りある戦力が手に入る。しかし、シノビの言葉だけを信じて本当にあるかどうかも分からない数十本の魔剣のために和国の領地を返還するかどうかで議論は揉めてしまう。

結局はシノビの要求を引き受けるか否かは今後の彼の働き次第であり、シノビがリノ王女の側近として功績を上げれば信頼を得られる。そして何時の日か彼が信頼に値する人間だと判断されれば国王も和国の返還を認めてくれるかもしれない可能性があった――




「――ナイ殿、此度の件は誠に感謝いたします」
「ナイ殿のお陰で拙者達の夢に一歩近付けたでござる」
「いや、そんな……頭を上げてください」


ナイの元にシノビとクノは訪れると、彼に対して膝を着いてお礼を告げる。シノビが国王と邂逅する事が出来たのはナイのお陰であり、いくらリノの側近とはいえ、彼の立場からすれば国王に話を聞いてもらうなど簡単な事ではない。

シノビは今後もリノの側近として活動し、彼女のために尽くす事を国王に誓う。彼女の元でシノビは功績を上げ、周囲の信頼を築く事が出来れば和国の再興に近付ける。そしてクノの方は今回の一件でナイに恩義を感じ、もしも困った時があれば自分の力を貸す事を誓う。


「ナイ殿、これをお受け取りくだされ」
「え?これは?」
「犬笛でござる。一キロ以内であればその笛を吹けばクロとコクを呼び出せるでござるよ」
「犬笛?」
「シノビ一族に伝わる特殊な犬笛でござる。必ず役に立つと思うから肌身離さず持っていてほしいでござる」
「へえっ……ありがとうございます」


犬笛を受け取ったナイは懐にしまうと、シノビとクノは仕事に戻るという事で部屋から立ち去る。


「それではナイ殿、拙者達に用事がある時はその犬笛を使ってくだされ」
「今後は我々もクロとコクと常に行動する事になるだろう。気兼ねなく、使ってくれ」
「あ、はい……って、もう行っちゃった!?」


ナイは一瞬だけ目を離した隙に二人は姿を消し去り、こうしてナイはシノビたちを呼び出せる犬笛を手に入れた――





――同時刻、冒険者ギルドは賑わっていた。何しろ王都の黄金級冒険者であるリーナ達が勲章を手に入れた事でギルドの信頼はより一層に増し、他の地方も仕事も増えた。そのお陰で冒険者達はリーナ達を称える。


「いや、本当に黄金級冒険者様様だぜ」
「あいつらのお陰でまた仕事が増えたし、俺達ももっと稼げるようになったしな」
「そういえば黄金級冒険者といえば……あいつらは最近、顔を見てないな」


世界に十人もいないと言われている黄金級冒険者だが、王都で活動する黄金級冒険者はハマーン、ガオウ、リーナの三人以外に実は二人ほど黄金級冒険者が存在する。

この二人は王都内の冒険者の中でも一、二を争う実力者として知られ、現在は遠征して仕事を引き受けており、この数か月は姿を見せていない。


「あの二人が居たらこの間の討伐隊にも参加させられただろうな」
「そうだな、もしかしたらあの二人が居たらマジク魔導士も死ぬ事はなかったかもな……」
「それを言うなよ……でも、そう考えるのも無理はないよな」


黄金級冒険者の中でも格の違いは存在し、リーナもガオウもハマーンも優秀な冒険者には違いないが、三人と比べても他の二人の冒険者は

実際にこの二人の凄い所は、本来ならば冒険者集団《パーティ》を組んで挑むような危険な仕事でも必ずやり遂げて戻ってくる。そしてこの二人は既に国から勲章を受け取っている立場であった。


「あいつら、戻ってきたらとんでもない騒ぎになるだろうな……」
「違いねえな……まあ、その内に戻ってくるだろ」
「俺としては戻ってきてほしくないな……あいつらが居ると騒がしいからな」


冒険者達は戻ってこない二人の黄金級冒険者について話題が盛り上がっていると、ここでギルドの出入口の扉が開け開かれる。そして中に入ってきた人物を見た瞬間、冒険者達は呆気に取られて黙り込む。



『――ふはははっ!!我、帰還!!』
「…………」



ギルドに戻って来たのは全身に甲冑を纏った大きさは4メートル近くの巨人族の剣士と、その隣には仮面で顔を隠した金髪の女性が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花
ファンタジー
 この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。  そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。  王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...