文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

億万長者

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「あ、そうだ……イリス、お金は持ってる?」
「え?どうしたんですか急に?」
「いや、ちょっと試したい事があって……それと通貨の単位も教えてくれない?」
「別にいですけど……そういう常識的な事まで忘れてたんですか?」


イリスは運転を中断して財布代わりの小袋を取り出す。袋の中から数枚の硬貨を取り出し、レナに差し出す。


「まず、この鉄貨と呼ばれる鉄製の硬貨が一番値打ちが低いです」
「鉄貨……」


最初に渡されたのは鉄製の小さな硬貨であり、大きさは日本円の1円玉と同程度の大きさだが、重さに関しては鉄製なので大きさの割には重量があった。


「続いてこちらが銅貨です。銅製の硬貨ですが鉄貨より価値は高いです」
「銅貨か……十円玉みたいだな」


今度は銅製の硬貨を渡され、外見も大きさも10円玉と酷似しているが、こちらの世界ではそれなりに価値があるらしく、一般の間では最も使用される事が多い硬貨と判明する。


「次は銀貨ですね。純銀製ではないですが、結構綺麗ですよ」
「なるほど」


次の銀貨は「五百円硬貨」を想像させる大きさの銀貨を渡され、イリスの話を聞く限りでは貴族が最も多用する効果だと判明する。


「最後はこの金貨ですね。本当はもっと価値の高い通貨も存在するんですけど、私が持っているのはこの4つだけです」
「おお、金貨だ……本物の金で出来てる」


最後に渡されたのは純金製の硬貨であり、大きさは銀貨と同程度だが、価値は全ての通貨の中でも2番目に位置するほど高く、彼女の説明からレアはこれまでの通貨の価値を現実世界で換算するとこのような結果になった。



―――通貨―――

・鉄貨――100円
・銅貨――1000円
・銀貨――1万円
・金貨――10万円

――――――――



一般人が多用するのは鉄貨と銅貨であり、あまり銀貨や金貨の類は使用する事はない。逆に貴族などの上流階級の人間は銀貨や金貨を多用する傾向が存在し、リリスも普段の生活では鉄貨と銅貨しか使用しないらしい。


「これが世界共通の通貨です。昔は色々な国で様々な通貨が存在したそうですけど、数百年前から現在の通貨に統合されました」
「という事はこの通貨以外に通貨は存在しないの?」
「しません。嘗て存在した通貨は全て処分されています。仮に見つかったとしてもお金としての価値はありませんね」
「なるほど」


レアは自分が財布を持っていたとしてもイリスの話を聞く限りでは現実世界の通貨や紙幣はこちらの世界では何の価値が無い事が判明し、その一方で彼は渡された4つの硬貨に視線を向け、ある実験を行う。


「これ、ちょっとだけ借りていい?」
「え?どうする気ですか?」
「大丈夫、すぐに返すから」
「あ、ちょっと!?」


掌に存在する4つの硬貨をレアは「アイテムボックス」を発動させて硬貨を異空間に回収する。自分のお金が勝手に回収されたイリスは慌てふためくが、レアはステータス画面を開いてリストの画面を確認する。


――リスト(制限重量:無限)――

・狙撃銃     ×1
・散弾銃     ×1
・弾丸      ×30
・日本刀     ×1
・鍋       ×1
・電灯      ×1
・寝袋      ×1
・スマートフォン ×2
・毛布      ×2
・魔力回復薬   ×10

・鉄貨      ×1
・銅貨      ×1
・銀貨      ×1
・金貨      ×1

―――――――――――――――


無事に回収した硬貨が画面に表示されている事を確かめ、レアは文字変換の能力を利用して入手した効果の「所持数」を変換させる。


「これで良し……じゃあ、返すね」
「え?あの……何をしたんですか?」


収納魔法を発動して先程回収した硬貨を取り出したレアにリリスは戸惑いながらも硬貨を返してもらうが、レアの目的は収納魔法の画面に硬貨を表示させる事であり、彼の視界には文字変換の能力で増加させた硬貨が表示されていた。


――リスト(制限重量:無限)――

・鉄貨      ×99
・銅貨      ×99
・銀貨      ×99
・金貨      ×99

―――――――――――――――



レアの視界に表示されているリストの画面には先程返却したはずのイリスの硬貨が存在し、文字変換の能力を利用して所持数を変化させ、硬貨の数を増加させた。これで頂いた分の硬貨を返しても問題はなく、金銭に困る事はないだろう。


「くっくっくっ……これで俺は億万長者だ」
「あの、急に怖い顔になったんですけど……何か悪い事を考えていませんか?」


レアは自分の視界に表示されているリストに視線を向け、表示されている硬貨を確認して笑みを抑えられない。文字変換の能力を利用すれば幾らでも4つの硬貨を量産する事が可能であり、これで金銭面に困る事態は起きないだろう。本物と全く同じ性能を持つ物体を作り出す能力のお陰で彼は理論上では無限の硬貨を生み出す事が可能となった。


「さてと……今日はもう寝ようか」
「え、寝るって……こ、こんな密室で私に何をする気ですか!?」
「さっきまで普通に馬車で寝てたじゃんっ!!普通に寝るだけだよっ!!昨日はろくに眠れなかったし、少し仮眠を取ろう」
「ですよね」


寝台は1つしかないが2人で眠るには十分なスペースが存在し、レアとイリスは毛布を被って就寝を行う。本当ならば今度はイリスが見張り役として寝ずの番を行う予定なのだが、当の本人も忘れて二人は寝台の上で眠り込む。色々な事が起きたせいか、今更お互いが遠慮する事はなく、身体を休ませる。




――1時間後、腕に違和感を覚えたレアが目を覚ますと、呑気に隣で人の腕を枕代わりに使用して眠っているリリスに気付く。彼女は涎を垂らしながら男性と一緒に眠っているにも関わらず、無褒美な姿を晒していた。


「うへへっ……姉ちゃん、いい乳してるじゃないですかっ……」
「おっさんかお前はっ」
「あふんっ」


痺れる腕を引き剥がすとリリスは奇妙な悲鳴を上げて壁に額をぶつけ、眠たそうに顔を上げて大きな欠伸を行う。


「ふああっ……あ、おはようございます。いや、おはようというのもおかしいですけど……今日の朝ご飯はサンドウィッチを所望します」
「おはよう……そして朝から図々しいな。後で用意するよ」


寝ている間に特に魔物に襲われる事もなく、レアは窓ガラス越しに外の様子を窺う。魔物らしき姿は見えないがイリスの話では大抵の魔物は昼行性であり、夜は大人しかった魔物達も行動を開始する時間帯を迎えた事になる。


「よし、じゃあ出発しようか」
「あ、運転なら私がしますよ。だいたい昨日の運転で操作方法は分かりましたし、街への方角が分かりますから……」
「……じゃあ、任せる」


意を決して運転席に座り込もうとしたレアをイリスが制止し、彼よりも早々に運転方法を掴んだ彼女が申し出る。元々は自分の世界のしかも自分が作り出した乗物にも関わらずに他の人間に運転を任せる事にレアは複雑な気持ちを抱くが、彼女に運転を任せる間に色々と整理したい物があるのを思い出す。


「何か起きたらすぐに教えて……安全運転を心掛けてね」
「はいはい……それにしてもちょっと暑いですね。あ、ここを押せば冷たい風が吹きますよ!!」
「君、本当は車の運転を知ってるんじゃないのっ!?」


会話の際中にクーラーの存在さえも気付いたイリスにレアは本当に車の運転の初心者なのかと突っ込みを入れるが、仕方なく彼女に運転を任せて朝食の準備を行う。冷蔵庫も配備されている事は有難く、これからは作り出した食料や飲み物も保管できるようになった。


「電子レンジまで配備されているのは有難いな……よし、今日はコーンフレークでも作るか」
「あれ?ちょっと待ってください。私がさっき希望したサンドウィッチはどうしたんですか?」
「わがまま言うなっ!!俺の能力も万能じゃないんだ!!」
「いや、こんな凄い物を作り出せるのにサンドウィッチは無理なんですかっ!?」


ささやかな復讐とばかりにイリスの申し出を断ってレアは弾丸を取り出し、食料品を作り出す


「こんな感じかな」
『コーンフレーク――箱詰めされた異世界の食べ物 状態:飲食可能』
『牛乳――紙製のパックに収められた牛乳 状態:飲食可能』


適当な文章に変更して弾丸を机の上に置くと、地球ではレアが子供の頃によく食べていた「コーンフレーク」の箱と牛乳パックが誕生する。
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