編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きＯＬがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。

11話 夢、うつつ、とたゆたう時は。（2）

「と、言っても。私も又聞きだからよく分かっていないのよ？」
　伊都は、簡単に状況を説明する。と言っても、疎遠な人から何故か組織を壊すような陰謀の首謀者であるとされて、その陰謀説を信じた偉い人に嫌われているらしい、といった、あやふやな説明でしかなかったが。

「ふむ……」
　彼はしばし目を閉じると、青い目を開けて伊都を見つめながら、ゆっくり話し出した。
「それは身の潔白を出来るだけ自分の口から周知しておいた方がいい。人は、噂程度でも疑う事がある」
　自分だけで解決など無理だから、周りを頼れと彼は言う。
「わざわざあんたの耳に入れてくれたんだから、周りだってあんたの事を心配してるんだろう」
　そう言って、彼こそが心配そうに伊都の頬を撫でてくる。
　その労りの仕草に心癒されて、伊都は大きく息をした。大好きな彼の匂いと、干し草の香りに包まれるこのベッドの上が伊都はとても大好きだ。

　二人で寝床で並んでいる癖に、やたら色気のない話しが展開するのは、とても残念な事だが。

「でも、ただの誤解だし、大げさな事になったら職場の空気が悪くなりそうで」
「いや。そこはあんただけで抱え込む方が危険だ。あんたが苦手な奴ってのは、あんたより権限が強いんだろう」
　確かに工場長である灰谷は、いち事務でしかない伊都より大分偉い気がするが……。
「……？　えっと、そんな説明したかしら」
「いや……あれだ、推測だ」

　何故か言葉を濁した彼に、まあいいかと伊都は流す。これは夢だから、そう考えて。

「兎に角、あんたは出来るだけ協力者を作っておけ。格が上の相手に単独で挑むものじゃない。狼は、集団で狩りをするものだ」
　片手でぎゅっと抱き寄せられて、伊都は両手でそれに応えながら呟いた。
「それは確かに……」
　伊都は狼ではないけれど、ジルバーの嫁で、狼ファミリーの一員なのだから群のリーダー、アルファの言うことは聞くべきなのだろう。

　彼を相手に状況を整理してみたら、かなり分が悪い戦いではないかと気づいてぞっとした。
（私、本当にヒラもヒラの、何の力もない社員ですものね……。社長や灰谷さんがその気になったらどうとでもなるわ）
　それこそ、懲罰ちょうばつめいた異動で、事務員から工場のラインに入らされ、灰谷の下で未だ満足に動かぬ体を承知で重労働を充てられる事だってありえるのだから。そんなことになったら、精神的肉体的に立ち直れていない伊都は、今度こそ死に至るかもしれない。

「俺は、あんたが心配だ」
　低く艶やかな声がそう呟くのを聞いて、伊都はようやく決心する。