文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

回復魔法

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「イリスは回復魔法が使えると言ってたけど、どんな魔法なの?」
「え?いや、だから回復魔法ですけど……」
「いや、どんな感じの回復魔法なのか知りたいんだけど……」
「ああ、なるほど。でも、私が扱えるのは本当に初級の回復魔法ですよ?傷の治療だけを行う「小回復」という回復魔法だけです。今は魔力が少ないので使えませんけど」
「へえ……」


イリスの話によると回復魔法にも複数の段階が存在し、簡単な怪我ならば治せる「小回復レトロヒール」骨折等の大きな傷でも癒す事が出来る「回復ヒール」肉体その物を再生させる「治癒ヒーリング」毒や病気などの状態異常を回復させる「状態回復キュア」数時間以内であり、更に死体が大きく損傷していない場合は死亡した人間さえも蘇らせる「蘇生リザレクション」と呼ばれる魔法が存在する。

治癒魔導士と言ってもイリスのレベルは低いので彼女は初級の回復魔法しか扱えず、傷の回復と言っても肉体が大きく損傷などは彼女にも治療できない。それでも五体満足の状態ならば時間を掛ければ完全に治す事が出来るらしく、肉体の一部を失うなどの大きな怪我でなければ回復させる事が出来るという。


「私の場合は肉体を大きく損傷していなければ完全に怪我を回復させる事も出来ます。だけど魔石を使用しても私は1日に3回ぐらいしか魔法が使えません」
「魔力はどうやって回復出来るの?」
「自然回復が一番身体にいいですね。普通に身体を休ませる行動を取るだけでも普通に回復します。一番手っ取り早いのは眠る事ですね」
「なるほど……それ以外の回復手段は?」
「薬ぐらいしかありませんね。治療院で販売している「魔力回復薬マナ・ポーション」という薬がありますが、これは物凄く高価なので大抵の人間は自然に回復するまで休むことを選びます」
「そうなんだ」


回復魔法の種類と魔力の回復手段を教えて貰いながらレアはスマートフォンの操作を行い、メモの機能を使用してイリスの話を書き込む。学生手帳では誰かに見られてしまう可能性があり、スマートフォンならばパスワードを施せば他の人間に知られる事はない。


「この街から脱出したいんだけど……近くの街までどれくらいの距離がある?」
「そうですね。私が居たセカンの街まで馬車で移動しても二日ぐらいかかりましたから……徒歩だと一週間ぐらいですかね」
「そんなに遠いのっ!?」
「だから私達も引き返す事が出来ないので街の中に入ったんですよ。可能性は低いですけど、この街を探索している他の冒険者と遭遇する機会があるんじゃないかと思っていたんですけど……」


予想以上に他の街との距離がある事にレアは驚き、同時にイリス達が街に引き返さなかった理由が判明する。だが、どうしてイリス達がゴブリンが支配しているこの街の調査に赴いた事が気にかかり、試しに尋ねる。


「イリスはさっき冒険者ギルドに命令されてこの街の調査に来たと言ってたよね。なんでそのギルドはここの調査を命じたの?」
「ここは元々は人間の街ですからね。近々、この街を取り戻すために帝国が軍隊を派遣する予定があるんです。だから念のために冒険者ギルドに依頼して冒険者達に街に生息するゴブリンの情報収集を行うように依頼したというわけです」
「え?なら、その軍隊が訪れるまで待っていれば……」
「調査に向かわせた冒険者が戻って来なければ流石にギルドも不振に感じますよ。まずは第二の調査隊を選定し、派遣を行うまでに数日は掛かるでしょうね。その調査隊に保護して貰えればいいんですけど、もしも私達のように襲われたら……」
「う~んっ……そう考えると何時まで籠城すればいいのか分からない訳か」


イリスによれば現在二人が居る教会も完全な安全地帯とは言い切れず、反響石の効果が薄い魔物が訪れる可能性も十分に高い。実際に教会の内部にも派手に荒らされた痕跡が残っており、レアが教会に訪れた時には人間が存在した痕跡は残っていたが、彼がこの街に過ごしてから二日以上が経過しているが元々の道具の持ち主が現れる様子はない。既に魔物に殺されているのだろう。


「しょうがない、自力で脱出するしかないか……一週間も歩くのはだるいな」
「それは止めた方が良いですよ。この周辺一帯は草原が広がっているんですけど、ゴブリン以上に危険な魔物がうようよと存在します。何も準備しないで移動するなんて自殺行為です。ましてや、私は戦えませんからね」
「だから街から出る事を諦めて他の冒険者を探していたの?」
「そういう事です。どうしても街に出るとしたらまずは乗り物を確保、それと十分な食料と水を用意しないといけませんね」
「それなら問題ない」
「……えっ?」


レアは彼女の言葉に拳銃を取り出し、無限に生成出来る弾丸を取り出す。これを利用すれば彼の能力ならば食料も飲料水を用意する事は可能であり、更に移動用の乗り物も作り出せる。


「街がある方向は分かると言ってたよね?」
「え?まあ……分かりますけど」


レアの質問にイリスは何処からかコンパス(この世界にも存在するらしい)と地図を取り出し、教会内に存在した机の上に広げる。随分と精巧な地図であり、この街を含めた周辺地域の地図が描かれていた。


「ここが今の私達がいるファストの街です。この東側に私が住んでいたセカンの街が存在しますけど、移動するには草原を通らないといけません」
「なるほど……あれ?この西側は森しかないの?」
「そちらはエルフの領土ですから迂闊に踏み入れては駄目ですよ。エルフは人間を嫌っていますから受け入れてくれるはずがありません」
「それならやっぱりセカンの街に向かうしかないのか。だけど、乗り物がないと一週間近くも歩かないといけないのか」
「移動の際中に魔物に襲われるのも間違いないです。反響石を搭載した馬車でも同中に何度も襲撃がありましたから……本当に乗物を用意できるんですか?」
「そこは問題ない。馬車よりも早い乗物を用意できる……はず」
「え?最後の方がよく聞こえなかったんですけど……」
「大丈夫……だと思いたいな」
「本当に大丈夫なんですかっ!?頼みますよもう……この街を脱出しないと私達に生き残る術はないんですから」


イリスの話によれば教会に立て籠もったとしても反響石に耐性が存在する魔物には通用せず、教会内に侵入する可能性が十分に高い。これまでにレアが生き残れたのは「幸運」が大きく、普通ならば何日も過ごせるような場所ではないという。


「乗物を用意しても食料と水も本当に大丈夫なんですか?見た限りだともう何も残ってなさそうですけど……」
「それも大丈夫だって、問題があるとすれば乗物を何を用意するかだけど……上手く行くかな」


拳銃の弾丸に視線を向けながらレアはどんな乗物を用意するのかを考え、当初は一人で移動する予定だったので一人乗り様の乗物を用意するつもりだったが、イリスが加わった以上は二人乗りの乗物でなければならない。


「バイクは危険そうだし、やっぱり自動車がいいかな……あ、そうだキャンピングカーなら便利そうだな。いや、魔物の事を考えると戦車か装甲車ぐらい出さないと駄目かな……」
「あの、何の話をしてるでんすか?」


ぶつぶつと現実世界の乗物を口走るレアにイリスが不安そうに声を掛けると、不意に彼は彼女がここまで訪れた方法を思い出す。


「そういえばイリスは馬車で来たと言ってたよね。じゃあ、馬車を操る御者も居たの?」
「いえ?馬車は交代で運転してましたよ」
「え?という事はイリスは馬車を運転出来るの!?」
「そんなに驚く事の程でも……別に馬車を操作する事ぐらいは大抵の冒険者は出来ますよ」
「そうなのか……」


イリスの発言を聞いたレアは彼女の提案を聞き、色々と考えた末にある乗物を思い付く。まずは夜が明ける前にこの廃墟を抜け出す必要がある。


「イリスはこの街を調査していたという事は街の外に繋がる道も知ってるよね?悪いけど、今からこの街の外まで案内してくれない?」
「街の外って……まさか徒歩で草原を移動する気ですか!?幾ら腕に自信があるとしても無謀ですよ!!」
「大丈夫、乗物は用意できるから」
「本当ですか……まあ、そこまで言うのなら……」


レアの提案にイリスは渋々と承諾し、どちらにしろ戦闘手段を持たない彼女では一人で抜け出す事は出来ないため、レアと同行するしか生き残る道はない。それに彼が特別な「力」を持っている事は間違いなく、彼女はレアを信じて廃墟の外まで案内を決意する――





――ファストの街の調査を任されたイリスは既に他の仲間が生きている時に大方の調査は済ませていたらしく、彼女の案内の元でレアは遂に廃墟の外に赴く。事前の彼女の言葉通り、街の周辺は美しい草原で覆われていた。


「おおっ……凄い光景だな。サバンナに訪れたみたいだ」
「さば?魚がどうかしましたか?」
「鯖じゃないよ。というか、鯖はこの世界にもいるのか……」


見渡す限り広がる草原にレアは感動する一方、自分が本当に別の世界に転移してしまったと再認識しながら彼は弾丸を取り出し、解析の能力を発動させる。


『弾丸――拳銃の弾丸 状態:使用可能』
「これをどう変えるかな……」
「……?」


視界に表示された画面にレアは指を構えるが、イリスの視界には彼が虚空に向けて指を伸ばしているようにしか見えない。


「これでいいかな」
『馬車――木造製の大型馬車 状態:使用可能』


弾丸に文字を書きこんだレアは無事に視界の画面が切り替わったことを確認し、彼の手元の弾丸が光り輝き始める。無事に成功する事を願って地面に放り投げると、レアとイリスの目の前で弾丸の形状が変化を始めた。


「うわ、何が起きてるんですか?」
「いいから下がって!!」


通常よりも弾丸の変化に時間が掛かったが、やがて二人の目の前で木造製の馬車が誕生し、ご丁寧に車に繋がれた二頭の「馬」まで存在した。これでレアの能力は「生物」でさえも作り出せる事が可能だと判明し、目の前に現れた立派な馬車にイリスは目を見開く。


「な、何が起きたんですか!?一体何処からこんな馬車が……」
『ヒヒンッ!!』
「わあっ!?びっくりした!!」


イリスの大声に反応したように二頭の馬が鳴き声を上げ、レア自身も自分が仕出かしたこととはいえ、まさか本当に馬車の乗物だけではなく、車を引く馬その物を作り出せるとは思っていなかった。


「本当の馬にしか見えないな……お前等、何処から来たんだよ?」
『ブルルッ……』


レアが恐る恐る馬に近付いて手を伸ばすと、二頭の馬は親を慕う子供のように彼に頭を擦り寄せる。
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