貧弱の英雄

カタナヅキ

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後日談

第873話 ある日の夢

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――ある日の晩、ナイは夢を見ていた。その夢はかつてアルとゴマンと出会った花畑と同じ場所だったが、この時はナイが一人だけでアルとゴマンの姿は見えなかった。


「あれっ……どうしてまたここに?」


花畑に立ち尽くしたナイは戸惑い、アルやゴマンの姿を必死に探すが彼等の姿は見えず、その代わりに背後から聞きなれない声が聞こえてきた。


「ナイ……」
「えっ……?」


声が聞こえたナイは振り返ろうとした瞬間、何者かのに後ろから抱きしめられた。驚いたナイだったが、抱きしめられた途端に何だか懐かしい感覚を味わう。

自分が今振り返れば相手の正体を確かめる事はできるが、ナイは何故か身体が思うように動かず、その間にも後ろから抱きついて来た人物は力を強める。ナイは暖かな感触を覚え、どうやら自分を抱きしめる相手が女性だと知る。


「あの……誰、ですか?」
「ナイ……ごめんなさい、貴方を守れなくて」
「守れなくて……?」


聞こえてくる声音も女性であり、ナイはいったい何者なのか気になったが、この時に自分が無意識に涙を流している事に気付く。女性に抱かれているだけでナイは不思議と温かく、同時に懐かしい気持ちを味わう。


(何だろう、この気持ち……この人の事を僕は知っている?)


女性が何者なのかはナイには心当たりはない、しかし抱きしめてくる女性を振り払う事はできず、そのまましばらくの間は彼女の好きにさせる。

やがて女性の力が弱まり、腕を離すとナイは遂に後方を振り返る。しかし、そこにはだれも存在せず、いつの間にかナイは花畑に流れている大きな川の前に立っていた。


「この川は……」
「触れては駄目……まだ、貴方はここへ来るべきじゃないわ」
「えっ……」


川の向こうから声が聞こえたナイは顔を上げると、そこには対岸の方に人影が見えた。しかし、その姿をはっきりと確認する前にナイは意識を失う――





――ナイは目を覚ますと、白猫亭の自分の部屋のベッドの上に居る事に気付いた。ナイは身体を起き上げ、目元に涙が流れている事に気付いて不思議に思う。


「あれ、何で……僕、泣いてるんだろう……」


ナイは目元の涙を拭い、不思議な夢を見た様な気がしたが、内容はすぐに忘れてしまった。






「――あぁああああっ!!」
「ヨウ司教!?どうされたのですか!?」


イチノの陽光教会にてヨウは絶叫しながら目を覚まし、偶然にも彼女の部屋を通りがかっていたインが慌てて部屋の中に入ると、そこには顔面蒼白のヨウがベッドの上で横たわっていた。

少し前から彼女は体調を崩して寝込んでいたのだが、インの必死の看護のお陰で最近は大分身体も良くなってきた。しかし、目を覚ましたヨウは顔色を青ざめ、その様子を見たインは彼女の元に近寄って様子を伺う。


「だ、大丈夫ですか?」
「ゆ、夢を……また、あの夢を……」
「夢……まさか、ナイの身にまた何かが!?」


ヨウは数か月ほど前からナイが漆黒の剣士に殺されそうになる夢を見ていたが、ここ最近はその夢を見る事はなくなっていた。彼女の能力の「予知夢」は未来を見通す力があるが、彼女が見た夢が現実の物になると二度と夢を見なくなる。

ナイの夢を見なくなったという事は彼の身に夢と同じ出来事が起きた事を意味しており、ナイが生きている事を毎晩祈り続けたヨウは体調を崩して倒れてしまった。しかし、ここ最近は大分落ち着いてきたのだが、彼女は顔色を変えて頭を抱えた。


「そんな、まさか……」
「ヨウ司教、落ち着いて下さい!!いったいどんな夢を見たというのですか!?」
「……そ、そうですね」


インの言葉を聞いてヨウは落ち着きを取り戻すが、顔色は青ざめたまま彼女はインの肩を借りて窓の側へ近づく。彼女が夢見た内容は今度はナイに関わる未来ではなく、この街ではない何処か別の場所で起きる夢だった。




――ヨウが見た夢の内容は巨人族の何倍もの大きさを誇る巨大な剣が罅割れ、崩れ落ちていく光景だった。そして剣が崩れ去った瞬間、地中から見るもおぞましい巨大な生物が出現し、山を破壊しながらその人型の生物は地上へ向けて咆哮を放つ。




巨人族の10倍以上の体躯を誇る巨大な人型の生物が地上へと出現し、この時に巨人の上空に巨大な飛行船が出現する。その飛行船の上には二つの大剣を持つ人影の姿が見えたが、その姿をはっきりと捉えきれなかった。

夢の内容を思い返したヨウは頭を抑え、この夢が実現される日が何時来るかまでは彼女にも分からない。しかし、ただ一つだけ言える事は火竜をも上回る脅威が王国に誕生しようとしていた。
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