貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第998話 炎の大巨人

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「ずっと監視されてたなんて……全然気づかなった」
「仕方ないでござる、それほどまでにこの鼠達は完璧に気配を消していたでござる。しかし、何故か急に襲ってきたのは気になるでござるが……」
「あっ!?ナイ君が目を覚ましたよ!!」
「う~んっ……」


会話の際中にモモに胸に顔を挟まれて苦しそうな表情をしたナイが目を覚ますと、頭を抑えながら起き上がる。怪我は完璧に治っていたが、まだ完全には体力が戻っていないのか気分が悪そうだった。


「ううっ……綺麗な花畑で爺ちゃんとゴマンと花冠を作っていた夢を見た気がする」
「それは危なかったでござるな。ちゃんと戻って来れてよかったでござる」
「ナイ君!!元気になって良かったよ~!!」
「もう、心配かけさせないでよ!!」


ナイはモモとリーナに抱きしめられ、この時に彼女達の大きな乳房を押し当てられる形となる。普段のナイなら頬を赤くさせて離れていたかもしれないが、まだ体力が戻り切っていないせいで彼女達を引き剥がせない。


「ううっ……力が入らない」
「当然でござる。あれほど暴れた後なら普通は何日か動けないでござるよ」
「お腹が空いた……肉まんが食べたい」
「え?肉まん?ナイ君、肉まんが好きなの?」
「何故か急に食べたくなった」


二人の大きな胸を押し当てられたせいかナイは肉まんが無性に食べたくなったが、生憎と病み上がりの人間にそんな物は食べさせられない。モモはすぐにナイのためにおかゆを作る事を決め、厨房に向かう事にした。


「じゃあ、私が料理を作ってくるね!!」
「モモ殿、一人だと危険でござる。拙者も行くでござるよ」
「そう?じゃあ、クノちゃんも一緒に作ろう!!」


料理を作りに向かおうとしたモモにクノも付いて行くと、残されたナイはリーナから色々と事情を聞く。自分が寝ている間に何が起きたのか聞かなければならなかった――





――同時刻、ハマーンは攻防にて自分の弟子達と共にナイの旋斧と岩砕剣を打ち直していた。この二つの魔剣はナイの所有物なのだが、彼が気絶した時にハマーンが魔剣を攻防へ運び出す。


「親方……本当に大丈夫なんですか?あの坊主の許可もなく、勝手に武器を打ち直しちゃって……」
「大丈夫じゃ、ナイの奴なら怒ったりはせん。それにこれはナイのためじゃ」
「えっ!?親方、今あの坊主の事を名前で言いました!?」
「なんじゃ?何か変な事を言ったか?」


ハマーンが「ナイ」の名前を口にした事に弟子達は驚き、基本的に彼は親しい人間しか名前で呼ぶ事はない。彼は若者の男性を相手にするときは「坊主」というが、自分が認めた人間ならば呼び捨てにする。

既にハマーンはナイの実力を認め、そんな彼のためにハマーンは旋斧と岩砕剣を打ち直す。この二つの武器は兄弟剣であるが、構成された素材や武器としての性質は大きく異なる。


(ナイが全力で戦えるようにこの二つの魔剣も鍛え上げねばならん……だが、儂の身体が持つかどうか)


作業の途中でハマーンは激しく咳き込み、口元に手を押し当てる。その手にはが滲み、それを見た弟子達は心配した声を上げた。


「親方!!やっぱり、これ以上は無理です!!親方の身体はもう……!!」
「やかましいわい……自分の身体の事は自分がよく知っとる」
「親方……」
「安心しろ、儂は死なん。何があろうと仕事を完璧に終わらせるまでは……な」


恐らくは今回の遠征とナイの武器を鍛え上げる事が自分の最後の「仕事」になる事を予想し、彼は熱心に剣を打ち続ける。その様子を弟子達は心配しながらも見守る事しかできなかった――




「これで止めだよ!!」
「ゴガァアアアッ!?」


飛行船の右方面の戦闘ではテンが最後のマグマゴーレムの胴体に退魔刀を叩き込み、彼女の退魔刀の能力によって炎の魔力を掻き消されたゴーレムは砕け散る。この際に体内から核が転がり落ちると、それを確認したテンは額の汗を拭う。


「よし……全員、生きてるね!?死んでるやつは返事しな!!」
「そんな古典的な言い回し……」
「い、生きてますが……流石にきついです」


テンの言葉にミイナは呆れ、そんな彼女に肩を貸して貰っているのがヒイロだった。彼女は火属性の魔剣使いであるため、マグマゴーレムとの戦闘では得意の魔法剣が使えずに一番に苦労していた。

既に左方面に集まっていたマグマゴーレムは打ち倒され、全員の無事を確認するとテンは疲れた表情で座り込む。今日はこれからグマグ火山に出向いてマグマゴーレムを討伐する予定だったが、朝から100体近くのマグマゴーレムの相手にさせられて疲労が最高潮に達する。


「くそっ……こいつらのせいで余計な体力を使ったね」
「だが、これで相当な数のマグマゴーレムを減らせたはずだ。あと少しで目的は達成する」
「そうだぞテン!!私はまだまだ戦えるぞ!!」
「一昨日までは熱気で碌に動けなかったくせに……」


雨が降った影響か今日は比較的に涼しく、飛行船が到着した際はあまりの熱気にまともに動けなかったルナも完全に元気を取り戻していた。それに火山周辺地域の熱気が収まったのは雨が降った事だけが原因ではなく、この三日間の間に倒したマグマゴーレムも関係していると思われた。


「我々はこの三日の間に300匹近くのマグマゴーレムを倒した。その影響で火山に生息するマグマゴーレムの数が減り、熱気が下がったのだろう」
「そう考えるととんでもない話だね。環境に影響を与えるだけの魔物を倒しまくったわけかい」
「恐らく、もう火山にはそれほどのマグマゴーレムは残っていないだろう。だが、火口付近にはまだ残っているはずだ。そいつらを掃討するまでは戻る事はできん」
「うえっ……火口って、暑そうだな」


ロランの見立てでは火山に生息するマグマゴーレムはもう火口付近にしか残っておらず、次の戦いが最後になると確信していた。ルナは火口に向かうという話に嫌な表情を浮かべるが、ナイもゴウカも頼れない以上は彼女も戦力として連れていくしかない。


「ルナ、あんたはナイの代わりだよ。しっかりと頑張るんだよ」
「ええっ……ナイはまだ目覚めないのか?」
「イリアの話だともうそろそろ目覚めるそうだけど、仮に目覚めてもそんな簡単に動ける状態じゃ……!?」


会話の途中でテン達は異様な気配を感じ取り、飛行船へ視線を向けるた。正確には飛行船の向かい側、つまりは飛行船の左方面に何かが起きたらしく、視線を向けた直後に火柱が上がった。

飛行船の左方面で火柱が上がり、それを見たテンはロランに顔を向け、二人は頷くと飛行船を回り込むように移動する。わざわざ飛行船の甲板に戻るよりも回り込んだ方が早いと判断した上での行動だった。


「今度はいったい何なんだい!?」
「分からん、だが……こちらにとっては不都合なことが起きたのは間違いない!!」
「そりゃそうだろうね!!」


ロランの言葉にテンは否定できず、まだ疲れも抜けきっていないのに走りまわされる事に苛立ちを抱きながらも飛行船を迂回して左方面に辿り着く。そこには信じられない光景が映し出された。


「ゴガァアアアアッ!!」
「くっ……何なんですの、この化物は!?」
「ドリス、落ち着け!!」


飛行船の左方面にはテン達が倒したマグマゴーレムよりも倍近くの大きさを誇るマグマゴーレムが存在し、その全長は軽く10メートルはあった。そのあまりの巨体にテンは唖然とした。


「な、何だいこいつは!?」
「おおっ!?デカいぞ、あいつ!?」
「まさかゴーレムキング……いや、違うのか?」


突如として出現した巨大ゴーレムは咆哮を上げ、その姿を目撃した者は最初は「ゴーレムキング」の名前が思い浮かぶ。しかし、実際にゴーレムキングと対峙した者達はすぐにそれが誤りだと気付く。

ゴーレムキングの巨体は30メートルを超えるため、実際のゴーレムキングと比べると小さい。それでも普通のマグマゴーレムよりも何倍もの大きさを誇る事には変わりはなく、更に全身に燃え盛る炎を纏っていた。

ゴーレムキングは全身に炎を纏う能力までは持ち合わせておらず、そのためにテン達の前に現れたのは大量の火属性の魔力を吸い上げて力を増したマグマゴーレムという事になる。しかし、どれだけの魔力を集めればここまで大きくなるのかとテンは動揺を隠せない。
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