貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
936 / 1,110
砂漠の脅威

第919話 秘密の鍛錬

しおりを挟む
k――夜を迎えるとナイは装備を整えて外に出ようとした。それを見かけたヒナは不思議そうに尋ねる。


「あれ?ナイ君、今日も何処かに行くの?」
「うん、ちょっとね……深夜までには帰るから」
「いつもこの時間帯に出かけているけど、いったい何処に行ってるの?」
「えっと、それは……」


ヒナの何気ない質問にナイは口ごもり、そんな彼の反応にヒナは疑問を抱く。ナイは誤魔化すように言葉を続けた。


「ちょっと稽古を付けてもらうんだ」
「稽古?もしかして女将さん?それともアッシュ公爵?」
「まあ、そんな感じかな……じゃあ、行ってきます」


返事を濁しながらナイは急いで宿を出ていくと、その様子を見てヒナは増々怪しく思う。しかもナイと行き違いでテンが宿に戻ってきた。


「ふうっ、久々の我が家だね」
「あれ?女将さん?急にどうしたの?」
「しばらく忙しくなりそうだから着替えを取りに来たんだよ。当分の間は宿舎に泊まり込みになりそうだからね」


テンが帰ってきたのは着替えを取りに戻っただけであり、すぐに出ていくらしい。その前にヒナはナイの事を尋ねる。


「そういえばさっき、ナイ君と行き違いにならなかったの稽古を付けに行くと言ってたけど……てっきり、女将さんの所に行くと思ってたわ」
「何だいそりゃ?ナイの奴はさっき見かけたけど、あたしはそんな話は知らないよ。それにあいつとは最近は訓練はやってないよ。教えられる事は全部教えてやったつもりだからね」
「そうなの?じゃあ、ナイ君はいったい誰に稽古を付けて貰っているのかしら……やっぱりアッシュ公爵?それともドリスさんかリンさんか……」
「そいつはちょっと考えにくいね。今のあいつに稽古を付けられる人間なんてそうそういないよ」


一年前ならばともかく、火竜を倒した事で一段と強くなったナイに稽古を付けられる人間など滅多にいない。最初に大剣の扱い方を教えたテンさえも今ではナイには敵わず、他の知り合いの中でナイに稽古を付けられる人間に心当たりは思い浮かばない。

少し前からナイは同じ時間帯に外に出向くようになり、帰って来るのは深夜である事が多い。ヒナの話を聞いてテンは何か思いついたように眉をしかめる。


「もしかしてあいつ、女遊びでもしてるんじゃないだろうね」
「ええっ!?そ、それは一番ないでしょう!!あのナイ君がそんな馬鹿な事するはずないわ!!」
「分からないよ。あいつだって男だからね。アッシュだってああ見えて若い頃は色々な女にちょっかいかけてたんだよ」
「嘘!?あのアッシュ公爵が!?」
「まあ、結局はリーナの母親と出会ってからは他の女に目もくれなくなったけどね」


アッシュの意外な過去を聞かされてヒナは驚き、まさかとは思うがナイが見知らぬ女の子とただならぬ関係を築いているとしたら、モモがどんな反応を示すのか分からずに震える。


(ぜ、絶対にないとは思うけど……もしもナイ君が浮気なんかしてたら大変な事になるわ)


モモは意外と嫉妬深く、ナイが他の女の子と仲良くしているだけで拗ねてしまう。前に冗談でヒナがナイに抱きついただけでモモは一日中口も利かず、機嫌を直すのに苦労させられた。

有り得ないとは思うがナイがモモ以外の女の子と男女の関係に陥っていた場合、モモがどんな風に暴走するかはヒナでも想像できない。最悪の場合、白猫亭が潰れる危険性もあった。


「た、大変よ女将さん!!もしもナイ君が夜遊びしているなんてモモに知られたら……この白猫亭の一大事よ!!」
「いや、あんた……さっきのは冗談だよ。ナイがそんな事をするはずないだろう?」
「でも、私達に秘密で何かしているのは事実よ!!ともかく調べてみましょう!!」
「調べるってあんた、店はどうするつもりだい?」
「大丈夫!!その辺はちゃんと考えてあるわ!!」


ヒナは緊急事態に備えてアルトから借りている笛を取り出す。この笛は元々はアルトがとある人物から受け取った代物であり、彼女はそれを利用して情報収集の専門家を呼び出す――





「――なるほど、それで拙者はいきなり呼び出されたのでござるか」
「クノさん!!ナイ君に気付かれずに尾行できるのは貴女しかいないわ!!」


ヒナが笛を吹いてからしばらくすると、現在は黒面の幹部として活動している「クノ」が姿を現す。実はアルトから借りた笛はクノが以前にナイに渡した笛と同じ物であり、クロを呼び出すための笛だった。

笛の音色を聞きつけて駆けつけたクロに手紙を括り付け、それを飼い主のクノの元に送り届ける。手紙の内容を読んだクノはヒナの元に駆けつけると、ナイの尾行を頼まれて困った表情を浮かべる。


「ヒナ殿の心配する気持ちはよく分かったでござる。しかし、あのナイ殿を尾行するのは拙者では荷が重いでござる。昔ならばともかく、今のナイ殿は簡単に尾行できる相手ではないでござる」
「そこを何とか!!クノさん以外に頼める人がいないのよ!!報酬はプルミン君を一週間貸し出しでどう!?好きなだけプニプニできるわよ!!」
「ぷるぷるっ(←つぶらな瞳)」
「むむっ、その報酬は魅力的でござるが……」
「グルルルッ……(←嫉妬)」


プルミンを顔面に押し付けてくるヒナにクノは困った表情を浮かべるが、一流の忍者である彼女でもナイの調査は難しい。一年前の時点でもナイは隠密の技能を発動させていたクノの居場所も見抜いた事もある。

気配感知の技能以外にもナイは「心眼」と呼ばれる特殊技能も身に着けており、この心眼の前では存在感を消す「隠密」や別人のように化ける「変装」も通ずるのかも怪しいという。


「ナイ殿の調査は拙者一人では無理でござる。せめて兄者がいれば……」
「そういえばシノビさんは元気にしているの?最近は全く見かけないけど……」
「兄者は拙者よりも忙しいでござる。黒面の組織も立ち上げたばかり、色々と問題は多いのでござる」
「そう……なら、迷惑はかけられないわね」


クノの話を聞いてヒナはナイの調査を諦める事にした。そもそもナイが怪しい遊びをしているはずがなく、彼女はナイが戻ってきたら話を聞く事にした――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花
ファンタジー
 この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。  そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。  王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...