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廃墟編
シルフィアの覚悟
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――龍殺しの英雄に登場する神人は龍から人類を守る守護者として作り出された存在だが、同時に彼女達は自分達が生き延びるために龍と戦い続けている。理由は龍から得られる高濃度の魔素こそが彼女達の生命を維持するために必要不可欠なため、彼女達は生涯戦い続けなければならない。
魔素の補給自体は龍との戦闘以外にも可能だが、効率よく回復させるのは龍の体内から直接魔素を吸い上げるしかない。生き続けている限りは彼女達は龍との戦闘は避けられず、もしも魔素が肉体から枯渇したら彼女達は死んでしまう。だからこそ神人が龍を討伐するのは自分達が生き残るためである。
しかし、龍との戦闘は非常に危険が大きく、神人であろうとも無敵ではない。龍の種類は千差万別であり、常に進化をし続けている。中には神人を遥かに上回る力を持つ個体も存在し、それでも彼女達は生き残った人類と自分達が生き続けるために戦いを強いられていた。
シルフィアは神人の中でも特に性格が人間よりであり、他の姉妹の神人と違って常に彼女は自分の存在に不安を覚えていた。魔素が身体から消失すれば死亡してしまう状況に常に晒され、彼女は心の何処かで恐怖を抱き、龍との戦闘の度に恐怖心を押し殺して戦い続け、龍を討伐する度に自分が生き残れたことに感動し、同時にこれからも戦い続ける人生に悲観していた。
だが、そんな彼女の悩みを解決するのは龍殺しの英雄の「主人公」だった。物語の設定上では主人公だけが彼女の悩みを解決する存在であり、この主人公は高濃度の魔素を作り出し、神人に分け与える能力を持っている。だからこそ彼女は龍との戦闘を行わずとも確実に魔素を補給できるようになり、無理に戦闘を行う必要がなくなった。シルフィアの臆病な性格は主人公の相棒として共に行動させるのに必要な設定であり、実際に彼女は主人公の良きパートナーとして読者からも人気が高い。
レアはそんな彼女に龍殺しの物語の主人公でさえも真似できない方法でシルフィアの悩みを解決した事になり、結果としてシルフィアは彼に対して多大な感謝と好意を抱くのはごく自然の事と言えるだろう。シルフィアはレアの前に跪き、本来は主人公にしか見せない笑顔を浮かべて彼の掌を掴む。
「勇者様……!!これからは貴方のためだけに仕えます!!誠心誠意頑張ってご奉仕します!!」
「え、ちょっ……」
「ああ、折角のワイバーンの素材が……」
唐突に自分に仕えると言い出したシルフィアにレアは戸惑うが、その一方でイリスは消滅してしまったワイバーンの死骸が存在した場所に膝を崩し、激しく落ち込む。竜種の死骸など滅多に手に入る事はなく、上手く素材を剥ぎ取れれば一攫千金も有り得たのだが、死骸は灰も残さずに消えてしまった。
「あの、とりあえずは立ってくれませんか?もうちょっと冷静に話し合いません?」
「はい!!何なりとご命令ください!!」
「いや、別に命令とかじゃないから……調子狂うな」
「まあ、別にいいです。せめて爪だけでも回収出来た分、良しとしましょう……あれ!?消えてる!?」
「そっちもうるさいよ」
レアの言葉に元気よく返事をしながらシルフィアは起き上がり、その一方でイリスは回収したワイバーンの爪が消えている事に気付き、慌てて周囲を見渡すが発見できない。恐らくはシルフィアに話しかけられた時に爪を地面に落としてしまい、そのまま彼女の「シャイニングクロス」に巻き込まれて消滅してしまったのだろう。
「あああああっ……私の苦労がぁあああっ!!」
「落ち着きなよ……命が助かっただけでも良かったでしょ?」
「も、申し訳ありません……魔素が確認できなかったので利用価値は無しと判断して攻撃対象にしてしまいましたが、不味かったのでしょうか?」
「当たり前ですよ!!あれほどの大きさのワイバーンなら爪や牙だけでも大きな屋敷を買えるぐらいの価値はあったんですよ!?」
「す、すいません!!」
イリスの言葉にシルフィアはぺこぺこと頭を下げるが、よくよく考えれば命の恩人である彼女に責め立てるイリスの方が質が悪く、そもそもワイバーンを倒したのはシルフィアなので彼女が死骸の所有権を名乗る権利はある。
「それくらいにしておきなよイリス……シルフィアは命の恩人なんだよ?」
「うっ……そう言われると何も言えませんけど」
「ありがとうございますマスター……私の事を庇ってくれたんですね」
「いつの間にかマスター呼びになってる!?」
レアの言葉にイリスが冷静さを取り戻し、一方でシルフィアは自分を庇ってくれたレアに感動する。そして彼の事を「マスター」と呼ぶことで自分の主人である事を認識し、誠心誠意仕える事を改めて誓う。
「ところでこれからどうしますか?乗物がなくなりましたけど、街へ向かいますか?」
「そうだね。じゃあ、今から新しい乗り物を作り出すから……あ、でもシルフィアはテレポートを使えなかった?」
「申し訳ありません……私の転移機能は記録した地点にしか移動できません。ですが、私が先に街に向かい、記録を終えてからお二人を迎える事も出来ます」
「流石は作中の中でも一番のお助けキャラだな……じゃあ、お願いしていいかな。あ、出来るだけ目立たないように気を付けてね?」
「分かりました。ステルス機能を利用して住民に気付かれないように移動します」
「あの、言っている意味がよく理解できないんですけど……シルフィアさんに任せれば街に辿り着けるんですか?」
「お任せください!!では、1分程で戻りますのでこの場所から離れないようにしてください……ウィング展開!!」
『うわっ!?』
シルフィアは言葉を言い終えると両腕の紋様が背中に移動し、そして「光の翼」を作り出す。そのまま彼女は空中に移動すると、体内に内蔵されているレーダーを頼りに周辺の地形を把握し、町が存在する方向に飛び立った――
※次の本編の投稿日は2月2日ですが、1月31日はキャラクターのステータスを投稿します。
魔素の補給自体は龍との戦闘以外にも可能だが、効率よく回復させるのは龍の体内から直接魔素を吸い上げるしかない。生き続けている限りは彼女達は龍との戦闘は避けられず、もしも魔素が肉体から枯渇したら彼女達は死んでしまう。だからこそ神人が龍を討伐するのは自分達が生き残るためである。
しかし、龍との戦闘は非常に危険が大きく、神人であろうとも無敵ではない。龍の種類は千差万別であり、常に進化をし続けている。中には神人を遥かに上回る力を持つ個体も存在し、それでも彼女達は生き残った人類と自分達が生き続けるために戦いを強いられていた。
シルフィアは神人の中でも特に性格が人間よりであり、他の姉妹の神人と違って常に彼女は自分の存在に不安を覚えていた。魔素が身体から消失すれば死亡してしまう状況に常に晒され、彼女は心の何処かで恐怖を抱き、龍との戦闘の度に恐怖心を押し殺して戦い続け、龍を討伐する度に自分が生き残れたことに感動し、同時にこれからも戦い続ける人生に悲観していた。
だが、そんな彼女の悩みを解決するのは龍殺しの英雄の「主人公」だった。物語の設定上では主人公だけが彼女の悩みを解決する存在であり、この主人公は高濃度の魔素を作り出し、神人に分け与える能力を持っている。だからこそ彼女は龍との戦闘を行わずとも確実に魔素を補給できるようになり、無理に戦闘を行う必要がなくなった。シルフィアの臆病な性格は主人公の相棒として共に行動させるのに必要な設定であり、実際に彼女は主人公の良きパートナーとして読者からも人気が高い。
レアはそんな彼女に龍殺しの物語の主人公でさえも真似できない方法でシルフィアの悩みを解決した事になり、結果としてシルフィアは彼に対して多大な感謝と好意を抱くのはごく自然の事と言えるだろう。シルフィアはレアの前に跪き、本来は主人公にしか見せない笑顔を浮かべて彼の掌を掴む。
「勇者様……!!これからは貴方のためだけに仕えます!!誠心誠意頑張ってご奉仕します!!」
「え、ちょっ……」
「ああ、折角のワイバーンの素材が……」
唐突に自分に仕えると言い出したシルフィアにレアは戸惑うが、その一方でイリスは消滅してしまったワイバーンの死骸が存在した場所に膝を崩し、激しく落ち込む。竜種の死骸など滅多に手に入る事はなく、上手く素材を剥ぎ取れれば一攫千金も有り得たのだが、死骸は灰も残さずに消えてしまった。
「あの、とりあえずは立ってくれませんか?もうちょっと冷静に話し合いません?」
「はい!!何なりとご命令ください!!」
「いや、別に命令とかじゃないから……調子狂うな」
「まあ、別にいいです。せめて爪だけでも回収出来た分、良しとしましょう……あれ!?消えてる!?」
「そっちもうるさいよ」
レアの言葉に元気よく返事をしながらシルフィアは起き上がり、その一方でイリスは回収したワイバーンの爪が消えている事に気付き、慌てて周囲を見渡すが発見できない。恐らくはシルフィアに話しかけられた時に爪を地面に落としてしまい、そのまま彼女の「シャイニングクロス」に巻き込まれて消滅してしまったのだろう。
「あああああっ……私の苦労がぁあああっ!!」
「落ち着きなよ……命が助かっただけでも良かったでしょ?」
「も、申し訳ありません……魔素が確認できなかったので利用価値は無しと判断して攻撃対象にしてしまいましたが、不味かったのでしょうか?」
「当たり前ですよ!!あれほどの大きさのワイバーンなら爪や牙だけでも大きな屋敷を買えるぐらいの価値はあったんですよ!?」
「す、すいません!!」
イリスの言葉にシルフィアはぺこぺこと頭を下げるが、よくよく考えれば命の恩人である彼女に責め立てるイリスの方が質が悪く、そもそもワイバーンを倒したのはシルフィアなので彼女が死骸の所有権を名乗る権利はある。
「それくらいにしておきなよイリス……シルフィアは命の恩人なんだよ?」
「うっ……そう言われると何も言えませんけど」
「ありがとうございますマスター……私の事を庇ってくれたんですね」
「いつの間にかマスター呼びになってる!?」
レアの言葉にイリスが冷静さを取り戻し、一方でシルフィアは自分を庇ってくれたレアに感動する。そして彼の事を「マスター」と呼ぶことで自分の主人である事を認識し、誠心誠意仕える事を改めて誓う。
「ところでこれからどうしますか?乗物がなくなりましたけど、街へ向かいますか?」
「そうだね。じゃあ、今から新しい乗り物を作り出すから……あ、でもシルフィアはテレポートを使えなかった?」
「申し訳ありません……私の転移機能は記録した地点にしか移動できません。ですが、私が先に街に向かい、記録を終えてからお二人を迎える事も出来ます」
「流石は作中の中でも一番のお助けキャラだな……じゃあ、お願いしていいかな。あ、出来るだけ目立たないように気を付けてね?」
「分かりました。ステルス機能を利用して住民に気付かれないように移動します」
「あの、言っている意味がよく理解できないんですけど……シルフィアさんに任せれば街に辿り着けるんですか?」
「お任せください!!では、1分程で戻りますのでこの場所から離れないようにしてください……ウィング展開!!」
『うわっ!?』
シルフィアは言葉を言い終えると両腕の紋様が背中に移動し、そして「光の翼」を作り出す。そのまま彼女は空中に移動すると、体内に内蔵されているレーダーを頼りに周辺の地形を把握し、町が存在する方向に飛び立った――
※次の本編の投稿日は2月2日ですが、1月31日はキャラクターのステータスを投稿します。
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