貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
617 / 1,110
王都の異変

第608話 体験入団

しおりを挟む
――突拍子もないテンの提案に対してナイは困惑したが、彼女の考えを聞いてナイも真面目に考え、確かに自分が王国騎士という職業をよく理解していないので実際に体験するという案は一理あると思った。そこでナイはテンの提案を受け入れ、各王国騎士団に話を通して仮入団という形で世話になる事が決まる。

王国騎士団は最近になって復活した聖女騎士団を含めると5つ存在し、まずは国王の直属の騎士団である「猛虎騎士団」他にはバッシュ王子が管理する「金狼騎士団」リノ王女の「銀狼騎士団」アルト王子の「白狼騎士団」最後にテンが率いる「聖女騎士団」の5つで構成されている。

一応は王国騎士団以外の騎士団は存在するが、王国を代表する騎士団はこの5つであり、猛虎騎士団の団長であるロランは大将軍も兼任しており、現在は国境の守備を任されているので王都にはいない。

そこでナイは聖女騎士団を除いた三つの騎士団に仮入団する事が気まり、最初にナイが世話になるのはバッシュ王子が率いる金狼騎士団だった。


「これからよろしくお願いします。バッシュ王子様、ドリス副団長」
「ああ、よろしく頼む……それとこれからは騎士団に在籍している間は俺の事は団長と呼べ」
「遂にこの日が来ましたわね、歓迎しますわナイさん!!」


ナイは黒狼騎士団の装着する鎧を身に付け、一週間の間だが金狼騎士団の団員として過ごす事が決まる。一週間が経過すれば三日ほど休みを挟み、新しい騎士団に仮入団する。約一か月を掛けてナイは三つの騎士団の仕事ぶりを学ぶ予定である。


「ドリス、お前が面倒を見てやれ。今日の所は我々の仕事を見学してもらうだけでいい。本格的に仕事を行うのは明日からでいいだろう」
「分かりましたわ!!ではナイさん、しっかりと私達の仕事ぶりを見ておいてください!!」
「あ、はい……分かりました、副団長」
「では、しっかりと私に付いて来て下さい!!」


仮入団とはいえ、ナイが騎士団に入ってくれた事にドリスは嬉しく思い、バッシュも心なしか機嫌が良さそうだった。そして今日一日はナイはドリスと共に行動し、金狼騎士団の仕事ぶりの観察を行う。


「王国騎士団は各地区に分かれて管理を任されているのは知っていますわね?金狼騎士団が管理するのは富豪区ですから、騎士団は定期的に富豪区の見回りを行いますわ」
「あれ?城下町は警備兵の人たちが見回りを行っているんじゃ……」
「もちろんその通りですわ。各地区には警備隊長が一人存在しますが、彼等は騎士団の配下です。彼等も功績を上げれば昇格し、王国騎士に昇格する事もありますわ」
「へえ、そうだったんですか……」


金狼騎士団は貴族などの上流階級の人間が暮らす富豪区の管理を任されており、この場所は王都でも重要人物が多く暮らしており、いずれはこの国を継ぐ事になるバッシュ王子だからこそ管理を任されている。

貴族たちの安全を守る事でバッシュは彼等の信頼を得ており、人望も厚い。富豪区に暮らす貴族の殆どが彼を支持しており、彼以外に富豪区の管理を任せられる人間はいないとさえ言われていた。


「富豪区に暮らす人間の殆どは貴族ですが、その貴族を狙って強盗を起こそうとする人間は多いですわ」
「そういえば例の吸血鬼も貴族を相手に強盗をしていたような……」
「ええ、あの吸血鬼には私達も本当頭を悩まされていましたわ……そういえばリンダからナイさんのお陰で捕まったと聞いております。その節は助かりましたわ」
「あ、いえ……気にしないでください」
「ちなみにあの吸血鬼はアッシュ公爵の元で二度と悪さをしないように躾けられているそうですわ。何度か脱走を試みようとしたそうですが、その度にお仕置きを与えているとか……」
「へ、へえっ……」


ゴブリンキラーと認定されたゴブリンの新種が脱走して以来、闘技場の警備は以前よりも強化されており、例の吸血鬼も魔物と同じように捕まっている。現在はアッシュが直々に少年の吸血鬼を教育しているらしく、改心の余地があるのならば釈放も考えられるが、脱走を計るような性格では釈放は難しいだろう。


「ここ最近の王都は雰囲気が怪しいですわ。以前よりも事件が多く発生しているそうですし……やはり、一時的にとはいえ私達が王都を離れていたのが原因かもしれません」
「イチノへ向かった時の事ですよね」
「ええ……あの時、王都の守護が疎かになりましたわ。その間にもしかしたら外部から悪党が流れ込んでいる可能性もあります」
「悪党?」
「ナイさんは闇ギルドの事を御存じですわね?奴等は王都だけではなく、他の街にも末端の組織を存在します。もしも私達が不在の時に外部から配下を招き寄せていたら……考えるだけで恐ろしいですわね」


あくまでもドリスの勘だが、王都の勢力が一時的に離れている間に闇ギルドが外部から仲間を呼び寄せていたと考えるだけで恐ろしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花
ファンタジー
 この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。  そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。  王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。

【完結】イモリから始める異世界転生

里見知美
ファンタジー
井守聖子50歳。子猫を救おうとして用水路に転落して溺死。 気がついたら、白い部屋で神様と面接してました。 本当なら98歳で天寿を全うするところを、半分くらいでうっかり尽きてしまった私の命を拾った神様が言うことに。 「ちょっと人助けのバイトしない?」 人助けのバイトをして『徳』が貯まったら、次の人生は美味しいチート付きのを用意します、との事。 ええー、もう30年以上看護婦として仕事してきたんですよ、死んでもまだ仕事ですか。 ……でもチート付きの人生、ちょっと気になる。 まあバイトだと思えば、気も楽か。 というわけで私、転生しました。 ============================ 完結しました!ちょっと前に書いて、途中やりになっていた作品を書き直しています。 未完なので、ぼちぼち完成させようと思います。気長にお付き合いいただけると嬉しいです。 カクヨムとなろうでも同作同時掲載しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...