貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第812話 王国最強の騎士団の意地

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「はあっ……はあっ……」
「おい、大丈夫なのか!?」


強化術の反動に襲われたナイは、岩砕剣を地面に突き刺す事でどうにか立ち尽くす。その様子を見てロランは彼が限界を迎えたと判断すると、ここでナイに吹き飛ばされたリョフが激高して立ち上がる。


「ぐうっ……こ、この俺が倒れた、だと……有り得ん!!」
「ば、馬鹿な!?あの一撃を受けてまだ動けるというのか!!」


普通なら死んでもおかしくはない一撃を喰らったが、死霊人形であるリョフにはどれほどの致命傷を与えたとしても、傷口は闇属性の魔力に覆い込まれてしまう。怪我の治療とは異なるが、傷口さえ塞げば身体は動かす事ができるため、死霊石を破壊しない限りはリョフが止まる事はない。

一度目は後退した事、二度目は地面に倒された事にリョフの誇りは傷つき、最強の武人と呼ばれ続けた自分が、大人にもなり切れていない子供に追い詰められたという事実にリョフは激しい怒りを抱く。


(認めん、認めんぞ……こんな奴に負けられるか!!)


ゴウカやジャンヌと戦った時、リョフは全力を出し尽くせる相手と巡り合えて歓喜した。この二人ならば自分を討ち取られても構わない、そう思うぐらいに彼は全力の戦闘を楽しめた。しかし、ナイの場合は何かが違う。

確かにナイの能力はジャンヌやゴウカにも引けを取らないが、彼の場合は能力は素晴らしいのに技量の方が未熟過ぎた。驚異的な身体能力を所有しているにも関わらず、その身体能力に頼り過ぎた戦い方から見ても彼が「武人」ではない事にリョフは気付いていた。


「認めん、俺はお前を認めんぞ……ナイ!!」
「くそっ……」


再生術を発動させてナイは強化術の反動を抑えようとするが、その間にもリョフは近づいてくる。しかし、この時に彼に立ちはだかる存在が居た。


「待て、リョフ……貴様の相手は俺だ!!」
「ロランさん……!?」
「……ふんっ、その怪我で俺に勝てると思っているのか!!」


ナイを庇うように立ったのはロランであり、彼は片方の刃が折れた両剣を構えるとリョフは負傷した彼を見て怒鳴り散らす。しかし、そんなリョフに対してロランは苦笑いを浮かべながら言い返した。


「子供を相手に本気を出すとは大人げない奴だ」
「何だと……!!」
「お前達、いつまで怯えている!!こんな子供が頑張っているというのにお前達は見ているだけか!?」
「「「っ……!!」」」


ロランの言葉にこれまで傍観していた他の王国騎士達は顔を見合わせ、急いでロランの元へ駆けつける。ナイを守るために大勢の騎士達が立ちふさがり、その先頭に立つのはロランだった。この状況下でロランはリョフに勝てるとは思っておらず、それでも希望があるとすればナイ以外にはいないと考えていた。


「リョフ、この子供を殺したければ我等全員を殺して見せろ!!」
「貴様等……本気で言っているのか?そんな子供にお前達は命を預けるつもりか?」
「ま、待ってください!!皆、下がって……」
「下がれぬ!!王国騎士は決して背中は見せん!!」


大将軍として、そして王国騎士としてロランは背中を見せるという失態をのナイの前で見せつけるわけにはいかず、彼を守るためにリョフに立ち塞がる。それは彼の配下の騎士達も同じであり、彼等は決死の覚悟を抱いてリョフと向き合う。

リョフはそんな彼等の覚悟を見て本気でナイのために命を散らすつもりだと判断し、仕方なく雷戟を構える。本来であればこの力は使うつもりなどなかったが、邪魔をするつもりならばもう容赦はしない。


「よかろう、そこまで死に急ぎたいというのであれば容赦はせんぞ……消え失せろ!!」
「ぐっ……!?」


雷戟をリョフは天空に翳すと、刃に黒色の電流が迸る。本来であれば雷戟は雷属性の魔力を宿す魔戟なのだが、現在のリョフの場合は闇属性の魔力を送り込む事で「黒雷」と化す。

闇属性と雷属性の魔力の性質を併せ持つ雷を纏わせ、リョフは雷戟を騎士達に構えた。その圧倒的な威圧感に騎士達は顔色を青ざめるが、それでも彼等はナイを守るために立ち向かう。


「子供一人を守れずに何が騎士だ……」
「死ぬときは皆一緒だぜ……」
「伝説の武人に殺される、悪くはないな……」
「お前達、よく言った……来い、リョフ!!」
「……良い度胸だ、ならば覚悟しろ!!」
「っ……!!」


自分の目の前で盾になろうとする人たちを見てナイは幼少期に自分のために死んでしまったアルの事を思い出す。その瞬間、ナイは我慢できずに煌魔石に手を伸ばして魔力を吸収する。
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