編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

文字の大きさ
155 / 220
七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

7ーex.間章 銀狼は奔走す(7)

しおりを挟む
「まあ流石にもうこの時間だからねぇ。悪いけど俺の方でフォロー出来そうな所は進めさせて貰ったよ」
「いえ、助かりました。流石は松永さんですね、ほぼ進行通りに進んでいる。若造の私ではこうすんなり行きません」
「またまたぁ。こんな規模、大手では山と回してたんでしょ? 煽てたところで缶コーヒーぐらいしか奢らないよぉ」
 へらへらと笑いながら、松永はポケットから懐炉代わりにしていたらしい冷めはじめたショート缶のコーヒーを出す。
 それを有り難く頂戴し、断りを入れると白銀はコーヒーを流し込んだ。
 松永はと言えば、今日も派手な柄のネクタイをうざったそうに緩めており、夜になって肌寒く感じたか、春用の薄手のコートを肩に羽織ってから、また軽い口調で話しかけてくる。

「まあ後は、よくある感じだねぇ。前座のAが前の仕事押しててリハ出来なそう、とか、三番目で予定されてるグループのギターの調子が悪いらしいから替えが届くまで後ろにズラすとか、五番目の着る予定の衣装が汚れてて替えが必要になったとか、そんなものさ」
 自らも缶コーヒーを開けながら、そう続ける松永の機嫌はいい。
 部下に誉められた事は悪く思っていないようで、いつもは油断ならない光を浮かべている目も、今は楽しげに細められている。

 不気味な程に機嫌のいい上司へと礼を言って、白銀は伝達内容を皮カバー付きの小サイズのロディアに書き付ける。
 単語を線上に乗せ、次の単語へと繋げる、樹形図のような書き方はマインドマップと言われる思考法だ。使用はとても簡単で、長い文章を綴る必要ががない辺りが彼は気に入っている。
 関連づけられた単語から、上司の話を思い浮かべつつ整理し、のちにデジタルの手帳へ転記し、重要なものにはリマインダを掛けるのが彼の手帳術という感じである。
「なるほど、確かによくある話ですね。では、ギリギリまで調整してみましょう」

 ライブは生き物、とは誰が言ったものか。
 何度やっても、すんなりとはいかない。だがそれが面白い。
 彼は彼なりに、イベントという大きな生き物に関わる事を楽しんでいた。


 イベントも当日となると、更に動きがあわただしくなる。
 白銀は深夜、仮眠室で軽く仮眠を取る為に横になった。
 別にマンションへ戻っても誰も怒らないのだが、動き始めた会場を見ると落ち着かなくなってしまって。
 開始の時間まで現場に張り付くのは、もはや癖のようなものである。

 ……その夜、夢で会った彼女はとても元気そうだった。
 己に襲い掛かった衝撃的な現実の事は、突然の事であったからか知らぬ様子で、無邪気に彼の懐へ潜り込み寝言のような口調で話していた。その事実にほっとする。

 それを心の励みとし、早朝に目を覚ました彼は、イベントの残りの調整を済ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...