18 / 220
二章:魔女は、彼と朝を迎えました。
六話 魔女は、仔狼に癒される。
しおりを挟む
驚く事に、伊都は魔法を使えるらしい。
絵本に描かれる泣き虫魔女の魔法。木製のかぎ針を魔法のステッキのように使うシーンが描かれていたけれど……。
(まさか自分が、出来るだなんて思わないし)
ちくちくと毛糸針で接ぎ合わせて、余り糸で三つ編みにした腰紐を作りさくっと着込むと、ウール百パーセントだけあって寒さは格段に軽減された。
ほっと息を吐き、伊都はさらに考える。
いや、考えてみればこれは夢ではないか。ならば何も不思議な事はないのではと、伊都は開き直り。
「うん、私は編み物の魔女で、いいじゃない。何の問題もないし」
うん、と頷いた伊都は、早速検証を始める。
前の季節の在庫品で、半額以下になっていた冬ものの糸を何故か買っていた……あきらかに秋口まで罪庫になっていただろうそれを、そそくさと出して、さらに太めのかぎ針を手にし。
「ええと、つまり編むものに合った歌詞でいつもの歌を歌えばいい訳で……? ルル・リ・ルル・ランラ。これは私の冷えた足を暖めるもの。揃いの、レッグウォーマー。ルル・リ・ルル・ランラ。これも私の足を暖めるもの。揃いの、ルームシューズ」
何となくおざなりな歌詞を付けて、小物を一気に作り上げようとする。
「うん、出来た、出来たね……」
適当に歌っても、物が簡単なものだからか編めてしまった。
各セット一分半程か。恐ろしい程に便利な魔法である。
「む、無敵感が凄いわ……」
頬が赤らみ目は潤む。うっとりとした彼女の顔は今、ちょっと扇情的な表情をしている。
彼女の能力は、決して無敵ではない。ただ編み物が素早く出来るだけである。ただ、作りたいものが常に大量にある編み物好きには、たまらない魔法であったのだ。
むらむらと込みあがってくる編み物欲に突き動かされるまま、伊都は仔狼らへの贈り物へと取りかかった。
「うん、皆かわいいわ」
最後の一匹にティペット(肩掛け)を羽織らせて、首元にきゅっと結びつける。
「魔女ー、ぼく似合う?」
「ええ、似合うわよ」
「なあねえちゃん、おいらはどうだ?」
「ギャン君もとっても似合ってるわ」
「へへっ、そうかっ」
ルームシューズとレッグウォーマーの冷えとり装備で、床に散らばるやんちゃな仔狼らにほほえみ掛ける伊都。
コロコロ転がるようにして、伊都へと向かって駆けてくる様はたまらなく愛くるしい。
(ああ、本当にここは天国かしら)
天然ゆたんぽの如く足下を暖めてくれるから、冷えとり装備と合わせて今の伊都はぽかぽかである。
この頃になると、仔狼らの個性もはっきり分かってきた。元気はつらつ、のんびり屋、きかん坊、世話好き……。
どの仔も個性的で、見間違える事はなさそうだ。
(……動物だからかな、どうも色々ハードルが下がるなぁ)
作るに作ったり、ティペットの数は十五枚。それぞれの肩に掛かる贈り物達を見て、伊都はくすりと笑う。
(一応、男の子達への贈り物、な筈なのにね)
普段の伊都なら、昨日会ったばかりの人に手作りのもの贈るなど、絶対ありえない事態だ。
「そういえば……ジルバーに贈るべき、なのかしら」
でも彼は白銀さんの姿で、そもそもあんな巨大な狼にティペットは似合わない気がするし……伊都はうーんと悩んでしまう。
と、それを聞きつけたかのように、狩りを終えたジルバーが狼姿で帰ってきた。
「なあなあっ、にいちゃん、これ似合うかっ! 魔女のねえちゃんに作って貰ったんだ!」
「ボクもー」
「オレもだ」
仔狼らがわんわんと兄に報告に行くと、青い目を大きく見開き硬直したかと思えば急ぎ足で餌場に向かい、どさりと獲物を置いて。
かと思えば、人型に変身して伊都のいるベッドの脇まで突き進んできて、がばりと抱きついてきた。
「え? え?」
……いきなりの事に、伊都は言葉も浮かばない。
「ずるい」
ジルバーはすりすりと伊都の頭に頬を擦り寄せながら呟く。
(え、ずるい?)
裸の胸に抱きしめられたまま、目を瞬かせる伊都。
「俺のは、ないのか」
何故か、哀切の籠もった声に、伊都はようやく彼の思いに見当がついた。
ぐいと肩を押して、彼の顔を見上げながら伊都はおそるおそる、言葉を紡ぐ。
「……ジルバー、貴方に、私から贈り物をしてもいいのかしら」
はずれていたら、大分恥ずかしい。顔を赤くしながら慎重に言うと、彼はこっくりと頭を頷かせる。
「ああ、欲しい。あんたのくれる物なら、何だって。出来るなら一番に欲しかった」
絵本に描かれる泣き虫魔女の魔法。木製のかぎ針を魔法のステッキのように使うシーンが描かれていたけれど……。
(まさか自分が、出来るだなんて思わないし)
ちくちくと毛糸針で接ぎ合わせて、余り糸で三つ編みにした腰紐を作りさくっと着込むと、ウール百パーセントだけあって寒さは格段に軽減された。
ほっと息を吐き、伊都はさらに考える。
いや、考えてみればこれは夢ではないか。ならば何も不思議な事はないのではと、伊都は開き直り。
「うん、私は編み物の魔女で、いいじゃない。何の問題もないし」
うん、と頷いた伊都は、早速検証を始める。
前の季節の在庫品で、半額以下になっていた冬ものの糸を何故か買っていた……あきらかに秋口まで罪庫になっていただろうそれを、そそくさと出して、さらに太めのかぎ針を手にし。
「ええと、つまり編むものに合った歌詞でいつもの歌を歌えばいい訳で……? ルル・リ・ルル・ランラ。これは私の冷えた足を暖めるもの。揃いの、レッグウォーマー。ルル・リ・ルル・ランラ。これも私の足を暖めるもの。揃いの、ルームシューズ」
何となくおざなりな歌詞を付けて、小物を一気に作り上げようとする。
「うん、出来た、出来たね……」
適当に歌っても、物が簡単なものだからか編めてしまった。
各セット一分半程か。恐ろしい程に便利な魔法である。
「む、無敵感が凄いわ……」
頬が赤らみ目は潤む。うっとりとした彼女の顔は今、ちょっと扇情的な表情をしている。
彼女の能力は、決して無敵ではない。ただ編み物が素早く出来るだけである。ただ、作りたいものが常に大量にある編み物好きには、たまらない魔法であったのだ。
むらむらと込みあがってくる編み物欲に突き動かされるまま、伊都は仔狼らへの贈り物へと取りかかった。
「うん、皆かわいいわ」
最後の一匹にティペット(肩掛け)を羽織らせて、首元にきゅっと結びつける。
「魔女ー、ぼく似合う?」
「ええ、似合うわよ」
「なあねえちゃん、おいらはどうだ?」
「ギャン君もとっても似合ってるわ」
「へへっ、そうかっ」
ルームシューズとレッグウォーマーの冷えとり装備で、床に散らばるやんちゃな仔狼らにほほえみ掛ける伊都。
コロコロ転がるようにして、伊都へと向かって駆けてくる様はたまらなく愛くるしい。
(ああ、本当にここは天国かしら)
天然ゆたんぽの如く足下を暖めてくれるから、冷えとり装備と合わせて今の伊都はぽかぽかである。
この頃になると、仔狼らの個性もはっきり分かってきた。元気はつらつ、のんびり屋、きかん坊、世話好き……。
どの仔も個性的で、見間違える事はなさそうだ。
(……動物だからかな、どうも色々ハードルが下がるなぁ)
作るに作ったり、ティペットの数は十五枚。それぞれの肩に掛かる贈り物達を見て、伊都はくすりと笑う。
(一応、男の子達への贈り物、な筈なのにね)
普段の伊都なら、昨日会ったばかりの人に手作りのもの贈るなど、絶対ありえない事態だ。
「そういえば……ジルバーに贈るべき、なのかしら」
でも彼は白銀さんの姿で、そもそもあんな巨大な狼にティペットは似合わない気がするし……伊都はうーんと悩んでしまう。
と、それを聞きつけたかのように、狩りを終えたジルバーが狼姿で帰ってきた。
「なあなあっ、にいちゃん、これ似合うかっ! 魔女のねえちゃんに作って貰ったんだ!」
「ボクもー」
「オレもだ」
仔狼らがわんわんと兄に報告に行くと、青い目を大きく見開き硬直したかと思えば急ぎ足で餌場に向かい、どさりと獲物を置いて。
かと思えば、人型に変身して伊都のいるベッドの脇まで突き進んできて、がばりと抱きついてきた。
「え? え?」
……いきなりの事に、伊都は言葉も浮かばない。
「ずるい」
ジルバーはすりすりと伊都の頭に頬を擦り寄せながら呟く。
(え、ずるい?)
裸の胸に抱きしめられたまま、目を瞬かせる伊都。
「俺のは、ないのか」
何故か、哀切の籠もった声に、伊都はようやく彼の思いに見当がついた。
ぐいと肩を押して、彼の顔を見上げながら伊都はおそるおそる、言葉を紡ぐ。
「……ジルバー、貴方に、私から贈り物をしてもいいのかしら」
はずれていたら、大分恥ずかしい。顔を赤くしながら慎重に言うと、彼はこっくりと頭を頷かせる。
「ああ、欲しい。あんたのくれる物なら、何だって。出来るなら一番に欲しかった」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる