貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第962話 鍛冶師の避難

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――ゴノの街の前には大勢のドワーフが押し寄せ、彼等は兵士が用意した水をがぶ飲みしていた。ここまで移動するのに相当な苦労をしたらしく、全員が疲れ切った表情を浮かべていた。

ドワーフは人間と違って馬の類を扱うのを不得手としており、そもそも火山で暮らしていた彼等は移動用の乗り物を飼育さえしていなかった。彼等がどうやって生計を立てていたのかと言うと、彼等に仕事を頼みに来る客や鉱石目当ての商人から生活必需品を受け取っていた。

しかし、魔物のせいで火山に暮らす事ができなくなった彼等は徒歩で街まで歩き、こんな事ならば前回に飛行船が訪れた時に乗せて貰えばと後悔する者も多かった。それでも時間は掛かったがどうにか彼等はゴノの街へ辿り着き、兵士達に保護してもらう。


「ぷはぁっ!!死ぬかと思ったぜ……」
「ふうっ、まさか水がこんなに美味く感じるとは……」
「酒は駄目だな、余計に喉も乾くし身体がふらついてまともに歩けねえ。俺は酒断ちするぞ」
「どうせ三日坊主だろうに……」
「何だと!?喧嘩売ってんのか!?」
「止めんか馬鹿者どもが!!命拾いしたばかりで争うな!!」


ドワーフ達は兵士に渡された水を飲んで一息つくが、そんな彼等の元に黒馬に跨った金狼騎士団が迫る。ドリス達は街を通り過ぎず、城壁の外側を回ってドワーフ達の元へ赴くと、彼等はドリス達に気付いて前に火山に訪れた者達だと気付く。


「お、お前等はあの時の!?」
「どうどうっ……お久しぶり、というほどでもありませんわね」
「あ、ああ……あの時は世話になったな」
「馬鹿、口を慎め!!この人達は王様の家来だぞ!!」


ドリスが馬から降りるとドワーフ達は罰が悪そうな表情を浮かべ、彼等は前回に顔を合わせた時は王子であるバッシュが相手でも堂々としていた。しかし、今は前の時のような強気な態度は取れず、ドワーフの代表格が前に出て頭を下げる。


「前の時は仲間が世話になった……あの時、お主等の忠告を聞き入れて素直に飛行船に乗せて貰えば良かったと後悔しております」
「その様子を見る限り、やはり村にマグマゴーレムが押し寄せてきたのですね?」
「その通りでございます……幸い、怪我人は出ましたが殺された者はおりません。しかし、村は壊滅してもう儂等には住む場所はありません」


ドワーフ達の話によると飛行船が発ってからそれほど日にちも経過しない内に村が襲われ、彼等は村を放棄せざるを得なかった。幸いにも襲われた時に雨が降ったお陰でマグマゴーレムは村から退散し、その間に村人達は荷物を纏めて逃げ出した。

しかし、火山を抜け出した後も彼等は色々と苦労したらしく、街に辿り着くまで幾度も野生の魔物に襲われた。それでもどうにか彼等はゴノへ辿り着き、今後はゴノで暮らす事を認めてもらう。


「あの時に貴方達の言う事を聞いておれば儂等も怪我をせずに済んだというのに……」
「過ぎた事を考えても仕方ありませんわ。それよりも聞きたいことがあるのですけど、火山に隕石が落ちたという話は本当ですの?」
「あ、ああ!!俺達は見たんだ!!急に空から隕石が降ってきて、火山の火口に落ちる光景を!!」


鍛冶師達がグツグ火山を脱出した後、彼等はグツグ火山の火口に向けて隕石が落ちてきた光景を確認した。隕石が火口に落ちた瞬間、信じられない大きさの火柱が上がった事を伝える。


「あの時は儂等はもう駄目かと思ったな……隕石が落ちた瞬間、天を貫く勢いでが上がったんだ。あんな光景、一生忘れられないな」
「火柱?それは噴火したという事ですの?」
「いや、それが……おかしな事に噴火とはまた違ったんだ。噴火したら火山の火口から溶岩が溢れるだろう?それなのに火柱が消えた後は特に何も起きなかったんだ。火口から溶岩が流れてくる事もなかったし、そのお陰で俺達は命拾いしたんだが……」
「噴火じゃない?」


火口から信じられない大きさの火柱が上がったにも関わらず、火口から溶岩流が溢れる事もなく、何事もなかったかのように元に戻った。しかもグツグ火山から火柱が上がった光景を見ているのはドワーフ達だけではなく、ゴノの城壁を守護する兵士達も目撃していた。


「その話は事実だと思います。我々も火山がある方向で火柱のような物を確認しております」
「えっ!?ここからグツグ火山までかなりの距離があるんじゃ……」
「はい……ですが、確かに見えた気がしたんです。私以外に仲間に聞けば証言してくれるはずです」


ドワーフ達に水を運んだ兵士によれば、グツグ火山から火柱が上がった光景は遠く離れたゴノの街からでも確認できた。しかも一人や二人ではなく、城壁を守護していた兵士達が見かけたという。


「この街から見える程の巨大な火柱が上がったのに……噴火ではないというんですの?」
「ああ、俺達は逃げるのに必死で火山で何が起きたのかは分からないが……」
「これは……早急に調べる必要がありますわね」


話を聞き終えたドリスはナイに顔を向けると、彼も頷いて火山を調べる事に賛同する。しかし、飛行船がない今では火山まで自力で向かわなければならない。

ナイは犬笛を取り出すと、それを口元に運んで吹く。すると街の方から狼の鳴き声が響き渡り、草原の方からビャクが姿を現す。


「ウォンッ!!」
「うわぁっ!?ば、化物!!」
「は、白狼種!?」
「あ、すいません……この子はうちの家族です」
「あら、この子は確かナイさんの……一緒に連れて来てたんですの?」
「はい。ここ最近は機嫌が悪かったから街の外で自由にさせてたんです」
「クゥ~ン」
「ぷるぷるっ(僕もいるよ)」


ビャクを見たドワーフ達は驚愕するが、ドリスも彼がゴノに居る事に驚く。ビャクは新しい飛行船がどうやら苦手らしく、砂漠に出向いた時も体調不良で外に出る事もなかった。ゴノの街にナイが残る時に一緒に降りると、しばらくの間は街の外で自由に行動させていた。どうやらプルミンもビャクの傍にいたらしく、頭の上に乗っかっていた。

久しぶりに外での生活に満足したのかビャクは機嫌が良くなり、ナイを背中に乗せる。ちなみにナイが所有する犬笛はシノビ兄妹が作り出した笛であり、これを使えば笛の音が響く範囲ならばビャクはすぐに聞きつけて駆けつけてくれる。


「それじゃあ、先にグツグ火山に向かいます」
「大丈夫ですの?旅支度はした方が……」
「平気です、万が一の場合に備えてアルトから収納鞄を借りてますから」
「ウォンッ!!」


ゴノの街に残る際にナイはアルトから特別に借りた収納鞄を所持しており、この鞄の中に旅に必要な物は全て取り揃えていた。


「それじゃあ、ビャクと一緒に火山へ向かいます」
「任せましたわ。私も一緒にいければいいんですけど、この街の守護のために離れるわけにもいきませんし……」
「大丈夫です。じゃあ、行こうかビャク」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ……」
「プルミンも一緒に行きたいの?仕方ないな、振り落とされないようにしっかり掴まってるんだぞ」


ビャクの頭に載っていたプルミンを自分の頭の上に移動させると、地図を取り出したナイは火山の位置と方向を確認し、白狼種であるビャクの脚力ならば一日も掛からずに目的地に辿り着けると判断する。飛行船が迎えに来るまで十分な猶予はあり、街の事はドリス達に任せてグツグ火山へ向かう。


「それじゃあ、行ってきます!!」
「お気をつけて下さいましっ!!」
「ウォオオンッ!!」
「ぷるっくりんっ!!」


ドリス達に見送られながらナイはビャクの背中に掴まり、久々にナイを乗せて全力で走れる事にビャクは歓喜の咆哮を放つ――





――同時刻、グツグ火山では大きな異変が訪れていた。隕石が落ちる前は火山のあちこちに大量増殖したマグマゴーレムの姿が見かけられたが、現在はマグマゴーレムの姿が全く見当たらない状態だった。

鍛冶師の村の方はマグマゴーレムの襲撃を受けた際に建物はほぼ燃え尽きてしまい、今現在は誰も住んでいない。しかし、そんな村に訪れる人間が存在した。


「おかしいわね……ここにはドワーフが住んでいると聞いていたのに」


村に訪れた人物の正体は先日にトロールとロックゴーレムを利用してゴノの街を襲撃した「アン」だった。彼女は新しい魔物を従えさせるべく、火山に立ち寄ったのだが途中でドワーフが暮らすはずの村に誰もいない事に疑問を抱く。

彼女は村に立ち寄ったのは食料と水を確保するためであり、井戸を発見した彼女はまずは喉を潤す。改めて村の中を散策するが、村人が残っていない事に彼女は不思議に思う。


(人がいないのは都合がいいけど、ここで何があったのかしら……)


グツグ火山にはドワーフの里が存在するという噂は聞いていたが、実際に訪れた村には誰もおらず、それどころか村は半壊状態だった。恐らくは魔物に襲われて村人は逃げたと思われるが、建物の様子を確認する限りは最近まで人が暮らしていた形跡は残っている。


(少し前に村人は逃げ出したようね。そういえば火山の方で火柱が上がったように見えたけど……噴火じゃなかった?)


グツグ火山に向かう途中、アンも火山の火口に隕石が落ちた際、途轍もない規模の火柱が上がった光景を目撃している。しかし、実際に訪れたグツグ火山は最近噴火した様子はみられず、それどころか目当てにしていた「マグマゴーレム」も見当たらない。

先日にゴノを襲撃した際にアンは服従させていたロックゴーレムの内、三分の一近くも失ってしまった。そのために彼女は新しいゴーレムの補充を兼ねてグツグ火山に訪れたのだが、肝心のマグマゴーレムの姿が見えない事に疑問を抱く。
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