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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。
九話 間章 魔女と狼はお散歩へ(2)
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今日は早起きして、仔狼らと遊ぶ約束を果たすべくお散歩の用意をする。
三日目ともなると、ずっと巣穴の中にいるのも飽きてきたのだ。
用意とは言うが、たっぷりと水を含んだ椰子の実のようなフルーツを肩下げ鞄に一つ入れ、後は汗拭き用のガーゼっぽい布を持つだけ。
……なのだが。
「俺の言う事聞くなら連れてってやる」
洞窟の入り口の辺りで、前脚を揃えふんぞり返って偉そうな若い狼が言う。
「魔女は弱いからな。俺が守ってやらないと」
ひょっとしたら昨日に引き続き、協力してくれるつもりなのかなと伊都は思うが、何だか「お前はお荷物だ」 と言外に伝えられたような気もする。
まあ確かに、牙も爪も持たない非戦力の魔女は、森の動物達にとってお荷物でしかないのだろうが。
「……ええと、お願いするわ」
まあ出かけられるならいいかと、深く考えずに伊都は頷く。
きっと、悪気はないのだろうと思い、守ってやるという言葉は軽く聞き流して。
「よし、ついてこい」
若い狼の尻尾がぶんぶん揺れている……何故か今日は、とても機嫌がよさそうだ。
「お出かけー?」
「魔女もー?」
「なら、魔女の贈り物していこうぜっ」
足下に集ってわんわんと元気に鳴く仔狼達。
「あら、ティペット着けていくの?」
「うんっ」
「魔女と一緒だからー」
「まあ、いい仔ね」
ぶんぶん尻尾を振り、楽しそうな仔狼らに順番にティペットを着せつけていると、さっきまでご機嫌だった若い狼がふてくされたように地面に伏せている。
「……? あら、どうしたの」
「別に」
相変わらず、思春期の少年のように気むずかしい若い狼を扱い兼ねて、伊都は困ったわと首を傾げた。
一度へそを曲げるとなかなか機嫌の直らない若い狼だが、仔狼らに急かされ先頭を切って洞窟を出て行った。
「あ、兄ちゃん待てよっ」
揃いのベビーブルーのティペットを纏った仔狼らはそれを追いかけころころと走っていくので、何となくお散歩の流れとなる。
朝露を含んだ森は新緑に萌え、木々は目に優しい色を辺りに広げている。
豊かな森の土の匂い、木々の放つさわやかな香りに包まれて、伊都は大きく伸びをした。
「……はあ、生き返るわ」
思えば、三日も冷えた巣穴の中に居たのだ。日差しが懐かしく感じても仕方がないのかも知れない。
「よーし、じゃあ今日は、すこし遠くまで行ってみましょうか」
「わーい」
「お散歩楽しみー」
「僕もー」
屈託なく喜ぶ仔らが可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。
「おい、余り甘やかすな」
むっつりと先頭の若い狼が言う。
「あら、ごめんなさい」
そう謝るものの、伊都は誉めて伸ばすを信条にしている為、素直な仔らの事はこれからも誉めてやるつもりである。
「よーしっ。なあ魔女、どっか行きたい所ねぇかっ? おいらが案内してやるぞっ!」
「あらそう? じゃあ、ギャン君に案内頼もうかしら」
「おうっ、任せろっ!」
「あ、僕もねー、いろいろ知ってるよー」
「俺もー」
わらわらと仔狼らが伊都の周りに集まり、案内希望の仔らが声をあげていく。
「あらあら、どの仔にお願いしましょうか」
と、今日も大人気の魔女である。
「おい魔女、俺が連れて行くって……」
……仔狼に囲まれた魔女には、若い狼の小さなぼやきは聞こえない。
三日目ともなると、ずっと巣穴の中にいるのも飽きてきたのだ。
用意とは言うが、たっぷりと水を含んだ椰子の実のようなフルーツを肩下げ鞄に一つ入れ、後は汗拭き用のガーゼっぽい布を持つだけ。
……なのだが。
「俺の言う事聞くなら連れてってやる」
洞窟の入り口の辺りで、前脚を揃えふんぞり返って偉そうな若い狼が言う。
「魔女は弱いからな。俺が守ってやらないと」
ひょっとしたら昨日に引き続き、協力してくれるつもりなのかなと伊都は思うが、何だか「お前はお荷物だ」 と言外に伝えられたような気もする。
まあ確かに、牙も爪も持たない非戦力の魔女は、森の動物達にとってお荷物でしかないのだろうが。
「……ええと、お願いするわ」
まあ出かけられるならいいかと、深く考えずに伊都は頷く。
きっと、悪気はないのだろうと思い、守ってやるという言葉は軽く聞き流して。
「よし、ついてこい」
若い狼の尻尾がぶんぶん揺れている……何故か今日は、とても機嫌がよさそうだ。
「お出かけー?」
「魔女もー?」
「なら、魔女の贈り物していこうぜっ」
足下に集ってわんわんと元気に鳴く仔狼達。
「あら、ティペット着けていくの?」
「うんっ」
「魔女と一緒だからー」
「まあ、いい仔ね」
ぶんぶん尻尾を振り、楽しそうな仔狼らに順番にティペットを着せつけていると、さっきまでご機嫌だった若い狼がふてくされたように地面に伏せている。
「……? あら、どうしたの」
「別に」
相変わらず、思春期の少年のように気むずかしい若い狼を扱い兼ねて、伊都は困ったわと首を傾げた。
一度へそを曲げるとなかなか機嫌の直らない若い狼だが、仔狼らに急かされ先頭を切って洞窟を出て行った。
「あ、兄ちゃん待てよっ」
揃いのベビーブルーのティペットを纏った仔狼らはそれを追いかけころころと走っていくので、何となくお散歩の流れとなる。
朝露を含んだ森は新緑に萌え、木々は目に優しい色を辺りに広げている。
豊かな森の土の匂い、木々の放つさわやかな香りに包まれて、伊都は大きく伸びをした。
「……はあ、生き返るわ」
思えば、三日も冷えた巣穴の中に居たのだ。日差しが懐かしく感じても仕方がないのかも知れない。
「よーし、じゃあ今日は、すこし遠くまで行ってみましょうか」
「わーい」
「お散歩楽しみー」
「僕もー」
屈託なく喜ぶ仔らが可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。
「おい、余り甘やかすな」
むっつりと先頭の若い狼が言う。
「あら、ごめんなさい」
そう謝るものの、伊都は誉めて伸ばすを信条にしている為、素直な仔らの事はこれからも誉めてやるつもりである。
「よーしっ。なあ魔女、どっか行きたい所ねぇかっ? おいらが案内してやるぞっ!」
「あらそう? じゃあ、ギャン君に案内頼もうかしら」
「おうっ、任せろっ!」
「あ、僕もねー、いろいろ知ってるよー」
「俺もー」
わらわらと仔狼らが伊都の周りに集まり、案内希望の仔らが声をあげていく。
「あらあら、どの仔にお願いしましょうか」
と、今日も大人気の魔女である。
「おい魔女、俺が連れて行くって……」
……仔狼に囲まれた魔女には、若い狼の小さなぼやきは聞こえない。
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