65 / 220
四章 冷たい部屋からの救出
十六話 その温もりに言葉を尽くす(4)
しおりを挟む
仕事道具であるパソコンに、気軽に付き合う?
戸惑う伊都に、白銀は軽く首を竦めて見せ。
「織部さんは真面目だからすぐにでも実用出来る技能をと考えがちですが、皆、意外に遊びから覚えるものですよ。私も学生時代は、よく友人から聞いたフリーのゲームをやったり、オンラインゲームなど競争性のあるゲームで勝利を掴む為に何時間も画面と向き合い、そこでマウス捌きを自然と学んでいったものです」
実は私、結構な負けず嫌いでして。何夜も徹夜して勝利するまでゲームに勤しんでいたんですよ。
白銀の言葉に、伊都は目を丸くする。
それは日頃から真面目そうな白銀には似合わない、学生時代のやんちゃぶりを感じさせるエピソードだ。
「そう……なんですか?」
「ええ。織部さんも、友人に誘われて付き合いで、スマホでゲームをしたことがあるでしょう?」
「あ、はい。確かに……誘われた事がありますね」
白銀の言葉に記憶を刺激され、ある事を思い出した伊都は頷く。
突然数年ぶりに学生時代の友人が連絡してきたと思えば「今回のイベント、好みのキャラが報酬にあるのにライフが足りないんだよね! 頼むから付き合って」 などと言ってゲームに誘ってきて、パズルゲームをダウンロードさせられたり、フレンド登録した覚えがある。
そこで伊都は拙いながらも、スマホのタップやスワイプ操作などを学んだのだ。
「パソコンだって、そういう遊びの延長で上達するものなのですよ」
「なるほど……」
言われて見ればその通りだが、伊都には思いつかない視点だった。
「どうしてもパソコンに対して苦手意識が沸くのなら、例えばですが、今お祭り実行委員会が使っているサーバのサービスに近いものを毎日使ってみるだとか……例えばですが、日記代わりにブログを初めてみるなりすると、身近になって苦手意識は減るかも知れませんね」
「ブログ、ですか」
「ええ。無料で気軽に始められるものも多いですよ。あのサービスも、商用向けだけでなく確か無料レンタルがあった筈です。日頃から使い慣れているサービスならば、いざと言う時にも何処にどんな機能があるかが容易に思い浮かぶようになるでしょう」
意外と、どのソーシャル系サービスも似たような機能が付いているものでしてね、と。繋いだ手を揺らしながら白銀は伊都に笑いかける。
こんな風に、いつだって彼はフォローを忘れない。伊都が挫けそうになる度に、彼は手を引きながら伊都自身が理解をするまでゆっくりと待っていてくれて、助言をくれる。
今までは上司の作ったテンプレートに数字を差し込むぐらいしか出来なかった伊都に、パソコンの楽しみ方を教えてくれるのだ。
「ああ、夏と言ってもここは冷えます。そろそろ送りましょう」
自然と手を繋いだまま、彼はエスコートするように伊都を導いた。
伊都もそれに当たり前のように受け止めて。
近所とはいえ、伊都のアパートへはパーキングから数分程歩く。最寄り駅からほどほど離れた狭い路地の中で、付属の駐車場も戸数に足りないという条件の悪さ。尤も、このアクセスの悪さのおかげで安月給の伊都でも無理なく住める、格安料金で借りられているのだが。
片手を彼に預けたまま、歩く帰り道。
狭い狭い、車のすれ違い出来ない程の道で、肩をぶつけるようにして歩くのはいつもの事でも、片手を握ったままなのは初の事で。
(夢じゃ、ないのよね?)
ふわふわした気持ちで、伊都は笑顔のまま彼と歩く。
手を繋いだまま。
(もっとアパートが遠ければいいのに……)
伊都はふわふわとした幸せな気持ちのまま、彼と共に家路を辿った。
戸惑う伊都に、白銀は軽く首を竦めて見せ。
「織部さんは真面目だからすぐにでも実用出来る技能をと考えがちですが、皆、意外に遊びから覚えるものですよ。私も学生時代は、よく友人から聞いたフリーのゲームをやったり、オンラインゲームなど競争性のあるゲームで勝利を掴む為に何時間も画面と向き合い、そこでマウス捌きを自然と学んでいったものです」
実は私、結構な負けず嫌いでして。何夜も徹夜して勝利するまでゲームに勤しんでいたんですよ。
白銀の言葉に、伊都は目を丸くする。
それは日頃から真面目そうな白銀には似合わない、学生時代のやんちゃぶりを感じさせるエピソードだ。
「そう……なんですか?」
「ええ。織部さんも、友人に誘われて付き合いで、スマホでゲームをしたことがあるでしょう?」
「あ、はい。確かに……誘われた事がありますね」
白銀の言葉に記憶を刺激され、ある事を思い出した伊都は頷く。
突然数年ぶりに学生時代の友人が連絡してきたと思えば「今回のイベント、好みのキャラが報酬にあるのにライフが足りないんだよね! 頼むから付き合って」 などと言ってゲームに誘ってきて、パズルゲームをダウンロードさせられたり、フレンド登録した覚えがある。
そこで伊都は拙いながらも、スマホのタップやスワイプ操作などを学んだのだ。
「パソコンだって、そういう遊びの延長で上達するものなのですよ」
「なるほど……」
言われて見ればその通りだが、伊都には思いつかない視点だった。
「どうしてもパソコンに対して苦手意識が沸くのなら、例えばですが、今お祭り実行委員会が使っているサーバのサービスに近いものを毎日使ってみるだとか……例えばですが、日記代わりにブログを初めてみるなりすると、身近になって苦手意識は減るかも知れませんね」
「ブログ、ですか」
「ええ。無料で気軽に始められるものも多いですよ。あのサービスも、商用向けだけでなく確か無料レンタルがあった筈です。日頃から使い慣れているサービスならば、いざと言う時にも何処にどんな機能があるかが容易に思い浮かぶようになるでしょう」
意外と、どのソーシャル系サービスも似たような機能が付いているものでしてね、と。繋いだ手を揺らしながら白銀は伊都に笑いかける。
こんな風に、いつだって彼はフォローを忘れない。伊都が挫けそうになる度に、彼は手を引きながら伊都自身が理解をするまでゆっくりと待っていてくれて、助言をくれる。
今までは上司の作ったテンプレートに数字を差し込むぐらいしか出来なかった伊都に、パソコンの楽しみ方を教えてくれるのだ。
「ああ、夏と言ってもここは冷えます。そろそろ送りましょう」
自然と手を繋いだまま、彼はエスコートするように伊都を導いた。
伊都もそれに当たり前のように受け止めて。
近所とはいえ、伊都のアパートへはパーキングから数分程歩く。最寄り駅からほどほど離れた狭い路地の中で、付属の駐車場も戸数に足りないという条件の悪さ。尤も、このアクセスの悪さのおかげで安月給の伊都でも無理なく住める、格安料金で借りられているのだが。
片手を彼に預けたまま、歩く帰り道。
狭い狭い、車のすれ違い出来ない程の道で、肩をぶつけるようにして歩くのはいつもの事でも、片手を握ったままなのは初の事で。
(夢じゃ、ないのよね?)
ふわふわした気持ちで、伊都は笑顔のまま彼と歩く。
手を繋いだまま。
(もっとアパートが遠ければいいのに……)
伊都はふわふわとした幸せな気持ちのまま、彼と共に家路を辿った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる