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プロローグ
召喚に巻き込まれました
――この物語の主人公である「霧崎レア」彼は中学三年生であり、間もなく高校受験を迎えようとしていた。学校の授業が終わり次第、彼は早々に家に戻って志望校に合格するために勉学に励むつもりだった。
「ううっ……寒い。コタツに入りたい」
穴だらけの手袋を嵌め込んだ両手をすり合わせ、彼は横断歩道が赤信号である事に気付いて立ち止まる。丁度近くの高校生達の帰宅時間と重なったらしく、彼よりも2、3才程年上の高校生が集団が隣に立ち止まる。
「あ~……疲れた、今日は何処かに寄っていこうぜ?」
「そうだな……テストも終わったし、久しぶりにファミレスでも行くか?」
「行く行く~!!」
「もう、駄目よ。私達は大学受験を控えているのよ?時間が余っているのなら勉学に励むべきですっ!!」
「相変わらず頭が硬い奴だな……なら、お前は来なくていいよ。俺達だけで行こうぜ?」
「うなっ!?」
高校生の集団の会話からレアは自分の予想通りに彼等が高校三年年である事に気付き、自分と同様に受験を控えている事を知る。レアを含めた5人が横断歩道の信号が青に変わるまで待機していると、急に向い側の車道から大型トラックが法定速度を明らかに無視した速度で向かって来た。
「え、ちょっ……やばくないか!?」
「君!!危ない!!」
「えっ……うわっ!?」
トラックの存在にいち早く気付いた高校生の集団が、位置的にトラックが向かう場所に存在したレアの元に駆け寄り、彼等の声でトラックの存在に気付いた彼は顔を見上げた瞬間、5人の足元に異変が生じる。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「なんだ!?」
「ひゃんっ!?」
「えっ!?」
唐突に地面が光り輝き、地面に「魔法陣」のような紋様が浮き上がった瞬間、5人の身体が奇妙な浮揚感に襲われた。次の瞬間、トラックが彼等の間近にまで接近したところで全員の視界が光に覆われてしまい、意識を失ってしまう――
――そしてレアが意識を取り戻した時、無意識閉じていた瞼を開いた途端に見知らぬ天井が広がっていた。慌てて彼は起き上がると、自分の周囲に先ほどの高校生の集団が倒れている事に気付き、彼等もレアと同時に意識を取り戻したらしく、身体を起き上げて戸惑いの表情を浮かべる。
「いてててっ……なんだ?」
「君、大丈夫か?」
「あ、はい……え?」
「なにこれ……どうなったの?」
「ここは……どうなっているの!?」
全員が起き上がり、直ぐに周囲の光景の異変に気付く。全員が何が起きているのか理解できない中、彼等は自分達の周囲にも灰色のローブを覆った中年男性の集団が存在する事に気付き、女性陣は悲鳴を上げた。
「きゃあぁっ!?」
「な、何なんですか貴方達は!?」
「おおっ……やったぞ!!成功した!!」
「まさか古文書に書かれている魔方陣を描いただけでこうも上手く行くとは……」
「しかし……人数がおかしいのではないか?伝承では召喚される勇者は4人だけだと聞いていたが……」
レア達を取り囲んでいるローブを着込んだ集団はお互いに顔を見合わせ、歓喜の表情を浮かべる。その一方で訳が分からない事を話す男性達に対し、レアと他の高校生達はお互いに顔を見合わせ、不安な表情を浮かべながら「大地」と呼ばれていた高校生が話しかける。
「あの、貴方達は何者ですか?それにここは何処なんですか?何か知っているなら教えてください!!」
「こ、ここ何処なの~?」
「落ち着くんだ桃……ここは僕に任せてくれ」
大地の隣に存在する「桃」と呼ばれた女子高生が不安そうな声を上げ、彼女を落ち着かせるために大地が宥めると、もう一人の男子が苛立ち気に周囲の人間を睨み付けて怒鳴り散らす。
「訳が分かんねえ……誰だお前等っ!!」
「落ち着いて下さい龍太君……まあ、この状況で落ち着けというのが無理かも知れませんけど」
「美香……お前はなんでそんなに冷静なんだよ」
男子から「美香」と呼ばれた女子が彼を宥めるように声を掛け、美香から「龍太」と呼ばれた男子は渋々と引き下がると、即座に5人を取り囲んでいた中年男性の集団を掻き分けて一人の老人が姿を現した。
「おおっ!!これが伝説の勇者か!!いやはや、失礼しました……わざわざ召喚に答えてくれた勇者殿に礼を欠いてしまったようだな」
5人の前に中世の王様を想像させる恰好をした老人が現れ、白い髭を胸元まで伸ばした老人が杖を握りしめながら5人の前に歩み寄り、その場で頭を下げる。唐突に見知らぬ老人から頭を下げられた5人は非常に動揺するが、即座に老人は顔を上げて若干わざとらしい笑顔を浮かべる。
「初めまして勇者殿、儂の名前はウサンという。このバルロス帝国の4代目皇帝を勤めている」
「こ、皇帝?何言ってんだこの爺さん……」
「これ!!いくら勇者とは言え、皇帝陛下に失礼ですぞ!!」
自らを皇帝と名乗る老人に5人は呆気にとられるが、そんな態度が気に入らなかったのか国王の隣にいる中年の禿げ頭の大臣らしき男が注意する。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!一体何の話をしてるんですか?」
「陛下、どうやら勇者の方達は混乱しているようですねな。ここは某が説明を……」
「おおっ、バルト将軍。では頼んだぞ」
「はっ!!」
中年男性の反対側の位置に立っていた筋骨隆々の大男が皇帝の前に移動し、腰にはロングソードを身に付けており、皇帝から「将軍」と呼ばれた大男はレア達の目の前で敬礼を行う。
「某はこの国の将軍を勤めるバルトだ!!君達はこの世界を救い出す勇者として召喚されたのだ!!」
『ええっ!?』
バルトの発言に全員が驚愕し、彼は自分が質問される前に先にレア達に名前を問い質す。
「では詳しい説明を行う前に……勇者殿の名前を教えて下さらぬか?」
「は、はあ……勇者って、俺達の事ですか?」
「無論だ。それで名前は?」
「い、因幡大地です」
「月島美香です……」
「桃山桃だよ~」
「……金木龍太だ」
「霧崎レア……です」
5人はバルトのあまりの迫力に素直に名前を告げると、バルトは現在の状況を説明する。
「では、早速説明を行いましょう!!この場所は……いや、性格にはこの世界とでも言えばいいのか?まあ、ここは勇者達が住んでいた世界ではない!!要するに異世界という奴だな!!」
「はあっ!?」
「ここが……異世界?」
突拍子もないバルトの発言に全員が呆れた表情を浮かべるが、彼自身は至って真面目な表情を抱いており、嘘を吐いている様には見えない。逆にその態度が5人を更に混乱させ、本当に自分達が別の場所に訪れたのではないかと考えてしまう。
「な、何を言ってんだ馬鹿馬鹿しい……」
「でも……何か可笑しいです」
「確かに……中世の城のような場所に移動しているな」
「それもですけど、私達の身体も少し変じゃありませんか?」
「身体が?」
「おお、どうやらお気付かれたようですな。皆さんの身体の方もあちらの世界からこちらの世界に移動する際、多少の変化が訪れているはずだが……」
「変化って……別に体調は普通だけど……」
「いえ、違うわ。私達、明らかに若返っているわ」
「若返るって……嘘だろ?」
レアを除く高校生達は自分の身体を確認すると、制服のサイズが合わない事に気付く。特に美香という女性は自分の胸元を確認して眉を顰め、違和感の正体を悟る。
「……今の私達は恐らく中学生、いえ、もしかしたら高校1年生ぐらいの年齢まで身体が若返っているんじゃないでしょうか?折角成長した私の胸が小さくなっていますから……」
「いや、元からあんまり変わんね……あいたっ!?」
茶々をいれようとした龍太を美香が殴りつけ、レアも自分の服装を確認するが特に服が大きくなったり、あるいは小さくなったように感じず、違和感を抱いているのは他の4人だけで彼自身は特に変化はなかった。だが、彼等の話を聞いたバルトは満足気に頷き、説明を再会する。
「うむ!!異世界から人間が召喚される際、この世界に適応するために身体に異変が起きると古文書に書き込まれていたが、恐らく勇者殿はこの世界に一番適合しやすい時期にまで肉体が変化したのだろう」
「でも、この子は何も変わってないよ?」
バルトの発言に桃がレアを指さし、全員の視線が彼に集中するが本人自体も身体の変化が起きている様子が無い事に疑問を抱き、素直に頷く。
「えっと……そうですね。別に俺は何も変わってませんけど……」
「む?可笑しいな……まあ、元々こちらの世界に適合しやすい年齢だったのかも知れないな」
「そんな事よりよぉっ!!さっきから気になってたけど、あんた等は俺達の世界の事を知っているのか?」
「うむ!!古文書に全て記されているからな!!」
龍太の質問にバルトは5人が住んでいた世界の事を知っている事を告げ、こちらの世界の名前は「マテラ」と呼ばれ、レア達が元々住んでいた世界の事をバルト達は「テラ」と呼んでいる事が発覚する。この二つの世界は鏡のように相反する存在らしく、テラの世界では「科学」が反映していたが、このマテラの世界で「魔法」と呼ばれる文化が発展している事を説明した。
「我々の世界では魔法によって成り立っているが、古文書によれば勇者殿の世界では魔法の代わりに「科学」と呼ばれる文化が発展しているのだろう?だが、生憎と我々の世界にはその科学とやらは存在しない」
「ほ、本当に魔法という非科学的な文化が存在するんですか?」
「存在する……というより、むしろ我々としては本当にテラでは魔法の文化が存在しないというのが信じられんな」
「嘘……本当に魔法なんて存在するなんて信じられません」
「では、実際に魔法を見てみるかな?」
『えっ?』
魔法という存在がある事が信じられない5人の目の前でバルトは両の掌を重ね合わせ、彼等の目の前で一言唱える。
「風圧」
『うわっ!?』
次の瞬間、バルトの掌に小規模の竜巻が発生し、周囲に強風が発生する。それを間近で目撃した5人は驚嘆するが、即座に彼は掌を離すと空中に誕生した竜巻も消散した。
「これが魔法だ。最も、今程度の魔法ならばこの世界に人間ならば誰もが扱えますからな。皆様ならばすぐ扱えるでしょう!!」
「じゃ、じゃあ私達も魔法が扱えるというのですか!?」
「恐らく、こちらの世界に召喚された時点で、勇者殿達はこの世界に適合する存在として認められているはず。ならば魔法なだ簡単に覚える事が出来るはずだが……」
「あの、さっきから気になってたんですけど……その勇者というのはどういう意味なんですか?」
「おおっ!!これはすまなかった。まずはそこから説明するべきだったな」
バルト将軍は皇帝に視線を向けると、彼は説明を許可するように頷いたのを確認し、説明を行う。
「マテラの世界には100年周期で勇者召喚と呼ばれる特別な儀式を行う伝統が残っていましてな。この儀式で召喚された勇者を手厚く保護を行い、勇者殿には国家の発展のために力を貸して欲しいのだ」
「ま、まさか……今回召喚された勇者というのは俺達の事なんですか?」
「うむ!!」
「おい、ふざけんなよ!!何で俺達がそんな事を……」
バルトの説明に5人は驚愕するが、それと同時にあまりにも理不尽な彼等の言い分に腹を立てる。どうして異世界人である自分達を勝手に呼び寄せたのかと龍太が文句を告げようとした時、バルトが掌を差し出して彼を黙らせる。
「少し待ってほしい……ふむ、やはり何度数え直して召喚された人間は5人いるな。これはどういう事だ?」
「え?えっと……どういう意味ですか?」
「いや、古文書によれば召喚される勇者の数は常に4人だけのはずなんだが……もしかしたら、この中の1人は召喚に巻き込まれてしまった一般人がいるのではないか?」
「ええ~!?」
予想外のバルトの発言に5人は驚愕し、この中の1人が勇者ではなく、召喚に巻き込まれた一般人が紛れ込んでいるという話に驚きを隠せない。
「ど、どういう事ですか!?私達を元の世界に帰してください!!」
「家に帰りたいよ~!!」
「お、落ち着いて下され!!安心して欲しい!!元の世界に戻す方法はちゃんと存在するのだ!!」
「……本当ですか?」
これが漫画や小説によくある展開では、元の世界に戻りたければ魔王を打ち倒す事を強要されたり、もしくは召喚しても元の世界に帰還する方法を知らないのではないかレアは思ったが、バルトの話ではテラの世界に渡る方法はちゃんと存在するらしい。
「安心してくれ!!テラに帰還する方法はこの召喚魔法陣を使えば膨大な魔力と引き換えに元の世界に戻る事が出来る!!」
「魔力?」
「魔法を発動させる時に必要な力の事だ」
「MPみたいなもんか」
「その例えはどうかと思うけど……確かにしっくり来ますね」
元の世界に帰還する方法はこの世界に勇者が呼び出した「召喚魔法陣」と呼ばれる特別な魔法陣に膨大な魔力を送り込むだけで良いらしく、バルトの説明によるとすぐに勇者達を元の世界に戻すことは出来ないという。
「申し訳ないが、この召喚魔法陣を発動する際に予想外にも膨大な魔力を消費しましてな。もう一度発動する魔力を蓄積させるには、あと三日ほど待って貰わなければならん」
「三日か……」
「微妙な期間ね……」
「だが、我々としては勇者殿と協力し、魔王という存在を打ち倒す手助けを行って欲しい。無論、報酬は惜しまん」
「……報酬か。もちろん、あっちの世界に持ち込めるんだろうな?」
「その点は問題ないと断言できる!!過去の勇者達もこの世界の物資を持ち込んでテラに帰還したらしいからな」
報酬の話が出た途端に龍太の目つきが代わり、他の者達も思い悩むように顔を見合わせる。元の世界に帰れるというのであれば、ここは彼等の言葉を信じて行動するべきか悩む。
「でも、あんまりこっちの世界に長居していたら家族心配するんじゃ……出席日数も心配だし」
「その点も安心して下され。このマテラとテラの世界は時間の流れが違いましてな。こちらの一年がテラの世界では一日に相当すると聞いておりますぞ」
「ご都合設定だな……」
何とも都合がいい話であり、本当にバルトの言葉が全て真実である保証はないが、今は彼等の気分を損ねる訳には行かない。少なくとも三日後まではこの城に世話になる必要があり、機嫌を損なわせて城から追い出されるのは避けたい。
「では、勇者殿達にはこの世界の人間が扱える能力の説明も兼ねて、簡単な検査を行いましょうか」
「ううっ……寒い。コタツに入りたい」
穴だらけの手袋を嵌め込んだ両手をすり合わせ、彼は横断歩道が赤信号である事に気付いて立ち止まる。丁度近くの高校生達の帰宅時間と重なったらしく、彼よりも2、3才程年上の高校生が集団が隣に立ち止まる。
「あ~……疲れた、今日は何処かに寄っていこうぜ?」
「そうだな……テストも終わったし、久しぶりにファミレスでも行くか?」
「行く行く~!!」
「もう、駄目よ。私達は大学受験を控えているのよ?時間が余っているのなら勉学に励むべきですっ!!」
「相変わらず頭が硬い奴だな……なら、お前は来なくていいよ。俺達だけで行こうぜ?」
「うなっ!?」
高校生の集団の会話からレアは自分の予想通りに彼等が高校三年年である事に気付き、自分と同様に受験を控えている事を知る。レアを含めた5人が横断歩道の信号が青に変わるまで待機していると、急に向い側の車道から大型トラックが法定速度を明らかに無視した速度で向かって来た。
「え、ちょっ……やばくないか!?」
「君!!危ない!!」
「えっ……うわっ!?」
トラックの存在にいち早く気付いた高校生の集団が、位置的にトラックが向かう場所に存在したレアの元に駆け寄り、彼等の声でトラックの存在に気付いた彼は顔を見上げた瞬間、5人の足元に異変が生じる。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「なんだ!?」
「ひゃんっ!?」
「えっ!?」
唐突に地面が光り輝き、地面に「魔法陣」のような紋様が浮き上がった瞬間、5人の身体が奇妙な浮揚感に襲われた。次の瞬間、トラックが彼等の間近にまで接近したところで全員の視界が光に覆われてしまい、意識を失ってしまう――
――そしてレアが意識を取り戻した時、無意識閉じていた瞼を開いた途端に見知らぬ天井が広がっていた。慌てて彼は起き上がると、自分の周囲に先ほどの高校生の集団が倒れている事に気付き、彼等もレアと同時に意識を取り戻したらしく、身体を起き上げて戸惑いの表情を浮かべる。
「いてててっ……なんだ?」
「君、大丈夫か?」
「あ、はい……え?」
「なにこれ……どうなったの?」
「ここは……どうなっているの!?」
全員が起き上がり、直ぐに周囲の光景の異変に気付く。全員が何が起きているのか理解できない中、彼等は自分達の周囲にも灰色のローブを覆った中年男性の集団が存在する事に気付き、女性陣は悲鳴を上げた。
「きゃあぁっ!?」
「な、何なんですか貴方達は!?」
「おおっ……やったぞ!!成功した!!」
「まさか古文書に書かれている魔方陣を描いただけでこうも上手く行くとは……」
「しかし……人数がおかしいのではないか?伝承では召喚される勇者は4人だけだと聞いていたが……」
レア達を取り囲んでいるローブを着込んだ集団はお互いに顔を見合わせ、歓喜の表情を浮かべる。その一方で訳が分からない事を話す男性達に対し、レアと他の高校生達はお互いに顔を見合わせ、不安な表情を浮かべながら「大地」と呼ばれていた高校生が話しかける。
「あの、貴方達は何者ですか?それにここは何処なんですか?何か知っているなら教えてください!!」
「こ、ここ何処なの~?」
「落ち着くんだ桃……ここは僕に任せてくれ」
大地の隣に存在する「桃」と呼ばれた女子高生が不安そうな声を上げ、彼女を落ち着かせるために大地が宥めると、もう一人の男子が苛立ち気に周囲の人間を睨み付けて怒鳴り散らす。
「訳が分かんねえ……誰だお前等っ!!」
「落ち着いて下さい龍太君……まあ、この状況で落ち着けというのが無理かも知れませんけど」
「美香……お前はなんでそんなに冷静なんだよ」
男子から「美香」と呼ばれた女子が彼を宥めるように声を掛け、美香から「龍太」と呼ばれた男子は渋々と引き下がると、即座に5人を取り囲んでいた中年男性の集団を掻き分けて一人の老人が姿を現した。
「おおっ!!これが伝説の勇者か!!いやはや、失礼しました……わざわざ召喚に答えてくれた勇者殿に礼を欠いてしまったようだな」
5人の前に中世の王様を想像させる恰好をした老人が現れ、白い髭を胸元まで伸ばした老人が杖を握りしめながら5人の前に歩み寄り、その場で頭を下げる。唐突に見知らぬ老人から頭を下げられた5人は非常に動揺するが、即座に老人は顔を上げて若干わざとらしい笑顔を浮かべる。
「初めまして勇者殿、儂の名前はウサンという。このバルロス帝国の4代目皇帝を勤めている」
「こ、皇帝?何言ってんだこの爺さん……」
「これ!!いくら勇者とは言え、皇帝陛下に失礼ですぞ!!」
自らを皇帝と名乗る老人に5人は呆気にとられるが、そんな態度が気に入らなかったのか国王の隣にいる中年の禿げ頭の大臣らしき男が注意する。
「ちょ、ちょっと待って下さい!!一体何の話をしてるんですか?」
「陛下、どうやら勇者の方達は混乱しているようですねな。ここは某が説明を……」
「おおっ、バルト将軍。では頼んだぞ」
「はっ!!」
中年男性の反対側の位置に立っていた筋骨隆々の大男が皇帝の前に移動し、腰にはロングソードを身に付けており、皇帝から「将軍」と呼ばれた大男はレア達の目の前で敬礼を行う。
「某はこの国の将軍を勤めるバルトだ!!君達はこの世界を救い出す勇者として召喚されたのだ!!」
『ええっ!?』
バルトの発言に全員が驚愕し、彼は自分が質問される前に先にレア達に名前を問い質す。
「では詳しい説明を行う前に……勇者殿の名前を教えて下さらぬか?」
「は、はあ……勇者って、俺達の事ですか?」
「無論だ。それで名前は?」
「い、因幡大地です」
「月島美香です……」
「桃山桃だよ~」
「……金木龍太だ」
「霧崎レア……です」
5人はバルトのあまりの迫力に素直に名前を告げると、バルトは現在の状況を説明する。
「では、早速説明を行いましょう!!この場所は……いや、性格にはこの世界とでも言えばいいのか?まあ、ここは勇者達が住んでいた世界ではない!!要するに異世界という奴だな!!」
「はあっ!?」
「ここが……異世界?」
突拍子もないバルトの発言に全員が呆れた表情を浮かべるが、彼自身は至って真面目な表情を抱いており、嘘を吐いている様には見えない。逆にその態度が5人を更に混乱させ、本当に自分達が別の場所に訪れたのではないかと考えてしまう。
「な、何を言ってんだ馬鹿馬鹿しい……」
「でも……何か可笑しいです」
「確かに……中世の城のような場所に移動しているな」
「それもですけど、私達の身体も少し変じゃありませんか?」
「身体が?」
「おお、どうやらお気付かれたようですな。皆さんの身体の方もあちらの世界からこちらの世界に移動する際、多少の変化が訪れているはずだが……」
「変化って……別に体調は普通だけど……」
「いえ、違うわ。私達、明らかに若返っているわ」
「若返るって……嘘だろ?」
レアを除く高校生達は自分の身体を確認すると、制服のサイズが合わない事に気付く。特に美香という女性は自分の胸元を確認して眉を顰め、違和感の正体を悟る。
「……今の私達は恐らく中学生、いえ、もしかしたら高校1年生ぐらいの年齢まで身体が若返っているんじゃないでしょうか?折角成長した私の胸が小さくなっていますから……」
「いや、元からあんまり変わんね……あいたっ!?」
茶々をいれようとした龍太を美香が殴りつけ、レアも自分の服装を確認するが特に服が大きくなったり、あるいは小さくなったように感じず、違和感を抱いているのは他の4人だけで彼自身は特に変化はなかった。だが、彼等の話を聞いたバルトは満足気に頷き、説明を再会する。
「うむ!!異世界から人間が召喚される際、この世界に適応するために身体に異変が起きると古文書に書き込まれていたが、恐らく勇者殿はこの世界に一番適合しやすい時期にまで肉体が変化したのだろう」
「でも、この子は何も変わってないよ?」
バルトの発言に桃がレアを指さし、全員の視線が彼に集中するが本人自体も身体の変化が起きている様子が無い事に疑問を抱き、素直に頷く。
「えっと……そうですね。別に俺は何も変わってませんけど……」
「む?可笑しいな……まあ、元々こちらの世界に適合しやすい年齢だったのかも知れないな」
「そんな事よりよぉっ!!さっきから気になってたけど、あんた等は俺達の世界の事を知っているのか?」
「うむ!!古文書に全て記されているからな!!」
龍太の質問にバルトは5人が住んでいた世界の事を知っている事を告げ、こちらの世界の名前は「マテラ」と呼ばれ、レア達が元々住んでいた世界の事をバルト達は「テラ」と呼んでいる事が発覚する。この二つの世界は鏡のように相反する存在らしく、テラの世界では「科学」が反映していたが、このマテラの世界で「魔法」と呼ばれる文化が発展している事を説明した。
「我々の世界では魔法によって成り立っているが、古文書によれば勇者殿の世界では魔法の代わりに「科学」と呼ばれる文化が発展しているのだろう?だが、生憎と我々の世界にはその科学とやらは存在しない」
「ほ、本当に魔法という非科学的な文化が存在するんですか?」
「存在する……というより、むしろ我々としては本当にテラでは魔法の文化が存在しないというのが信じられんな」
「嘘……本当に魔法なんて存在するなんて信じられません」
「では、実際に魔法を見てみるかな?」
『えっ?』
魔法という存在がある事が信じられない5人の目の前でバルトは両の掌を重ね合わせ、彼等の目の前で一言唱える。
「風圧」
『うわっ!?』
次の瞬間、バルトの掌に小規模の竜巻が発生し、周囲に強風が発生する。それを間近で目撃した5人は驚嘆するが、即座に彼は掌を離すと空中に誕生した竜巻も消散した。
「これが魔法だ。最も、今程度の魔法ならばこの世界に人間ならば誰もが扱えますからな。皆様ならばすぐ扱えるでしょう!!」
「じゃ、じゃあ私達も魔法が扱えるというのですか!?」
「恐らく、こちらの世界に召喚された時点で、勇者殿達はこの世界に適合する存在として認められているはず。ならば魔法なだ簡単に覚える事が出来るはずだが……」
「あの、さっきから気になってたんですけど……その勇者というのはどういう意味なんですか?」
「おおっ!!これはすまなかった。まずはそこから説明するべきだったな」
バルト将軍は皇帝に視線を向けると、彼は説明を許可するように頷いたのを確認し、説明を行う。
「マテラの世界には100年周期で勇者召喚と呼ばれる特別な儀式を行う伝統が残っていましてな。この儀式で召喚された勇者を手厚く保護を行い、勇者殿には国家の発展のために力を貸して欲しいのだ」
「ま、まさか……今回召喚された勇者というのは俺達の事なんですか?」
「うむ!!」
「おい、ふざけんなよ!!何で俺達がそんな事を……」
バルトの説明に5人は驚愕するが、それと同時にあまりにも理不尽な彼等の言い分に腹を立てる。どうして異世界人である自分達を勝手に呼び寄せたのかと龍太が文句を告げようとした時、バルトが掌を差し出して彼を黙らせる。
「少し待ってほしい……ふむ、やはり何度数え直して召喚された人間は5人いるな。これはどういう事だ?」
「え?えっと……どういう意味ですか?」
「いや、古文書によれば召喚される勇者の数は常に4人だけのはずなんだが……もしかしたら、この中の1人は召喚に巻き込まれてしまった一般人がいるのではないか?」
「ええ~!?」
予想外のバルトの発言に5人は驚愕し、この中の1人が勇者ではなく、召喚に巻き込まれた一般人が紛れ込んでいるという話に驚きを隠せない。
「ど、どういう事ですか!?私達を元の世界に帰してください!!」
「家に帰りたいよ~!!」
「お、落ち着いて下され!!安心して欲しい!!元の世界に戻す方法はちゃんと存在するのだ!!」
「……本当ですか?」
これが漫画や小説によくある展開では、元の世界に戻りたければ魔王を打ち倒す事を強要されたり、もしくは召喚しても元の世界に帰還する方法を知らないのではないかレアは思ったが、バルトの話ではテラの世界に渡る方法はちゃんと存在するらしい。
「安心してくれ!!テラに帰還する方法はこの召喚魔法陣を使えば膨大な魔力と引き換えに元の世界に戻る事が出来る!!」
「魔力?」
「魔法を発動させる時に必要な力の事だ」
「MPみたいなもんか」
「その例えはどうかと思うけど……確かにしっくり来ますね」
元の世界に帰還する方法はこの世界に勇者が呼び出した「召喚魔法陣」と呼ばれる特別な魔法陣に膨大な魔力を送り込むだけで良いらしく、バルトの説明によるとすぐに勇者達を元の世界に戻すことは出来ないという。
「申し訳ないが、この召喚魔法陣を発動する際に予想外にも膨大な魔力を消費しましてな。もう一度発動する魔力を蓄積させるには、あと三日ほど待って貰わなければならん」
「三日か……」
「微妙な期間ね……」
「だが、我々としては勇者殿と協力し、魔王という存在を打ち倒す手助けを行って欲しい。無論、報酬は惜しまん」
「……報酬か。もちろん、あっちの世界に持ち込めるんだろうな?」
「その点は問題ないと断言できる!!過去の勇者達もこの世界の物資を持ち込んでテラに帰還したらしいからな」
報酬の話が出た途端に龍太の目つきが代わり、他の者達も思い悩むように顔を見合わせる。元の世界に帰れるというのであれば、ここは彼等の言葉を信じて行動するべきか悩む。
「でも、あんまりこっちの世界に長居していたら家族心配するんじゃ……出席日数も心配だし」
「その点も安心して下され。このマテラとテラの世界は時間の流れが違いましてな。こちらの一年がテラの世界では一日に相当すると聞いておりますぞ」
「ご都合設定だな……」
何とも都合がいい話であり、本当にバルトの言葉が全て真実である保証はないが、今は彼等の気分を損ねる訳には行かない。少なくとも三日後まではこの城に世話になる必要があり、機嫌を損なわせて城から追い出されるのは避けたい。
「では、勇者殿達にはこの世界の人間が扱える能力の説明も兼ねて、簡単な検査を行いましょうか」
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隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
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能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
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異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
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悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
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社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
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物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。